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2章 亡命者は魔王の娘!?
22話 実家の話
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鍋も終盤に差し掛かる6ウェーブ目を食べている途中、自分の分を食べ終えたリリックは暇だったのか、俺の方を向いて質問してきた。
「そういえば、ヒスイの家とかあ母さんってどんな人なの?」
何故この質問をしたのか分からない。深い意味があるかもしれないし、なんとなく聞いた質問かもしれない。リリック自身もなんでこの質問をしたのか分かっていなかった。
一方、質問された翡翠はその質問を重く捉えた。リリックは家庭事情を知られてるから、対等になりたい為、自分の家庭事情を聞いてきたのだろうと。
かなり深めに捉えた。なので、真剣に答える事にした。
「俺、孤児院育ちだよ。血の繋がった家族の顔は全く知らないね。写真も残っていなかったから」
「「「えっ・・・」」」
「あれ?2人にも言って無かったっけ?」
そういえば、細かい説明などは省いていたような気がする。なら、益々説明しなければならないかもしれない。
「病死する前に孤児院を運営してる友達の院長にお願いして孤児院に入ったんだってさ」
「親戚とかはいなかったのかい?」
「いたよ。門番になる前に会った。けど、全員クソ人間だったから、孤児院に入れたのは良い判断だと思ったし、愛も感じたね」
翡翠の親は翡翠を愛していたが、愛し続ける事は出来なかった。病という弊害がそれを許してはくれなかったのだ。
「じゃあ、アンタがしてる仕送りって言うのは孤児院への援助って事?」
「うん。院長を含めた職員が3人に、子供が33人いるから国からの援助だけじゃどうしても苦しくなっちゃうんだよね。俺も結構学生時代まじで苦労したし」
高校受験は公立の一本勝負。私立での滑り止めが出来ないので、緊張で勉強中に嘔吐してしまった事もある。
「どうりで人のお世話が上手いわけだ。実質33人の兄弟がいたんだからね」
「今までお世話上手が露見する所あった?」
「まあ、当事者には分からないだろうネ!」
「あ゛?」
「スンマセン」
正直言って門番の仕事はキツイ。いつも死と隣り合わせだし、与えられる業務は精神的に辛い物ばかりだ。それでも、耐えて仕事を続けられるのは、とてもベタだし、気持ち悪いと思われるかもしれないが、孤児院にいる家族のお陰だろう。
「じゃあ、ヒスイは孤児院の人達だけじゃなくて、会った事がない両親も愛してるって事?」
「ああ。愛してるし、感謝してるよ」
「ヒスイは優しいね。わたしは・・・お父様の事は大っ嫌い!」
リリックのお父さん。即ち魔王は千年戦争を引き起こした魔族のトップである。共存を願うリリックからしたら、嫌悪の対象でしかないだろう。
「おじい様が始めた戦争を聖戦だって言って続けるし、お母様とわたしを除け者にした。それだけに飽き足らず、面倒事を置いて死んで行っちゃうし」
「リリック・・・」
「ねぇ、ヒスイ。人はどうして他人よりも優位な立場に立ちたがるの?平等の方が争いも起こらないし、おじい様みたいなバカな考えも起こさないのに・・・」
難しい。俺ごときでは答えられない質問だ。俺は、自分の立場に満足し、争いには無縁の環境で生きてきた。そんな平和ボケした俺が答えられる質問ではないし、そもそも答えて良いのか分からない。
返答に悩んでいると、俺よりも先に答えた者がいた。シャープだ。
「最初はただ人をまとめ上げるだけで大した価値が無かったリーダーって役割は、特定の人には特別で権力のある役割に見えた所から平等の崩壊は始まったんだと思うよ」
「シャープ?アンタ何言ってんの?」
「そして、いざそんな人がリーダーになった瞬間、その人が思い描いたリーダー像。つまり、それ以外の人に権力を行使できる優位な存在になった。そこから人口が増えていくにつれて、増えた人口を管理する為の新たな権力職が生まれてを繰り返した結果、リリックさんが嫌う平等ではない社会が生まれたんだと思う」
「じ、じゃあそれを壊すにはどうすればいいの?」
「人間滅ぼすしかないんじゃないかな?だって人間は個人では生きていけない生き物な上に、優位な立場に立つ味を美味いと思ってる人間はとても多いからね」
「それなら、貴族や王族を滅ぼせば────」
「僕が言った優位な立場が好きな人間っていうのは、現在進行形で優位な立場にいる人達だけじゃないと思うよ。僕みたいな農民育ちの人もいるって事」
つまりは、どんなに滅ぼしても、世界にその概念が生まれてしまった限りは第二・第三と現れるという事だろう。
「リリックさんの気持ちは痛い程分かる。僕だって小さい頃は良く思ってたさ。僕は畑仕事しなくちゃ食べられないのに、何で貴族の子供だけ働かなくても食べられるんだって」
「じゃあ、どうすればいいの・・・?」
「受け入れるしかないね。権力を弱めるって手もあるけど、数年経ったら効果は消えてるだろうね」
「・・・そっか」
リリックはとても悲しそうに下を俯いた。
「ゴメン、シャープ。貴方の言う通りかもしれない。そして、それを踏まえた上で最後に聞いても良いかな?」
「僕バカだから頭の良い質問には答えられないけど、それでも良いなら」
「つまりおじい様は特に深い理由もなく、千年戦争を始めたって事?」
「本人じゃないから何とも言えないけど、その可能性もあり得るかもね・・・」
リリックは更に俯き、表情が見えなくなる。一体どうしたのだろうと顔を覗きこんでみると、目を充血させ、額に血管を浮かばせて怒りに震えていた。
「ひっ!!」
思わず小さな悲鳴を上げてしまうも、リリックは気にせず俺に話しかけてきた。
