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2章 亡命者は魔王の娘!?

21話 あっつあつのお鍋

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 エルフの某国王が大激怒している中、ターゲットであるリリックとその護衛の翡翠はスーパーに買い出しに来ていた。

 昨日とは違い、午後18時頃の為、昨日よりも若干他の客が多めだ。

「リリック。さっきファミレスで食べたばっかりだけどお腹は空いてる?」

「すごい食いしん坊みたいで恥ずかしいんだけど・・・さっきのアクシデントでびっくりしてお腹すいちゃった」

「だいぶ変なお腹の空き方だね。まあ、良いけど」

 とやかく言ってる俺も刺客との戦いで魔力を消費しただけでなく、緊張のせいで変にカロリーを消費してしまい、15時にパスタを食べたにしてはかなりお腹がすいてしまっている。

「ねぇ、今晩はどんなの食べさせてくれるの?」

「う~んそうだなぁ~・・・ん?」

 スマホに着信ありとバイブ音を鳴らす。ポケットにしまっていたスマホの画面を見ると、モネさんから連絡が来ていた。

 内容はこうだった。

『今日アタシとシャープの2人体制で仕事したんだから、何か良いもの食べさせなさい!シャープも食べたいらしいから4人前用意しときなさい!』

『り』

 了解の意味を込めて『り』と打つ。

 主任からの命令だったとはいえ、確かに2人にはとても申し訳ない事をした。埋め合わせをしなければならない程には。

 その埋め合わせが夕飯を作ってあげるので許されるのなら、ちょっと良い物を作ってあげよう。

「今日は白菜と豚肉が安い・・・なら、お鍋にでもしようか?」

「オナベ?女性同性愛者の別称だったっけ?」

「うん、別の意味だねそれ。俺の言ってるお鍋は日本の伝統料理の事だよ」

「ニホンの伝統料理・・・何それ絶対美味しいじゃん!」

「カレーが美味しいなら、絶対に好きだと思う。味付けは全然違うけど」

 昨日と今日の食事で、リリックの舌が日本料理好きなのは把握した。ならば、きっと鍋も気にいるだろう。

「リリックは辛いのは大丈夫?」

「ううん、苦手。昨日のカレーの辛さがちょうど良かった」

「昨日のカレー甘口だったんだけど」

 なら、キムチ鍋は無しだな。水炊き鍋にしよう。

「リリック、美味しそうな豚肉6パック買ってきて。値札の数字はなるべく少ない方が良いかな!?」

「まかせて!とびっきり美味しいの見つけてくるから!」

 おなべ・・・一体どんな食べ物なのだろうか。胸を躍らせながら、わたしはお肉コーナーへと向かって行った。



 スーパーからの買い出しを終えて、帰宅。既に部屋の中にはモネさんとシャープが待っていた。

 合鍵を持っているのか!?いいえ、違います。壁にどでかい穴が空いているんです。

 2人に鍋にした事を伝えたが、頭上には見えないが疑問符が浮かんでいる。

「何?オナベって?」

「勇者様が最初に使った伝説の盾〈オナベのフタ〉と何か関係あるの?」

「日本の伝統料理だよ。そういえば2人も食べた事ないっけ?」

 2人はリオに来てからまだ一年。今年の冬はリオに来てから初めての冬である。

 基本的に鍋は冬以外に食べないので、食べた事がないのも無理はないだろう。

 モネに関しては俺が食事管理してるし。

「まあ良いや。シャープ、食材切るの手伝って!モネさんは押し入れの中に入ってるはずの土鍋とガスコンロ取り出して!」

「オッケー!!」

「ええ~、どんな物か分からないんだけど・・・」

「それっぽい物があったら俺に見せてくれれば良いから!そらそら!早く早く!」

「ったく、労働者に更に働かせようなんてアンタも酷い男だね・・・」

「その言葉が出ないくらい美味いから!本日最後の労働頑張って!」

 全員で協力して鍋の準備を始める。シャープはついこないだまで剣が主武器だったこともあり、包丁捌きがとても早い。

 モネさんもリリックと協力して土鍋とガスコンロを見つけた模様。

「よし!シャープ、俺は鍋の準備するから食材切りは任せた!」

「任された!!」

 4人で鍋の準備を進めているので、面白いぐらいスムーズに準備が終わっていく。準備を始めてからたった10分で、鍋の準備は終わりを告げる。

 準備が終わったのを悟ったのか、3人は俺に言われる前に鍋を囲んでいた。

「ヒスイ~~まだ~~?アタシもうお腹空いたんだけど~~!」

「待って。1ウェーブ目が煮終わる頃だから。皆ポン酢は用意した?」

「用意したのは良いケド、こんな酸っぱい液体何に使うの?」

「それに付けて食べる。色々と不安かもしれないけど、一回食べてみてから文句は言ってくれ」

「ねぇねぇ!ヒスイ!ぐつぐつなってるよ!」

 リリックに言われて慌てて蓋を開ける。立ち上がる蒸気。しっかりと熱が通り、熱々になった食材達。油断したら腹の音がなってしまいそうだ。

 早く手を出したい所をぐっと抑えて、手を合わせて食前の挨拶を行う。

「「「「いただきます」」」」

 今回は珍しい事に3人共、鍋初心者だったので、お手本を見せる為に全員の分の肉と野菜を均等に分けるようにしてよそってあげる。

 初めて食べる料理というのは誰しも戸惑うのが当たり前。そのまま箸でフォークで食べて良い事を伝えると、3人はほぼ同時に同じ食材である肉を口の中へと放り込み、噛みしめ、飲み込み、こう言った。

「「「あったまる・・・!!」」」

「お気に召したみたいだね」

 因みに1ウェーブ目の肉はモネさんとリリックが搔っ攫っていってしまった。それを予期して、6ウェーブ分の食材を買って来て良かった。

「さあ、じゃんじゃん食べて行こうか!」
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