先王に仕えていた大魔法使い、転生したら剣士としては最弱ですが、剣聖を目指します!

悠木全(#zen)

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第一章 転生したら剣聖の家系だった

16.全ては酒のせい



「〝純黒の勇者〟にしか使えなかった白い炎を、実はレオくんも使えるってこと?」

 エドが言い直した。
 レオはホッと息を吐く。
 どうやらレオをカザザと言ったわけではないらしい。

「……はい。〝純黒の勇者〟様のことは知りませんが、俺以外に白い炎を使っている人間を見たことはありません」

「レオくんはとても珍しい力を持っているんだね。他にも、【隠蔽いんぺいスキル】もあるの?」

(だから、なんでそういう話をするんだよ。どうせ、コト・レドルが言ったことを間に受けてるんだろ。まあ、事実だけど! でもあんまりそういう能力って知られたくないんだよな)

「【隠蔽スキル】なんて、持ってません」

 レオが開き直ると、エドは面倒臭そうな顔をする。

「レオくんは知っているかな? 【鑑定スキル】は【隠蔽スキル】と相殺されるんだよ」

「相殺、ですか?」

「コト・レドル様が【隠蔽スキル】を持っているのかレオくんに聞いただろう? それはおそらく【鑑定スキル】でもってしてもレオくんの能力が見えなかったからだよ。見えないということは、【隠蔽スキル】持ちが確定なんだ」

「……あ、そういうことですか」

 【隠蔽スキル】があれば、能力を誤魔化すことができる。そこまでは知っていたが、能力が完全に見えなくなるとはレオも知らなかった。見えないということは、【隠蔽スキル】持ち確定である。言い逃れができないことに気づいたレオは、疲れた顔を隠すように右手で顔を覆った。

「わかった? レオくん。君は抜けているところがあるようなので、今後は気をつけたほうがいいね。下手な嘘はつかない方が身のためかもしれないよ」

「……肝に銘じます」

「それよりも、今後のことだけど」

「はい、俺の冒険者ランクはどうなるんでしょうか?」

「本来、冒険者は狩った獲物、戦闘の経緯などを自己申告し、それを僕が総合的に見て判断するんだけど……というわけでレオくん。キミはCランクからお願いするよ」

「Cランクですか?」

「ええ。魔法はAランク以上、剣の腕はEランクという感じなので、間をとってCランクでいいでしょ?」

「あ、ありがとうございます。Cランクならまだ、なんとかなりそうです。たぶん」

 レオはほっと胸を撫で下ろす。いきなりAランクになってしまうと、あまり下のランクの依頼は受けられなくなるのである。Cランクでもまだ不安だったが、Aランクよりはマシだろうと、自分に言い聞かせる。