「ヒスイ。お願いがあるんだけど良いかな?」
「ど、どったの?」
「わたしに、魔術を教えて」
「そういえば、ヒスイの家とかあ母さんってどんな人なの?」
何故この質問をしたのか分からない。深い意味があるかもしれないし、なんとなく聞いた質問かもしれない。リリック自身もなんでこの質問をしたのか分かっていなかった。
一方、質問された翡翠はその質問を重く捉えた。リリックは家庭事情を知られてるから、対等になりたい為、自分の家庭事情を聞いてきたのだろうと。
かなり深めに捉えた。なので、真剣に答える事にした。
「俺、孤児院育ちだよ。血の繋がった家族の顔は全く知らないね。写真も残っていなかったから」
「「「えっ・・・」」」
「あれ?2人にも言って無かったっけ?」
そういえば、細かい説明などは省いていたような気がする。なら、益々説明しなければならないかもしれない。
「病死する前に孤児院を運営してる友達の院長にお願いして孤児院に入ったんだってさ」
「親戚とかはいなかったのかい?」
「いたよ。門番になる前に会った。けど、全員クソ人間だったから、孤児院に入れたのは良い判断だと思ったし、愛も感じたね」
翡翠の親は翡翠を愛していたが、愛し続ける事は出来なかった。病という弊害がそれを許してはくれなかったのだ。
「じゃあ、アンタがしてる仕送りって言うのは孤児院への援助って事?」
「うん。院長を含めた職員が3人に、子供が33人いるから国からの援助だけじゃどうしても苦しくなっちゃうんだよね。俺も結構学生時代まじで苦労したし」
高校受験は公立の一本勝負。私立での滑り止めが出来ないので、緊張で勉強中に嘔吐してしまった事もある。
「どうりで人のお世話が上手いわけだ。実質33人の兄弟がいたんだからね」
「今までお世話上手が露見する所あった?」
「まあ、当事者には分からないだろうネ!」
「あ゛?」
「スンマセン」
正直言って門番の仕事はキツイ。いつも死と隣り合わせだし、与えられる業務は精神的に辛い物ばかりだ。それでも、耐えて仕事を続けられるのは、とてもベタだし、気持ち悪いと思われるかもしれないが、孤児院にいる家族のお陰だろう。
「じゃあ、ヒスイは孤児院の人達だけじゃなくて、会った事がない両親も愛してるって事?」
「ああ。愛してるし、感謝してるよ」
「ヒスイは優しいね。わたしは・・・お父様の事は大っ嫌い!」
リリックのお父さん。即ち魔王は千年戦争を引き起こした魔族のトップである。共存を願うリリックからしたら、嫌悪の対象でしかないだろう。
「おじい様が始めた戦争を聖戦だって言って続けるし、お母様とわたしを除け者にした。それだけに飽き足らず、面倒事を置いて死んで行っちゃうし」
「リリック・・・」
「ねぇ、ヒスイ。人はどうして他人よりも優位な立場に立ちたがるの?平等の方が争いも起こらないし、おじい様みたいなバカな考えも起こさないのに・・・」
難しい。俺ごときでは答えられない質問だ。俺は、自分の立場に満足し、争いには無縁の環境で生きてきた。そんな平和ボケした俺が答えられる質問ではないし、そもそも答えて良いのか分からない。
返答に悩んでいると、俺よりも先に答えた者がいた。シャープだ。
「最初はただ人をまとめ上げるだけで大した価値が無かったリーダーって役割は、特定の人には特別で権力のある役割に見えた所から平等の崩壊は始まったんだと思うよ」
「シャープ?アンタ何言ってんの?」
「そして、いざそんな人がリーダーになった瞬間、その人が思い描いたリーダー像。つまり、それ以外の人に権力を行使できる優位な存在になった。そこから人口が増えていくにつれて、増えた人口を管理する為の新たな権力職が生まれてを繰り返した結果、リリックさんが嫌う平等ではない社会が生まれたんだと思う」
「じ、じゃあそれを壊すにはどうすればいいの?」
「人間滅ぼすしかないんじゃないかな?だって人間は個人では生きていけない生き物な上に、優位な立場に立つ味を美味いと思ってる人間はとても多いからね」
「それなら、貴族や王族を滅ぼせば────」
「僕が言った優位な立場が好きな人間っていうのは、現在進行形で優位な立場にいる人達だけじゃないと思うよ。僕みたいな農民育ちの人もいるって事」
つまりは、どんなに滅ぼしても、世界にその概念が生まれてしまった限りは第二・第三と現れるという事だろう。
「リリックさんの気持ちは痛い程分かる。僕だって小さい頃は良く思ってたさ。僕は畑仕事しなくちゃ食べられないのに、何で貴族の子供だけ働かなくても食べられるんだって」
「じゃあ、どうすればいいの・・・?」
「受け入れるしかないね。権力を弱めるって手もあるけど、数年経ったら効果は消えてるだろうね」
「・・・そっか」
リリックはとても悲しそうに下を俯いた。
「ゴメン、シャープ。貴方の言う通りかもしれない。そして、それを踏まえた上で最後に聞いても良いかな?」
「僕バカだから頭の良い質問には答えられないけど、それでも良いなら」
「つまりおじい様は特に深い理由もなく、千年戦争を始めたって事?」
「本人じゃないから何とも言えないけど、その可能性もあり得るかもね・・・」
リリックは更に俯き、表情が見えなくなる。一体どうしたのだろうと顔を覗きこんでみると、目を充血させ、額に血管を浮かばせて怒りに震えていた。
「ひっ!!」
思わず小さな悲鳴を上げてしまうも、リリックは気にせず俺に話しかけてきた。
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「わたしに、魔術を教えて」
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