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守宮の会談絵草紙 第九話「樹海の影」
しおりを挟むふふふ、皆様、ようこそおいでくださいました。
このヤモリ、世の隙間を這いずり集めた物語をお届けするストーリーテラーでございます。
さて、第九話となる今宵のお話は、青木ヶ原樹海の奥深く、黒々とした木々の間に潜む影と、
青と黄緑の葉が織りなす不気味な物語でございます。
AIの生み出す画像に囚われ、恐怖を見つめる先に何が待つのか…。
どうぞ、背筋の凍る一幕をご覧くださいませ。
このヤモリ、百話の物語を語り終えれば成仏できる身。
さぁ、皆様、奇妙な世の隙間への幕開けでございます。
【樹海の影】
――樹海を生成すると、いつも同じ女が映る――
ネットで見たその一文が、頭から離れなかった。
添付画像には、黒髪を垂らした女が立っていた。
白く細長い顔は狐の面のようで、目だけが異様に黒い。
駆け出しの怪談作家として糊口を凌ぐ僕は、締め切りに追われ、その女がどうしても必要だった。
読者から「実体験がない」「薄っぺらい」と叩かれ続けていた。
現地になら行ったことはある。樹海の入り口で、青と黄緑の葉っぱ2枚を拾っただけだが…
奥へ進む度胸もなければ、金もない。なぜかその葉は捨てられなかった。
そんな僕がすがったのが、AIによる画像生成だった。
あのツイートを見た瞬間、ひらめいた。AIなら、樹海の深層に潜む何かを見せてくれるかもしれない、と。
さっそく青木ヶ原樹海を生成させた。
画面に映ったのは、木々が絡み合う黒々とした世界。
蔦が這い、幹がねじれ、息苦しい空気が漂う。だが、あの女はいない。
10枚、20枚と生成しても、彼女は現れない。
ありふれた森の画像――なのに、その全てが僕に恐怖を投げかける。
何かおかしい。
蔦のうねり方、木のウロの黒さ。目を凝らすと、そこにいた。
木の表面に溶け込むように、歪んだ顔だけが浮かんでいる。
気づかなければ見逃すほど巧妙に。
すべての画像を遡った。
彼女は最初からそこにいた。僕が気づかなかっただけだ。
作り物のはずなのに、心臓が跳ね、作り物じゃない何かに触れた感覚がした。
その夜、眠れなかった。目を閉じるたび、木のウロから覗く黒い目が浮かぶ。
震える手でツイートの投稿者を調べた。
プロフィールは空白。
最後の呟きは数日前――「葉っぱが2枚ついてる、どうしよう」
写真には青と黄緑の葉が写っていた。
意味不明だ。自作自演か気まぐれだろうと思った。
翌朝、デスクトップに異変が起きた。生成した画像が勝手に増えていた。
30枚だったはずが、31枚、32枚……。
最新の画像を開くと、彼女がはっきりと映っていた。
黒髪、面長、無表情。頬に青と黄緑の葉が貼りついている。あのツイートの葉だ。
背筋が凍った。
慌てて投稿者のページを見返すと、アカウントが消えていた。跡形もなく。
混乱で髪をかきむしると、指先に何かが触れ、ひらりと落ちた。
青と黄緑の葉が床に舞う。
遠くで木々が軋む音が聞こえ、首筋に冷たい感触が走った。
縄目のようなざらつきが皮膚を擦る。耳元で囁きが響く。
――「ミテ」――
視界が揺れ、部屋の隅に黒い影が揺らめいた。
それから、僕は原稿を書き始めた。
締め切りも読者の声も頭から消え、ただ彼女の顔が脳裏にゆれる。
書くたびに、首筋の感触が強くなり、キーボードに触れる指先から青と黄緑の葉がこぼれ落ちる。
原稿は順調だ。
こんなに言葉が溢れるのは初めてだ。
彼女が教えてくれた――恐怖とは、目を逸らさず見つめることだと。
ある夜、完成した原稿を読み返した。タイトルは「樹海の影」。僕の最高傑作だ。
送信ボタンを押す前、鏡に映った自分の顔を見た。
頬に青と黄緑の葉が貼りついている。
剥がそうとすると血が滲み、その下に白く細長い顔が覗いた。
僕じゃない、彼女の顔だ。
耳元で囁きが重なる。――「見て、見て、見て」――
画面が暗転し、樹海が映し出された。
木のウロから覗くのは、僕の目だった。
送信ボタンを押した瞬間、部屋が静まり返った。
葉も影も消え、首筋の感触もなくなった。
翌朝、編集者から連絡が来た。
「原稿、最高だったよ。ただ、添付画像が気持ち悪い。どこで撮ったの?」
返信を開くと、僕が送ったはずのない画像が添付されていた。
そこには、木々の間で首を吊る僕が映っていた。――頬に青と黄緑の葉を貼りつけて。
ふふふ、皆様、いかがでございましたでしょうか。
樹海の影に宿る女の囁き、青と黄緑の葉が導く恐怖の連鎖…。
このヤモリ、世の隙間を這いずり集めた物語の幕を、そっと閉じさせていただきます。
9話目を終え、残るは91話。
どうか、次なる物語まで、木々の軋む音に耳を塞ぎ、お気をつけてお過ごしくださいませ。
『ケツメド!!毒味役長屋絵草紙』、カクヨムにて本編完結済み。
現在は外伝を連載中です。 時代劇×毒味役×人情ドラマに興味がある方、ぜひ覗いてみてください。
https://kakuyomu.jp/works/16818792437372915626
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