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3章 異世界旅行録
13話 生気のない森
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死体はかなり腐敗が進んでおり、思わず嘔吐してしまうほどの悪臭を放っていたが、時間がなかった為、リリにお願いして、土の魔術で雑ではあるが、埋めさせてもらった。
仏さんの扱いが雑ではないかと思われるだろうが、どうか許してほしい。
「では、少し急ぎましょう。もうゾンビの心配はないでしょうからきっとスムーズに進めると思います」
シャイ団長の言う通り、これ以降ゾンビはおろか魔物すら襲われず、快適に道を進むことができた。1時間くらい歩いただろうか。リリが疲れておんぶを要求してきたタイミングでシャイ団長は歩みを止めた。
「さて、お待たせしました皆さん。ようやっと到着しまして、こちらが我が国ナチュレが誇る美しき森、聖なる大樹の森。国への入り口です」
森の少し上を見上げると、金色に淡く光る大樹が見える。シャイ団長の鎧にも描かれていた大樹と同じものだろう。金の大樹の影響か、それとも同じ種類なのか、森を形成する木々も淡く金色に光っている。
「へぇ~~綺麗じゃん。本物の金には劣るけど」
「ドワーフの小さな物差しで見ないで貰いたい。この森は世界に散らばった純金よりも遥かに高い価値があるのだからな」
「い~や!金の方が絶対価値が高いわ!」
「この森の方が価値が高いに決まっているだろう!」
「金!金!金!!」
「森!森!森!!」
「はいはいストップストップ!」
口喧嘩なのか、自慢大会か分からない口論を止め、シャイ団長を先頭に森に入る。
森では、森の色と同色に光る虫が生息しており、幻想的な雰囲気を作り出している。リオでも生息しているホタルと類似している昆虫だろうか。
警戒心がないようで、手を近づけると指先に止まり、羽休めをする。外敵がいない証拠だろうか。
「その虫はフェアリーファイア。この森の固有種です。お気に召したところ申し訳ないのですが、国の決まりでこの森から持ち帰る事は固く禁じられておりますので、お気をつけてください」
「へぇ・・・じゃあ、さっきから動いてるあの木も固有種?」
他の木と同様に金色に淡く光っている木が根っこを足のようにして歩いている。木のしわを見ると、人間の顔面の形をしている。
「ううん、あれはウッドテラー。200年生きた木が動く能力を得た魔物だよ。住んでる地域によって色とか特性が大きく違う面白い魔物だよ」
「あちらの魔物は近づいたら容赦なく襲ってくるのでご注意を。くれぐれも炎の魔術は使わないように」
「だとしたら僕達もう襲われててもおかしくなくない?」
「「「はぁ?」」」
「だって、さっきから僕の真後ろでスタンバってるし」
シャープの背後の木を見る。根っこは露出しており、人面が形成されている。100m先にいる個体とは別の個体のウッドテラーだった。
「しまった!気づかなかった!!」
慌てて武器を構えるシャープ以外の一行。しかし、ウッドテラーは一切襲ってくる様子を見せなかった。寧ろ、翡翠達に助けを求めているような気がする。
「落ち着いて皆!コイツは多分人を襲う気はないから!」
「見たいだな・・・なんだか元気がないような・・・」
「栄養不足じゃない?葉っぱもしなしなだし」
「チッ、驚かせやがって・・・ヒスイ、ミネラルウォーター貸せ!」
「ん、喉乾いたの?」
モネさんに向かって投げ渡す。彼女はノールックでキャッチすると、キャップを開け、ウッドテラーの人面目掛けて中身のミネラルウォーターをぶっかけた。
「喉乾いてんのはコイツだろうか!」
「アア!勿体ナイ・・・」
「別に良いよ。まだ5本ぐらいあるし」
栄養たっぷりのミネラルウォーターを摂取したウッドテラーは瞬く間に元気を取り戻し、葉も艶やかな色合いに戻っていく。心なしか人面も笑っているように見える。
