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1章 就職!異世界の門日本支部!

3話 戦う仕事も結局は人間関係

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 距離で言うと、残り500mぐらいだろうか。ここからゆっくりと景色が変わる。住宅街から田舎道。田舎道から荒野へと景色の急変が起こる。

 先程まで住宅街を歩いていたが、今歩いているのは草木が枯れた荒野。一目見て栄養がない事がわかる地面を今歩いている。

 少し後ろでは近代的なコンクリート造の家が建っていたのに、荒野にはマッチ1本の火だけでも10分で全焼してしまいそうなボロボロの木造の小屋と鉄色の長方形の建物しか建っていない。

 そして、荒野の真ん中に立つのは異世界への門。門を中心に半径500メートルの荒野ができている。

 ここまで言ったら薄々気がついているとは思うが、町の中に荒野があるのは、門が原因だ。

 現在荒野である場所も昔は住宅街の一部だったが、門が地上に着地する際に出した炎によって焼かれ、出てきた魔物に破壊されて、毒属性の魔物の大量出現によって、門付近の環境は終わってしまったのだ。

 現在の技術で土地の再生は可能だが、そんな事をしても門からは魔物は現れ続けて環境を破壊する。その為、門周辺の土地の状態はそのままにしていると政府が声明を発表している。

 門に近づくにつれて、血や腐った肉の匂いが漂ってくる。足元を見ると、赤黒く変色した血らしき液体が土に染み付いている。

 門の入り口前には鉄製長方形の建物が数軒建てられており、魔物とザナ人の不法入国を防ぐ為のコンクリート製の壁も立っている。

 飲み物の自動販売機も置かれている。電気は通っているようだ。

 鉄製の建物の用途は門番の休憩場所や検問所、倉庫といった具合だろうか。仮にも異世界ザナこちらの世界リオを繋ぐ国境のような場所なのだから、ウェルカムな雰囲気を出しても良いのに。

「おぉい!そこの君ぃ!!」

 そんな感想を抱いていると、門の方から声が聞こえてくる。声の聞こえてきた方向を見てみると、声の方向には監視塔が建っていた(死角で今まで見えていなかった)。

 声は監視塔の上から聞こえてきたようだ。

「ダメじゃないかぁ!こんな所に来たらぁ!この地域は門番と業者以外立ち入りは禁止されてるんだからぁ!!」

 塔の上から声を荒らげている人はどうやら俺を一般人と間違えているようだ。新入りであることを伝えよう。

「違いまぁす!!俺、今日からここではたr──────」

「ちょっとタンマ!全然聞こえない!!腹から声出してるのは伝わるんだけど、全然こっちに届いてない!あんまし大声上げるの得意じゃないでしょ?きみぃ!!」

 どうやら、あっちの方は俺の声が聞こえないようだ。仕方ない。近づいて説明するとしよう・・・。

「ちょっと待っててぇ!すぐ行くから!!」

 いや、あっちの方から来てくれるようだ。待った方が良いだろうか?いや、こっちも近づいた方がベストだろう。

「ん?何で屈伸し始めたんだ?あの人・・・」

 塔の上で簡単な体操をする門番。何をするのかと興味深々で見ていると、膝を曲げ、カエルの彷彿とさせる跳躍力で高さ5mはあるだろう塔を一気に降り、俺の前へとやってきた。

「よっと」


 しかも、かなりの高さと距離から飛んできたというのに、表情からして体にはまるでダメージはない様子。着地の際に舞って服に付着した砂埃を手で雑に払い終えると、こちらの方を向く。

 塔の上からだった為、分からなかったが背が高くガタイも良い。極めて戦闘に向いた肉体だ。相当の実力者だと見られる。

「さぁて・・・君は誰だい?今、不幸の2連続のせいで気が立ってるんだ。なるべく早く素性を言ってね~」

 笑顔だが、ストレスが溜まっているのが分かる。爆発寸前の爆弾のようだ。簡潔に答えた方が良いな。

「今日からここ日本支部にて働く事になりました!森山翡翠と申します!以後、よろしくお願いします!!」

「ん、森本?・・・ああ~!君が本部から聞いてた子か!!元気かつ健康そうで良い子じゃないか!!」

「ありがとうございます!!これからよろしくお願いします!!」

「・・・堂々と遅刻してきた事実を除けばね?」

 待って。イライラの原因ってもしかして俺?

「8時出勤なのに、約45分の遅刻とは君、大物だねぇ~。この前の30分遅刻を軽々と超えてきたよ。しかも、態度も全く悪びれてない。・・・さて、どう対処しようかな・・・」

「ちょ、ちょっと待ってください!事前に伝えられた出勤時間は9時だったんですけど!!」

「えっ!?まじ?見せて見せて・・・・・・」

 俺のスマホの画面を凝視する屈強な門番。しばらく凝視すると、先程までの緊迫感を感じられる笑顔から一変し、親しみやすさ溢れる笑みを浮かべてきた。

「いやぁ!ごめんごめん!こっちのミス!君の過失ゼロ!あははははは!!」

「マジかよ・・・」

 相手側のミスではあるが、結局の所、遅刻をしてしまった不憫な翡翠なのであった。
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