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第6章 ある罪人の記憶
15-3 身に覚えのない罪でパクられた
しおりを挟む「はてさてどうしたものか」
上空高く竜が飛び、帝国最大の都市を見下ろす。
シルクハットを片手で押さえ、ミスター・スラングは青銅色の小竜の上で、緊張感なく口ずさんだ。
眼下には王都ノイシュの中心、アルテナ城の広大な敷地が広がる。
シグルド王時代に築城されたというこの城は、約100年前Dの反乱により破壊されたが、その後のアルテナ帝国の建国の折に、当時の資料を基に精巧に復元された。
200年前と変わらぬ威容を誇る荘厳な佇まいは、見る者にシグルド王時代の人類の栄華を思い起こさせる。
「予想以上の大物が釣れたようだねぇ、ミス・ラビリンス。国家権力を使われちゃあエルトシャンも手が出せない。それにあの竜……」
デュークとDの一族を襲った灰色の竜。
「明らかに自分の意思で人間に力を貸していた。人の身に姿を変える力を持っているところからしても、聖域からやってきたと考えて間違いないだろう」
淡々と分析する口調に感情らしい感情は見えない。決して冷淡なわけではないのに、何の親しみも感じられない声。
「聖域に住むような竜は知能も桁違いに高い。基本的に人間に全く興味がなくて仙人みたいな顔で聖域に引きこもっているから害になることはほとんどないけど、奴らが何かの目的を持って人間の世界に茶々入れしてきたとなれば厄介だ。前に不意打ちしたときは、身体が大きくないから俺たち2人でも対抗出来たけど……今度は相手の領域。不用意に近づくと怪我をするよ」
最後の言葉は、隣で今にも飛び出しそうになっている相棒に向けての言葉だ。
「冗談じゃないわ」
上空で静かに停止する赤褐色の竜に跨り、赤毛の美女が爪を噛んだ。
公爵家は王家と血が近い。デュークの母マルグリットは、現国王の叔父リュミエール伯の娘の三女にあたる。
王族に連なる者を傷つけるは重罪。さらに言うならば、親殺しは平民であっても死刑だ。
それが例え冤罪であろうとも、この国の最高権力者がそうと言ってしまえば、それは事実となり得る。
「大丈夫かしら……」
祈るように両手を握りしめるミス・ラビリンス。
Dがついている限り、そう簡単に命を落とすことはないだろうが、彼らはまだ契約を交わしてはいない。
Dが命を賭してシグルドの末裔を守るとは限らない。
「Dは多分大丈夫だと思うけど、青髪の彼は、二重の意味でヤバいだろうねぇ」
帽子を脱いで黒髪を掻き、ミスター・スラングはやはり人ごとのように言った。
「追い詰められた状況で、果たして獣の本能を理性が押さえ込めるのかな」
ミスター・スラングの言葉は、彼女がこの場であえて目を逸らそうとしていた心配ごとを的確に突いた。
地下組織エルトシャンの始祖はディアドラ国王直下の精鋭魔法集団、竜騎士団エルトシャンだ。
ディアドラの悲劇を生き延びた彼らは裏社会に潜み、時に暗躍しながら時代の流れが己に向く時を待った。
故にDの反乱以降、度重なる戦火によりその大半が失われた当時の魔法則やシグルド王時代の記録を、現代において最も色濃く残す組織でもある。
それは、王家に仕えたエルトシャンの末裔だからこそ知る真実。
「眷属達の都合のいい伝承もあながち間違いではない。なぜなら、シグルドの血肉を喰らい彼らがDになることはなくても、Dにとってシグルドの血が妙薬であることは確かなのだから」
「…………」
「なぜだろう? 俺は、200年前のシグルド王とDの契約に盛り込まれていたんじゃないかと推察するが……」
シグルドは十二のDを支配する代わりに、己の血を彼らに与えたのだ。
「あなたは本部から情報が入っていたはずよね? こうなることが分かっていて、黙っていたわけ?」
男のくだらない講釈を打ち切り、ミス・ラビリンスは厳しく問い詰めた。
「だってそれは俺の仕事じゃないもん。エルトシャンを騙る悪党の親玉を追うのが俺の仕事」
「だからあえてデュークを捕まえさせたっていうの!? 黒幕を誘い出すために!」
シルクハットをかぶり直し、悪びれなく答える男に激昂するシェリル。
主の意思に応え、小竜が赤褐色の翼を翻し、もう一頭の竜と相対した。
いつのもように片手サイズのぬいぐるみを取り出し、男は器用に前足を動かした。
「本気で守りたいのなら、誰かになんて頼らないことだよ。特に、俺みたいなアテにならない男にはネ」
「ミスター・スラング――あなたって人は……!」
「怒っている顔もセクシーだねぇ、ミス・ラビリンス。君の赤い髪に良く映える――」
俗っぽい笑みを睨みつける。視線で人を殺せるなら、何度この男を殺したいと思っただろう。
ミス・ラビリンスはアテにならない男に背を向け、そそり立つ王城に向け翼を翻した。
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