狂ッタ執事ト孤独姫

序章

「お逃げなさいエンヴィー！彼方の地で生き延びるのです！」

「いや！！…いやよ！お母様！！」



…久々に嫌な夢を見た。純白の白いショーツが汗で濡れ所々透けている。

窓から差し込む光は私の顔を照らし、鳥の囀さえずりが耳をくすぐる。

「おや、もう目覚めてしまわれましたか。悪夢に魘うなされるあなたの顔は、それはもう愛おしかったのですが。」

「今すぐその不愉快な口を縫い合わせなさい、変態執事。」

私の事を見下ろしながらニヤニヤしているこの男の名はファルス。

枯れ木のように細身な体を包み込む燕尾服。それに対比し男の肌は死人のように真っ白で、鋭い眼光は赤みを帯びている。

「変態とは人聞きが悪い。私はお嬢様の悶え苦しむ姿を見るのが嗜好しこうなだけでございます。」

「地獄に堕ちなさいファルス。」

あぁ…と恍惚こうこつの表情を見せる執事の姿を見て、もう何を言おうが無駄だと感じる。

「さぁ、いつまでもそんなお召し物を身に付けたままでは風邪をひいてしまいます。私はそれで一向に構いませんが」

「早く着替えをよこしなさい性悪しょうわる。」

執事の抱える鼠色のドレスを奪い取る。

「本日はスクランブルエッグと夏野菜のサラダをご用意しております。」

「分かったから私のベットルームから出ていきなさい。あなたの前で着替えられるほど私は無神経ではないわ。」

「おやおや、昔は私がお召替えをさせて頂いたものですが」

「出ていけ！！！」


変わり者な執事と毒舌少女の一日が今日も始まる。