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最終章 探究者と門番

8話 院長と翡翠

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「あついの・・・きらい・・・」

 炎の魔術をまともにくらい、火ダルマになっても熱がるだけで、致命傷にはなっていないようだ。

「まじかよ・・・」

「炎に耐性があるのでしょう。貴方もここ最近はそのような魔物と戦ってきたのでは?」

「まあ、そうですけど・・・他に何の属性が聞くのかな?」

 地面に生えてる関係上、土は効かない。地面から栄養と水分を吸い上げいている関係上、水は逆効果。という事は雷か?

「属性なんて、どうでもよくないですか?」

「え?ど、どういう事です?院長・・・」

「どんな属性が弱点なのか、分からないのなら、ごり押しで良いのではないでしょうか?戦いに対して常に最適解は求められません。時間も体力も限られています。ならば、弱点の属性なんて考えずに突っ込んでしまえばよいでしょう」

 院長の言う通りかもしれない。俺はいつの間にか賢い戦い方を無理矢理していたようだ。そんな戦い方は余裕がある時だけでいい。何も分からない状況では、とにかく強引に物理攻撃で攻めれば良いのだ。

 幸い、斬撃が効くのは検証済み。ならば、体力が尽く限り────

「押してまいる!!」

「炎の魔術はいかが?」

「下さい!」

 炎に耐性が出来ていたが、無効になったわけではない。アルラウネは熱いと言った。確実に炎の魔術は効くだろう。分かっている事だけで頑張る。まるで、中学生の英文作成のように限られた知識だけで戦いを作り上げていく。

「『フランマ』!!」

 院長の炎の魔術が、刃に宿る。魔術行使によるエンチャント。炎と物理攻撃が同時に出来る方法。

「あついのにがて!こないで・・・!!」

「いいや、行くね!!待ってろ!!」

 アルラウネはただ栄養補給しようとしただけで、人間を捕食しようとしたことに悪意は感じていない。そう考えるとかわいそうだが、同情で見逃したら、誰かが食われるかもしれない。

 本当に炎が嫌なのだろう。触手を再生して、数を増やし、飛ばしてくる。俺の体力は限界を迎えているが、院長という助っ人のお陰でカラ元気100倍!今なら、なんでも切り開けそうだ。

「更に!!追い炎です!!」

 炎が更に激しくなる。持っている俺もが火傷してしまいそうだ。刃を形成する鋼も少し赤くなってきた。

「いくぜぇぇぇぇぇぇ!!必殺・業火の一撃!!!」

 即興で考えた必殺技の名前を叫びながらアルラウネへと突っ込んでいく。刀の炎が熱いのか、触手が近寄ってこない。

「やめて!やめて!やめてぇぇぇぇぇ!!!」

 アルラウネの懇願を耳にしながら、俺は頭から腹の口まで切断。切断面から見えた、核の断面は、黒く焦げていた。

 改造アルラウネ撃破。敗北理由、助っ人登場によるどんでん返し。

「ふぅ・・・何とか勝て・・・た・・・」

 前述したが、既に翡翠は限界を超えて活動していた。ここまで、戦えたのも、体に宿った戦いを求める体のお陰だろう。

 彼がアスファルトとキスする前に、支えるようにして倒れるのを阻止する院長。だが、老体に若者の鍛え上げられた体をずっと支えられる力は無いので、ゆっくりと地面に寝かせてあげた。

「お疲れ様です翡翠。

 畑内莉緒は、すやすやと眠る翡翠に温かい笑みを浮かべると、回れ右をし、アルラウネの死体に目を向け、歩きだす。

 目的はアルラウネ・・・ではなく、その後ろの物。アルラウネが守るように改造主から言われた生贄の入っている穴だった。シャイの時と同じように、鉄の蓋で穴を塞いでいる。

「あんな特殊な魔物がいたのですから、もしやと思っていました。あなたも何年もここに閉じ込められて苦しかっでしょう。待っててください。今解放しますので」

 風の魔術で蓋を開けて、重力操作魔術で、穴の中に入っていた遺体を取り出す。遺体を見るに、まだまだ若かったであろうエルフの青年だった。既に体は朽ち果て、皮一枚も残っていないが、服はわずかに残っている。何処出身かは特定できそうだ。だが────

「どうかお許しを・・・フランマ」

 目的は、弔いではなく、世界融合の阻止。ふるさとに連れて行って土に埋める事は出来ない。なので、申し訳ないが、燃やしてしまう他ない。

 燃えて、骸骨が崩れた時、青い炎が天に向かって飛んでいくのを莉緒は確認した。きっとあれが、遺体の魂なのだろうと、彼女は、手を合わせ祈った。

 遺体の数、残り18。世界融合まで、残り110時間。
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