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第九話

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 曇天の空の元、昨日ルーさんと一緒にきた森に到着した。
 この森には何度か食材の採取に来たことはあったけど、こうしてモンスターを1人で狩りに来たのは初めてだ。

 少し気持ちがふわふわとして落ち着かないが、この場所では浮足立っていられない。
 相手だって生き物だし、俺が殺しにいくんだったら間違いなく俺のことを殺しにかかってくる。

 パンッ! パンッ!

「よしッ! 気合十分!」

 自分の顔を叩いて気合を入れた。
 始めが肝心なのだ。ばっちり気合をいれて狩りに臨むとしよう。

「バーストチキンの住処はある程度見当つくから、やばい奴に遭遇しないように注意しよ……」

 この森は比較的危険なモンスターは少ないが、それでも凶暴なモンスターも存在する。
 そいつに今の俺の力が通用するのかも分からないし、通用しても触れる前にやられてしまうかもしれないので細心の注意が必要だ。

 最初の冒険でゲームオーバーなんてごめんだぜ。

「いくぞー。待ってろバーストチキン」

 バーストチキンは4~5羽の群れで倒れた幹や、身長低い木の上などを巣にして生息している。
 真っ赤で丸々した身体なので、紅葉の季節じゃない時は遠目に見ても丸わかりだ。

 パッと見ですぐに目立つので、森の中を迷わないように動くことを意識しよう。
 俺はこの森に慣れていないので、下手に遭難なんてする方が問題だ。

 そう考えると問題だらけだな。


 一応ギルドカードで緊急避難信号を飛ばすことは出来るけど、これを使うと依頼をクリアしても評価されにくくなるので出来るだけ使いたくない。


 ◆

「KOOOOOOO!!!」

 森の中を進んでいくと、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
 声のした方向を向くと、かなり離れた位置に赤い丸が複数見える。

「みーつけた!」

 この森の中であんなにはっきりとした赤色をした動物はバーストチキンと他数種しかいない。
 それも丸い身体をした奴が群れになって動いているとなれば間違いなくバーストチキン以外ありえない。

 森の探索を初めてまだ20分しかたっていないが、早くも標的に出会えたのはラッキーだ。
 今日は1日中探し回ることになるかと思っていたが、さくっ討伐してギルドに報告させてもらおう。

 俺が依頼を受けて間もない間にバーストチキンの討伐が出来た、なんて知ったらクリスさん驚くかなぁ?
 俺がこの依頼を受けるのだけでも心配してくれてたし、安心させる意味もこめて傷一つなくギルドに報告できるように頑張ろう。

「そーっと! そーっとだ」

 相手は鳥の群れだ。
 かなり視野が広いので見つからずに至近距離まで接近するのは難しいだろうが、それでも可能な限り近寄りたい。


 こいつらは離れた標的に炎を放ってくるので、遠距離攻撃の手段を持っていない俺が今の位置でばれてしまうと火だるまにされかねない。

 俺はこりてないのか。
 俺は再び大量の枯葉を踏みつけ、大きな音を鳴らしてしまった。

 あたりはとても静かだったこともあって、その音は森の中でとても目立つ。
 バーストチキンの顔がギロリと俺の方を向くのが分かった。

「「KOOOO!!!!」」

 響く、威嚇音。
 さっき発していた声よりも数段大きな音が森の中にこだまする。

 チキンっていうぐらいだし、人間のことを見かけたら逃げるのかと思っていたけど、そんなことはなかった。むしろ意気揚々と俺に向かってきている。

 後ろからこっそりやるつもりだったけど、真っ向勝負になってしまった。
 ただ、俺に地力なんてないからできるだけ早く勝負をつけないといけない。

 相手は5羽もいるわけだし、のんびり戦っていたらスタミナ切れで俺がやられてしまう可能性だって十分にある。

「いくぞぉぉ!!」

 この失態は自力で取り戻すしかない。
 頼れるのは自分だけだ。2回目の冒険だしルーさんについてきてもらえば良かった、なんて後悔が頭をよぎるけど、そんなことを考えてる場合じゃない。

「「KOO!!」

 バーストチキン達は一直線に俺のところに向かってきている。5羽いるから連携をとって俺のことを囲んで攻撃しにきたりとか、そういった戦略性は全くないようだ。

 突っ込んで俺のことを八つ裂きにすることしか頭にないらしい。

「KO! KO! KO!」

「あっぶね!?」

 そのうち一羽が俺に向かって火を放ったので巨大な樹木の裏に隠れた。
 ルーさんが放つように大きな火ではないが、それなりに速度のある火球だ。

 1羽から放たれるだけならかわすことも出来るだろうけど、これを5羽全員からくらったらしゃれにならない。本当に人間の丸焼きができ上がってしまう。

 意識を相手の攻撃にしぼり、出来るだけ少ない動きで火球をかわす。
 中距離で戦われるのも嫌なので、俺からもしかけよう。

 やつらの攻撃は森の樹木を貫通させることは出来ないみたいだし、うまく立ち回ればこの状況下でも攻撃をもらわずに接近できる。

「「KOOO!!!」」

 俺が姿を隠したのが気に入らなかったのか、バーストチキンが叫ぶ。
 あいつらが騒ぐせいで他のモンスターが寄ってくることも考えないといけないのか。

「お前たちなんて、食材だ」

 樹木を移動し、バーストチキンに攻撃をさせないように接近する。


 やつらは俺に狙いをつけてから発射するまでに時間がかかるので、立ち止まりさえしなければ的になるようなことはなさそうだ。

 そしてついに、時はきた。
 俺は1羽のバーストチキンの背後をとり、右手を触れてスキルを発動させる。

 ボンッ

「よしっ! このまま畳み掛けるぞ」

 うまく1羽バラすことが出来た。
 俺の目の前にはバーストチキンが部位ごとにごろっと転がっている。
 うーん、我ながら美しい切り分けだ。これはちゃんと持ち帰ってギルドで換金しよう。

 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!

 昨日と同じ要領で近くにいたバーストチキンも次々に肉塊に変え、俺に襲い掛かってきていたバーストチキンを全て捌ききった。

「よっしゃー! クエストコンプリート!」

 近くにモンスターがいないのも確認できたので思わず大声を出してしまった。
 森から抜け出るまで気は抜けないが、それでも俺のクエストクリアは間違いない。

 俺も見たことないレベルでバーストチキンもバラすことができたし、これは初クエストの割に上々の結果なんじゃないか?

「ん?」

 俺が自己満足にふけっていると、上からポツリポツリと水滴が落ちてくるのが分かった。
 うーん、曇ってると思っていたけど、やはり雨が降ってきたか。
 このまま肉を雨に晒していると傷んでしまうし、すぐに撤収しよう。

 ザァァァァ!!

 俺が撤収の準備を終えるころには雨の勢いはまし、土砂降りになってしまった。
 これは本当に急いで帰らないといけない。


「受けて立つわ! あんた達なんかに私が負けるもんですか!」

「お前に生きていられちゃ困るんだよ。ここで死んでくれ」

 肉をまとめてその場から去ろうとすると、近くに男女の声が聞こえてきた。
 かなりよろしくない雰囲気になっているみたいなので放っておくわけにもいかない。

「仕方ないか……」

 今すぐ帰れば肉はなんとかもつだろうけど、トラブルに突っ込んだら間違いなく肉はダメになるだろう。
 でもこういう問題を解決してこその冒険者だ。

 俺は全ての肉を地面に捨て、トラブルの元へ駆けつけることにした。
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