上 下
36 / 191
2章 亡命者は魔王の娘!?

5話 赤い肌の亡命者

しおりを挟む
「その言語・・・ここはリオなの?」

 幸いな事に彼女は日本語をマスターしているようだ。何らかの理由による錯乱を解けて、俺を敵なのか疑問視しているらしい。

 制服の腕部分に付いている門番の紋章を見せつけて本物の門番である事をアピールする。

 魔族の少女はこちらへと無言で近づいてくると、俺の手を握り、上目遣いで問いかけてくる。

「味方よね?味方なのよね?」

「え、あ、うん!そうそう!味方味方!」

 恐怖に震えた声で聞いてくるので、思わず反射的に肯定してしまった。まあ、俺は門番で亡命者を迎え入れる仕事を任されたのだから、厳密に言えば味方だろう。

「良かった・・・」

 命の安全が保証されたからだろうか。魔族の少女はその場にへたり込んでしまう。

 そんな彼女を更に更に安心させるべく、心配ない旨を伝えるが─────

「ダメ!油断しないで!アイツら来る!!」

「アイツら・・・」

 爆発が既に終わったザナ側を見てみると、灰色の煙の中から3つの人影がこちらへと向かってくる。

 まだシルエットしか分からないが、腰には剣、手には槍、全身に鎧を身に纏っている事がはっきりと分かる。

 ザナ側の門番か?いや、ザナの門番のほとんどはリオ側で気絶している。明らかに別勢力だ。

「止まれ!許可なく侵入した場合、どんな理由があろうとも、不法入国者として身柄を拘束させてもらう!」

 こちらの言語を分かっていない可能性が高いが、警告しているのは分かるはず・・・多分。

 相手がどういう状態なのか分からない。もしかしたら、魔族の少女のように錯乱しているかもしれない。

 刀に手はかけずに声だけで警告し、退散を促す。

 ザナでも、門を許可なく超えたら法律違反だという事は教育に組み込まれている。なので、いくら魔族の少女を狙っていようとも、門を超える事は出来ない。

 出来ないはず・・・なのだが、槍をこちらに向けて構えている。

 盾で身を守り、3人同時に走り出し、まるで普通に通るように不法入国してきたのだ。

「嘘だろ・・・」

 呆れと驚きの感情が入り混じる。

 迫ってくる3枚の壁。盾で全身を隠しているせいもあってか、前が見えていなかったのか、少女を抱えて避けても追跡してくる事はなく、壁に激突して止まった。

「「「・・・」」」

 突進不法入国してきた3人の見た目を何かに例えるなら、重戦士タンク又は騎士。

 銀色に光る鎧が眩しい。相当高い身分の騎士と見受けられるが、どうしてそんな人らが彼女を追って不法入国なんかしてきたのだろうか。

 考えていると、壁にぶつかった3人の騎士がこちらを振り向き、槍を構えてきた。

 違法だとしても、魔族の少女を捕獲したいようだ。少女も完全に怯え切っており、俺の制服から手を離そうとしない。

 騎士の正体が気になって仕方ないが、第一優先は少女の命。その次に騎士の正体だ。

「『トニトゥルーム』・・・」

 騎士達が着込んでいる鎧。とてもじゃないが、俺の刀と腕前では切れそうにない。ならば、感電を狙うほかない。

 こちらも構えを取って威嚇する。電気を刃に纏わせたのは得策だったようで、1対3にも関わらず、こちらに無闇に突っ込んでくる様子はない。

 盾で全身を守り、盾の隙間から槍の穂先を出して俺と少女を囲む。

 隙を見て槍で突いてくるのを弾くので精一杯だ。そのくせ、騎士達は槍以外出してこない。

 むかつく戦法だ。だが、完璧な戦法ではない。

 この世に完璧な戦法というのは絶対に存在せず、どんなに隙が無かろうと、隙を作れば良いのだ。

「ふんっ・・・!」

 帯電した刀を地面に突き刺し、丸腰になる。サブ武器はない。素手だ。防具も着ていなければ、盾も装備していない。完全丸腰状態へと移行した。

「「「!!??」」」

「えっ?何、やってんの?」

 意味の分からない行動に騎士達も若干驚き、魔族の少女も開いた口が塞がらない模様。

 そんな4人に翡翠は理由をしっかりと答える。

「肉を切らせて骨を断つ・・・つまりヤケクソ戦法!」

「ヤケクソ・・・?」

「「「??」」」

 ヤケクソの意味が伝わっていないようだが、まあ良い。騎士達を驚かせた時点でこの作戦は半分成功している。

 戸惑いながらも、騎士の1人が突き攻撃を放つ。真っ直ぐと放ち、心の臓を穿つ覚悟と技術がある突きだ。

 翡翠はそれを体を反る事で回避。槍を引き戻す前に柄の部分を脇に挟み込む事に成功した。

「っっ!?!?」

「ハハハ!!その反応!絶対に自分達の戦法は敗れるはずがないと思ってたな?甘い!!どんなに素晴らしい戦法でも、1つの行動から逆転は可能なんだよ!今みたいにねぇ!!」

 不安定な脇挟みから両手掴みに変更。腰を低くし、大根を引っこ抜く要領で、騎士ごと槍を持ち上げる。

「どっこいしょぉっ!!!」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!」

 立っていた対角線上に投げ飛ばす。いや、叩きつけるという方が正しいだろうか。

 鎧を着た状態で地面に打ち付けられた騎士は、しばらく痛みで悶え苦しんでいたが、すぐに何も叫ばなくなった。

 ほんの僅かしか聞こえないが、呼吸音が聞こえるので、死んでいるのではなく、気絶していると思われる。

「「ッッ・・・!!」」

「ふぅ・・・さてと、残り2人もちゃっちゃと片付けちゃいますか・・・」

 とは言え、目の前で槍確保&叩きつけを見せてしまった以上、もう倒し方は使えない。残された2人の騎士は警戒して他の戦法に変えるだろう。

「ここからどう倒そうかな?」

「ヒスイ!アンタが倒す必要はないわ!」

「後は僕達に任せて!!」

 背後から頼もしい声が聞こえてくる。3人に囲まれて戦闘に集中していたせいもあってか、一時的だが、完全に存在を忘れていた。

「モネさん!シャープ!!」

「コイツら見てると、よく分からないけど腹の底がムカムカするのよね・・・」

「3対1ってちょっと騎士としてどうなのかな~?幻滅しちゃうな~」

 2人は既に武器を手に取り、戦闘準備は万全の模様。
しおりを挟む

処理中です...