嘘と嘘の重ね合い

依空

文字の大きさ
11 / 12
見るに堪えない絶景 (絶望の景色)

無念

しおりを挟む
                  side黒島


 「衆樹に伝えて、って、梨佳さんが自分で伝えないといけないだろ?衆樹のためにも、梨佳さんは生きないといけないんだよ…!梨佳さん、梨佳さん」


 無意識に叫んでしまう。
 衆樹のことを考えるとどうしても無念の気持ちでいっぱいになる。


 梨佳さんは救急隊によって、病院に運ばれた。
 佐狐直哉は先程呼んだ応援の警察官によって、警察署まで連れていかれた。


 色々とやらなければならない事がある。
 まずは佐狐直哉について、もう一度洗い流すか。


 佐狐直哉は半年間、この家で暮らしていたそうだ。衆樹の家がある市の隣。近すぎず、遠すぎず、と言ったところであろうか。
 数ヶ月前、梨佳さんをこの家に連れて来て日々暴力を奮っていたという。


 そもそも、この家を所有するのが佐狐直哉の父親。
 佐狐の父親が佐狐に対して無料で家を貸していたという。
 なぜなら、佐狐直哉が母親に暴力を奮っているのに気が付き、流石に近所で悪い評判が流されると思い、この家を貸したのだそう。


 佐狐の父親は、自分自身の妻や梨佳さんが佐狐直哉の暴力で悩まされていたことを知りつつ、黙っていたのだそう。
 自分の仕事での地位を脅かしたくないから。
 そんな自分勝手な言い訳が、佐狐直哉の殺人未遂を作りあげてしまった。
 警察沙汰になった以上、父親の会社での噂はむごいことになるに違いない。
 自分の地位を守るがため、何も言い出さなかった佐狐の父親は、酷い刑に服すことはないと思うが、とても裁きたい人間になった。


 そして、佐狐の母親。
 佐狐の母親は半年前まで息子から暴力を受け続け、ぼろぼろになった。精神も、身体も。
 息子と夫の関係を見て怪しげに思っていたが、言及する事は無かった。
 もう、自分を傷つけたくなかったから。
 そういう理由により、梨佳さんの発見が遅れた。
 腹を痛めて産んだ息子から暴力を奮われるほど惨いことはないが、まさか他人まで暴力を奮うなんて、惨すぎるだろう。


 この事件が明るみになり、世間の目が変わった日から、この家族は、どう生きていくのだと言うのだろう。


 言い出すのは難しい。
 他人から大きな非難をもらうかもしれないから。


 でも、言い出すことによって、何かが変わる。
 ほんの些細なことかもしれない。
 しかし、確実に変わる。


 この家族も、誰かが言い出すことによって、変わっていたのかもしれない。


 起きた事件に仮定形を使っても、被害を被った人や被害を加えてしまった人が元の人生を歩める訳ではないのに。


 直接的にその事件に関わっていなくても、又は少し関わっただけの人も、その後の人生を大きく変えてしまうかもしれない。


 きっと、事件を起こした側の人間は、そんな事に、全く気が付かないだろうが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

ほんの少しの仕返し

turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。 アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。 アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。 皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。 ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。 もうすぐです。 さようなら、イディオン たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...