アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

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第二章

38.帰りたいのに

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  ***



 一時はどうなることかと思ったけど、私やグクイエ王子が魔王を倒したことでメラニンたちは歓喜乱舞し、地下にずっと幽閉されていた王族たちも解放することができた。

 そして表面上ではわからなかったけど、国交が元に戻ったことで市場や商人たちも以前のように商売ができるようになったとか。

 キウイ王国に入った時は、屋台とか普通に見えたけど、実は経営の危機に陥っているところがほとんどだったとか。

 果物や野菜、肉類はほとんど輸入に頼っているから、国交ができないことで高騰し、パン以外売れるものがなかったという。

 それが解消されてようやく元の生活が戻った市場は、活気に満ちているし、治安も数段良くなったらしい。

 ほんとに、街って見ただけではわからないものである。不景気で人の心まで変わってしまうというけど、それを救うことができて良かったと思う。

 ていうか、魔王ってもっと残忍で恐ろしい政治をしていたのかと思っていたけど、国交を遮断するくらいで済んでよかったと思うのは私だけだろうか?
 
 まあ、それも良くないんだろうけど。

 魔王は国を掌握して何がしたかったんだろう。

 キウイ王城の庭で優雅にお茶を飲んでいた私は、そんなことを思いながらほっと息を吐く。

 あれから色んな理由をつけて国に引き止められた私とグクイエ王子は、もう一ヶ月くらいグレープ王国に帰っていなかった。

 私としては早く帰ってジンテール王子の顔が見たいんだけど、なぜかメラニンがそれを許してくれないのよね。

 私の両親とやらも会いに来たけど、自分の親だという実感がないので、てきとうに挨拶をしてお帰りいただいたのだった。

 なかなか帰れないのも問題だけど、それともう一つ問題があった。

 それは————。

「アコリーヌ、式はいつ挙げようか」

「……だから、私はケイラであって、アコリーヌじゃないの」

「ほら、アコリーヌの好きなフランボワーズだよ。たくさん食べて、立派な子供を産んでね」

「いや、だから私は妊娠なんてしてないから」

 どうやらグクイエ王子が前世の記憶を取り戻したらしくて、すっかりおかしくなってしまったのだった。

 私も魔王を倒した拍子にアコリーヌの記憶を取り戻したからわかったのだけど、どうやらアコリーヌはその当時の王子——の子供を妊娠していたらしい。

 日記では手すら繋がないとヤキモキしていたアコリーヌだったけど、魔王と戦った後は、距離がぐんと縮まったとか。

 けど、それは大昔の話だし、私じゃないわけで。

 たとえアコリーヌの生まれ変わりが私だったとしても、今の私はアコリーヌじゃないんだから……グクイエ王子の愛に応えることができなくて困っていた。

「あのね、グクイエ殿下。もうアコリーヌ様はいないんです」

「何を言ってるの? アコリーヌ?」

「目を覚ましてください! グクイエ殿下」

「ほら、このケーキをフルーツと一緒に食べたら、すごく美味しいよ」

「グクイエ殿下!」

 私が大きく口を開けると、グクイエ王子がスプーンですくった生クリームやフルーツを私の口に放りこんだ。

 その優しい甘さに思わず身悶えていると、グクイエ王子は微笑ましそうな顔をする。

 どうせなら、アコリーヌがここにいれば良かったんだけど……本当に困ったな。

 もうアコリーヌはどこにもいないんだよね。私の中にいるにはいるんだけど……。

「とにかく! グクイエ殿下、グレープ王国に帰りますよ」

「どうして?」

「どうしてって、ジンテール殿下が待っているからですよ」

「ジンテール? 誰それ」

「グクイエ殿下のお兄様のことですよ!」

「僕には兄なんていないよ」

「それは、大昔のグクイエ王子にはいなかったかもしれないけど、今のグクイエ王子にはいるんです!」

「アコリーヌは変なことを言うね」

「ああ! もう、どうすればいいのよ! いいわ、私だけでもグレープ王国に帰るんだから!」

「あら、もうお帰りになられますの? もう少しゆっくりしていけば良いのに」

 グクイエ王子をどうすることもできなくて、私が喚いていると、そのうちケーキのトレーを持ったメラニンがやってくる。

 小説の中では私とメラニンが大の親友だという話だから、きっと物語の強制力とやらがここでも効いているのだろう。

 けど、本来のシナリオは消化したんだから、もう自由になってもいいはずよね?

 という話をゴォフに話したいところだけど——なぜかゴォフは魔王を倒して以来、現れることはなかった。

 いったいどこに行ってしまったのだろう。もしかして先にグレープ王国に帰ったとかじゃないわよね? 変なの。

 けど、私もいつまでもここにいるわけにもいかないので、はっきりと自分の気持ちを告げることにした。

「私には会いたい人がいるから、もう帰らせてもらいたいのよ」  

「そう……残念ですわ。でも、ケイラ様がそうおっしゃるのなら」

「本当にありがとう。また何かあれば呼んでくれていいから」

「そのお言葉、心強いですわ」 

 それから聖女や王族たちに惜しまれながらも、私とグクイエ王子はグレープ王国に帰ることになったのだった。


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