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第三章
63.二人目の聖女
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私は自分に熱があることも忘れて、立ち上がる。そしてグクイエ王子の胸ぐらを掴んで訊ねた。
「その子は今、どこにいるの!?」
「アコリーヌ、どうするつもり?」
「もちろん、処刑を止めるのよ! あれはただの事故なんだから」
「それでも、アコリーヌに大怪我を負わせた罪は重いよ」
「何を言ってるの? グクイエ殿下らしくない」
「アコリーヌは何も考えなくていいんだよ。今はただ怪我を治癒することだけを考えて——」
「そんなこと出来るわけないでしょ!? 私のせいで人が死のうとしているのよ?」
「アコリーヌが眠っている間、僕がどれだけ心配したかわかる? アコリーヌに何かあったらと思うと……ゾッとした」
グクイエ王子はそう言って私をぎゅっと抱きしめた。そして耳元で囁くように告げる。
「僕は君がどれだけ大事かを思い知らされたんだ」
「グクイエ殿下……でも、私のせいで剣舞の女の子が処刑されたら、きっと一生幸せな気持ちにはなれないわ」
私はグクイエ王子を押し返すようにして離れた。そして医療所を飛び出すと、一目散で村長の家を目指した。
けど、村長の家はもぬけの殻で、それどころかどの家も人がいない様子だった。嫌な予感に苛まれる中、ゴリランが走って私の元にやってくる。
その血相を変えた様子を見て、予感は的中したのだと思った。
「ゴリラン! 女の子の処刑はどこで行われるの?」
「アコリーヌ、目が覚めたんですね? 処刑なら、これから丘の上で行われる予定です」
「ありがとう——止めなきゃ」
「私も参ります」
そして私はゴリランを連れて丘の上に向かった。
村から近い小高い丘には、木にくくりつけられた女の子の姿があり、その女の子を囲んで村人たちが祈りを捧げていた。
中には、泣き出す者もいて——おそらく、女の子の家族だろう。泣いて暴れる老女を他の村人たちが捕まえていた。
そんな中、私は体力が回復しきってない体に鞭打って丘を駆け上がると、女の子をかばうように前に立った。そして両手を広げて懇願した。
「お願い、こんなことはやめて!」
すると、四角い顔の村長が前に出てくる。その顔は怒りに満ちていた。
「おどきください、アコリーヌ様。その者は村の恥晒しです。生かしてはおけません」
「こんなことをして、なんになるというの! 私が許すというのだから、許してあげて」
「いくら国王の使者様でも、村のしきたりに口を出さないでいただきたい」
「どうしてわからないのよ!」
「お前たち、使者様を取り押さえろ」
村長が告げると、二人の若者が私の両腕を捕まえた。本当なら、ここで思い切り暴れたいところだけど、まだ回復しきっていない体ではどうすることもできなかった。
私が連れていかれる中、後ろでは女の子が啜り泣く声が聞こえた。魔王を討伐した聖女なのに、女の子一人守れないなんて——思わず泣きそうになるのを堪えて、私は周囲を睨みつけた。
そうだ。ここで退いてはいけない。私は魔王をも打ち負かした聖女なんだから。
見れば、女の子に向けて顔を隠した処刑人が両手剣を構えていた。
咄嗟に私はゴリランに教えてもらった護身術の魔法で若者二人に電撃を走らせる。そしてその足で女の子の元に向かった。
「アコリーヌ!」
遠くにグクイエ王子の声を聞く中——両手を広げて女の子の前に立った私。
処刑人の剣は、私の胸を貫き、そして後ろにいる女の子まで貫通した。
串刺し状態といえばいいのかな。刺されて息もできない私を見て、処刑人は驚いたように剣を抜いた。途端に、胸元から溢れる血。
今にも倒れそうな私が、後ろを見ると、女の子はすでに倒れていた。処刑人の剣で縄が切れたのだろう。
事切れているようだった。
私は力ない足で女の子の元に寄ると、どうしてか歌いたくなって、血を吐きながら子守り歌を歌った。
高く高く、ひたすら優しく歌うと、その場にいた誰もが無言で聞き入った。不思議な光景だった。陽の光を浴びた私は、なぜか力が湧いてくるのを感じていた。
私が女の子に血を滴らせながら歌っていると、そのうち少女の目が開いた。そして驚いたように起き上がって、私を支えようとする。
「あの、大丈夫ですか?」
女の子が起き上がったのを見て、驚いたのは私だけじゃなかった。死んだと思っていた女の子が、なぜか血色の良い顔で辺りを見回しているのを見て、村人たちは恐れ慄くような顔をしていた。
何が起きているのか、わかっていたのは、きっと私だけだ。
「私は大丈夫よ」
そう告げると、女の子はホッとした様子だったけど、私の怪我を見て目を丸くしていた。
私の怪我は、綺麗さっぱりなくなっていた。
どうやら私の歌は、傷を癒す効果もあるらしい。これまでに回復を促すことはあっても、ここまでの効果を実感したことはなくて、私自身もビックリしていた。
けど、二人とも助かったことが嬉しくて、思わず笑顔になる。
