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第二章
39.年齢不詳の大司教
しおりを挟む魔王を倒した時に現れたルーだけど、馬車に乗せることができないので、私はルーに乗って帰ることになった——のはいいとして。
ただ、帰り道の間、グクイエ王子はすこぶる機嫌が悪かった。
「ねぇ、どうしても帰らなきゃダメ?」
馬車の窓から顔をのぞかせたグクイエ王子が、ルーに乗る私に声をかける。
けど、車輪の音にかき消されて聞こえないので、仕方なく私は馬車の中へと移動する。
そして向かいに座ると、グクイエ王子は不貞腐れた顔で訴えてきた。
「父上も母上も、聖女との婚姻を反対しているのに、どうして帰るの?」
「ああ、アコリーヌ様の時代はそうだったんですね」
「もうアコリーヌのお腹には子供だっているのに、安静にしてなきゃダメじゃないか」
「いや、だから私のお腹には子供なんていませんてば」
「大丈夫、きっと可愛い男の子が生まれるから」
「だから! ——って、そこは可愛い女の子じゃなくて?」
「きっと僕に似て可愛い男の子だと思うよ」
「あのですね、グクイエ殿下。もうアコリーヌ様はこの世にいないんです! 何度言えばわかるんですか?」
「じゃあ、君は誰だって言うの?」
「私はケイラです。思い出してください!」
「ケイ……ラ……うぅ」
突然、グクイエ王子が頭を抱えて苦しみ出すのを見て、私は馬車を止めるよう御者にお願いした。
ルーはそのまま前を進んでいったけど、声をかける余裕がなくてそのままにしておいた。
グクイエ王子が苦しむ中、私がずっと見守っていると、そのうちグクイエ王子が涙をこぼし始める。
「ケイラ……アコリーヌはどこ? アコリーヌに会いたいよ」
「記憶が混乱しているんですね……グクイエ殿下。アコリーヌ様はもうこの世にはいないんです」
「どうしてそんなことを言うの? 僕はここにいるのに」
「……うーん。困った」
アコリーヌを求めるグクイエ王子が可哀想になってきて、どう声をかけて良いのかわからなかった。
確かに私にはアコリーヌの記憶があるけど、私はアコリーヌじゃないのよね。
ケイラも私じゃないわけで……たとえ生まれ変わりだったとしても、過去の記憶はまるで他人の物語をなぞったような感覚で——私がアコリーヌだったという自覚がなかった。
でもどうして、ケイラじゃない景がアコリーヌの記憶を思い出したのだろう?
「グクイエ殿下、とにかくもうアコリーヌ様はいないから、新しい人を探してください」
「いやだ。僕はアコリーヌじゃなきゃ嫌なんだ」
「グクイエ殿下……」
グレープ王国に渡るまでの間、グクイエ王子はアコリーヌを求め続けた。
それはグレープ王国に入っても変わらず。王城に到着しても、グクイエ王子はアコリーヌの話ばかりしていた。
私のことをケイラだと認識しているから、話はある程度通じるところもあるのだけど、それでも以前のグクイエ王子とはまるで別人のようで、相手をするのがぶっちゃけ大変だった。
そんな風に、魔王との戦いによって歯車の狂った王子を連れ帰った私だけど、国王陛下は大層喜んでいた。
「——おお、よく帰ったな、大聖女ケイラよ」
王座に座る年老いた国王陛下を見ると、最期の魔王と重なって見えてドキリとする。
けど、私は内心を顔に出さないようにして告げる。
「大聖女かどうかはともかく、魔王を倒して参りました」
「さて、褒美は何が良いかな」
「それよりも陛下、僭越ながら発言してもよろしいでしょうか?」
「おお、なんだ?」
「グクイエ殿下のことです。あのままにしておいては、この国の問題にもなると思いますので……」
「ふむ。その辺は心配するでない。大司教ゴリランならなんとかしてくれるであろう」
「大司教様が?」
「あやつは、聖女アコリーヌの記憶を封印した者だからな」
「え? 聖女アコリーヌ……様の記憶を? ゴリラン大司教様っていったいいくつなんですか?」
「はて、いくつであろうな。そういうわけだ、そなたが気を揉む必要はなかろう」
「わかりました」
ゴリラン大司教がアコリーヌの記憶を封印した? ということは、グクイエ王子の過去の記憶も封印するってことなのかな?
……なんだか心配だし、ゴリラン大司教のところに行くなら、私もついていってみようかな?
それよりも、ジンテール王子の顔が見たいわ。
私はジンテール王子を探して王城を歩くけども、その日、ジンテール王子を見つけることはできなかった。
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