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2章 亡命者は魔王の娘!?

23話 怒り、決意

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 いきなりの魔術学びたい発言。

「ど、どうしてかな・・・?」

 いつ暴発するか分からないので、いつかは教えようと思ったが、自分から言ってくるとは思っていなかったので、反射で聞き返してしまう。

「別に自分で考えたわけでもない時代遅れな思想が原因で、命が狙われてるって思うと、何だかお腹の底からムカムカしてきちゃってさ・・・」

 元を辿れば、先々代の魔王が魔族至上主義なんかを掲げて千年戦争なんて起こしていなければ、エルフに襲われる事なんて無かった。亡命なんてする必要が無かった。

 彼女の安息は先祖によって奪われてしまったも同然。

 しかし、既に怒りをぶつけるべき先代魔王と先々代魔王は存在しない。消去法でぶつけられるのは、現在進行形で自分の命を狙っているエルフ達に向けられる。

「ヒスイ、モネ、シャープ。ゴメン!今まで嘘ついてた」

 怒りで吹っ切れたのだろうか。それとも自分優先に生きようと思ったのか。彼女は秘めていた隠し事を解き始めた。

「わたしを殺そうとしてるのがエルフの人達だっていうの実は知ってたの。それが国絡みだって事も」

 やはり、隠していたのはそれだったのか。何故、隠していたのだろうか?

「だって、騎士の人達はただ上に指示されてるだけで自分の意志じゃないのは分かってたし・・・もし、エルフの人達のやってる事がにバレたらまた別の国際問題が生まれちゃうから・・・」

「同盟騎士団?何それ?」

「アンタ本当にザナについて勉強してたの?炭鉱夫生まれのアタシでさえ知ってるわよ」

「とは言ってもつい10年前に設立した組織だからね。まだ教科書に載ってないんじゃないの?」

「ああ、そういう事情ね。じゃあ、教えてあげる!感謝して聞きなさい!」

「感謝します」

 ザナの経済とか法律がリオとの交流によって、安定してきた事は知ってるわよね?

 それと同時にはっきりと犯罪の線引きがされたからそれを取り締まる組織が必要になったの。

 んでもって設立されたのが国際騎士団!できてから10年しか経ってない組織だけど、福利厚生がしっかりしてるからすごく人気のある職業なの!

「説明終わり!どう?アンタでもわかったでしょ?」

「うん。つまりは警察ってわけだ」

「ていうか警察を元にしてるって言われてるしね同盟騎士団。文明的にはリオの方が圧倒的に発展してるから真似するのは良い判断だと僕は思うけどね!」

 大日本帝国憲法だって、ドイツの憲法を参考に作ったとされている。真似は決して悪い事ではない。

 リリックの言う通りで、もし、エルフ達の蛮行が知られた場合、エルフ達は当然の罰を受けるだろう。

 だが、リリックは騎士達は指示に従っているだけと言い、彼らを守った。

 国絡みだとも言っていたが、あの騎士達はどこかの国直属の騎士という事だろうか?

「リリック、あのエルフの騎士達に指示を出してるのは一体誰なんだ?」

「それはね─────」

「あ~、良かったら僕が言い当てても良いかな?」

「えっ!?検討付いてるの?」

「うん。賢いエルフが統治する複数の国の中で、こんな酷い事するのはしかないからね」

「アタシも検討付いた~。あのクソゴミエルフ国ね~」

「そんな悪名高いんだ。で?その国の名前は?」

「「「ナチュレ王国」」」

 正解だったようで、リリックの声にシャープとモネさんの声が合わさる。

「ホント面倒なのに目をかけられたわねアンタ。あそこの国王はマージでクソだよ。ウチの親戚も魔力を感知されただけで死刑にされかけたし」

「僕と僕の周りは直接の被害はなかったけど、気に入らない農村を燃やしたらしいよ。森の民エルフなのに」

 幼い頃にエルフのお伽話を何度も聞いて育ってきた。中高では、ザナ世界史にて、エルフの輝かしい活躍を学んできた。

 だから、いつか会うであろうエルフを待ち遠しにしていたのだ。

 そして、待っていた結果が刺客達アレだ。俺の中のエルフ像が音を立てて崩れていっているのが分かる。

「ナチュレの騎士団め・・・俺の中のエルフのイメージ崩しやがって・・・絶対に許さん・・・!」

「ちなみにナチュレ王国の騎士団はキャンベルって名前だよ。キャンベル・アーリーっていうエルフの騎士から取ってるんだってさ」

「今頃その騎士もあの世で泣いてるよ。ていうか、キャンベル・アーリーってブドウの品種じゃん」

 食べた事はないけど。

「アンタの中のエルフのイメージってどんなのだったわけ?」

「美しいの擬人化みたいな人達で、文武両道を地で行く人種」

「あんなの時代遅れの自惚れジジババ種族よ。大した事ないわ」

「モネさん今日はきっついね~・・・あ、まだお腹空いてる?雑炊作ろうか」

 卵とほうれん草を使った雑炊は、鍋同様に人気を博した。
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