Dのカルマ

猫目化月

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第9章 楽園の蛇

25-2 一生もんを手に入れた

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「……行ったか、竜使い共は」

 赤と青の翼が羽ばたき、空が黄金色に染まりだした頃、不機嫌な声が背後からかかる。

 振り返ると、あまり見慣れない黒髪の男が憮然と佇んでいた。

「もう傷は良いのか?」

 肩までの髪を掻き上げ、男が黙って頷く。どうやら礼を言う気はないらしい。

 もの言わず引っ込んだ男につられるように、デュークは聖堂内へと引き返した。
 一番隅の、破壊されずに残った長椅子の上に銀髪の青年が寝かされている。

「おい、カルマ……?」

 少し焦り、近づくと青年は腰まである長い銀の髪を床に垂らし、眠っていた。
 健やかな寝息と寝顔に安堵する。

「無理もない。契約者あるじの命令に応えるため、本来使っていい以上の力を発揮したのだ。負担がかかって当然だ」

 腕を組み淡々と説明するダークナイトの声音には、契約者あるじを責める固さがある。

「――ひとつ言っておく」

 ダークナイトが眠る弟のかたわらに膝をつき、髪を梳きながら忠告した。

「んあ?」
「お前が私を殺せと命じたら、こいつは私を殺すだろう」
「…………」
「お前の心が醜く爛れ、地に堕ち、例え世界の全てを敵に回したとしても、こいつはお前を守るだろう」

 それは甘い誘惑の言葉のようでもあり、厳しい戒めの言葉でもある。

「血の契約とはそういうものだ。覚えておけ」

 人に過ぎた力を持つ者は、往々にしてその力に溺れ道を誤る。

 人の身にして神の力を使役したシグルド王――

 どれほどの強靱な精神をもってすれば、人と竜のための未来にその力を費やすことが出来たのだろう。

(俺には、そんな強さはない)

 そう自覚する。

 史実に永遠に名を残す偉大なる英雄を前に、己の小ささは比べるべくもない。
 例え転生だと言われようとも、その力の一部を受け継いでいようとも、別の人生を歩んできた個人である以上、同一にはなり得ない。

(それでも――)

 それでもあの純粋な魂を、これ以上傷つけることのないように。

「させねーよ」

 そう誓えるだけの強さはあると、自負している。

 黒き竜の首座は、その答えに幾分か満足したらしい。
 眠るカルマの前に膝をついたまま見上げ、心にもないことを口にする。

「私に契約は請わないのか? シグルドの転生」
「頼まれてもごめんだ馬鹿」
「ふふん、いいのか? 私はいつか貴様を殺すぞ」
「返り討ちにしてやんよ」
「いいだろう。黒き炎に焼かれ百年先まで後悔するがいい」

 立ち上がり、男は空を見上げた。
 最愛の弟の側から離れ、人のいない聖堂の中央へと向かう背中に、デュークは別れの言葉はかけなかった。

「俺が背負うのは、このノロマ1人で十分なんだよ」

 声が届かなかったわけではないだろうが、男は振り返らなかった。
 その後ろ姿が淡く光り、やがて輪郭を崩し巨大な獣の羽ばたきと共に赤い空へと消えるのを、デュークは黙って見送っていた。




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