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4章 最終防衛戦門

5話 門の真実

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「世界の融合!?そんな事できるわけないじゃない!!」

「そう思うのも無理はないだろう。しかし、理論上可能なんだ」

 2つの世界が門で繋がってるという時点でおかしいのに、2つの世界が融合するなんて話。信じたくても信じられない。

 だが、目の前で説明するのは、最も優秀な魔術師の1人。ぶっ飛んだ話のわりに説得力がある。

「そんな事が起きたら・・・どうしよう!どうなるか分からない!!」

「大丈夫、俺も分からない。でも、1つだけなんとなく分かったかもしれない事がある」

「それはもしかして、門と世界融合の関係性についてかな?」

 コクリと頷く翡翠。2つの世界を繋ぐ門と、2つの世界を1つにする魔術。関係性がない方がおかしい。

「2つの世界を繋ぐ門は、世界融合の実験段階だったとか?」

「かなり近いの。先に思いつかれたのは、2つの世界を繋ぐ魔術。その成功によって、計画が練られ始めたのが、世界融合魔術なんだよ」

 目的と手段が違った模様。別に合否を確認する試験問題ではないので、不正解を悔しがる必要はない。

「ってことは、門で世界を繋いだのは、賢者ルミナって事!?」

「その通り。発展型である世界融合魔術を思いついたのもヤツだ」

「なんで止めなかったのよ!世界を繋げたら、めちゃくちゃになるって、頭の良い賢者様ならわかってたでしょうが!!」

「止めようとしたさ。だが、アイツもわしが全力で止めに来ることぐらい把握していたルミナは、わしを行動不能にさせ、世界を繋げてしまった」

 事前に知っておきながら、止められなかった事を大分引きずっているのだろう。リャオさんは、俯いて、下唇を噛んで屈辱を噛み締めている。

 あともう一歩なのに届かなかったという事は、賢者でなくともよく起きる現象だ。俺も、リャオさんに比べたら大した事のない出来事だが、あと一歩という所で届かなかった事が多くある。

 シャープだって、モネさんだって、リリだって、シュエリ王女だって、そんな経験をしてきたはずだ。

 だから、責める者なんてこの場には誰もいない。いや、もしかしたら感謝している者もいるかもしれない。

 今があるのは、今の生活があるのは、今の人間関係があるのは、賢者ルミナのせいであり、賢者ルミナのお陰なのだから。

「そう捉えてくれるとわしも少しは心が和らぐよ。ありがとう・・・」

「俺に関しては、世界が繋がっていなかったら、生まれてすらなかったですからね」

 デメリットばかりではない。しっかりとメリットも生まれている。

 2つの異なる世界が繋がった事で、本来はあり得ない交流が生まれ、本来は手にする事がなかった技術を互いに得る事が出来た。

 本来あり得ない恋が成熟し、愛になる事が出来た。決して目を覆いたくなるような、大惨事ではないと俺は思う。

「そうか・・・君達は悪くも捉えてるし、良くも捉えているのか・・・では、世界融合を受け入れるか?」

「「「「「それだけは嫌だ」」」」」

 それはそれ、これはこれだ。

「全く違う土地同士が融合したら、作物が育たなくなりそう・・・」

「門番の仕事が無くなるかもしれないじゃない。割の良い仕事なのに」

「みんなが混乱しちゃいそう~」

「リリック王女と同意見です。民を守るのが王族の責務。権力を持たなくなった身でも、それは同じです」

「モネさんと同じく俺も食い扶持が無くなるのだけは勘弁かな?世界が融合したら、したで新しい仕事が出来るだろうけど、門番って職業は好きだし」

 5人中3人に大義はない。ただ、自分の生活や、事情を守る為の世界融合への反対である。

 元は、金稼ぎ目当てで、戦士となった者達だ。こんな感じで良いかもしれない。

 彼らの正義の心と大義への責任を頼りにしていたリャオの顔は一瞬引き攣った。なんて勝手な理由で世界を守ろうとしているのだろうと。

 だが、同時に頼りになるとも思った。人は正義や大義の為に動けるほど善性を持っていない。

 そんな純粋な心を持っている者は、勇者と呼ばれる神に選ばれた異常者のみ。

 しかし、今世界に勇者と言う異常者は存在しない。ならば、当たり前の感性を持っていて、自分の利益の為に動く者が1番頼りになる。

 翡翠達は、今この状況下で1番頼りになる者達なのだ。

「それで?何処に逃げれば良いんです?安全な場所とかあるなら教えて欲しいんですが・・・」

「安全な場所?リオに決まってるじゃないか」

「まあ、確かにリオはザナと比べると安全?ですけど・・・転移魔術があるじゃないですか。あの魔術の対策はあります?」

「いや、そんなものは必要ない。転移魔術は

「え?それってどういう・・・」

「あ、ヒスイには言ってなかったね。実はグイスって人、自殺してたんだよ」

 計画が潰えてしまったからだろうか?いや、グイス大臣は、ナチュレと〈災害〉の戦いの末のみを楽しみとしていた。決して〈災害〉の勝利を羨望していなかった、

 恐らく、自殺の動機は、戦いの結果が知れて満足したからだろう。

「組織の他のメンバーに伝えてる可能性は?」

「可能性はとても低い。『末を見る者』は研究、探究の集団。自分の研究、探究している事の邪魔をする事は許さない。転移魔術の存在も、邪魔されないように隠しているだろうね」

 まるで、協調性がない組織だな。いや、組織と言って良いのだろうか?

「て言う事は、目的だった転移魔術の情報獲得どころか、屠る事ができたのか・・・あ、そういえば!大門寺さんは?」

 特別任務を思い出した事で、大門寺さんの存在も思い出す。しかし、皆の表情はあまりよろしくはない。〈災害〉との戦いの場にいたので、恐らくは─────

「ヒスイごめん。彼は────」

「うん。凄い申し訳ない事をしたね。トラウマを抱えているのに、酷い事をしたよ。遺族になんて伝えれば・・・」

「ヒスイ様、これは遺言です。『気にしないで欲しい。死に場所を探す事が出来た。ありがとう』だそうです」

「そっか・・・それなら良い、のかな?」

 本人が満足しているのなら、良いのだが、それでも人が死んだという事実は心地の良いとして受け止める事は出来なかった。
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