ウッドテラーはモネさんに感謝を伝えたいのだろう。自分の頭に実った金色に輝く木の実を渡すと、俺達の前から姿を消した。
「ほう、ウッドテラーの果実を貰ったか。入手することすら難しい品をこうもあっさりと手に入れるとは運の良いハーフドワーフだ」
「はんっ!アタシは余裕のないエルフと違って寛容かつ寛大な心を持ってるんだよ。欲しかったらアタシの行動を見習いな?」
「・・・なら、まず最初に理性なしの暴力戦法を学ばねばな」
「あ゛?誰が暴力魔だって?」
またもや喧嘩が始まってしまいそうな空気。呆れながらも翡翠が仲介に入ろうとしたところ
「実際そうじゃん・・・」
シャープの一言によって、シャイ団長に向けられていた怒りの矛先がシャープに変更。どぎつい拳骨を脳天に喰らい、この場は何とか穏便に収まったのであった。
「全然穏便じゃないんだけど!?」
「あれはシャープが悪いな」
「ヒスイと同意見」
魔物の体調不良を一発で見抜ける慧眼を持っているのに、若干デリカシーが足りていないのが、シャープの悪いところだ。
「シャープ・フリップ。前から気になっていたのだが、その黒い首輪はなんだ?飼い主でもいるのか?」
「あ~~、まあ、確かに飼われてるかもしれませんネ。リオの二ホン政府に」
なに上手い事言った気になってるんだよ。
「これ、居場所特定機兼爆弾。また、門番にあるまじき行為を取ったら爆発するようになってる」
モネが綺麗かつ簡潔に解説。たった2言で説明したのは地味に凄いな。
「爆発!?それにまたというのはどういう事だ!?」
シャープが約1年前に起こした事件を説明。その結果、首輪をつけられた事を話す。すると、シャイ団長は驚き、こう言い放った。
「犯罪者じゃないか・・・」
「「「アンタが言うな!」」」
リリによって許されたが、彼が行ったのはかなりやばい事だというのを忘れてはいけない。
「あ、そういえば魔力探知機」
森に入るまで色々あった為、忘れていたが、俺には主任から任された2つの任務があったのだった。そのうちの1つ『出張組を探す』はいちいち魔力探知機を見ながら探さなければならない。
腰に下げておいた懐中時計型の魔力探知機を手の平に置くと、青く光る針は、俺達が目指している方向────ナチュレの方向を指していた。
仏さんの扱いが雑ではないかと思われるだろうが、どうか許してほしい。
「では、少し急ぎましょう。もうゾンビの心配はないでしょうからきっとスムーズに進めると思います」
シャイ団長の言う通り、これ以降ゾンビはおろか魔物すら襲われず、快適に道を進むことができた。1時間くらい歩いただろうか。リリが疲れておんぶを要求してきたタイミングでシャイ団長は歩みを止めた。
「さて、お待たせしました皆さん。ようやっと到着しまして、こちらが我が国ナチュレが誇る美しき森、聖なる大樹の森。国への入り口です」
森の少し上を見上げると、金色に淡く光る大樹が見える。シャイ団長の鎧にも描かれていた大樹と同じものだろう。金の大樹の影響か、それとも同じ種類なのか、森を形成する木々も淡く金色に光っている。
「へぇ~~綺麗じゃん。本物の金には劣るけど」
「ドワーフの小さな物差しで見ないで貰いたい。この森は世界に散らばった純金よりも遥かに高い価値があるのだからな」
「い~や!金の方が絶対価値が高いわ!」
「この森の方が価値が高いに決まっているだろう!」
「金!金!金!!」
「森!森!森!!」
「はいはいストップストップ!」
口喧嘩なのか、自慢大会か分からない口論を止め、シャイ団長を先頭に森に入る。
森では、森の色と同色に光る虫が生息しており、幻想的な雰囲気を作り出している。リオでも生息しているホタルと類似している昆虫だろうか。
警戒心がないようで、手を近づけると指先に止まり、羽休めをする。外敵がいない証拠だろうか。
「その虫はフェアリーファイア。この森の固有種です。お気に召したところ申し訳ないのですが、国の決まりでこの森から持ち帰る事は固く禁じられておりますので、お気をつけてください」
「へぇ・・・じゃあ、さっきから動いてるあの木も固有種?」
