Dのカルマ

猫目化月

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第1章 掃き溜めに鶴

2-2 何か変なものを拾った

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 ザァァァァァ

 雨音が耳鳴りのように続く。

 分厚い雲に覆われた空を見上げるように顔を上げると、帽子の鍔に溜まった雨滴が零れ落ちた。

「はぁ……」

 物憂げにため息を吐く横顔。
 磁器人形のように滑らかで血の気のない頬が雨に濡れ、滑り落ちた滴が顎を伝い黒衣に吸い込まれた。

「おい、いくらだ兄ちゃん?」

 唐突に背後からかけられた声に、青年は飛び上がりそうなほど驚き、脱いだ帽子で顔を隠して慌てて弁明を始めた。

「え? い、いえっあの、別に私はそういう者では……」
「分かってるよ」

 ビクビクと振り返った顔が、驚きに変わる。

「デュークさん……?」

 目を丸くして名前を呼んだ青年が、帽子を胸元に当て首をかしげた。

「夜中のジョギングですか? なんか息切れてますけど」
「……そうだよ! 夜の運動だ! しかも、この雨の中な!」
「デュークさんはとても自分に厳しい方なんですねぇ~」
「ぶっ殺すぞこのすっとぼけ野郎……!」

 わざとなのか本気なのか判別がつかない。どちらにしろやはりデュークの神経を逆なでするしかない会話に、なぜこんなところに来てしまったのか、自分の衝動的な行動を激しく後悔した。

「何やってんだてめぇ」
「何って…………何も……」

 膝に手を置いて息を整えつつ、デュークは相手を睨みつけた。

 鋭い視線に、居心地悪そうに青年の目が泳ぐ。雨を気にしてか、今は眼鏡を外していた。
 そうしていると余計に蒼銀の瞳オッドアイが目に入り、まるで人ではないものを見るような不思議な感覚に陥る。

「……お前、実は行くとこねぇんだろ」

 びくっ

 と、分かりやすく相手が身をすくめた。

「兄貴ってやつのところに帰りゃいいじゃねーか」
「それは出来ません。私は、兄と離れるために……」
「どんな事情があるのか知らねーが、俺にはお前が1人で生きていけるタイプにゃ見えねぇがな」
「…………」

 柄にもなくお節介を焼いてしまうのも、妙に気になるのも、こいつのこのどうしようもなくズレまくった性格のせいだ。そうデュークは結論付けた。

「特にこの街はダメだ。てめぇみたいな育ちの良さそうな坊ちゃんがやっていけるところじゃない」
「でも……」

 青年はまだ何か言いたげに食い下がったが、そのまま黙り込んだ。
 デュークの説得にも、頑としてその場を動く気はなさそうだ。意外に頑固なのかもしれない。

 大きくため息を吐き、デュークは1つの覚悟を決めた。

 仕方がない。これは仕方がないことだ。

「来いよ。寝るところはねぇけど外よりはマシだろ」
「え……?」
「いいか、お前は床だ。とりあえず一晩頭冷やしてよく考えろ。家出少年なんて歳じゃねぇだろ」
「は、はいっ」

 雨が鬱陶しく、返事も待たずに帰路につく。

(しょうがねぇだろ拾っちまったんだから。こんなところでのたれ死にさせたら、俺の食費3日分がパァだ)

 自分自身に必死に言い訳をする。

 ぱたぱたと駆け寄ってきて横に並び歩き、雨滴を受けてキラキラと輝く銀髪を戴いた青年は、やはり月と空のような瞳をキラキラと輝かせ、心底誠意で言っているのであろう心底迷惑な決意を表明した。

「デュークさんって、すごく優しい人ですね。やっぱり私、ちゃんと働いて借金返すまでデュークさんにお仕えします!」
(しまった! なつかれた……っ)

 そうはいっても後の祭り。




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