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3章 異世界旅行録

11話 謎のゾンビ軍団

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 腐りかけた肉、露出した骨、飛び出した目玉。自分と同じ人間の末路だと思うと背筋に悪寒が走る。

 死者であるゾンビは、生きている者を襲う。理由は未だに判明していない。

 一説によると、生者を喰らい、生き返ろうとしているのだと言われているが、仮説の域を出ない。

 もし、ゾンビが生者を襲う理由が理解できたのだとしたら、そのものは最早生者ではないだろう。

「よ~し、ここはアタシが─────」

「いや、私に任せろハーフドワーフ」

「はぁ!?なんでよ!アタシミンチにしたいんだけど!!」

「モネさん、気持ちは分かるけど、ここは体力温存。それに、シャイ団長は浄化魔術が使えるみたいだし」

 翡翠の言葉に頷き、サーベルを鞘ごと握る。サーベルの柄頭には菱形に加工された緑の宝石が埋め込まれており、微弱ながら魔力を感じる。

 サーベルは杖も兼任しているようだ。シャイは杖に自分の魔力を注ぎ込み増大させ、純白の光を作り出した。

「『浄化魔術プルガーティオ』!」

 唱えると共に白い光が、風船のように破裂し、光が辺りに充満する。

 充満した光こそが、浄化魔術であり、この世に未練を残し、死してなお動くゾンビを天の世界へと導く・・・のだが。

「「「あ゛あ゛・・・あぁぁぁぁぁぁ!!」」」

「効いてないんじゃないノ!?」

「でも、確かにシャイは浄化魔術を打ってたよ!それなのになんで・・・」

「ああ、そういう事ね。こりゃ、浄化じゃどうにもならないね?騎士団長さん?」

「・・・残念ながら体力を消耗する事になりそうだ。それか、解呪魔術が使えるなら話が別だが・・・誰も持ってなさそうだな」

 ゾンビには大きくわけて3種類ある。

 1つ目は未練による自然発生。

 2つ目は屍術師ネクロマンサーによる操作。

 3つ目は呪いによる人形化。

 自然発生以外は、魂は入っておらず、2つ目は魔力、3つ目は呪いの力で動かしている。

 自然発生の場合、浄化の魔術で動かなくなるので、従って今翡翠達を襲うゾンビは自然発生によるものではない。

 残された可能性は屍術師と呪いだが、近くに魔力を感じない為、屍術師の可能性は潰れ、残るは呪いになる。

 この場合、解呪魔術を使えば良いのだが、解呪魔術は習得も使用も高難易度。例えるならば、1m離れた状態で針に糸を通す程度の難易度だ。

 専門は物理攻撃。魔術はサブ武器としてしか捉えていない翡翠、シャープは持っているわけがなく、リリックも難易度の高い魔術はまだ取得していない為、使えない。

 そして、シャイも騎士が専門職である為、使えない。残された答えは何か?決まっているだろう。

「暴・力!!やっぱり暴力こそが全てを解決するのね!!」

 モネは血走った目でモーニングスターを構えながらゾンビの群れへと突撃していった。

「噛まれないようにネ!ゾンビ化はないだろうけど、絶対なんかの病気持ってるかラ!」

「なら、アンタ達も手伝いなさい!アタシを病気にしたくないんなら!!」

 ごもっともである。そして、ゾンビはまだまだ森から現れる。まるで、獲物の到着を待ってたと言わんばかりに。

 まるで意思を持っているようだ。自然発生でないのにも関わらず。

「う~ん・・・ヒスイ、どんな魔術が良いかな?炎だと、燃えちゃうし、土だと地形を変形させちゃうし、雷だと───」

「なら、凍らせれば良い。氷は良いぞ~時間が経てば溶けるから」

「それもそうだね!おーい!モネ~~!!」

「何!?今忙しいんだけど!!」

「今から氷の魔術グラシエス使うねー!!」

 許可ではなく、宣言。リリの悪い所でもある。そして、止めようにももう遅い。彼女は既に魔力を杖に込めて魔術に変えてしまっている。

 魔術に変化してしまった魔力は、もう戻すことはできず、放つ他に選択肢は存在しない。

「リリ!離脱するちょっと待ちなさい!10秒だけで良いかr─────」

「『グラシエス』!!」

 リリの杖から発生した冷気が地面を這い、ゾンビの足元まで辿り着く。

 シャープもモネさんは白い冷気から逃げるように草原に飛び込んだ。

「「セーフ!!!」」

 草原に逃げた2人を追おうと試みるゾンビ達。しかし、何故だろうか足が動かない。

 それもそうだろう。足は既にリリの氷の魔術によって、凍ってしまったのだから。

 凍結はそれだけに留まらず、ゾンビ達の朽ちかけの体を侵食していき、動きを封じていく。

 意思も大した力も持っていないゾンビ達はなす術なく、氷付けとなり、1つの巨大な氷塊と化した。

 これで、無力化に成功したが、完全に倒せたとは言えない。ここから仕上げに入るのだ。

「ちぇすとぉぉぉぉぉ!!」

 リリの拳が、氷塊に激突する。魔族の王女の一撃を喰らった氷は、中に閉じ込められたゾンビ諸共バラバラに砕ける。

 砕けたゾンビの体は少し動いたが、しばらく経つと、動かなくなり、活動の終了を俺達に伝えた。

「やったー!ヒスイどうだった?完璧だった?」

「ああ、最高だった!100点満点!」

「えへへー!褒めて褒めて!具体的に言うとなでなでしてー!」

 撫でるのを要求しながら頭を擦り寄せてくるリリック。しかし、翡翠は彼女の頭を撫でなかった。

 何故?それは彼の手にはまだ愛刀である〈紫陽花〉が握られており、彼の目線は森の方へと向けられていたからだ。

「リリ。それは後で良いかな?」

 森の闇の中から現れる背の低い影達と汚臭。やがて、太陽の元に照らされ、その姿が明らかとなる。

「ゴブ・・・ブブ・・・」

「ゴブリン・・・」

「の、ゾンビですね」

 ゾンビになるのは、何も人間だけではない。ゾンビゲームとゾンビ映画にイメージを引っ張られ過ぎてしまっていた。

「巨人のゾンビとかは・・・勘弁してくれよ?」

 ため息を吐きながらリリックを離し、刀を構えた。
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