他の木と同様に金色に淡く光っている木が根っこを足のようにして歩いている。木のしわを見ると、人間の顔面の形をしている。
「ううん、あれはウッドテラー。200年生きた木が動く能力を得た魔物だよ。住んでる地域によって色とか特性が大きく違う面白い魔物だよ」
「あちらの魔物は近づいたら容赦なく襲ってくるのでご注意を。くれぐれも炎の魔術は使わないように」
「だとしたら僕達もう襲われててもおかしくなくない?」
「「「はぁ?」」」
「だって、さっきから僕の真後ろでスタンバってるし」
シャープの背後の木を見る。根っこは露出しており、人面が形成されている。100m先にいる個体とは別の個体のウッドテラーだった。
「しまった!気づかなかった!!」
慌てて武器を構えるシャープ以外の一行。しかし、ウッドテラーは一切襲ってくる様子を見せなかった。寧ろ、翡翠達に助けを求めているような気がする。
「落ち着いて皆!コイツは多分人を襲う気はないから!」
「見たいだな・・・なんだか元気がないような・・・」
「栄養不足じゃない?葉っぱもしなしなだし」
「チッ、驚かせやがって・・・ヒスイ、ミネラルウォーター貸せ!」
「ん、喉乾いたの?」
モネさんに向かって投げ渡す。彼女はノールックでキャッチすると、キャップを開け、ウッドテラーの人面目掛けて中身のミネラルウォーターをぶっかけた。
「喉乾いてんのはコイツだろうか!」
「アア!勿体ナイ・・・」
「別に良いよ。まだ5本ぐらいあるし」
栄養たっぷりのミネラルウォーターを摂取したウッドテラーは瞬く間に元気を取り戻し、葉も艶やかな色合いに戻っていく。心なしか人面も笑っているように見える。
ウッドテラーはモネさんに感謝を伝えたいのだろう。自分の頭に実った金色に輝く木の実を渡すと、俺達の前から姿を消した。
「ほう、ウッドテラーの果実を貰ったか。入手することすら難しい品をこうもあっさりと手に入れるとは運の良いハーフドワーフだ」
「はんっ!アタシは余裕のないエルフと違って寛容かつ寛大な心を持ってるんだよ。欲しかったらアタシの行動を見習いな?」
「・・・なら、まず最初に理性なしの暴力戦法を学ばねばな」
「あ゛?誰が暴力魔だって?」
またもや喧嘩が始まってしまいそうな空気。呆れながらも翡翠が仲介に入ろうとしたところ
「実際そうじゃん・・・」
シャープの一言によって、シャイ団長に向けられていた怒りの矛先がシャープに変更。どぎつい拳骨を脳天に喰らい、この場は何とか穏便に収まったのであった。
「全然穏便じゃないんだけど!?」
「あれはシャープが悪いな」
「ヒスイと同意見」
魔物の体調不良を一発で見抜ける慧眼を持っているのに、若干デリカシーが足りていないのが、シャープの悪いところだ。
「シャープ・フリップ。前から気になっていたのだが、その黒い首輪はなんだ?飼い主でもいるのか?」
「あ~~、まあ、確かに飼われてるかもしれませんネ。リオの二ホン政府に」
なに上手い事言った気になってるんだよ。
「これ、居場所特定機兼爆弾。また、門番にあるまじき行為を取ったら爆発するようになってる」
モネが綺麗かつ簡潔に解説。たった2言で説明したのは地味に凄いな。
「爆発!?それにまたというのはどういう事だ!?」
シャープが約1年前に起こした事件を説明。その結果、首輪をつけられた事を話す。すると、シャイ団長は驚き、こう言い放った。
「犯罪者じゃないか・・・」
「「「アンタが言うな!」」」
リリによって許されたが、彼が行ったのはかなりやばい事だというのを忘れてはいけない。
「あ、そういえば魔力探知機」
森に入るまで色々あった為、忘れていたが、俺には主任から任された2つの任務があったのだった。そのうちの1つ『出張組を探す』はいちいち魔力探知機を見ながら探さなければならない。
腰に下げておいた懐中時計型の魔力探知機を手の平に置くと、青く光る針は、俺達が目指している方向────ナチュレの方向を指していた。
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