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3章 異世界旅行録
19話 式の始まり
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民が、仕事や商いに精を最も出す昼過ぎ。農民や商人、レストランの経営者は各々の仕事はせず、聖なる大樹の根の階段を登り、大樹のナチュレ城前へと訪れていた。
無論、強制参加ではない。無理強いはロット2世がいなくなってから消えた。
しかし、現在国民のほとんどが集まっている。腰を痛めた老人も、産まれたばかりの赤ん坊も全員集まっている。
それは何故か?無論、今日の式を待ち侘びていたからだ。
「いよいよね・・・」「どう変わるのかな?」「きっと、おいら達のような貧民の意見も通るようになるんだろうな・・・」
特に胸を躍らせているのは、低い階級の者達。今まで通らなかった自分の意見が通る日が来るとは夢にも思っていなかった社会的弱者達だ。
「そういえば、もう1つ重大発表があるって言ってた何かな?」「さぁね・・・他国との貿易開始とか?」「それはロット2世がいなくなってから、シャイさんがやってくれたじゃねえか!」
始まりの時間が近づくにつれて、国民達のざわめきとテンションは高くなっていき、バルコニーから人影が見えた瞬間、それらは爆発した。
「誇り高きナチュレの民よ!よくぞやってきた!第24代大臣のグイスだ。今日は仕事で忙しい中、赴いてくれて感謝する!」
まず、初めに姿を現したのはロット2世の父メモル4世の頃から王の右腕として務めた大臣である。
ロット2世に従順だった彼は、ロット2世がシャイ・マスカッツの裏切りによって失脚したと知っても、復讐をする事も無ければ、怒る事もなく、ただただ民主化の流れに従うという柔軟さを持ち合わせる人物だ。
ロット2世に仕えていた身でありながら、残虐な行為や国民に厳しい所業を行った事はなく、ただ国を運営していたので、そこまで国民からの評価は低くはない。
「では、第一王女シュエリーヌ・メリリーナ・ナチュレイズ様からのお言葉だ。沸き立つナチュレの民よ、しばし沈黙を」
ロット2世によって、長い間外の交流を絶たれ、幽閉されていた事は国民の中では周知の事実。同情する者がほとんどである。
きっと、大勢の人に慣れていないだろうと推測する者がほとんどだ。
ナチュレの民は口を閉じ、じっとバルコニーを見つめる。
まず最初に見えたのは、ロット2世とは違う鮮やかな緑の髪の毛。幼い頃に亡くなった王妃と同じ髪色は、中年から老年の国民達を歓喜させる。
宝石のように美しい緑の瞳、丹精に造られた人形のように美しい顔と肌。今みであげた美貌をより素晴らしいものへと昇華させるドレス。
国民達は我慢した。それはもう限界まで。喜びを抑えようと最善を尽くしたが、限界の壁は何度も叩かれ、壊されてしまう。
「「「うぉおおおおおおおおおお!!!」」」
爆発物が爆発したかのような衝撃的な歓声が沸き立つ。その声量は、高さ5mの位置にいるシュエリも思わず耳を手で覆ってしまう程。
自分が歓迎されている事に、嬉しさを表情に出しながらも、王女の責務は果たさなければならない。
しかし、歓声は止みそうにない。シュエリは悟ると、枝のように細く華奢な人差し指をピンと立てると、魔術を唱えた。
「『消音魔術』」
音消しの魔術がシュエリの指先から発動。途端に、国民の叫びは聞こえなくなり、国民達もそれに気づく。
魔術を使わせるほどに自分らは騒がしかったのかと赤面し、再び口を閉じた。
「申し訳ございませんナチュレの方々。そして、こんにちは。ナチュレ王国第一王女シュエリーヌ・メリリーナ・ナチュレイズです」
今度は反省したのだろう。パチパチと拍手が鳴る。シュエリはそれに耳を傾け、目を瞑りしばらく楽しむと、再び言葉を放った。
「我が父、ロット2世がナチュレの国王になってから144年。皆様にとっては苦痛の日々だったでしょう。私もでした。毎日が楽しくなかった。友達は本の中。優しい騎士や兵士の方々は拷問され、殺される。そんな最悪な日々を過ごしていました」
シュエリの言葉に皆が苦しい過去を思い出し、涙する。
「ですが、ついに今日ロット2世の呪縛から解放されるのです。この1枚の紙切れによって!」
羊皮紙に文字が書かれたただの紙。驚くべき事にこの紙1枚でナチュレは新しいの夜明けを迎える。
「ロット2世の決めた法律により、国民からの提案は必ず王族の許可が必要です。ですから、お願いしましょう・・・彼に」
てっきり、シュエリがサインすると思い込んでいたナチュレの民は驚きざわめき始める。
国民の動揺は、1人の青年の登場によって更に大きくなっていく。耳は尖っておらず、ヒューマンにも見える青年。彼の存在をナチュレの民は認知していた。
「ロット2世を倒したリオの門番?」「つまり俺達にとって英雄じゃないか!」
英雄として認知する者もいれば─────
「あの顔立ちどっかで見たような・・・」「ていうか、シュエリーヌ王女とめちゃ似てね?」
素性に気づく者もいる。
「紹介しましょう。彼はロット2世に引導を渡し、ナチュレの民を救った英雄とも呼べる方!」
救いの英雄。そんな人の登場に集まった国民は羨望の眼差しを向ける。
「そして、30年前!ロット2世の謀略によって、姿を消した私の叔母であるニルヴァーナ・ナチュレイズの実の息子!ヒスイ・モリヤマ王子なのです!」
