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4章 最終防衛戦門

23話 辛い日々に一筋の光

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 夜が明け、太陽が顔出しを始める。太陽の光が顔に差し込んできて、俺は目を覚ました。

「・・・朝か」

 両サイドで寝るリリとシュエリさんを起こさないようにベッドから降りて、朝食を作り始める。正直もっと根停滞が、睡眠よりも、朝食による栄養補給の方が今は大事なので、しっかりと。

 時間設定していた白米は既に炊けている。それに付け加えるように、味噌汁、お新香、焼き魚を加えて、朝食を完成させる。

「ヒスイ・・・おはよ」

「おはよう、リリ」

 目を擦りながら、こちらへと向かってくるリリの頭をなでると、洗面台まで誘導する。次は、モネさんと同じくらい朝に弱いシュエリさんを起こす。

「起きて、シュエリさん」

「んん・・・抱っこ・・・してください」

 朝のシュエリさんは少々甘えん坊。幼い頃、両親に完全に甘えきれなかった反動なのだろう。彼女を少し強めに抱きしめると、一気に目が覚め始め、顔は真っ赤になっていく。

「ももも申し訳ございませんヒシュイさま!!わたくしったら一体何を・・・」

「いつもの事じゃねぇか。ヒスイも若干なれ初めてるし」

「私は慣れていないんです!!」

「へいへい」

 4人でほぼ共同生活を送っているからか、ほんの少しだけ仲良くなり始めたモネさんとシュエリさん。表面上かもしれないが、本能に少し打ち勝った感があって凄いと思う。

 全員の準備が出来たら、朝食をいただく。この時間だけはただの栄養補給ではなく、食事としてしっかりと楽しみたい。だって、これから魔物との連戦で、食事を楽しむ事なんてできなくなるんだから。

「おにぎり・・・作っとくか」

 最近は、忙しすぎて食べられず、捨てる羽目になっているお弁当。食材を無駄にしないようにしようと努力した結果が、おにぎり。監視しながら、食べられるようにって思ったんだけど、監視する暇なんかないので、こちらもほとんど捨てる羽目になっている。

 魔物がとめどなく侵入してくるって時点で何となく気づいていると思うが、現在、ザナからリオへの観光客はゼロ。貿易もゼロである。

 現状は、リオにとって勿論最悪だが、ザナにとっても良くない状況なのだ。

「よし、行こうか・・・」

 アパートを出て、出勤を始める。

「やあ、門番の皆。おはよう」

「「「おはようございまーす」」」「ごきげんよう、お巡りさん」

「今日も頑張っていこうね」

 最近は、警官が異門町を四六時中巡回している。東京ドーム約6個分の町に100人以上もの警官がだ。

 勿論、異門町にそんな数の警官はいない。全国の命知らずや、若者、危険な場所に慣れている警官を集めている

 彼等にも相当の負担がかかっているだろう。今さっき挨拶した警官の目の下には隈が出来ていたが、前までは良く見ないと気づかないくらいの薄さだったのに、今でははっきりと分かるくらい隈が濃くなってしまった。

 俺達だけじゃない。この町全体が疲弊している。もってあと、2か月だろうか?いや、俺達はそんなに保たずにやられてしまうだろうな・・・。

「おはよう、皆・・・」

「よぉ、シャープ」

 ムードメーカーのシャープも休みなき戦いで疲弊し、いつものような元気はない。笑顔も無理矢理張り付けたようなものとなっている。

 柄にもなくネガティブな事を考えながら、職場まで歩いて向かう。職場に就き、タイムカードを切るために事務所に入ると、待っていたのは鳩山先輩と里見先輩・・・ではなく、別シフトのつやつやのロングヘアーが似合う山形先輩だった。

「やあ、後輩達。おはよう」

 目の下に隈を作りながらも、某歌劇団のような爽やかな挨拶をしてきた山形先輩だが、何故、別シフトの彼がいるのだろう?

 首を傾げていると、後頭部に何やら柔らかい物が当たった。ここ2週間、嫌という程触覚で感じ続けてきたものと触感が似ている。今、俺の後頭部にがっつり当たっているのは、女性の胸だ。

 また、リリのいたずらかと思ったが、リリは右にいる。シュエリさんは左にいて、モネさんは俺の真ん前にいる。

 では、一体誰が俺の後頭部に胸を当てている?・・・いや、消去法的に彼女しかいないだろう。俺を何故か性的な目で見ている門番トップクラスの実力者の────

「鳩山先輩・・・当たってます」

「フフ、当ててんのよ」

 でしょうね。

「やあ、おかえり鳩山さん。それで??」

「作戦?主任に頼まれたんですか?」

「そう!正解~~流石、翡翠。オレの事わかってきたじゃ~ん」

「アンタと1年みっちり仕事したら、そりゃあ、覚えるでしょうよ」

「主任!それに里見先輩まで・・・」

 昨日の夜勤ではない山形先輩がいたのは、主任の作戦というのが原因だったようだ。主任の事だから、きっと悪い事はやっていないと分かるが、その内容がとても気になる。

「翡翠、シャープ、モネ、リリック、シュエリーヌ王女。この2週間、よくぞ耐えてくれた。ありがとう」

 突然の感謝に驚きつつ、何か良い事があったのは間違いないと、確信する5人。

「とりあえず、テレビでも見ようか」

 事務所に備え付けられているテレビで観るのは映画でもなければ、アニメでもない。ただの朝のニュース番組。何処か明るい雰囲気の番組は、どうでもいいようなニュースを流した後、とある1つの重要なニュースを流した。

『緊急速報です。今、警察からの情報によると、医療品メーカーの武藤薬品の代表取締役の武藤剛士、47歳が、傷害の容疑で逮捕されました。武藤氏は、現在異門町にて住民を襲っているゴーレム製作に携わり、住民を傷つけるようにゴーレムに設定していた事とのことで、警察と門番によって逮捕されたとの事です』

 緊急ニュースはそれ以外にも銀座に住む宝石会社の社長、歌舞伎町の人気No.1ホスト、関西の大地主などの名前を挙げた。他にも大勢の名前が挙げられたが、そのうち半分は、俺でも知っているようなビッグネームばかりだった。

「今、報道されたの全員『末を見る者』のメンバー。大量のゴーレムと大量の魔物を管理できるのは、お金持ちにしか無理っぽいね~~」

「こ、これ全部逮捕してきたんですか?」

「うん!鳩山と里見と一緒にね!」

「も、もう・・・ゴーレムに人員を割かなくていいんですか?」

「良いんです!!」

 駄目だ。涙があふれてきた。

「休み!!・・・貰えるんですか?」

「あげちゃいます!!」

 その一言を聞いた瞬間、俺の涙を抑えるダムは崩壊。その場に泣き崩れた。
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