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3章 異世界旅行録
20話 ナチュレ王国の終わり
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「まじかよ!?ニルヴァーナ王女の息子!?」「確かにそっくりだ!相違点をあげるなら、耳と髪色くらいだ・・・」
どよめく国民。容姿の酷似から納得する者もいれば─────
「似てるだけでしょ?」「流石に無理があるんじゃないかな?」
疑う者も存在する。行方不明になった王女の息子が出てきたのだ。その気持ちは誰しもが理解できるだろう。
「疑うのも無理はありません!既にニルヴァーナ王女は亡くなり、彼の血筋を証明する者はいなくなりました!」
疑問が払拭しきれない国民達に向かってシュエリが叫ぶ。
「ですが、彼の血筋を証明する物ならあります。シャイ団長」
「こちらをどうぞ・・・」
シャイ・マスカッツが鞘を掴んで持ってきたのは、一本の宝剣。ミスリル銀という最高級かつ希少な金属で造られた一本は、一部の老人達を震撼させた。
「あれはメモル陛下が戦の時に腰に付けていた宝剣・・・まだ、現存していたのか・・・」「懐かしいのぉ、あの剣を振るうメモル陛下は美しかった」
ロット2世にはギリギリまで隠されていた宝剣だったが、身体能力の低下で兵士や騎士を引退した者は見た事があったようだ。
「確かメモル陛下は言っていたのう・・・この宝剣は王族にしか柄を握る事が出来ないと・・・」「信じられなかった当時の騎士団長が握ろうとして吹き飛ばされたのは面白かったわい・・・」
その性質を知っている者もいる。
「この宝剣はナチュレが生まれてからずっと存在する由緒正しき宝剣。王族の血統のみが握る事が許される魔術が施されています」
それを証明する為、シャイ・マスカッツが宝剣の柄に手を近づけると、体が思わずよろけてしまう位、手が吹き飛ばされてしまう。シャイ・マスカッツは誰もが認める実力者。そんな彼が握れないと知るや否や、宝剣の性質を信じ始める。
「シャイ団長の手が軽く吹き飛ばされたのが何よりの証拠です。そして私はこの宝剣を難なく握る事が出来ます」
躊躇なく宝剣を握ろうとするシュエリ。シャイ・マスカッツは手を弾かれてしまったが、彼女の手は弾かれる事はなく、すんなりと握る事を許可してくれた。
「本当なのか・・・」「あんな宝剣があるなんて知らなかった」「ていうかあれこの前ロット2世が腰につけてた剣じゃね?」
「さあ、ヒスイ王子。宝剣を手に」
シュエリから宝剣を手渡され、柄を握る。騎士であるシャイ・マスカッツを拒絶し、王女であるシュエリを受け入れた宝剣はヒスイを受け入れ、握る事を許可した。
拒絶される事なく、宝剣を握った瞬間、国民達から小さな歓声が沸く。翡翠はその歓声に答えるように宝剣を鞘から抜き、天高く掲げる。
顔が反射するほど磨かれたミスリル銀の刃は、太陽の光を反射。国民達に幻想的な風景を見せつける。
神々しさまで感じるミスリル銀の光は、耳を覆いたくなるほどの歓声だけでなく、国民達の心の奥に仕舞われていた熱を取り戻させた。
興奮が収まらない中、グイス大臣が一枚の羊皮紙と羽ペンを翡翠の手元に持ってくると、翡翠はそれを貰い、下の欄に自分の名前を記入する。
羊皮紙にはこう書かれていた。
『ナチュレイズ族は、ナチュレ王国の政治から手を引き、全ての国民に参政権を与える事を誓う。また、この誓約書に王族の1人のサインが必要である。サインが行われた瞬間から国王の有する政治や裁判所への力は失われ、王族はナチュレ国の象徴として君臨する事となる。』と。
その紙に翡翠がサインをした。王族の血族である翡翠が明確な意思を持ってサインを行った。
グリムアン語で『ヒスイ・モリヤマ』と書いた瞬間、権力は国民へと授けられ、王族であるシュエリは権力を失い、国の象徴と化したのだ。
一言で言い表すならば、ナチュレ王国の終わり。そして、新たなナチュレの始まりである。王が統治するのではなく、国民が力を合わせて統治する国が始まったのだ。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
「「「「「ヒスイ王子バンザイ!シュエリーヌ王女バンザイ!」」」」」
たった一枚。されど、一枚の羊皮紙にサインした事によって、始まった新たなナチュレ。国民は狂喜乱舞し、騎士や兵士達も剣を天に向かって掲げて翡翠とシュエリを讃える。
国民だけでなく、グイス大臣もシュエリも笑みを浮かべて喜ぶ中、国を変える誓約書にサインを行ったヒスイ王子は────
「おえぇぇぇぇぇ・・・・」
自分が行った行動への責任と緊張から嘔吐していた。事の重大さを理解した上での嘔吐である。
その後、ヒスイは侍女達によって、宿泊している特別客室へと搬送。携帯ゲーム機で遊んでいたモネを吐く程笑わう。
