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最終章 探究者と門番

2話 イカれた思考

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「イカレてるのは知ってたけど、まさか自分を犠牲にしてまで実行するなんて・・・少々イカれちゃいませんかね?」

「元から、大魔神がどんな姿なのか見たいという理由で、自分の母国を実験台に使うような女だからの。通常運転と言われればそうなんじゃないかの?」

「はぁっ!?140年くらい前にあった大魔神復活って、賢者ルミナのせいだったの!?」

「それも知らんかったのか。いや、これは確かわしを含めたごく僅かの人間しか知らないから当然か・・・」

 いつもの余裕を常に持ち、他人に安心感と心の安らぎを与える主任は何処にいったのだろう。初めて見る表情ばかりだ。感情豊かな人だが、驚く顔は見たことが無かった。

「実験の結果、世界融合に成功した数秒しかみれねぇぞ・・・」

「それでも、彼女は満足するだろうな」

「くそっ!イカれ具合を舐めてたみたいだ・・・どうしよう、もう打つ手が無いぞ」

 打つ手も何も、既に世界の融合が始まっている。このまま、混沌を受け入れるしかない。

「・・・わしが、ただ絶望を伝えにやってきたとでも?」

「・・・賢者リャオ。オレ、アンタの事好きだわ!!」

 テディベアに抱き着く少女のように、無邪気な表情でリャオさんに抱き着く主任。感情の起伏が激しすぎて酔いそうだ。

「君達も協力はしてくれるかの?」

「「「「「勿論!!」」」」」

 元から、世界融合を阻止するために動いてきたんだ。始まってもなお、阻止できるのなら、全力でやらせてもらう。

「その意気や良し。実は、今行われてる世界融合には少々時間がかかるんだよ」

「まあ、世界そのものを融合しているわけですしね・・・」

「いや、本来の計画なら、1日で済んでいたはずだ」

 本来の時間を聞くと、背筋が凍る。そんなに早く全く別の世界が合体してもいいのか?元からではあるが、大分法則を無視しているな・・・。

「だが、今の世界の完全融合までの猶予は5日。このタイムリミットが切れるまでに決着をつけてくれ」

「5倍にまで、制限時間が増えたのは、賢者ルミナが自分で生贄をやりながら、世界融合魔術を実行しているからでしょうか?」

「その通り。生贄としての魔力消費と、魔術実行者としての魔力消費で大分時間がかかるようになったんだよ。5倍もの時間を稼げた時点で、リード君の今までの頑張りは無駄ではなかった事が証明されるの」

「マジっすか~~?いやぁ~照れますねぇ~~」

 先程まではあんなに悔しがっていたのに、別人のような立ち直り方。俺も見習わなければ。

「でも、阻止するってどうすりゃいいんだよ?ルミナを直接叩くのか?」

「それよりも遥かに簡単な方法がある。恐らく、モネが最も得意とする事だよ」

「アタシが最も得意な事?破壊と、母性しかないけど?」

 特技母性って何?そんなもの1mmも感じた事ないけど!?まあ、姉御みは何度か感じた事あるけど。

「そう、破壊だ。君達には、生贄が埋められている20の土地を回って、既に死亡している生贄の遺体を破壊してほしい」

 世界融合に必要なのは、21人の生贄の膨大な魔力。それを破壊していく事で、阻止するというわけか。

「だとしたら、一か所破壊しただけでも、融合は止められないかな?」

「既に融合は始まっているから、一か所破壊した程度では、融合のスピードが少し落ちるだけだ。あまり意味はない。21か所全てを破壊しないといかん」

「あてはあるの?賢者リャオ」

「高い魔力発生源には絶対にあるとは思うのだが・・・それがどこなのか、時間が無くて見つけられなくての皆で頑張って探してくれ」

「2つの世界からたった20人の遺体を探せっていうのか!?魔力を感知する事が出来るとはいえ、ちょっとアタシだけじゃあ、難しいんじゃないのか?」

 門番の数は、約50人。たった50人で2つの世界を周り、20人の生贄の遺体を見つけられるのか?否、はっきり言って不可能に近い。しかも、タイムリミットは5日、120時間しかないのに!!

「落ち着きなさい。わしはと言っただろう?皆というのは、君達門番の事だけじゃない。2つの世界に存在する戦士全員だよ」

 心の中で焦っていたのか、とんでもない勘違いをしていた。確かに世界の危機だというのに、こんな島国の戦士にだけ頼るというのは少々あり得ない話だ。

「君達以外にも、リオの他国の門番、魔術師、兵士には勿論声をかけている。リオにいる戦士達は、亀裂から出現する大地から生贄がいるか見つけつつ、大地の出現と共に現れる魔物の討伐を頼めるかな?」

 大地がリオに来るという事は、大地に付属した植物は勿論、その大地に住んでいる魔物もおまけでついてくるわけだ。これは3週間前と比べものにならないくらい忙しくなりそうだ。

「ザナでは、既に生贄の遺体の捜索が世界各国で行われている。同盟騎士団が一番早かったかの?いや、ナチュレの方が早かったか?」

「ナチュレも参戦しているのですか?」

「アンタがいないからシャイさんが仕切っておる。駄目だったかの?」

「いえ、寧ろ素晴らしい判断だと私は捉えます」

「そうか・・・それじゃあ、こちらも準備に取り掛かるとするかの。リード君、君が指示しなさい。君の部下だろう?」

「それもそうですね~・・・翡翠、モネ、シャープ、リリック、そして、シュエリーヌ!今すぐ、町へ出て、警官と協力して一般人の救助と魔物の討伐に迎え!他の門番は後に合流しておくように連絡しておく!」

「「「「「はい!!」」」」」

 抵抗できるなら、最後まであがきにあがいてやる・・・!!
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