戦法の眼差しが、一変。驚愕の眼差しへと変化した。
民が、仕事や商いに精を最も出す昼過ぎ。農民や商人、レストランの経営者は各々の仕事はせず、聖なる大樹の根の階段を登り、大樹のナチュレ城前へと訪れていた。
無論、強制参加ではない。無理強いはロット2世がいなくなってから消えた。
しかし、現在国民のほとんどが集まっている。腰を痛めた老人も、産まれたばかりの赤ん坊も全員集まっている。
それは何故か?無論、今日の式を待ち侘びていたからだ。
「いよいよね・・・」「どう変わるのかな?」「きっと、おいら達のような貧民の意見も通るようになるんだろうな・・・」
特に胸を躍らせているのは、低い階級の者達。今まで通らなかった自分の意見が通る日が来るとは夢にも思っていなかった社会的弱者達だ。
「そういえば、もう1つ重大発表があるって言ってた何かな?」「さぁね・・・他国との貿易開始とか?」「それはロット2世がいなくなってから、シャイさんがやってくれたじゃねえか!」
始まりの時間が近づくにつれて、国民達のざわめきとテンションは高くなっていき、バルコニーから人影が見えた瞬間、それらは爆発した。
「誇り高きナチュレの民よ!よくぞやってきた!第24代大臣のグイスだ。今日は仕事で忙しい中、赴いてくれて感謝する!」
まず、初めに姿を現したのはロット2世の父メモル4世の頃から王の右腕として務めた大臣である。
ロット2世に従順だった彼は、ロット2世がシャイ・マスカッツの裏切りによって失脚したと知っても、復讐をする事も無ければ、怒る事もなく、ただただ民主化の流れに従うという柔軟さを持ち合わせる人物だ。
ロット2世に仕えていた身でありながら、残虐な行為や国民に厳しい所業を行った事はなく、ただ国を運営していたので、そこまで国民からの評価は低くはない。
「では、第一王女シュエリーヌ・メリリーナ・ナチュレイズ様からのお言葉だ。沸き立つナチュレの民よ、しばし沈黙を」
ロット2世によって、長い間外の交流を絶たれ、幽閉されていた事は国民の中では周知の事実。同情する者がほとんどである。
きっと、大勢の人に慣れていないだろうと推測する者がほとんどだ。
ナチュレの民は口を閉じ、じっとバルコニーを見つめる。
まず最初に見えたのは、ロット2世とは違う鮮やかな緑の髪の毛。幼い頃に亡くなった王妃と同じ髪色は、中年から老年の国民達を歓喜させる。
宝石のように美しい緑の瞳、丹精に造られた人形のように美しい顔と肌。今みであげた美貌をより素晴らしいものへと昇華させるドレス。
国民達は我慢した。それはもう限界まで。喜びを抑えようと最善を尽くしたが、限界の壁は何度も叩かれ、壊されてしまう。
「「「うぉおおおおおおおおおお!!!」」」
爆発物が爆発したかのような衝撃的な歓声が沸き立つ。その声量は、高さ5mの位置にいるシュエリも思わず耳を手で覆ってしまう程。
自分が歓迎されている事に、嬉しさを表情に出しながらも、王女の責務は果たさなければならない。
しかし、歓声は止みそうにない。シュエリは悟ると、枝のように細く華奢な人差し指をピンと立てると、魔術を唱えた。
「『消音魔術』」
音消しの魔術がシュエリの指先から発動。途端に、国民の叫びは聞こえなくなり、国民達もそれに気づく。
魔術を使わせるほどに自分らは騒がしかったのかと赤面し、再び口を閉じた。
「申し訳ございませんナチュレの方々。そして、こんにちは。ナチュレ王国第一王女シュエリーヌ・メリリーナ・ナチュレイズです」
今度は反省したのだろう。パチパチと拍手が鳴る。シュエリはそれに耳を傾け、目を瞑りしばらく楽しむと、再び言葉を放った。
「我が父、ロット2世がナチュレの国王になってから144年。皆様にとっては苦痛の日々だったでしょう。私もでした。毎日が楽しくなかった。友達は本の中。優しい騎士や兵士の方々は拷問され、殺される。そんな最悪な日々を過ごしていました」
シュエリの言葉に皆が苦しい過去を思い出し、涙する。
「ですが、ついに今日ロット2世の呪縛から解放されるのです。この1枚の紙切れによって!」
羊皮紙に文字が書かれたただの紙。驚くべき事にこの紙1枚でナチュレは新しいの夜明けを迎える。
「ロット2世の決めた法律により、国民からの提案は必ず王族の許可が必要です。ですから、お願いしましょう・・・彼に」
てっきり、シュエリがサインすると思い込んでいたナチュレの民は驚きざわめき始める。
国民の動揺は、1人の青年の登場によって更に大きくなっていく。耳は尖っておらず、ヒューマンにも見える青年。彼の存在をナチュレの民は認知していた。
「ロット2世を倒したリオの門番?」「つまり俺達にとって英雄じゃないか!」
英雄として認知する者もいれば─────
「あの顔立ちどっかで見たような・・・」「ていうか、シュエリーヌ王女とめちゃ似てね?」
素性に気づく者もいる。
「紹介しましょう。彼はロット2世に引導を渡し、ナチュレの民を救った英雄とも呼べる方!」
救いの英雄。そんな人の登場に集まった国民は羨望の眼差しを向ける。
「そして、30年前!ロット2世の謀略によって、姿を消した私の叔母であるニルヴァーナ・ナチュレイズの実の息子!ヒスイ・モリヤマ王子なのです!」
戦法の眼差しが、一変。驚愕の眼差しへと変化した。
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