私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと

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 その日は、町にバルトルト様の名を呼び彷徨女性の姿がある等と言う噂を聞き、確認をしに行くと言う話が出ていた。

 広いバルトルト様の執務室の半分は、私が休みやすいように改良されており、身体を労わりながらも職務に励んでいた。 まぁ……仮病ですし……。

「一緒に来る?」

 嘆き女と名付けられている女の出現を聞き、私の方へ向けられる視線。 問いかけではあるけれど、表情を見れば来て!!と語っている。

「ご一緒します」

「なら、お茶をしようね。 未だ大きな船は貿易港に入れないけれど、沖から小舟で取引をし始めているんだよ。 それでね変わったフルーツも入ってきたからって新しいデザートも増えているらしいから、楽しみだね!!」

 そんな呑気な言葉に、報告をした警備の者が不安そうな顔をしていたけれど、慰める言葉もなければ、取り繕う言葉も私は持ち合わせていない。 嫉妬深い私は、そんな話を持ち込んだ目の前の警備の彼すら恨めしいのだから。

「着替えたら呼んでね」

 今更な気もするが、自室で温かな恰好に着替えればノックの音がした。 呼んでねと言っていたが待ちきれなかったらしい。

「はい」

 返事をすれば扉が開かれ、うんうんとバルトルト様は頷く。

「可愛いね」

「ありがとうございます」

 そして抱き上げられる。

 言動こそ幼いが、騎士団で育ち、今も彼等との訓練をかかさない彼は、私を簡単に抱き上げるのだ。 そうして何時もと変わらない様子で私達は町へと出向いた。





 町に出れば嘆き女を探し回るでもなくカフェに入った。 今はサツマイモ、栗、カボチャのデザートがお勧めらしいと幾つか注文しシェアをする事にした。

「探さなくていいの?」

「別にいいよ。 報告に来た人が誘導してくるんじゃない? 僕は会いたいくないんだけどね。 わざわざ面倒そうなのを処理せずに報告に来るなんてダメダメだよ。 どうせその女性に絆されているんでしょう」

「でも出て来たんですね」

「サーシャが嫌なら、デザートはお持ち帰りにして帰るよ」

「嫌と言うか……嫌な予感?」

「それなら、僕だって」

 肩をすくめて見せた。

 そんな何とも言えないモヤモヤとした会話中に耳に聞こえた嘆き女の噂。

「亡霊のような女が昼から、嘆きながらバルトルト様を探しているそうですわ」
「警備の者も早く対処して下さればいいのに、不気味な話ね」
「貴方、その嘆き女を見た事無いでしょう。 とても美しい女性なのよ」

 呆れたように言っていた。

「私の彼氏なんて……可哀そう可哀そう何とかしてあげたいって、すっごいウザくて、最近は会うのを止めているのよ」

 なんて話を聞けばバルトルト様は溜息と小さな声でこう言った。

「減給」

 そして私の方に向いた、ニコニコと幼い笑みを浮かべて言うのだ。

「僕にはサーシャが一番美人で可愛く見えるのに、他の奴等は見る目がないなぁ……まぁ、目をつけられても困るけどね」

 なんて話を誤魔化すけれど、女性達の噂話はまだまだ続く。

「へぇ……そんなに美人なんだ」
「美人ではあるの、でも一見すると不気味。 でも、その不気味さが女性の神秘性を増して、人外を思わせる的な? 不気味で不思議で美しい女性が嘆くから、いっそう憐れみを誘うと言っていた人がいたわ」
「アンタの意見じゃないんだ」
「そうよ。 私は彼氏に怒っているんだからね!!」
「でも、それって人間? 魔物?」
「ぁ、私セイレーンだって噂を聞いた事が」
「いえ、何処かの貴族女性だって話ですよ」

 噂……だけど、少なくともバルトルト様に会いたい、助けて欲しいと周囲に与える印象を理解してやっているのなら怖くすら感じる。

「あ……気を付けないといけないね。 こういうのってすぐに愛人として噂されるパターンだ。 だからと言って、粗雑に扱えば酷い奴って言われるし……まぁいっかぁ!! どうせ落ちるだけ落ちている噂だし」

「この町の人達は、バルトルト様が好きですよ!!」

 自虐的な言葉に少しだけムキになってしまった。

「ぇっと……うん、ありがと。 僕も好きだよ」

 ニッコリ微笑みかけられた。

 やがて、店の前をその嘆き女が通った。 多くの人達が面白がっているのか弱った彼女の隙を狙っているのか行列を成している。 行列を成してはいるが、どこか近寄りがたい雰囲気……それもまた美貌が織りなしていた。

