私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと

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 背筋がざわざわとした。

 嫌な気持ちが胸に広がる。
 気持ちが悪い。

 今の私はきっと顔色も人相も悪くなっている事でしょう。

 最悪……。

 私達を観察している女性達も、楽しいだけの物見遊山で済まない事を肌で理解しているのかもしれません。 明らかに表情が強張っています。 後悔? 聞かなければ良かった……そう思っているのかもしれません。 店員の視線も挙動不審となり、その心情は誰かに助けを求めているように思えた。

 そんな風に周囲を観察する事で、私は嫌な事を忘れようと、思考を落ち着かせようとしているけれど難しい。

 不安で不安で仕方なく、それが顔に出ているのでしょう……目の前の女性の瞳は……余裕を映している。

 反面バルトルト様と言えば、私を不安から取り戻すかのように抱きしめる腕が強くなっていた。

 ふふふっと微笑みながら優雅にお茶を飲むストロープ伯爵令嬢は、ほどけた髪を優雅にだけれど艶めかしく指先に絡め整え、その視線は私を無視してバルトルト様だけを見つめ、濡れた唇を赤い舌で舐めて見せてくる。

 バルトルト様は視線をそらし、不安そうな私を見ている。

 こういう時、どんな反応をすればいいの……かなぁ……。 3年間、つい最近バルトルト様が王都に向かうまで殆ど一緒にいた。 こんな不安を覚えるのは人生で初めてで……彼が好きだからこそ信じたいのに、心が揺さぶられてツライ。

「バルトルトさま……」

 甘えるように身を摺り寄せて、顔を僅かに上げて瞳を閉ざす。

「んっ」

 触れる唇。

 私だけでなくバルトルト様もきっとこの訳の分からない状況に緊張し混乱していたのかもしれない、私達の唇は二人とも乾いていて、子犬のようにお互いの唇を潤し……何となく安堵して……そして、急に恥ずかしくなって……。

「分かりました。 ミリヤム様の元に向かいましょう!! さぁ、行きましょう!! 直ぐに行きましょう!! うちにはとても良いお医者様もいますのよ」

 私は、ようやく微笑みを返せるようになっていた。

「えっ?」

 ストロープ伯爵令嬢の口元がヒクッと引きつった。 直ぐには次の言葉が出て来なかったけれど、バルトルト様はソレを無視して私を抱っこしたまま立ち上がる。

「さぁ、行こうか」

 バルトルト様が声をかけたのは私、ストロープ伯爵令嬢ではなく……店員には代金の請求は書面にして屋敷に出すようにと告げて馬車へと急いだ。

 この貿易都市は3年で作られた。 未開発な部分は今も多いが、都市整備は将来的なことを配慮したため宿屋が集まる区画は定められている。 宿屋は何件かあるけれど貴族様が宿泊するだろう宿屋は決まっている。 それ以前に、客人に紛れていたフランツ様が先に席を立っているのを考えても、もう調査が行われているのでしょう。

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 慌てて後を追って来るが、歩幅が違うしストロープ伯爵令嬢は最も美しく見えるよう高いヒールを履いている。 動揺と共に慌てるほどに歩みは離されていくし、私達と同じ馬車に同乗させる気はない。

 背後からは叫び声が聞こえる。

「ミリヤム様は、公爵令嬢は貴方の裏切りに傷つき、憔悴しきり、寝込んでおりますのよ!! そんな場所に突然に訪れるなんて失礼だとは思いませんの!! 彼女は公爵令嬢ですわ。 彼女の尊厳を重視してくださいませ!!」

 ストロープ伯爵令嬢が焦るほどに私達の行動が正しいのだと安堵する。 それと同時にバルトルト様に対する不安も一気に胸の中から消えさり、悪戯にはしゃいだ子供の頃のように、楽しくすら感じるのだから酷い話だなぁ……と思ってしまう。

 それはバルトルト様も同じようで、口元が笑っていたし、ぼそりと呟いていた。

「僕の噂を知っているなら、止まるなんて思ってはいないよね」

 馬車にたどり着いた時には、馬に乗ったフランツ様が戻ってきていた。

「宿の場所と部屋番号はコチラになります。 宿泊時には偽名を使っておりました」

 フランツ様もまた楽しそうにしていた。 そしてフランツ様の視線は、次の指示を待っているように見える。

「医師と女性を宿屋へと寄越してくれ。 ストロープ伯爵令嬢が言っている通り虐待の事実があったなら、すぐにも手当が必要だからね」

「では、早急にお連れ致しましょう」



 こう語る頃には、ストロープ伯爵令嬢は走るのを止め……髪をかき上げコチラを見ていた。



 向かうのは貿易都市一番の宿屋。 キルシュ商会と関係のある人物によって経営されており、例え偽名を使っていても情報に間違い等あるはずがないのだ。



 私達が部屋に向かえば、宿屋の職員がキッチンワゴンに色んなデザートを乗せて運んでいる最中で、部屋に入るには丁度良いと職員の背後に私達は控えた。

 ノックの音3回。

「はい、どなたかしら」

「ご注文のデザートをお持ちいたしました」

「入ってきてくださる?」

 開かれた扉の向こうにいたのは……ピザ、ラザニア、ハンバーグ、キノコタップリシチュー、そのほかにも色々な食べ物を貪り食べるミリヤム公爵令嬢の姿だった。



 私達は視線を合わせ……お互いに硬直していた。

 何とも言えない空気が、その場を覆いつくした事は言うまでもない。
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