異世界と繋がる不思議な門を警備する仕事に就きしました!

町島航太

文字の大きさ
53 / 191
2章 亡命者は魔王の娘!?

22話 実家の話

しおりを挟む
 鍋も終盤に差し掛かる6ウェーブ目を食べている途中、自分の分を食べ終えたリリックは暇だったのか、俺の方を向いて質問してきた。

「そういえば、ヒスイの家とかあ母さんってどんな人なの?」

 何故この質問をしたのか分からない。深い意味があるかもしれないし、なんとなく聞いた質問かもしれない。リリック自身もなんでこの質問をしたのか分かっていなかった。

 一方、質問された翡翠はその質問を重く捉えた。リリックは家庭事情を知られてるから、対等になりたい為、自分の家庭事情を聞いてきたのだろうと。

 かなり深めに捉えた。なので、真剣に答える事にした。

「俺、孤児院育ちだよ。血の繋がった家族の顔は全く知らないね。写真も残っていなかったから」

「「「えっ・・・」」」

「あれ?2人にも言って無かったっけ?」

 そういえば、細かい説明などは省いていたような気がする。なら、益々説明しなければならないかもしれない。

「病死する前に孤児院を運営してる友達の院長にお願いして孤児院に入ったんだってさ」

「親戚とかはいなかったのかい?」

「いたよ。門番になる前に会った。けど、全員クソ人間だったから、孤児院に入れたのは良い判断だと思ったし、愛も感じたね」

 翡翠の親は翡翠を愛していたが、愛し続ける事は出来なかった。病という弊害がそれを許してはくれなかったのだ。

「じゃあ、アンタがしてる仕送りって言うのは孤児院への援助って事?」

「うん。院長を含めた職員が3人に、子供が33人いるから国からの援助だけじゃどうしても苦しくなっちゃうんだよね。俺も結構学生時代まじで苦労したし」

 高校受験は公立の一本勝負。私立での滑り止めが出来ないので、緊張で勉強中に嘔吐してしまった事もある。

「どうりで人のお世話が上手いわけだ。実質33人の兄弟がいたんだからね」

「今までお世話上手が露見する所あった?」

「まあ、当事者には分からないだろうネ!」

「あ゛?」

「スンマセン」

 正直言って門番の仕事はキツイ。いつも死と隣り合わせだし、与えられる業務は精神的に辛い物ばかりだ。それでも、耐えて仕事を続けられるのは、とてもベタだし、気持ち悪いと思われるかもしれないが、孤児院にいる家族のお陰だろう。

「じゃあ、ヒスイは孤児院の人達だけじゃなくて、会った事がない両親も愛してるって事?」

「ああ。愛してるし、感謝してるよ」

「ヒスイは優しいね。わたしは・・・お父様の事は大っ嫌い!」

 リリックのお父さん。即ち魔王は千年戦争を引き起こした魔族のトップである。共存を願うリリックからしたら、嫌悪の対象でしかないだろう。

「おじい様が始めた戦争を聖戦だって言って続けるし、お母様とわたしを除け者にした。それだけに飽き足らず、面倒事を置いて死んで行っちゃうし」

「リリック・・・」 

「ねぇ、ヒスイ。人はどうして他人よりも優位な立場に立ちたがるの?平等の方が争いも起こらないし、おじい様みたいなバカな考えも起こさないのに・・・」

 難しい。俺ごときでは答えられない質問だ。俺は、自分の立場に満足し、争いには無縁の環境で生きてきた。そんな平和ボケした俺が答えられる質問ではないし、そもそも答えて良いのか分からない。

 返答に悩んでいると、俺よりも先に答えた者がいた。シャープだ。

「最初はただ人をまとめ上げるだけで大した価値が無かったリーダーって役割は、特定の人には特別で権力のある役割に見えた所から平等の崩壊は始まったんだと思うよ」

「シャープ?アンタ何言ってんの?」

「そして、いざそんな人がリーダーになった瞬間、その人が思い描いたリーダー像。つまり、それ以外の人に権力を行使できる優位な存在になった。そこから人口が増えていくにつれて、増えた人口を管理する為の新たな権力職が生まれてを繰り返した結果、リリックさんが嫌う平等ではない社会が生まれたんだと思う」

「じ、じゃあそれを壊すにはどうすればいいの?」

「人間滅ぼすしかないんじゃないかな?だって人間は個人では生きていけない生き物な上に、優位な立場に立つ味を美味いと思ってる人間はとても多いからね」

「それなら、貴族や王族を滅ぼせば────」

「僕が言った優位な立場が好きな人間っていうのは、現在進行形で優位な立場にいる人達だけじゃないと思うよ。僕みたいな農民育ちの人もいるって事」

 つまりは、どんなに滅ぼしても、世界にその概念が生まれてしまった限りは第二・第三と現れるという事だろう。

「リリックさんの気持ちは痛い程分かる。僕だって小さい頃は良く思ってたさ。僕は畑仕事しなくちゃ食べられないのに、何で貴族の子供だけ働かなくても食べられるんだって」

「じゃあ、どうすればいいの・・・?」

「受け入れるしかないね。権力を弱めるって手もあるけど、数年経ったら効果は消えてるだろうね」

「・・・そっか」

 リリックはとても悲しそうに下を俯いた。

「ゴメン、シャープ。貴方の言う通りかもしれない。そして、それを踏まえた上で最後に聞いても良いかな?」

「僕バカだから頭の良い質問には答えられないけど、それでも良いなら」

「つまりおじい様は特に深い理由もなく、千年戦争を始めたって事?」

「本人じゃないから何とも言えないけど、その可能性もあり得るかもね・・・」

 リリックは更に俯き、表情が見えなくなる。一体どうしたのだろうと顔を覗きこんでみると、目を充血させ、額に血管を浮かばせて怒りに震えていた。

「ひっ!!」

 思わず小さな悲鳴を上げてしまうも、リリックは気にせず俺に話しかけてきた。

「ヒスイ。お願いがあるんだけど良いかな?」

「ど、どったの?」

「わたしに、魔術を教えて」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...