アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

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第三章

62.事故

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  ***



「踊るって、剣舞ですか?」

「はい、村を守る伝統の舞は剣舞なのです」

 布を広げた祭の中心に座り、果実水でもてなされる中、四角い顔の村長が祭について教えてくれた。

「昔は男の仕事だったのですが……いつからか、この村ではどうしてか、男があまり生まれなくなり……剣舞は少女の仕事になりました」
 
「そうなんですか」

「ですが、少女といえど、剣舞は圧巻ですので、どうかお楽しみください」

「はい」

 私が返事をする隣で、グクイエ王子とゴリランはなぜか睨みあっていた。

 この二人は隙があれば喧嘩ばかりしているのだけど、もう旅を初めてから一年も経つんだから、いい加減仲良くなってはくれないだろうか。

 しかも喧嘩の理由は、いつも教えてくれなかった。男の子っていまだによくわからないものである。

 こうして二人が睨み合う中、剣舞は始まった。

 正面の構えから始まって、身を回転させながら、私より少し幼い少女たちが鎌形刀剣ファルシオンを合わせる。

 少し小ぶりの剣だった。少女たちの体格に合わせているのだろう。

 カシャンと金属が弾かれるような音が響く中、女の子たちは踊りながら剣であちこちの方向を示した。

 そしてクライマックスに近づいてきたのだろう。なんとなく少女たちから緊張が伝わってくる。

 私は何も考えずに見ていたけど、グクイエ王子は喧嘩をやめて真剣な顔で見守っていた。

「僕はこの剣舞、見たことあるかも——これって最後に……」

 言いかけたその時だった。

 少女の一人が晴天に向かって剣を投げつけた——と思えば、少女が足を滑らせて、剣先がまっすぐ私の方に向かって飛んでくる。

 避けることなどできなかった。

「アコリーヌ!」

「ッ!」
 
 ————何? 何が起きているの?

 混乱した私は痛みで恐怖に陥りながらも、ゆっくりと視線を右下に向ける。

 すると、鎖骨さこつの下に剣が刺さっていた。

「……あ」

「アコリーヌ、しっかり!」

「グクイエ殿下、簡単に引き抜いてはダメです! 出血しますから!」

 遠くでグクイエ王子とゴリランの声を聞く中——気づくと、私は意識を落としていた。



 次に目覚めた時、私は医療所のベッドにいた。といっても、村人の家と変わらない小さなベッドで、私は熱を出して寝込んでいるようだった。

 そして最初に飛び込んできたのは、グクイエ王子の明るい顔だった。

「アコリーヌ! 目が覚めた?」

「私はいったい……」

「剣舞が失敗して、アコリーヌが剣を受けたんだ」

「え? 私が剣を?」

「そうだよ」

「と、いうことは……剣舞の女の子はどうなったの?」

「そんなの、アコリーヌにはどうだっていい話だろう? アコリーヌは自分が元気になることだけを考えた方がいい」

「それってどういうこと? 剣舞の女の子はどうしたの?」

 なんだか嫌な予感がして私が身を起こすと、グクイエ王子は暗い顔で告げた。

「……剣舞の子は、この先……処分されるそうだ」

「処分? どういうこと?」

「国王の使者、ひいては聖女に怪我を負わせた罪として、近々処刑される」

「なんですって!?」
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