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4章 最終防衛戦門

19話 終わりの見えない戦い

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 サンドワームが侵入してきた日から、門番にとって地獄が始まった。

 朝起きて、出勤したらすぐ魔物との戦闘が行われる。ただの魔物だったら別に良いんだ。図鑑の内容を記憶しているから何が弱点なのかを把握している。けれども、侵入してくるのは、末を見る者が一手間かけた魔物ばかり。

 何が弱点なのかを最初に見極めなければならない。見た目に変化があったらもっとわかりやすかったかもしれないが、改造された魔物の見た目は現存している魔物と全く変わらないので、見た目では全然判断できない。

 以上の理由から通常の倍以上の時間を費やして、やっとの思いで魔物を倒す事ができる。

 それを、午後の7時までずっと行う。つまり、退勤するまでずっとだ。

 昼飯?そんなもの食う時間なんて無い。休日?無くなってしまったよ。

 魔物の数が多すぎて、通常のシフトでは倒しきれないと判断した本部は、雇用している門番を毎日全員出勤させる事に決めたのだ。

 はっきり言って労働基準を大きく破っている。社会から咎められても何も文句はいえまい。しかし、世間は俺ら門番だけでなく、本部にも同情していた。

 まあ、総動員しか魔物を抑える方法が無かったと思われているが故の同情だろう。けど、別に総動員でなくても、兵器を使えば労基破りは免れる。

 しかし、兵器を使う金なんて無い。なので、結局門番を使うしかない。

 昼勤務の門番の人数は約35人。そんなにいたら人が多すぎてうまく立ち回れなくなるのでは?

 ご心配なく。異門町にも俺達の敵が現れるようになったからね。

 異門町にも、ゴーレムや小さい魔物などが現れるようになったのだ。

 転移魔術か?と思ったが、ゴーレムと魔物の発生時に魔力の反応がなかった為、リオにいる何者かが、放っていると推測している。

 門を守り、町と人を守る。そんな生活をしていたらいつの間にか2週間が経過していた。

 そんな状態が続いていたら、マスメディアが取り上げないわけがなく、案の定、新聞の記事にした。

 〈魔物大量発生。世界の終わりか?〉、〈試される門番の実力〉、〈裏切り者は誰だ?〉など様々な題名が付けられている。

 テレビの取材や、ニュースキャスターも来たが、魔物に襲われそうになったので、何もせずに帰って行った。地震や津波が発生している地域には慣れているが、魔物が発生する異門町には慣れていなかったらしい。

 世間は俺達の批判よりも、魔物への不安を募らせているようだ。異門町が壊滅したら、自分の番だと理解した上での不安だろう。

 肝心の一般人の死者はどうなっているかって?これが幸いな事に1人たりとも出ていない。1番ひどい怪我人は、胸部を爪で引き裂かれた人。

 そのくらいしか出していないから、俺らは世間から批判されていないのだろう。

 金をもらっているとはいえ、こちとら日本人の平穏を守るために戦っているんだから、批判されたくないのが人の心というもの。

 2週間ぶっ続けで戦い続けても、精神崩壊していないのは、世間からの批判が無いのが大きな理由としてあげられるだろう。

「ヒスイ!あの半魚人マーマン、雷が効かないよ!!」

「待ってて!俺が斬り殺してくるから!!」

 壁から飛び降り、銛のように穂先が3つに分かれた槍を構えたマーマン達の前に立ち塞がる。

 目を凝らして皮膚が少しゴムのような質感になっている。これが雷が効かない原因か。

 シャープとモネさんは町でゴーレム達と戦っている。今、この場にいるのは俺とリリとシュエリさんのみ。

「『ヴェントゥス』、『スラッシュ』!!」

 シュエリさんの放った風の刃がマーマン達の皮膚を切り裂く。斬撃は有効な模様。

「ありがとう、シュエリさん」

「お気になさらず、ヒスイ様」

 最初は、門番でない為、俺が協力を拒んだシュエリさんだったが、今は猫の手も借りたいぐらい忙しい。

 シュエリさんも手伝う気満々だったので、仕方なく彼女にも手伝ってもらう事となった。門番として恥ずかしい限りである。

「1、2、3・・・!!」

 物の数を確認するかのように、淡々とマーマンを切り捨てていく。生き物を物として捉えるのは道徳的にどうなのか?と思われるかもしれないが、いちいちそんな事にまで気を使う程、俺の心には余裕は無い。

 ただ流れ作業のように、マーマンを切り殺していく。何やら断末魔を上げているようだが、生憎斬るのに集中していて聞こえない。

 今の俺は、人間の設定通りに動く機械と言われてもおかしいことはない。最初は魔物からの攻撃を喰らったら、少しだけ怒っていたけれども、今ではそれすらない。

 槍で腹を刺されようが、柄を斬り、刺したマーマンの首を刎ねる。

 マーマンは、半魚人と呼ばれている事から分かるように、人類にかなり近く、知能も高く、考える力も有している。独自のコミュニケーション手段も持っているのだとか。

 もちろん、危険と考えることも可能である為、仲間を作業のように斬り殺していく俺を見て、恐怖し、逃げ始める者もいる。

 『末を見る者』は洗脳までは施さなかったらしい。いや、そもそも洗脳する技術がないのかもしれない。

 このまま逃してあげたいと思うのが、人情という物なのだろうが、あのマーマン達は遺伝子改造され、生態系から外れてしまった生物。このまま野に放つわけにはいかない。

 背を向けて、武器を捨てて逃げる残りのマーマン達を、俺は流れるように斬り、殺した。

「・・・お疲れヒスイ。倒し終わったところですごく申し訳ないんだけど・・・」

「おーけー・・・任せて」

 口角を上げてニコリと笑みを作るヒスイ。でも、目は笑っておらず、光と灯っていない。

 そんな笑みを浮かべるヒスイがわたしとシュエリは嫌いだった。

 また、彼の笑みを見る事ができる日が来るか不安で仕方がなかった。
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