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4章 最終防衛戦門

27話 門番vs門番

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「さて、後は頼みましたよ?皆さん」

「任せてください!!」

 一撃を受け止めてもなお、リャオさんに攻撃を続ける信者を押し返し、体勢を崩す。片腕を失ってまもない為か、バランスを大きく崩して倒れてしまった。

 翡翠はすかさず、信者の首に一太刀入れ、跳ねる。何故、賢者ルミナについたのか聞きたかったが、まだ8人もいる。他の者に聞けばいいだろう。

「おい、大丈夫か?」

「・・・・・・」

 短気な門番は、どうやら純粋な仲間思いの男だったらしい。そんな信頼を置く仲間が裏切った。更に目の前で殺されたら混乱で舌も回らなくなるのも当然だろう。

「ヒスイ!後ろ!!ヨケテ!!」

 シャープの警告が耳に入る。目だけを動かし、後ろを見ると、裏切り者が斧を大きく振りかぶって俺を真っ二つに割ろうと試みていた。

 威力は断然、斧の方が上。正面から受けたら、確実に俺の愛刀は折れるだろう。だが、あいにくそんなバカな真似はしない。がら空きになった腹に、横に一太刀振るう。革製の鎧を付けていたのが災いしたのだろう。不意打ちをねらった裏切り者の体は上半身と下半身で分断されてしまった。

「我ながら、凄い反応速度だったな。助かった!ありがとう!!」

「どういたしまして!こっちも手伝ってくれないかな?まだ、7人残ってるから!」

「任せて!!」

 シャープがつばぜり合いをしている裏切り者のがら空きの胴体に一撃。裏切っておいて卑怯とは言うまい。

 ・・・と、かっこつけたのは良いのだが、肉を切った感じは無かった。まるで石を殴ったような感覚だ。斬った相手の胴体も、服が切れているだけで出血は無し。服から見えるのは、肌であり、鎧ではない。なのにどうして・・・。

「防御魔術で守ってたのか」

 抜け目がないな。これでは、急所を狙っても決定的なダメージは与えられない。与えられるとしても、攻撃を受けたら発生する衝撃だろう。

 打刀1㎏の重みは、つばぜり合いをしていた裏切り者に衝撃として入り、少々後ろによろけてしまう。戦いでは、一瞬の隙が命取り。それが、1対1の正面勝負ならば、猶更だ。

「よっコラショ!!」

 ハルバードの重い一撃が頭に直撃しかし、防御魔術で肉体にダメージは無し。

「よっと!!」

 跳ね返ってきたハルバードは新たに構えて、肩に一撃。これも、肉体へのダメージは無い。

 けれども、相手は武器を振るえる機会を与えてもらえず、シャープの攻撃をただただ受け続けた。

「くだ、けろっ!!」

 防御魔術は最強の防御ではない。魔力が切れたりすれば、消えるし、使った者の才能によって丈夫さが変わってくる。相当の魔術の使い手だったようだが、シャープの重い連撃の前に、防御魔術は音を立てて割れてしまった。

「トドメ!!」

 槍の部分で、心臓を貫き、トドメを刺す。俺が途中で介入したのも原因としてあげられるが、それでも、防御魔術に身を任せすぎたのが原因だろう。

「サンキューヒスイ!!あっ!!」

「ん?・・・おわぁ!!」

 上を見上げたシャープに続くように、翡翠も驚く。驚くのも無理はない。上を見上げたら、大きな魔力の剣が浮いていたのだから。

「ヒスイ~~!いつでも準備オッケーだよ~~」

 犯人は、我らの最大火力こと、魔王女リリック。戦う事に集中していて、魔術を練っていた事に全く気付いていなかった。

「ちょっと考えたんだ!どうやったら、環境への被害を最小限にして、フルパワーで魔術を撃てるんだろう?ってそしたら、この前、シュエリが教えてくれたんだ!!」

 流石は、魔術の天才シュエリさん。どや顔で、サムズアップしながら、こちらを見ながら、裏切り者の攻撃を避けている。でも、魔物が絶え間なく襲ってきていたのに、一体いつ教えたのだろうか。晩御飯の準備をしていた時だろうか?

「それじゃあ、行くよ!『魔力の剣マジケグラディオ』!!」

 全長約5m級の魔力製の大剣が裏切り者達に向かって落ちていく。翡翠達によって、放つ前に存在が知られてしまったからなのか、自分達に落ちてくる前に、避けられてしまうが、うち2人は逃げ遅れ、魔力の剣の餌食となった。

「ごめん!外しちゃった!皆、後はよろしく!!」

 大技は、一度放ったら、次回対策される。それを理解した上で俺らに残りの5人の裏切り者の始末を任せたのだろう。残り人数が半分になった所で、ようやっと、裏切り者の顔が1人1人しっかりと認識できるようになった。

 2つの世界を裏切り、1人の探究者についた者達の中には、見覚えのある顔があった。その顔にまず最初に反応ししたのは、俺でもなければ、シャープでもモネさんでもなく、後方支援をしてくれていたシュエリさんだった。

「貴方は・・・あの時の・・・!!」

「おう、アンタか。ここ2週間で随分と逞しい顔つきになったなぁ、おい」

 俺らが存在に驚いた男は、つい2週間前、ナチュレから帰ってくる時、門でボロボロの状態で出会い、シュエリさんにサムズアップを教えた気の良い門番だった。信じたくはないが、俺らに刃を向けている以上、敵と認識して問題ないようだ。

「アンタ、前に末を見る者製の魔物にボコられてなかったか?」

「ああ、ボコられたな。すっげぇ痛かったよ。でも、おかげで、末を見る者の事を知る事が出来たよ」

「その口ぶり・・・つい最近信者になったな?」

「そう!正解!いやぁ、びっくりしたよ!末の見る者の魔物はすっごい強かったって話した奴らがルミナ様の信者だったんだから!すぐにルミナ様の素晴らしさを教えてもらえた!」

 運が悪かったというべきだろう。彼は、毒されてしまったようだ。話している時の目も据わっていた。もう、後戻りはできないだろう。

「アンタらの事は人として好きだが、ここで死んでもらうぜ!2人の王女は殺さないけどな!!」

「そんな・・・嘘だと言ってください!私にサムズアップを教えてくれた貴方が、世界の破滅を望むような人ではない!!」

「破滅じゃねぇぜ!王女様ぁ!!これは、新しい世界の始まりだ!!」

「シュエリさん、もう説得は無理だ。染まり切ってる。どうか、後ろに下がっていてくれ」

「うぅ・・・はい・・・」

 うっすらと滲んできていた涙。俺は見逃さなかった。

 人類を裏切っただけじゃない。シュエリさんを泣かせた罰、しっかりと受けてもらう・・・!!

「来てくれ!リオの門番!アンタと一度戦いたかったんだよ!!」

「言われなくても行ってやる!!」

 激しい金属のぶつかり合いが始まった。
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