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2章 亡命者は魔王の娘!?

27話 実力差

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 今度はサーベルには魔力も魔術も用いないただ、技術と腕力のみの戦法。

 サーベルを持っている手を引き、残りの手でおれを定めるその構えは、昔観たSF映画の騎士を彷彿とさせる。

ゾクイいくぞ・・・」

 ザナの言語。理解はできなかったが、恐らく戦いの合図を意味していたのだろう。次の瞬間には走り出し、俺の心臓に狙いを定めていた。

 中段の構えを取っていたのは不幸中の幸い。刀でサーベルの軌道を身体から反らし、勢いで唯一晒している首を刺す目的で狙うも、寸前の所で空いた手で掴まれてしまう。

「ぐっ・・・おぉ・・・!!」

 力づくで引き離そうと試みるも、腕力が強く、放してくれない。

 強すぎるシャイ団長の腕力はついに、俺の愛刀にヒビを入れ始め、武器としての命を一気に終わらせてしまう。もし仮に今引きはがせたとしても、刃はボロボロで刃物としてまともに使える代物ではなくなっている。

 名残惜しいが、折るしかない。

「ごめんよ・・・!!」

 刀の刃を掴むシャイ団長の両手を蹴り上げ、自ら愛刀の折る。門番になる前から使用していた2年以上の相棒。悲しくはあるが、優先事項は目の前のシャイ団長を倒す事。

 音を立てて散らばる刀だった鉄の塊に目をくれず、残った刃で挑む。順手から逆手に変更。肩を掴み、鎧の胸部と腹部の間に出来た隙間目掛けて思い切り突き刺した。

「武器を犠牲に確実に仕留めに来たか・・・本当に素晴らしい戦士だ。ここで殺すのが非常に惜しまれるぐらいにはな」

 折れた刀を握る手に、肉を引き裂いた感覚がない。それどころか、刃に血が滴っていない。

 刀から感じる鉄網を引っ掻いているような感覚。もしかしなくてもこれは────

「鎖帷子だ。残念だったな」

 シャイ団長の用意周到さと、自分の弱さに打ちひしがれながら、俺は彼のサーベルを左肩に受けた。

 サーベルは俺の胴体を両断する事は無かったが、肋骨と左肺を斬り、心臓まで残り数センチまで到達していた。見えないが、感覚で分かる。俺はあと、数センチで死ぬ。

「ヒスイィィィィィ!!」

 他の騎士の相手をしていたシャープがハルバードをシャイ団長に向けて投擲。軌道とパワー、どちらにも優れていたが、シャイ団長との実力差がありすぎた。

「『弾性魔術ブーンシー』・・・空気に弾性を持たせた。投擲の威力は評価するが、怒りに任せたのは評価に値しない」

 力いっぱいに投擲したハルバードは、シャイの魔術によって生まれた透明のトランポリンに跳ね返され、シャープの元に力強く戻っていく。

「がぁっ・・・!!」

 自分の武器によって反撃されるとは露程も思わず、ハルバードの柄頭を脇腹に思い切り喰らう。

 刃の部分では無かったのは不幸中の幸いではあるが、不幸である事に代わりはなく、一瞬で紫の痣になってしまう程の反撃は、シャープに膝をつかせた。

「膝を付いたぞ!今だ!やれぇぇぇぇぇ!!」

「「「「「ウオォォォォォォォ!!!」」」」」

 餌を見つけたアリのようにシャープに襲いかかるキャンベル騎士団。急いで来た影響で鎧などの防具を身に着けておらず、騎士達の剣をその身で受け止める。

 どれも内臓に到達する攻撃は無かったが、致命傷と呼ぶには十分なものだった。

「すまない。正々堂々の勝負をするべきなのだろうが、我々が王から受けた使命は君達の死だ。今日だけは騎士としての誇りを捨てさせてもらう」

「とっくに捨ててるでしょ・・・何の罪の無い女の子を殺そうとしてるんだからさ・・・」

「・・・その通りだな」

 苦し紛れの挑発。勝てない。死んだと感じた時にふと自然と出てくる言葉。

 シャープもその法則に従うように暴言と事実の入り混じった言葉を吐き捨てるが、シャイは怒る事なくその言葉を受け止め、サーベルを振り下ろした。

「あれ~?自覚してたんだ~。意外~」

 戦場には場違いな喋り方。シャイも思わず首を跳ねようとするサーベルを寸前で止める。

 シャイはあった事は無かったが、その声を知っていた。その喋り方を知っていた。

 しかし、現れるとは思っていなかったので驚いた。

「ザナのサボり気味な門番にこっちの守り頼んできてみたらさ~ウチの可愛い部下達をこんなにしちゃってさ~・・・どう責任取るわけ?」

 両手に剣を握り、笑みを浮かべる男。3人の門番達の上司だ。

「一体どうやってこの状況を把握したんだい?君は3km先の門を1人で守っていたはずだが─────」

「人が質問してる時に質問してくるのやめてくんないかな~普通に腹立つから。ここは最新鋭の技術が集まるリオだぜ?状況の把握なんて、この板スマホで出来るんよ」

 またもや失敗。あんな薄っぺらい板で情報共有ができるのか。リサーチ不足が出てしまった。

「んで?どう責任取るわけ?」

「・・・私の命だ。ただし、その手で奪って欲しい。私自ら差し出すのは酷だからね」

「分かった。そうさせてもらうよっ!!」

 主任とシャイの間合いは50m。それを地面を一度蹴っただけで瞬く間に詰め、双剣を振り下ろす。

 シャイはそれに対応するように、サーベルで防ぎ切り、鍔迫り合いへと持ち込んだ。

「おっ!やるねぇ~。流石は294歳!30歳のガキに一撃ではやられないかぁ~。それと・・・いつまでオレの部下シャープを刺してるんだ?アンタらは?」

 右手の剣を納め、シャープを串刺しにしている騎士達を風の魔術で吹き飛ばし、壁にめり込ませる。

「これで、思う存分楽しめるね~」

「・・・楽しむ資格が私にあったらな」
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