と同時に、女の子が私と同じ空気を纏っていることに気づく。
————これが、二人目の聖女誕生の瞬間だった。
「その子は今、どこにいるの!?」
「アコリーヌ、どうするつもり?」
「もちろん、処刑を止めるのよ! あれはただの事故なんだから」
「それでも、アコリーヌに大怪我を負わせた罪は重いよ」
「何を言ってるの? グクイエ殿下らしくない」
「アコリーヌは何も考えなくていいんだよ。今はただ怪我を治癒することだけを考えて——」
「そんなこと出来るわけないでしょ!? 私のせいで人が死のうとしているのよ?」
「アコリーヌが眠っている間、僕がどれだけ心配したかわかる? アコリーヌに何かあったらと思うと……ゾッとした」
グクイエ王子はそう言って私をぎゅっと抱きしめた。そして耳元で囁くように告げる。
「僕は君がどれだけ大事かを思い知らされたんだ」
「グクイエ殿下……でも、私のせいで剣舞の女の子が処刑されたら、きっと一生幸せな気持ちにはなれないわ」
私はグクイエ王子を押し返すようにして離れた。そして医療所を飛び出すと、一目散で村長の家を目指した。
けど、村長の家はもぬけの殻で、それどころかどの家も人がいない様子だった。嫌な予感に苛まれる中、ゴリランが走って私の元にやってくる。
その血相を変えた様子を見て、予感は的中したのだと思った。
「ゴリラン! 女の子の処刑はどこで行われるの?」
「アコリーヌ、目が覚めたんですね? 処刑なら、これから丘の上で行われる予定です」
「ありがとう——止めなきゃ」
「私も参ります」
そして私はゴリランを連れて丘の上に向かった。
村から近い小高い丘には、木にくくりつけられた女の子の姿があり、その女の子を囲んで村人たちが祈りを捧げていた。
中には、泣き出す者もいて——おそらく、女の子の家族だろう。泣いて暴れる老女を他の村人たちが捕まえていた。
そんな中、私は体力が回復しきってない体に鞭打って丘を駆け上がると、女の子をかばうように前に立った。そして両手を広げて懇願した。
「お願い、こんなことはやめて!」
すると、四角い顔の村長が前に出てくる。その顔は怒りに満ちていた。
「おどきください、アコリーヌ様。その者は村の恥晒しです。生かしてはおけません」
「こんなことをして、なんになるというの! 私が許すというのだから、許してあげて」
「いくら国王の使者様でも、村のしきたりに口を出さないでいただきたい」
「どうしてわからないのよ!」
「お前たち、使者様を取り押さえろ」
村長が告げると、二人の若者が私の両腕を捕まえた。本当なら、ここで思い切り暴れたいところだけど、まだ回復しきっていない体ではどうすることもできなかった。
私が連れていかれる中、後ろでは女の子が啜り泣く声が聞こえた。魔王を討伐した聖女なのに、女の子一人守れないなんて——思わず泣きそうになるのを堪えて、私は周囲を睨みつけた。
そうだ。ここで退いてはいけない。私は魔王をも打ち負かした聖女なんだから。
見れば、女の子に向けて顔を隠した処刑人が両手剣を構えていた。
咄嗟に私はゴリランに教えてもらった護身術の魔法で若者二人に電撃を走らせる。そしてその足で女の子の元に向かった。
「アコリーヌ!」
遠くにグクイエ王子の声を聞く中——両手を広げて女の子の前に立った私。
処刑人の剣は、私の胸を貫き、そして後ろにいる女の子まで貫通した。
串刺し状態といえばいいのかな。刺されて息もできない私を見て、処刑人は驚いたように剣を抜いた。途端に、胸元から溢れる血。
今にも倒れそうな私が、後ろを見ると、女の子はすでに倒れていた。処刑人の剣で縄が切れたのだろう。
事切れているようだった。
私は力ない足で女の子の元に寄ると、どうしてか歌いたくなって、血を吐きながら子守り歌を歌った。
高く高く、ひたすら優しく歌うと、その場にいた誰もが無言で聞き入った。不思議な光景だった。陽の光を浴びた私は、なぜか力が湧いてくるのを感じていた。
私が女の子に血を滴らせながら歌っていると、そのうち少女の目が開いた。そして驚いたように起き上がって、私を支えようとする。
「あの、大丈夫ですか?」
女の子が起き上がったのを見て、驚いたのは私だけじゃなかった。死んだと思っていた女の子が、なぜか血色の良い顔で辺りを見回しているのを見て、村人たちは恐れ慄くような顔をしていた。
何が起きているのか、わかっていたのは、きっと私だけだ。
「私は大丈夫よ」
そう告げると、女の子はホッとした様子だったけど、私の怪我を見て目を丸くしていた。
私の怪我は、綺麗さっぱりなくなっていた。
どうやら私の歌は、傷を癒す効果もあるらしい。これまでに回復を促すことはあっても、ここまでの効果を実感したことはなくて、私自身もビックリしていた。
けど、二人とも助かったことが嬉しくて、思わず笑顔になる。
と同時に、女の子が私と同じ空気を纏っていることに気づく。
————これが、二人目の聖女誕生の瞬間だった。
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