「……本当なら、こんなランクの付け方はないけどね。まあ、いいだろう。レオくんの家庭の事情も考慮しよう。いつかレオくんが剣聖になれると信じてるからね」

「……はあ」

「だがレオくん、これだけ僕が譲歩したんだから、たまには僕のお願いも聞いてほしいな」

「お願いってなんですか?」

「そうだね。刺繍でも教えてもらおうかな」

「刺繍ですか?」

「ええ。今どきの貴族男性は、刺繍を嗜むと聞いたよ。レオくんは裁縫ができると言っていたから、もしかしたら刺繍も得意なんじゃない?」

「ええ、刺繍はけっこうできる方だと思います。最近は召喚術式を刺繍するのがマイブームで……ハンカチに刺繍しておけば、魔法が使えない人でも発動できたりしますからね」

「そうかい。それは面白そうだね。だったら、ぜひ今度教えてもらおうかな」

「わかりました。それくらいなら……」

「今も昔も、詰めが甘いのは変わらずだね」

「何か言いましたか?」

「いや、なんでも」



  ***



「はあ……今日は長い一日だったな」

 宿に帰ったレオは、武具を置いて備え付けの食堂に移動した。カザザの時代から使っている宿は、質素でありながら清潔感があり、食堂の味も良かった。

「すみません、アマトリチャーナとステーキ、それにザワークラフトもお願いします!」

 今日は大変な目にあったこともあって、奮発を決めたレオが給仕の女性にオーダーしていると、入り口から見たことのある冒険者パーティが入ってくる。

「あ! レオくんだっ」

「……ガーネットさん」

 ようやく一人で食事ができると思っていたが、ガーネットはレオを見つけるなり、嬉しそうに近づいてくる。

「レオくん、隣いい?」

「え? あ……はい」

「ほら、皆も座りなよ!」

 ガーネットが声をかけると、オルンとリメリも同じテーブルに腰をおろした。
 
「聞いたよ、レオくん。トロールを一人で討伐したんだって?」

「……はい」

 リメリが前のめりで顔を寄せてくるので、思わず腰をひいたら椅子が倒れそうになる。慌てて体勢を立て直したレオは、ガーネットに細めた目を向けた。

「ご、ごめんなさい! だって! SSランクに昇級するはずが、なくなったって言ったら、二人に理由を聞かれて……」

「……そうですよね。ギルドマスターにバレた時点で、こうなることはわかってました」

「ごめんね? ごめんね?」

「仕方ありませんよ。俺が無理言ったせいで、ややこしくなったわけですし。それで、リメリさんたちは、どこまで知っているんですか?」

 レオが尋ねると、リメリはきちんと椅子に座り直して腕を組む。目を瞑り、考えるそぶりをしているが、実際は何も考えていないのだろう。狼の耳と尻尾が忙しなく動いている。
 しかもレオの前に料理がやってきた途端、顔を弛緩させた。もう、レオが言ったことを覚えていないかもしれない。仕方なく、レオはオルンに尋ねた。

「オルンさん、ガーネットさんは何を言ったんでしょうか?」

「ガーネットが言ったこと? レオくんがトロールを倒したっていう話? ……冒険者のふりをした人喰いトロールが、レオくんに襲いかかって……それをレオくんが魔法で返り討ちにしたことよね? それで偶然居合わせたガーネットに討伐の手柄を譲ったけど、全部ギルドマスターにバレてお叱りを受けたってところまでなら……」

「ほぼ全部ですね。ありがとうございます」

(ガーネットさんは嘘を吐くのが苦手なんだな……これからは気をつけよう)

 自分が魔法使いであることを周知されるのは、あまり喜ばしくなかったが、それでも嘘を吐くことは決して良いことでもないので、少し罪悪感を覚えた。
 今後こういうことがあった場合は、もっと慎重になろうと決意した。

 そしてガーネットたちもオーダーしたところで、レオはようやく食事に手をつける。赤い果実のような野菜トゥメトと、ベーコンやチーズをあえたパスタ——アマトリチャーナは、多少柔らかくなっていたが、野菜の酸味やチーズのコクが絶妙だった。

