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第8章 ある皇太子の野望
18-1 さる皇太子の記録
しおりを挟むその日の皇太子の日記にはこう記されている。
ある時、灰色の竜が舞い降りてきて私にこう言った。
「あなたこそは我らが王、英雄シグルドをも凌ぐ選ばれし御子。その力をもって再び人と竜の尊き栄華の時をもたらした給え」と。
日々書物を読み、机に向かうことしかしなかった王子の前に、ある日一匹の竜が舞い降りた。
「お前は何者だ?」王子は言った。
『我が名はアルカ。御身の選ばれし血に導かれはせ参じた貴方様の僕』ドラゴンは答えた。
「僕……? ドラゴンが人間の私に仕えるというのか?」
ディアドラの滅亡以降、どの王族も決して為し得ることのなかった奇跡を前に、王子は打ち震えた。
『貴方様は外界の竜に怯え、閉ざされた世界に生きる人間の現状を不満に思っている。かつて竜を支配した栄華の国ディアドラの要であるこのノイシュを制するアルテナこそ、第二のディアドラとして栄光を取り戻すべきだとも』
誰にも話したことのない心の内を言い当てられ、王子は驚いた。
『竜を支配する力が欲しいならば、貴方が竜の頂点に君臨する存在となればいい』
「私にシグルドになれと……?」
『いいえ、シグルドは死にました。英雄の血は途絶え、永遠に彼の力によって竜と人の栄華が訪れることはないでしょう』
美しい灰色の竜は、蒼宝石のような輝く瞳で王子を見た。
全身が焼け爛れた身体を包帯で覆い、日々人目を逃れ、薄暗い部屋で鬱々と生きてきた己を映すにはあまりにも冴え冴えとしたその色に、王子は羞恥すら感じた。
強く美しい獣。こんなドラゴンのように生まれたかったと、高貴な血筋である王族でありながら、たかが獣一匹に憧れを抱いた己の卑小さを抹殺する。
『ドラゴンの眷族を統べるDの一族――その頂点に君臨する黒き竜。その力を手にしたとき、貴方は人でありながら竜の王となる』
黒き竜。伝説の十二聖竜騎士の長。全ての力の頂点。
誰もに疎まれてきた醜い自分に、それだけの力があるとこの竜は囁く。
それは蜜のように甘く、毒のように痺れをもたらす。
心が震えた。
『そして、貴方は生まれながらに人の王となる権利がある』
「私が……人と竜の王に……」
『人間界で、黒き竜の覚醒が確認されました。聖域の手の者に保護され、今は楽園の奥深くに――』
その日、人の身に姿を変え、差し出した醜い左手に忠誠の口吻を落とした雲色のドラゴンは、僕という名の無二の至宝となった。
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