一方、残されたシュエリは翡翠の吐瀉物を見て、ほんのりと笑みを浮かべるのであった。
どよめく国民。容姿の酷似から納得する者もいれば─────
「似てるだけでしょ?」「流石に無理があるんじゃないかな?」
疑う者も存在する。行方不明になった王女の息子が出てきたのだ。その気持ちは誰しもが理解できるだろう。
「疑うのも無理はありません!既にニルヴァーナ王女は亡くなり、彼の血筋を証明する者はいなくなりました!」
疑問が払拭しきれない国民達に向かってシュエリが叫ぶ。
「ですが、彼の血筋を証明する物ならあります。シャイ団長」
「こちらをどうぞ・・・」
シャイ・マスカッツが鞘を掴んで持ってきたのは、一本の宝剣。ミスリル銀という最高級かつ希少な金属で造られた一本は、一部の老人達を震撼させた。
「あれはメモル陛下が戦の時に腰に付けていた宝剣・・・まだ、現存していたのか・・・」「懐かしいのぉ、あの剣を振るうメモル陛下は美しかった」
ロット2世にはギリギリまで隠されていた宝剣だったが、身体能力の低下で兵士や騎士を引退した者は見た事があったようだ。
「確かメモル陛下は言っていたのう・・・この宝剣は王族にしか柄を握る事が出来ないと・・・」「信じられなかった当時の騎士団長が握ろうとして吹き飛ばされたのは面白かったわい・・・」
その性質を知っている者もいる。
「この宝剣はナチュレが生まれてからずっと存在する由緒正しき宝剣。王族の血統のみが握る事が許される魔術が施されています」
それを証明する為、シャイ・マスカッツが宝剣の柄に手を近づけると、体が思わずよろけてしまう位、手が吹き飛ばされてしまう。シャイ・マスカッツは誰もが認める実力者。そんな彼が握れないと知るや否や、宝剣の性質を信じ始める。
「シャイ団長の手が軽く吹き飛ばされたのが何よりの証拠です。そして私はこの宝剣を難なく握る事が出来ます」
躊躇なく宝剣を握ろうとするシュエリ。シャイ・マスカッツは手を弾かれてしまったが、彼女の手は弾かれる事はなく、すんなりと握る事を許可してくれた。
「本当なのか・・・」「あんな宝剣があるなんて知らなかった」「ていうかあれこの前ロット2世が腰につけてた剣じゃね?」
「さあ、ヒスイ王子。宝剣を手に」
シュエリから宝剣を手渡され、柄を握る。騎士であるシャイ・マスカッツを拒絶し、王女であるシュエリを受け入れた宝剣はヒスイを受け入れ、握る事を許可した。
拒絶される事なく、宝剣を握った瞬間、国民達から小さな歓声が沸く。翡翠はその歓声に答えるように宝剣を鞘から抜き、天高く掲げる。
顔が反射するほど磨かれたミスリル銀の刃は、太陽の光を反射。国民達に幻想的な風景を見せつける。
神々しさまで感じるミスリル銀の光は、耳を覆いたくなるほどの歓声だけでなく、国民達の心の奥に仕舞われていた熱を取り戻させた。
興奮が収まらない中、グイス大臣が一枚の羊皮紙と羽ペンを翡翠の手元に持ってくると、翡翠はそれを貰い、下の欄に自分の名前を記入する。
羊皮紙にはこう書かれていた。
『ナチュレイズ族は、ナチュレ王国の政治から手を引き、全ての国民に参政権を与える事を誓う。また、この誓約書に王族の1人のサインが必要である。サインが行われた瞬間から国王の有する政治や裁判所への力は失われ、王族はナチュレ国の象徴として君臨する事となる。』と。
その紙に翡翠がサインをした。王族の血族である翡翠が明確な意思を持ってサインを行った。
グリムアン語で『ヒスイ・モリヤマ』と書いた瞬間、権力は国民へと授けられ、王族であるシュエリは権力を失い、国の象徴と化したのだ。
一言で言い表すならば、ナチュレ王国の終わり。そして、新たなナチュレの始まりである。王が統治するのではなく、国民が力を合わせて統治する国が始まったのだ。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
「「「「「ヒスイ王子バンザイ!シュエリーヌ王女バンザイ!」」」」」
たった一枚。されど、一枚の羊皮紙にサインした事によって、始まった新たなナチュレ。国民は狂喜乱舞し、騎士や兵士達も剣を天に向かって掲げて翡翠とシュエリを讃える。
国民だけでなく、グイス大臣もシュエリも笑みを浮かべて喜ぶ中、国を変える誓約書にサインを行ったヒスイ王子は────
「おえぇぇぇぇぇ・・・・」
自分が行った行動への責任と緊張から嘔吐していた。事の重大さを理解した上での嘔吐である。
その後、ヒスイは侍女達によって、宿泊している特別客室へと搬送。携帯ゲーム機で遊んでいたモネを吐く程笑わう。
一方、残されたシュエリは翡翠の吐瀉物を見て、ほんのりと笑みを浮かべるのであった。
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