「あぁ……あぁあああああ、バルトルト様……バルトルト様に、会わせて下さい。 誰か……バルトルト様に会わせて、話をしなければ、伝えなければならないの」

 女性は貴族女性らしい美しいドレスを身にまとい、ソレは泥に汚れ、ヒールを履いた足元は血に濡れ固まっていた。

「可哀そうに……」

 さっきまで噂をしていた女性達まで、そう言葉にし始めていた。

 ふらつく足元。
 女性はとうとう揺らめき倒れ、通りすがりの男性が手を差し出した。

「ありがとう……ございます」

 潤んだ瞳で見上げ、涙をこぼし囁くような声で告げる。 彼女の鳴き声は欲情を刺激する甘さが含まれていた。

「バルトルトさまぁ……に、会いたいの……」

 必死の様子を見れば、誰もがバルトルトの愛人だと脳裏に過っていた。 貿易都市の住民とそれを作り上げたキルシュ商会のトップ達。 感謝と親しみを抱いているだけに、皆が複雑な思いを抱いていた。

「いや……バルトルト様は簡単に会える人じゃない……特に商会は今、王家の命令により休業を強いられています。 彼に会うのは難しいでしょう」

 そう庶民の不利をして語るのは、庶民の中に紛れながらバルトルトとサーシャを護衛していた騎士。

「さぁ、宿を取っておいででしたら送って行きましょう」

 避けられる物なら避けた方が良いと言う配慮だろう。

 そう手を差し出した所に、男の胸元にヴァロリー・ストロープ伯爵令嬢は倒れ込み、その胸板や腕に触れた。 確信のようなものがあった。

「貴方は……バルトルト様の配下の方ですね。 お願いします。 彼に会わせて下さい……。 あの方に会わなければいけないのです。 私達は……あの方に助けを求めているのです」

「残念ながら、あの方は人を助けるような方ではありません」

 さも残念そうに男はいい、首を横に振って見せた。

「いえ……だけど、あの方なら……ミリヤム・リービヒ公爵令嬢なら、助けて下さるはずです。 彼女は、バルトルト様の妻なのですから……。 助けて、下さい……お願いします」

 庶民に扮した騎士は、胸が苦しくて……。 距離を置いたカフェで、ヴァロリー・ストロープ伯爵令嬢の同行を伺っていたバルトルトとサーシャに問いかけるように、視線を向けてしまった。

 ただ、それだけの動作で……ストロープ伯爵令嬢はバルトルトに気付いた。

「ぁっ……」

 切なさの混じった溜息と共に吐き出される声。 伯爵令嬢は男の腕を強引に力強く振りほどきそして……バルトルトの元まで走りだす。

 貴族女性に流行りの高いヒールで走り出した伯爵令嬢は、足元がおぼつかず走り出す。 フラフラとしたか弱い動き。 少し高価なカフェは、客を選ぶが、ボロボロになっていても元は美しいドレスだっただろう事を考えれば……いえ、その美貌に動きを止めたと考える方が正しいかもしれない。

 カフェに入り込めば……その瞬間、バルトルトは立ち上がった。 それを見たストロープ伯爵令嬢は儚く微笑んでいた。 だが、バルトルトが取った行動と言えば……立ち上がりサーシャを抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。

 盾? と、思わないでも無かったけれど……それでも、あんな色香溢れる女性が、バルトルト様に縋りつく事を考えれば……盾に使ってくれた方がいいかも……いえ、でも、攻撃的になられたなら……色々と考えている中で、彼女は何のためらいもなく店に入って来て、ジッと私とバルトルト様を見つめた後、諦めた伯爵令嬢は正面の椅子に座り、テーブルに顔を突っ伏した。

「バルトルト様……どうか、お願いします。 ミリヤム様を助けて下さい!!」

 悲痛な叫びだった。

 私とバルトルト様は顔を見合わせる。 どうしよう? と、私達は視線で語り合うが、私が答えを出せるはずがない。

 もし目の前の女性がバルトルト様に助けを求めていると言うなら、ソレは無視できる。 むしろ無視して警備兵に任せた方が良い案件だろう。 だって、誰にでも手を貸したら延々と後に続くでしょうからね。 ですがミリヤム様となれば別です。 だって、国王陛下が認めた側妃なのですから。

「なぜ、僕が助けなければいけないの? 僕達の関係は政略的ですら、ないよね? だって、僕は王家に捨てられたんだから。 それに彼女とは色々と話し合い妥協点を出したんだよ」

「だから、問題なのです……貴方が、貴方様が不用意な事をしなければ……お願いします。 彼女は、憔悴しきり宿屋で寝込んでいるのですから」

 熱っぽい視線でストロープ伯爵令嬢は語った。
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