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七章 融合と絶望

完成!新奥義

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「良し!技ととしては完成だ!」

 カロルが高々に宣言した。1ヶ月もの間技の修得に全力を注いでいた歩にとって、その言葉は救いであった。

 認められた。自分の考えた技が認められた。それだけで白米3杯は食えるほど、歩は嬉しそうにガッツポーズを取る。

「ただ、その奥義は諸刃の刃じゃ。命の危機が訪れた時にだけ使うのじゃぞ?」

 それは自分が一番分かっている。事実今僕は仰向けに倒れて眠りたいくらい疲れている。

「ここで寝るな、しっかりと毛布にくるまって寝なさい」

「はい。ありがとうございます」

 歩はカロルの肩を借りて小屋の中へと戻っていった。



「これが6つの属性を持った魔術・・・」

 ついさっき発動した魔術で粉々に破壊されたかかしを見て葵は尻餅をつく。横で見ていたシトラは飛んで喜んだ。

「やったじゃん!葵っ!凄いよ!凄いよ!こんな魔術をたった3ヶ月で修得しちゃうなんて!」

「そ、そうかな・・・」

 後頭部をかいて照れているとパチパチと手を鳴らしてルドルフが近づいてきた。彼の顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「おめでとう。私の見込み通り葵は生まれもっての天才だったようだ。どんなに優秀な魔術師でも最低半年は修得にかかる魔術だと言うのに君は見事3ヶ月で修得してみせた。これは魔術の歴史に刻まれてもおかしくはないよ」

 あまりにも過剰な誉め言葉に流石の葵も頬を赤く染める。

「さあ、私から教えることは二人にはない。存分にその力を世界の為に役立ててくれ」

「「はいっ!」」

 ルドルフの家に置かせてもらっていた日用品等をバッグに詰めるとルドルフの家を勢い良く飛び出す。

「本当に良いのか?王の知り合いである君達が頼めば王は導きの石を貸してくれると思うのだが・・・」

 導きの石は今は自分達のような戦場に出ていない者が使って良いものではないと分かっている葵とシトラは顔を横に振る。

「大丈夫です!」

「アタシ達はゆっくり歩いて帰るから~」

「そうか!なら気をつけて帰りなさい!」

 手を振るルドルフに笑顔を向けると葵とシトラはロマニア城へと歩いていった。



1ヶ月と3週間前に遡る。ロマニア城に待望のニコラスが現れた。ニコラスは久方振りの戦友との再会に笑顔を向ける。

「やあ、ラグド!元気そうで何よりだ!」

「君こそ元気で良かったよ」

「お久しぶりです。ニコラス様!」

 もう王では無くなったニコラスは何処か生き生きしていた。今にも走り出してしまいそうなくらい顔色が良かったし、旅をしているお陰か老体にしては筋肉がついている。

 ニコラスは騎士の詰所まで訪れると、荷物を床に置いてイスに座る。パンパンと両方の頬を叩いて気合いを入れ直すとごほんと咳ばらいをしてラグドと面を合わせた。

「さて、千里眼で君は誰を見たいんだい?」

「この3人がどこにいるのかを見てもらいたいのだが・・・」

 ラグドはテーブルの上に3枚のカラーの写真を置いた。色がついているのはラグナロクの技術がロマニアにも入ってきているからである。

 3枚の写真には脱獄した3人の魔族の顔が写っていた。

「魔族か?何故この3人を?」

「実はな───」

 ラグドはニコラスにロマニア城であった全ての事を洗いざらい全て話した。するとみるみるうちにニコラスの顔が真剣な顔へと変わっていった。

「成る程・・・ロマニアの騎士達を一瞬で殺せるヤツがね」

「もしかしたら、世界融合を引き起こした黒幕の尻尾を掴むことができるかもしれない。手がかりが掴めないとしてもロマニア城に侵入して騎士と兵士を殺すような者を生かしておけるか」

 ラグドの怒りは目に見えて分かった。ライムも思わず唾を飲む。ニコラスはラグドの怒りの主張を聞くと、立ち上がってラグドに向かって手を差し出した。

「良いだろう。元々残り少ない人生なんだ。視力なんて今さら落ちても余生には何も影響はあるまい」

「恩にきる・・・」

「じゃあ、早速だが始めますか・・・」

 ニコラスは石を詰めた冷たい床に尻をつくとゆっくりと瞳を閉じて瞑想し始めた。

「我が瞳よ。ほんの一時の間、全てを見通す瞳となれ・・・」

 突然ニコラスの瞳がカッと見開く。彼の瞳はいつものような綺麗な青色ではなく、まるで星が輝く夜空のような瞳になっていた。

 ニコラスは苦しそうな声でラグドとライムに伝える。

「魔族の国だ・・・あの3人は魔族の国の地下に基地を作ってその中で隠れている・・・」

 そのひと言だけ言い終えると、ゆっくりと瞳を閉じ、もう一度目蓋を開くと元の青色の瞳に戻っていた。

「ふう、失明だけは免れたようだ・・・」

「本当にありがとう」

 ニコラスのがんばりにより脱獄したあの3人衆がどこにいるのかは分かった。まだ歩君達が帰ってくるのは当分先だ。ならば、私がいかなければならない。

「では、今から行ってくる。ライムはここで待機だ」

「えっ!?何でですか!俺はどこも怪我してないし、強さだって自信があります!」

「分かっているさ。だからこそ残っていてほしい。恐らくだが、私が今から行く場所には騎士と兵士を殺したヤツが十中八九いるだろう。これは私の感なのだが、殺したヤツは私よりも強いと思う」

