異世界と繋がる不思議な門を警備する仕事に就きしました!

町島航太

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2章 亡命者は魔王の娘!?

18話 正攻法なら

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 有無を言わず襲いかかってくる刺客。ナイフを振りかざしてくる手ごと掴み、刺突を避ける。

「ふんっ!!」

「Aaaaaa!!」

 掴んだ手はそのまま離さず、力づくでへし折って見せた。すると、銀の騎士達とは違い声を上げる。骨を折られているのだから当たり前なのだが。

「前に来た騎士達はお前みたいに情けなくなかったぞ?アイツらが特別強かったのか?それとも、お前が特別弱いのか?」

「・・・フッ!!」

 残った左手でナイフを手に取り、乱暴に振るう。当たらなかったが、翡翠を自分から離す事が出来た。

 恐らく利き手を奪えた事で余裕が生まれた翡翠は、ささやかな計画を立てる。今目の前にいる刺客を捕まえて、バッグにいるリリック暗殺を狙う組織を狙おうと。

「悪いけど、ギリギリ死なない程度に痛めつけさせてもらうね・・・『フランマ』」

 翡翠の愛刀の刀身に炎が宿る。心臓で動き、生きる物なら誰でも恐怖するであろう炎。受け止めるだけで火傷は確定。敵からしたら最悪の組み合わせである。

「フッ!!!」

 やられる前にやってやる。刺客は翡翠よりも早く動き出した。ナイフを逆手に持ち、彼の後ろに回り込み、首を掻っ切るイメージを湧かせる。

 大丈夫。練習した通りにやればきっと上手く行く。私の暗殺術は───の中でナンバーワンだ!後ろに回り、首を狩る。後ろに回り首を狩る。後ろに回り────

「見え透いてるよ、アンタ」

「・・・へ?」

「今、俺の後ろに回って首を斬ろうとしてるでしょ?」

「ッッ・・・!!」

「目線でバレバレ。どんなに顔を隠しても、目線が見えてちゃあ、何を企んでるか手に取るように分かるよ」

 後ろに回り込む時、アドバイスのような指摘を受ける刺客。はったりではなく、翡翠は本当に見えている。

 それを証明するかのように、そのまま止まる事が出来ずに後ろに回り込んだ刺客の脳天を肘で思い切り殴ったのだ。

 司令塔である脳を殴られて、行動不能に陥る。騎士達とは違い、銀製の兜を被っていないせいで、脳へと直接ダメージが行き届く。

「一太刀」

「Aaaaaaaaaa!!」

 右肩から左わき腹にかけて袈裟斬り。胴体を斬る程ではなく、皮膚を斬る程度にまで手加減する。しかし、どんなに手加減しても斬られた事実は変わらない。

 斬られた箇所からは血が噴き出し、服には炎が燃え移る。たった一か所への攻撃だったが、あっと言う間に炎は広がり、刺客は火だるまと化した。

「Aaaaaaaa!!Aaaaaaaaaaaaa!!!!」

 火を熱さから逃れようと暴れまくる刺客。どんなに、逃れようと走っても、転がり回っても、火は自分の体についているので逃げる事が出来ない。

 水があれば消火できたかもしれないが、生憎暗殺に必要な物しか持っていない。魔術も使えるが、体が炎に包まれている状態で魔術を操る程の冷静な判断が出来ない。

 刺客はこのままだと死の一途を辿るだろう。

「『アクア』!」

 既に死にかけの刺客だが、今回は死んでもらうのが目的ではない。水の魔術によって発生した水を、ホースから出る水のように噴射させ、刺客が纏う火を鎮火する。

 鎮火により、何とか生き延びた刺客は黒焦げにはなっているものの、身に着けている革製の服のお陰と火だるまになったのが短時間だったお陰で全身火傷は免れ、治療次第で全治可能な火傷で済んだ模様。

 死は免れたものの、先程のような俊敏な動きは出来ないようで、芋虫のように体をくねらせながら、落ちている自分のナイフを加え、翡翠との戦闘続行の意思を伝える。

「偉いね。どんなにやられても戦おうとするその意思。俺も見習うべきかもしれない。でもね、これ以上戦ったら確実に死ぬよ?俺がトドメを刺すとかの意味じゃなくて、力尽きるって意味での死。アンタはそれでも良いのか?」

 日本語が理解できないようで、とにかく匍匐前進で進み、ナイフを足に刺そうと試みる。彼をここまで動かす原動力は何なのだろうか。そこまでしてリリックを殺したいのか?

「『テンペラ』!悪いんだけど、縛らせてもらうよ」

 翡翠の指先から小さな光の玉が刺客目掛けて飛んで行く。

 小さな光は2つに分裂。更に、リング状に形状変化。刺客の手首と足首に到達すると、輪を縮め、拘束した。

「主任におすすめされて何となく覚えたけど、凄い良いなこの魔術。こんなに簡単に拘束できて、6時間も継続して拘束し続けられるのははっきり言ってコスパ最強だね」

 教えてくれた主任に感謝だ。さて────

「ごめんね、リリック。怖い思いさせちゃって」

「ううん、気にしないで。慣れてるから」

「こういう危ない目に遭うのに慣れて欲しくないもんだね・・・まあ、お陰で戦いやすかったけど。悪いんだけど、家に一旦荷物置いて、門に行っても良いかな?刺客コイツを主任に持っていきたい」

 久しぶりの不法入国者。しかも、リリックを殺そうとした刺客ときた。現門番のリーダーであり、現場の最高責任者である主任に持っていくのが筋だろう。

「うん、全然良いよ!いこっ!」

「ありがとね。悪いんだけど、俺コイツ持つからリリックは荷物持ってて!」

「分かった!」

 影野町から俺とリリックにずっと殺意を向けていたのは十中八九刺客コイツだろう。だとすると、俺達門番は異門町への侵入を許しただけでなく、5つ先駅にある影野町への侵入も許した事になる。

 こんな事、門番という職業が生まれて初めてかもしれない。

「ワンチャン大目玉喰らうかもしれないな・・・」

 人が足りていない現状で、クビは飛ぶ事はないだろうが、減給の可能性があるな・・・。

「それだけは嫌だなぁ」

 とにかく、主任の判断を煽ろう。本部から怒られるのはほぼ確定で、気持ちが落ち込みそうだが、それは後でする事にしよう。
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