天才武闘家は異世界に転移しても持ち前の強さとスキル「一撃必殺」で無双を続けるそうです

三章 辿り着いた先は闇

101話 未熟なり五十嵐雷太

　シャルロットが主催者であるドルクを殺した一方油断雷太は、命の危機に晒されていた。

　自らの怒りによって生まれた隙を突かれ、肩を大きく負傷してしまったのだ。しかも、まだ肩には斧が刺さっており、女戦士は更に力を込める事で雷太を一刀両断しようと企んでいる。

「ぐうぅぅ・・・！！」

　雷太も負けじと残った左腕のみで奮闘しているが、女戦士は上から下へと力ということもあって、圧倒的に有利。斧はゆっくりと雷太を切り裂いていく。

「こんな、所で、死ぬわけには、いかないんだ・・・！！」

　俺が死んだら、誰があの子ティナを守る？誰がアイツフェイとの約束を果たす？

　誰かに託すか？シャルロットにか？それはあまりにも無責任じゃないのか・・・？

　男なら約束をなんとしてでも果たす。空手を教わる前に先生から言われたじゃないか・・・！

　そもそもこんな事になったのは誰のせいだ？奴隷オークションの奴らか？いや、違う。他人のせいにするな。俺が勝手に怒ったからこうなったんじゃないか。

　最初から冷静になって戦えばこんな事にはならなかった。少なくとも肩を抉られることなんてなかったはず。

　悪い状況になったらいつも、もしもの事を考えてしまう。悪い癖だ。もしもよりも他に考えるべきことがあるだろう俺！

　この状況から脱する方法。今は、力押しで斧を返そうとしているが、それよりももっと良い方法があるんじゃないのか？

　先生はこういう時なんて言う？どう打開する？

　先生は体格に恵まれた人ではなかった。中1の時の俺よりも背が低かった。でも、その時は一切勝てなかった。その理由を先生に聞いたことがあった。

　弱点を付けば勝てる。そう言っていた。女戦士コイツの弱点はなんだ？そもそもコイツはどうして喋らない？どうして息が荒くならない？

　考えている間も斧は雷太を切り裂いていく。出血が多くなった影響で意識も薄れていくにつれて幻覚が見え始める。

　ここにいるはずがない先生の姿、フェイの姿まで見えてくる。そして、女戦士の兜に施された紫色の宝石が光って見えてくる。

　淡く光る宝石は目を刺激し、雷太に気づきを与える。
　
(宝石だけ、本当に光ってないか？)

　幻覚が見えている事を自覚すると、先生とフェイの姿が霧となって消え去ってしまったが、宝石の光だけは消えなかった。

　ひょっとしてこの宝石に何か秘密があるのではないのだろうか？

「・・・フンッ！」

　力を振り絞り、膝蹴りで女戦士の兜の宝石を砕く。斧を押す事に集中していたからか、女戦士は避けずに俺の膝蹴りを喰らい、宝石を破壊されてしまう。

　すると、斧を押していた手がピタリと止まり、女戦士はキョロキョロと辺りを見渡し始めたのだった。

「あ、あれ？私わたくしは一体何をしていたんでしょううか？」

「殺し合いだよ、馬鹿野郎・・・」

　雷太は短気な自分に怒りながらゆっくりと壁に身を委ねた。