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2章 亡命者は魔王の娘!?

34話 筒抜け

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 時は再び2日前に戻る。翡翠はリリックと共に、鍛冶場から職場である門へと赴き、事務室にいる主任の元へとやってきた。

「やあ、翡翠!どうだった?新しい相棒は?」

「はっきり言って最高でした」

 オフィスチェアに座りながら、山積みの書類相手をしている主任。いつか来るナチュレの軍勢への対策の一環だろうか。

「そうそう!もうモネとシャープには伝えたんだけど、ナチュレが攻めてくるの明後日だから用意しておいてね!」

「明後日ですか。俺に早急に刀を作らせたのはそれが理由だったんですね・・・え?明後日?あさって!?」

「ヒヒヒヒスイ!?明後日って2日後だよね?」

「そう!正解!流石賢いリリックちゃん。難しい日本語わかるなんてすごい!」

「えへへ~!」

「現実逃避したくなる気持ちも分かるけど、本当だから☆」

 神出鬼没だった敵の出現予定日が分かったのが嬉しい反面、2日後に大軍が迫ってくる事に深く絶望。思わず頭を抱えたくなってしまう。

「夜勤組と、リリックを合わせても9人・・・勝てる気がしねぇ・・・」

「わ、わたしが一気に魔術でぶっ殺しちゃうのはどうかな?」

「出現場所はここ異門町。リリックの方法だと簡単に一掃できそうだけど、町への被害も甚大なものになりそうだね」

「うぐっ・・・」

 犠牲と被害は最小限にしたい。でなければ、死者と被害を出したとして、国内から批判が飛び交う事になる。

「翡翠・・・オレら門番って実質今何人だっけ?」

「え?えっと・・・俺ら含めて40人ですね」

「そう!んでもってうち8人が出張中だから今リオにいるのは32人なわけだ」

「出張中?」

「俺がここに入る前に門を襲った強力な魔物を追ってるんだってさ」

「もしかして、門番の人員不足ってその魔物が原因なの?」

「「正解」」

 そういえば、強力な魔物が強襲してから既に半年以上が経過している。魔物を追っている出張組はまだしも、重症で休職している24人は差はあれど、そろそろほとんどが復帰していてもおかしくはないはず。

 なのに、どうして門番の人員不足は解決していないのだろうか。

「一体どんな魔物が襲ってきたの?」

「そうだね。まるで災害と厄災の申し子みたいな魔物だったね。門番のほとんどが重症と呪いを受けちゃってね、全く怪我が治らないんだよ」

「傷が治らない呪いなの?」

「その通り。リリックちゃん大正解!どんなに傷を治そうとしても呪いが邪魔をしてくるんだよ。お陰で外科医も回復術師もお手上げ。未だにベッドの上で傷に苦しんでるよ」

「し、知らなかったです・・・呪いの事も、先輩達の置かれている状況の事も・・・」

「翡翠が入院してた部屋の隣に隔離されてたよ。夜中に傷口の痛みでうめき声上げるから、それが原因で病院の怪談が1つ出来たらしいね」

 そういえば、深夜にスマホをいじっていた時、ほんの僅かだが、隣の部屋から助けを求める事が聴こえたような気がする。

 生に縋りつくゾンビのようなおぞましい声で、恐怖を感じた為、スマホの電源を消し、すぐに眠りについたので正体がわからず仕舞いだったが、あの声の正体は先輩達だったのか。

「なら、呪術師に頼めばいいんじゃないの?この世界にも呪術師はいるでしょ?」

 魔術が体内の魔力と大気に充満する魔力を利用する術であるのに対し、呪術は己と相手の肉体を媒体とし、負の感情を利用する術である。

 呪いは勿論、発火させる事だって可能だし、魔物の使役など、魔術ではできない事が可能になる。

 数ある呪術師の能力の1つが解呪である。その名の通り、呪いを解除する魔術だ。他人から付けられた呪いを解く事も可能だったはず。なので、先輩方の呪いを解く事も無理というわけではないはずだが・・・。

「オレもすぐに呪術師にお願いして解呪してもらおうとしたよ。そしたら何て言ったと思う?『強すぎて、解呪したら確実にこちらが呪われる』だってさ。呪術師が呪いを恐れてどうするんだっての」

 呪術師も恐れる強い呪い。そんなのに半年以上も苦しめられていたのか。

「だから、そんな呪術師の為に契約書にサインしてあげてるんよ。もし、呪いが跳ね返ってきたら、解呪費と特別報酬を払うって」

「なるほど・・・つまり?」

「今まで休んでた先輩達を復活させちゃおうってわけ」

 休職中の門番の先輩達は主任には及ばないものの、全員が、夜勤の鳩山さんや里見さんに匹敵する力を持っていると聞いている。戦力が大きく強化されるわけだ。

 しかし、それでも戦闘員は32人。警官を合わせても82人。国を相手にするにはまだまだ少ない。勝ち筋がまるで見えない。

「そこで!スペシャルゲスト達をリオにご招待しました!どうぞ!!」

 事務室の2階から、鎧を着込んだ屈強な男が俺達の前にやってくる。男はリリックと同じ赤い肌を持つ人種。魔族だった。

「兵士長!?」

「お久しぶりです、リリック王女。ゴドリック・アインバルト只今参上致しました」

「どうして貴方が・・・」

「リリックちゃんがナチュレの国王に狙われてる事話したら兵士200人連れて駆けつけてくれた。忠誠心って凄いねぇ~~」

「・・・シュニン、わたしは王国に連絡だけはするなと命令したはずですが」

「緊急事態だったので」

 そんな命令をリリックが主任にしていたとは知らなかった。彼女の事だから、国に迷惑をかけたくないという理由で口止めしていたのだろう。

「残りの199人には異門町の各地で待機してもらってる。わたくしの指示で牙を剝くでしょうね」

「そう・・・」

「王女、護衛としてつかせたシェインについて聞いてもよろしいでしょうか」

「聞きたいですよね・・・貴方の甥っ子でしたもの」

「・・・はい」

「彼は足と腕を失いながらも国の事を考え、わたしが逃げる時間を与えてくれました・・・・・・彼は素晴らしい兵士です」

「そうですか・・・きっとあの子も喜んでいる事でしょう。教えていただきありがとうございます」

 これで戦闘員は282人。まだ足りないが、この様子だと増員はまだあるだろう。

「あと300人ぐらい来るけど、当日合流だからよろしく~~」

 やはりか。となると合計で約582人か・・・足りなくないか?

「翡翠・・・オレがどうやってナチュレが攻めてくるって知ったと思う?」

「・・・・・・・・・ま、まさか!!」

「そのまさかだよ翡翠。ナチュレに国王に反旗を翻す裏切る者がいるってわけ」
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