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2章 亡命者は魔王の娘!?

6話 門番舐めるな

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「てか、コイツらアタシ達の事舐めてね?」

「どういう理屈で?」

「いやさ、銀製の鎧が着れるって事はそこそこ裕福な家系に生まれたって事でしょ?つまりは質の良い教育を受けてきたわけだ。その教育の中には法律の勉強も含まれてるわけで、リオへの入国は違法って事ぐらい常識として知ってるわけよね?」

「そうだろうね。貧しい生まれの僕達でさえ知ってるんだから間違いなく知ってるだろうね。あんな銀ピカアーマー着けてるぐらいなんだから」

「にも関わらず!不法入国してアタシ達の仕事の対象を殺そうとしてる!つまりどういう事だか分かるわよねぇ!?シャープゥ?」

「許可なんか取らなくても、門番如き強行突破できる・・・って事だね」

「そう!その通り!あの銀ピカはびくびくタワーシールド構えてるクセしてアタシ達門番を軽く捻れると勘違いした飛んでもクソ野郎ってわけ!」

「それはちょっと許せないな・・・騎士みたいな恰好してる癖に礼儀がなって無いね・・・ちょっとお仕置きが必要かな?」

 そう言うと、シャープは斧槍ハルバードを振り回し、威嚇。残った2人のうち、1人に向かっていった。

「ッッ・・・!フッ!!」

「突きがすんごく遅いねぇ!!そんなんじゃあ、蜜を吸ってる蝶々も殺せないよ?」

 シャープはドッペルゲンガー騒動後、自分の新たな戦い方を模索し始めた。門番の皆の役に立つ為、戦績を上げて一刻も早く減給を取り消してもらう為。

 色んな武器を試していく中、槍やスタッフなどの長物武器がしっくり来る事に気付き、ハルバードという1つの答えを見つけた。

「それそれそれそれぇ!!」

 舞のように美しく、無駄のない連撃は、騎士に反撃の猶予を与えず、防御の体勢を崩していく。ハルバードに触れてからまだ半年しか経っていない者の動きとは思えないと主任は答える。

 シャープ・フリップ。主武器ハルバード。特技、舞のような連撃。

「ガード、崩しっと!」

「アッ・・・!!」

 騎士の身を守っていたタワーシールドが風に晒された木葉のように吹っ飛んでいく。守る物を失った騎士は、成す術があったにも関わらず、どうして良いか分からず、柄の部分で兜越しに頬を叩かれ、気絶した。

「あちゃあ・・・名乗る前に倒しちゃった・・・ま、侵入者の時点で騎士失格だし、いっか!」

 シャープ。武器の相性もあってか、速攻で決着。

「残るはアンタだけね・・・門番舐め腐った罰、思いっきり与えてやるから覚悟しなさい」

 モネ・ロックマンの武器は門番になってから変わらずハンマー!・・・なのだが、最初期に使っていた物とは別のハンマーを使っている。

 打つ部分は長方形から、球体に変更。いがぐりのような棘が追加され、打撃だけでなく、刺撃も可能となったのである。

 この棘付きハンマーの事を皆は『モーニングスター』と呼ぶ。

 日本語で言い直すなら、『明けの明星』。トゲトゲした丸い見た目から、星を彷彿とさせる為名づけられた由緒正しい厳つい武器である。

 今回の対戦相手は鎧を着ている為、棘による追加ダメージはあまり期待できないが、それでも打撃は有効。

「脳天ががら空きだ!この銀ピカ空き缶野郎!!」

 頭を狙えば、脳震盪を狙う事が出来る。脳は言わずもがな、肉体の司令塔。例え、兜を被っており破壊を用いた殺し方が出来ない場合でも、頭を攻撃すれば脳が揺れ、たちまち戦闘不能にする事が可能。

 モネは騎士のタワーシールドを足場にし、高さ2mの所からハンマーを頭に下ろした。まだまだ作ったばかりなのだろう銀製の兜が大きく凹む。

 殺せはしなかっただろうが、確実に脳にダメージを負わせる事に成功したのだが──────

「ウゥ・・・」

「ウソ、意外とタフね」

 驚いた事に騎士はふらつきながら立ち上がったのだ。負けないという固い意思からか?それとも、単に体が頑丈だからだろうか?

「ま、どっちでも良いんだけどっ!」

「ガッ・・・!!」

 騎士は立ち上がる事は出来たが、落ちた槍を拾い、反撃する事ができなかった。つまりは油断も隙も見せ放題という状態。

 そんな好機をモネが見逃すはずが無い。モーニングスターを両手で持ち、大きく振りかぶる。

 例えるなら残りHPが1の騎士の後頭部に向かって、ハンマーの重みに任せて振り下ろした。

 見事な出来の兜はまるで潰れた空き缶のようにひしゃげてしまい、使い物にならなそうだし、凹みまくって脱ぎずらくなってそうだ。

「これ死んでないよね?」

 戦いの興奮が冷めた後に自分のやりすぎで相手が死んでいないか、心配になる。まるで賢者タイムのようだ。
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