光の狭間と境界線

依空

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拝啓

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 僕が病院へ行ったあの日、香藤愛晴の父親から手紙を預かった。“石随君へ”と丁寧な字で書かれていた。

 “石随君へ
  この前はごめんね。いきなり泣いたりして。
  自分でもびっくりしたの。急に涙がでてきたから。
  でもね、石随君は私の涙を拭ってくれた。
  その日、久しぶりに人の心の温かさを感じれたの。
  とても嬉しかった。
  一瞬、死ぬのを辞めようかとも思っちゃった。
  でも、学校の事がすぐに頭に浮かんだの。
  そうしたら、死ぬのを辞めようとしていた私がバカみたいに思えてきちゃって。
  やっぱり辛いよ。
  もう、君以外信用できない。
  いつか、君ですら、信用できなくなる気がする。
  だから私は、君の事を信用したまま死ぬね。
  大好きな君をずっと大好きのままでいたいから。
  ありがとう。”

 僕の目から知らない間に涙が頬を伝っていた。
 君の気持ちを知ることができたことへの安堵なのか、これから先の不安なのか。
 僕は分からない。
 
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