異世界と繋がる不思議な門を警備する仕事に就きしました!

町島航太

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2章 亡命者は魔王の娘!?

38話 決着

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「今だ!!魔力吸収魔術マジケエフージオを使え!」

 既に一度魔力を吸収し、(物理的にではなく魔力的に)破裂寸前な魔術使いは己を奮い立たせ、魔力吸収を始める。

「「「「「『マジケエフージオ』!!」」」」」

 翡翠達との戦いで既に何割か魔力を消費していたお陰か、2度目の魔力吸収は面白いほどに早く終わった。

 残ったのは傷ついた愚王のみ。魔力を回復させる薬ももう残っていない。完全に無力と化したのだ。

「呆気なかったね・・・」

「一対多だったからね。それに全員ロット2世コイツに憎しみを抱いてたから躊躇とかしなかったからだと思う」

「それあるかも。アタシキレすぎて記憶ないし・・・」


「モネすっごくカッコよかったよ!」

「当たり前じゃん!エルフよりもドワーフの方がイカしてるのは太古から分かりきってる事なんだから!」

 この場には大勢のエルフがいる。普通なら喧嘩に発展してもおかしくはない。しかし、今はそれよりも嬉しい事が起きている。今まで100年もの間、人々を苦しめてきた暴君をやっとの思いで仕留める事が出来たのだ。喧嘩の種なんて自然と燃えてなくなる。

 被害はとても多い。多くの戦士は死に、異門町の建物が多く破壊された。元の形に戻すには時間がかかるだろう。だが、今は新たな時代の幕開けに心を躍らせたい。皆そんな気持ちで胸がいっぱいだ。

 翡翠達もリリックをしつこく殺そうとしていた大元を倒せた事で肩の荷が下り、穏やかな表情へと戻っていた。

「お疲れさん。ヒヤヒヤしたのはリリックちゃんが参戦したところで済んでよかったよ」

「その言い方だとわたしが危ない人みたいじゃん!!」

「ごめんごめん!そういう意味じゃないから許して!翡翠、最後の仕事終わらせちゃいな?」

「はい!」

 主任が取り出したのは手錠。それで拘束しろという意味だ。

 もう無害だと感じた翡翠達は武器を納め、主任から手錠を貰いに後ろを振り向く。

 ・・・この行動が、勝利の余裕、油断の現れだったのだろう。

「まだぁ!!終わってないぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 魔力を失っても、まだ動く余力を隠し持っていたロット2世に隙を突く機会をあろうことか与えてしまった。

 腰に帯びていた銀色の宝剣を抜き、剣先を翡翠達の方に向け突進。剣が向く先は翡翠でなければモネでもなく、シャープでもない。最初から狙っていたターゲット。リリックだった。

「翡翠!!」

 ロット2世が立ち上がる姿を目撃した主任はまっさきに翡翠の名前を叫んだ。ロット2世が殺そうとしている人間を読み間違えたからではない。

 4人の中で最も反射神経が高い、翡翠にリリックを守らせる為である。

 幸いにもシャープは動き出していた。ロット2世の雄叫びを聞いた瞬間、後ろを振り向き、リリックを身を挺して守る体勢をとったのだ。

「どけぇぇぇ!!」

 どかない。退くわけがない。刀を抜き、体勢を低くする。

 宝剣の剣先が自分に届きそうになった瞬間、刃を鞘から引き抜き、居合の形でロット2世の宝剣を空高く吹き飛ばした。

「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」

 最後の武器である宝剣を失っても、諦めることはなく、宝剣を構えてた体勢のまま翡翠に突進。翡翠も間合いが近かった為、斬る事ができずにまともに突進を喰らい転倒。ロット2世が上に跨っている状態となる。

 やがて、翡翠が上空にはじいた宝剣が翡翠の真横に落下し、地面に突き刺さる。ロット2世はそれを再び手に取り、無防備になった翡翠の胸目掛けて剣を突き刺しにかかった。

「うおっ・・・!!」

 そのまま自分の胸に突き刺さる様を眺めているはずがなく、翡翠は刃を掴み、突き刺さるのを防いだ。

 ここからは力の勝負。技術などは関係なし。しかし、上から下の力と、下から上の力。どちらが強いかなど比べるまでもない。

 ロット2世の体重が宝剣にかかっていくにつれて、翡翠の手のひらから鮮やかな赤い血が流れ出る。 

 己から流れ出る血は、刃を止める翡翠の手を滑らせ、命の危機に晒す。

「裏切り者どもと下等生物どもは決して動くな!!私は今、この者の命を簡単に奪える状況にある!!」

 あと、数kg・・・いや、1kgでも体重を宝剣にかければ、剣先は翡翠の胸部を切り裂き、心臓を穿つだろう。

 翡翠同様にロット2世も非常に無防備だ。味方には遠距離から攻撃手段を持つ者は大勢いる。

 しかし、皆が翡翠が何者か。これまでどれだけ頑張ってくれたかを知っていた。

 魔族にとっては主君を守ってくれた恩人であり、エルフ達にとっては暴君からの解放の狼煙をあげてくれたと言っても過言では無い人物。

 そんな翡翠が人質に取られている中、ロット2世に矢を魔術を敵意を向ける事はできなかった。向けた瞬間、翡翠が死ぬ事を恐れたからだ。

「どうだ?モリヤマヒスイ!先程まで勝っていた相手に命を握られた気分は!?」

「・・・」

「ハハ、ハハハハハ!恐怖で何も言えんか!アハハハハハハ!!」

「いや、違うね。俺の手に平で転がされてるのに気づかないで無様に道化師ピエロやってるアンタがおかしくて眺めてただけさ」

「・・・はぁ?」

「・・・『氷の魔術グラシエス』」

 氷を意味する呪文が翡翠の口から唱えられる。途端、思わず身震いしてしまう冷気が周囲に発生。

 翡翠を邪魔していた血液は凍り付き、滑り止めとなる。更に氷が刃を包み込み、宝剣は冷たい鈍器へと変化。

 翡翠の胸には皮膚を貫く刃ではなく、ただ冷たい氷が翡翠の胸を小突いた。

「・・・」

「惜しかったな。あともう少しだったのに」

 最後の攻撃手段を奪われ、気力を失ったロット2世。宝剣を掴んでいた手は緩み、地面に落ちる。

 翡翠は上に跨るロット2世を退かすと、自分の愛刀・・・ではなく、氷の鈍器と化した宝剣を手に取り、愚かな王の横顔を、フルスイングでぶん殴った。

「ぐぼはぁ!?」

 宝剣を覆っていた氷と共に、ロット2世は10m先の壁へと吹き飛び、気絶。

 これで、真の意味での愚王の蛮行は終わりを迎えたのだった。
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