 外はすでに夜だが今日初めての食事で泣きそうになっていると、ガーネットが申し訳なさそうにレオの顔を窺う。

「ごめんね? 冷めちゃったわよね。せっかくの美味しい料理なのに……」

「大丈夫です。俺は猫舌なので、ちょうどいいかもしれません」

「レオくん優しい……あ、それとトロールを討伐した魔石はレオくんに返すよ。ギルドマスターに、討伐の証拠はレオくん本人が提出するように言われたんだ」

「……わかりました」

「トロールの魔石は早く提出するんだよ? 持ち歩いてると、トレントに食べられちゃうから」

「トレントに? ああ、童話ですね。木の魔物トレントはトロールの魔石が好物なんですよね」

「そうそう。だから、早く討伐報酬と交換してもらいなよ」

「トレントはそんな怖い魔物じゃないんですけどね」

「レオくん、木の魔物トレントを見たことあるの?」

「ええ、まあ。けっこう友好的な魔物ですよ——それより、今回はすみません……俺が嘘をついたせいで、ガーネットさんの冒険者としてのイメージが……」

「それは大丈夫! 今回の話は、レオくんがトロールを倒したこと以外、公にはしないってギルドマスターが言ってたし」

「トロールを倒したことは公にするのかよっ」

 思わず素でツッコミを入れたレオを見て、ガーネットとリメリは顔を見合わせて笑った。

「りぇおくんは貴族でお上品なイメージがあるけど、普段はそんななんだ? ——ひっく」

 エールのジョッキを手に、リメリがレオを横目で見る。誰が見ても、既に出来上がっている顔だ。

「りぇおくんは本当に子供ころもなの? トロールを一人でやっちゅけるなんて、男前らよね。私のかれしになってよ~」

「は⁉︎」

 言いたいことはわかるが、後半の意味がわからない。レオは早くもこの席を立ち去りたいと思いながらも、逃げる理由が見つからない。

「ごめんね、レオくん。この子、振られたばかりだから」

 ガーネットは説明するが、レオにはどうでもいい話だった。

「……はあ」

「あんな男、こっちから願い下げらもんね! ちょっと私よりらんくが高いからって、いばっちゃってさ。これだから男はぁ! ……りぇおくぅん、慰めてよぉ」

 リメリがテーブルを回り込んで、レオに抱きつく。ただでさえ疲れているというのに、余計に疲れが増した気がした。

(絡み酒かよ。めんどくせぇ)

「でもリメリさんよりランクが高いってことは、相手はSSランクだったんですか?」

 レオが驚いた顔で訊ねると、リメリは椅子に座り直して、今にも泣きそうな顔で語り始めた。

「そうらのよ~。SSランクで、飾らないところがしゅてきだなって思って告白したら、あっさりOKくれたの! れも、やっぱりしばらく女はいいとか言われてっ! 手切金に金貨百枚渡されたのぉ!」

「金貨百枚って……三年は遊んで暮らせますよね? それ、得したんじゃ?」

「オルンと同じこと言わないれよ~。私は傷ついたのぉ! ショックらったの! りぇおくんは乙女心がわからないのね……いいわ! お姉しゃんが教えてあげりゅっ」

「結構です」

 再び抱きついてこようとするリメリを避けて、パンを食べていると、レオの後ろから何かが覆いかぶさる。ガーネットだった。ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるガーネットに混乱していると、今度はガーネットがさめざめと涙をこぼしながら何かを言い始めた。

「レオくんは私の運命の人なのー、でもレオくんが私に優しくないー。リメリばっかり構って、私のことはちっとも見てくれないんだ……」

(今度は泣き上戸か! 厄介だな、ガーネット一行)

「レオくん、私のことは遊びなの?」 

「誤解を生むようなことを言わないでください。俺はガーネットさんと年も離れてるし」

「愛に年の差なんて関係ないもの。でも、もしかしてお姉さんのこと嫌いなの? レオくんに嫌われるのはやだーッ!」

 急にわんわん泣き始めたガーネットに、レオは周囲を見ながら狼狽える。完全に注目の的だった。好奇心と、咎めるような視線が痛いレオは、ガーネットを落ち着かせようと言葉を選ぶ。

「ガーネットさん、俺はガーネットさんのこと、嫌いじゃないですよ」

「じゃあ好き? めちゃくちゃ好き? ゴブリンとどっちが好き?」

「ええ、ゴブリン以上に好きですよ!」

 比較対象がゴブリンというのが気になったが、酔っ払い相手にまともな会話をするつもりもなく。レオがテキトーなことを言っていると、リメリがレオの顔を撫で始めた。

「レオくんってば、可愛いよね。このあとお姉さんと楽しいことすりゅ? すりゅわよね? しないはずないわよね?」

「しないです! お願いだから、変なこと言わないでください! ちょっとオルンさん、助けてくださいよ! ——あ、寝てる」

 暴走するリメリとガーネットをどうすることもできず、オルンに助けを求めれば、向かいで鼻ちょうちんが膨らんでいた。

「りぇおくん、もしかしてオルンのことが好きらのぉ? ロリコンなんだからぁ」

「オルンさんの方が確実に年上ですよね⁉︎」 

 確かにオルンは胸も小さめで、女性というより少女に近い風貌をしていたが、ガーネットと同じ十八才なのである。大人の女性が苦手なレオには、少し安心できる存在ではあるが、ロリコンと言われて心外だった。

「わーん、レオくんがオルンと結婚するのヤダぁ!」

「りぇおくんはリメリお姉さんと愛を誓うのと、地獄に落ちるのとどっちがいい?」

「……もうやめて……お願いだから」

 その後もガーネットとリメリはレオに絡んだ挙げ句、盛大に吐いて食堂を出禁になったのだった。
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