クセのあるイケメンが花の魔術師だった件

悠木全(#zen)

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第20話 ろくでもないリーダー

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「————ギャアアアアアアア」

 聞いている者でさえ身震いしてしまう悲鳴は、長身の覆面男が発したものだった。落としたパンジーを拾った男だ。
 詩津しづは咄嗟に長身の男を凝視する。
 ステージの手前に立っていた男は、狂ったように叫びながら、首をかきむしっている。
 男の首には首輪のようなものが巻きついていた。例のパンジーの——茎の部分だ。
 花瓶におさまっていた時はそれほど長く見えなかったが、花瓶の底に隠れていたのだろうか。長い茎は男の首を二周していた。
 うねる茎は、緑の蛇にも見えた。頭である花の部分は、まるで男の顔をのぞきこむように上をむいている。

 詩津は総毛立つ。
 今まで静かだった会場が、覆面集団に占拠されて以来、初めてざわついた。
 覆面たちは場を制することさえ忘れ、赤い花を首に巻きつかせた仲間を茫然と見ている。
 近づこうにも、何が起こっているのかわからず、距離を置いて見守るしかない、という様子だ。

「————は、がぁ————」

 長身の覆面男は血が滲むほど首を掻きむしる。だが、ふいに動きを止めた——かと思えば、泡をふいて倒れた。
 倒れてもなお、巻きついたままの花が一定のリズムで伸びたり縮んだりしている。
 まるで未知の動物みたいなそれに近づける人間がいるはずもなく——覆面たちは意識を失くした仲間から徐々に離れていった。

「オイ! 何が起きたんだ!」

「オレが知るか————見ろよ、タキの奴、なんか体がしわしわに——」

「ひぃいいいい」

 仰向けに倒れている仲間が急激にやせ細っていくさまを見て、覆面のうち一人が、尻もちをついた。
 誰もが釘付けになったステージの前には、もうさきほどまでの長身男はおらず、かわりに拒食症患者のように中身のない体があった。

「タキぃいいい」

「わぁああああ!」

「どうなってんだよ! 誰かなんとか言えよ!」

 混乱した小柄な男が、スタッフを見まわしながら銃口を向けた。
 その手は銃を落としそうなほど震えている。他の覆面たちも、まるで身を守るがごとく拳銃を構えていた。
 が、さらに次の瞬間——恐怖に慄く会場が、いっそう凍りつく。
 しぼんで細くなった男の首から、糸をほどくように花が動き始めたのである。
 その花の形状をした動物は、会場を吟味するように広げた花弁をあちこちに向け、地面を這い始めた。
 何かを探しているようにも見える。

「——ガキどもが。封印を解くからいけない」

 這ってでも逃げようとする捕虜の中で、新徳が見事な落ち着きぶりで言った。
 そんな新徳を見て、リーダー格の男が口を開く。

「お前が責任者か? 一体なんだ、あの——気持ち悪いものは——」

 リーダーは爬虫類の動きで這い回る花に銃口を向けるが、その手は震えていた。
 新徳は喉の奥で笑う。

「お前たちの欲しがっている、金になる商品だよ」

「あれのどこが商品だ! しかもあいつは人を喰うのか?」

「売れば六本木のビルがいくつも買える。君なら一生暮らしていけるだろうね。他の商品と同じように、さっさと持っていけばいい——無傷でいられる保証はないが」

「お前——」

 リーダーは一瞬狼狽えたが、滴るほどの汗をかきながらも、貪欲な目で舌舐めずりをし、銃口を新徳に向けた。視線はちらちらと花に向いている。

「——あいつを動けなくするにはどうすればいい?」

 詩津は信じられなかった。覆面リーダーはこの異常な状況下で金になる話に食いついたのだ。
 見ていた他のスタッフも唖然としている。
 この状況を見ていながら、あの化物を持って帰るつもりなのだろう。
 すでに他のメンバーは出口付近でいつでも逃げられる状態だったが、リーダーだけはその場を離れない。
 そしてその間にも、恐ろしい花はスタッフの一人一人に近づくと——匂いをかぐような仕草で、開いた花弁を人の足や腕などにへばりつけていた。
 花に触れられた者は、悲鳴にならない悲鳴をあげる。
 ミイラ化した覆面の男と同じような犠牲者が出るのは時間の問題だった。
 だが、その花の持ち主だけは余興を楽しむような目で花を見つめていた。

「止めるのは無理だろう。あいつは今まで特別な花瓶に封じ込めていたんだ。あとは花の気の向くままに任せるしかないだろうな」

「ふざけるなッ」

「ふざけてなどいないよ。止まっていた時間を動かしたのは君たちだろう? その責任をとるがいい」

「リーダー! そんな奴、もう放っておいて逃げよう」

「そうだよ。そんな危ないもん、持って帰らなくたって、他の商品だけでもじゅうぶんじゃん」

 出口から体の半分を出している他の覆面たちが、次々とリーダーの説得にあたった。だが、リーダーは諦めきれないとばかりに、覆面でもわかるほど顔を歪めた。
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