「なら尚更───」

「君達若者はもっと別の戦いで頑張ってほしいのだよ───じゃあ、行ってくる」

ラグドはすがりつくライムを置いて詰所から出ていった。



「獅子丸、本当に行くのか?」

 まだ日が顔を出したばっかりの時間帯。宗則の道場の前には大勢の門下生と宗則、そして亮一と獅子丸がいた。

 亮一は生まれ変わった相棒の刀を腰に収め、導きの石を握りしめ、元いた場所へと帰ろうとしている。

獅子丸も宗則から返してもらった刀を腰に収めて亮一と共に旅立とうとしていた。いくら精神的にも身体的にも強くなったとはいえ宗則も些か不安を感じていた。

「大丈夫ですよ。俺、強くなりましたし」

「確かにお前は強くなったが、最強になったわけではない。そこの所を頭の隅に置いておきなさい」

「分かってますよ、師匠。戦果も強さも手に入れて帰ってきますから」

 そう、それは1週間前に遡る。故郷へ帰ろうとする亮一に俺もついていくと言い出したのだ。何でも鍛えた技を生かしたいとのこと。

 亮一は賛成した。これから長く激しくなる戦いに強力な助っ人になるだろうと考えたからだ。

 レベルは50と亮一には至らないが、そのレベルの差を補うほどの剣術が彼にはあるのだ。

「数年後にはここの道場に入りきらないほどの門下生が来ることを覚悟していてくれよ師匠」

「ははははは!楽しみにしているよ。亮一もくれぐれも気をつけなさい」

「はいっ!今までありがとうございました!」

 獅子丸は亮一の肩に手を乗せると、導きの石で元いる場所へと飛んでいった。もういないのにも関わらず宗則は先程まで二人がたっていた所をボーッと見つめている。

「何やってるんですか、師匠?朝ごはんにしましょう!」

 門下生が宗則に向かって手を振って呼ぶ。宗則は笑顔で振り返り、道場の中へと入っていった。

「子どもの成長を見れるのはいつもうれしいが、こんなにもうれしいことは無かったな・・・」

 宗則は獅子丸が旅立ってしまった悲しみよりも彼が人間として成長したこと、信頼できる友人を見つけたことに嬉しさを感じていた。



「歩、これを着てみい」

 荷物をまとめて洞窟を出る準備をしていた時である。師匠が僕の目の前に無数の傷がついた鎧をバン!と置いてきたのだ。

「この鎧は・・・?」

「ワシが竜殺しをやっていた頃に愛用していた鎧じゃ。純度の高い玉鋼をふんだんに使った名作じゃよ」

「そんな良いものを僕に・・・?」

「ワシはもう使わんし、倉庫に空きができるし、お前さんは今から戦場に出るから丁度良いと思ってな」

「ありがとうございます!!・・・あれ?」

「ん?どした?」

「滅茶苦茶軽いですね。何か魔術でもかけているんですか?」

「いや、何にも。お前さん、それよりも重い鎧つけて修行してたから軽く感じるんじゃろ?」

「ああ、成る程」

 そういえば、この2ヶ月の間自分のステータスを確認していなかった。ちょっと確認してもいいかもしれない。

 歩は身体のステータスカードを物質化させるとさその内容を読む。見た瞬間、あまりの変化に腰を抜かしてしまった。

「9、93・・・!?」

「おおっ!高いの!」

 こんなに上がったのか!自分で言うのもなんだが、なんと言う伸び代だろうか!いや、それともカロル師匠の修行の経験値が高いからだろうか!

 どちらにせよこのくらいのレベルがあれば、ある程度の強敵にも戦いを挑むことができる。

「お前さんが頑張ってきた証拠じゃよ」

 カロル師匠は笑って僕の肩をぽんぽんと叩く。思わず僕の顔は笑顔になってしまう。

「さあ、行こうか。外まで見送ろう」

 カロル師匠の後ろについて出口を目指す。入ってきたときには襲ってきたリザードマンやオオトカゲがまったく襲ってこない。カロル師匠は一体今までこの洞窟でどのようなことをしてきたのだろうか・・・。

 あっという間に出口についてしまった。外に出ると3ヶ月振りの太陽の日差しが僕の目を焦がす。とても痛いが、何よりも太陽の下に出てこれたことがとても嬉しかった。

 バイクを隠した岩影まで行って隠蔽魔術を解く。すると3ヶ月前とまったく変わらない愛車が姿を現した。

「ほう!格好ええの!これがお前さんが言ってたからくり式の馬か!」

「はい。からくりなので疲れることなく壊れる限りは走り続けられます」

「便利になったものよの」

 カッカッカと軽快に笑うカロル。その顔には少し寂しさが感じ取れた。

「お前さんと共に過ごした3ヶ月、良かったぞ。たまには料理を作りにきてくれ。ワシには料理のレパートリーが少ないからな」

「師匠も町に来れば良いのに・・・」

「いくらお前さんの紹介があるからって、人々は中々人外は受け入れてはくれんよ。それが竜の呪いを受けた者の定めじゃ」

 しかし、呪いを受けて洞窟に住むことになったのはあまり後悔はしていないのだろう。彼の笑顔が語っている。だとしたらその笑顔からポタポタと溢れている悲しみは僕に対して向けてくれているのだろうか?

「達者でな・・・」

「・・・はい」

 バイクのエンジンをかけてバイクを飛ばす。3ヶ月動かしていなかったが、走るのは問題ないようだ。

 少し気になって後ろを振り返ると、目尻に涙を少し溜めたカロル師匠が手を振っていた。僕は身体を上げて、右手で大きく手を振った。
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