鉄騎の破城槌 麗しき工兵は戦場に橋を架ける

米ちゃん

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第一章:三日の猶予と、二人の出会い

ハーフエルフ、身の上話をする

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​ 前方から、低く重い足音が聞こえてきた。
 灰色の岩肌を縫うようにして現れたのは、数人の歩荷たちだ。
 アイゼン・ガルドと地下鉱脈がある岩山との間は荷馬車が通れないとはいえ、人が通れない事はない。
 物資の運搬を担うのは、荷物を乗せた背負子を背負って運ぶ歩荷である。
 背中の籠には、地下鉱脈の採掘場から掘り出されたばかりの鈍色に光る鉄塊が詰め込まれ、一歩歩くごとに革紐が悲鳴のような音を上げていた。
 ​彼らとすれ違う際、ロランドは無言で道を譲り、その背中をじっと見送る。
​「……ランスローネよ。拙者も昔、あんな風に荷を背負って荒野を歩いたことがあるのだ」
「え、ロランドはんが?  騎士様やのに?」
 ​ロランドの告白に、ランスローネは驚く。
「今から五年前……当時拙者は十九歳の若造だった。
 拙者は元々、男爵家の次男坊でな。家督を継ぐ兄の影で、自分の居場所を見つけられずにいた。昼は歩荷として泥にまみれて日銭を稼ぎ、夜は夜で、御した馬車を暴走させて、王都キヨスの治安を乱す……救いようのない放蕩者だったのだ」
 ​ロランドが自嘲するように目を伏せる。
「へぇー……ロランドはん、今は堅物そうやのに、昔は結構やんちゃやったんやねぇ」
​「そんな拙者を、完膚なきまでに叩きのめしたのが、シャルマーニ殿下だ。当時十七歳にして千人長という一個大隊を率いる女傑であらせられた。ただの女と侮った拙者の顔面を、あの方は一切の慈悲もなく地面に沈めた。
 そして仰せられた。
『三日猶予をやる。その間に素行を改めろ。さもなくば首を刎ねる。もし出来れば、貴様のその力の使い道を教えてやろう』とな。
 あの時、拙者の空っぽだった心に、初めて重みが宿った。名誉なんて言葉は知らんが、拙者を人間に戻してくれたこの人のためなら、この命、何度でも投げ出せる。と確信したのだ。
​ あれから五年か……。
 あの夜、殿下に土を舐めさせられた屈辱が、今の拙者を支える誇りに変わるまで、それだけの時間が必要だったのだ」
 ロランドは拳を握り締め、自分の分厚い胸当てを見つめる。
「へぇ、五年前のロランドはんは、もっとトガってたんやねぇ……五年前は、ちょうどうちが故郷を飛び出した頃やったわ。
 正確には、おん出されたって奴やな」
​「おん出された、とは……何かあったのか?」
 ​ランスローネは、わざとらしく明るく肩をすくめた。
「うちの故郷は、ここからずっと東にある『灰色の森』の奥地やねん」
「『灰色の森』だと? 其方は、あんな遠くから旅をして来たのか」
 ロランドは頭の中に記憶している地図を思い浮かべる。
 ヴェリア辺境領自体は岩と灌木だらけだが、その南北は山岳、西は森林、東は平原だ。
 ランスローネの故郷『灰色の森』は、その平原よりさらに遠く東にある、広大無辺な原生林である。
「エウラシアに生きる全ての亜人種族の故郷ともいう、人外の秘境魔境と伝え聞いているが……」
「まあ、そんなとこやな。大体合ってるわ」
 ランスローネは、遠く東の空を仰いだ。
 此処からでは見えないが、あらゆるものを呑み込む、底なしを思わせる深い森に思いを馳せる。
​「……あそこはな、道なんて端からない場所なんや。歩いた先から木々が意志を持ってるみたいに行く手を塞ぐ。
 そんな森に、世界を旅してた母さんは流れ着いた。
 うちを身籠ってたから旅を続けるのが困難になったからやな。そんで入った村は、保守的なエルフばっかりやったんや。
 そんな村で、母さんは『世界は丸い、外にはもっと広い場所がある』って言い続けてた。
 うちの知識は、全部母さんが教えてくれたもんや。
 うちは、道を作ることに興味を覚えた。
 道が出来たら、他の亜人らと交流して、外の世界に目を向けることになるって強い思いがあったんよ。 
 でも、『世界が丸い』なんて言う変人が人間と交わって出来た娘が、土を弄って道を作ろうとするなんて、精霊への冒涜やって騒がれたんよ。ほんで、村の村長っていうか、エルフの総族長に出て行けっておん出されたんや。
 ……ま、うちは母さんが見た景色を自分でも見たかったからこれ幸いやったけどな」
 ​ランスローネは前方に伸びる、自分たちの長い影を指差した。
「道ができれば、うちみたいに村を追い出された奴も、ロランドはんみたいに居場所をなくした奴も、どこへだって行けるようになる。……うちは、そういう場所を作りたいんや」
​「そうだったのか……其方の母は、今も健在なのか?」
 ロランドの問いに、ランスローネは一瞬だけ足を止め、ふっと視線を落とした。
​「村を襲った他のエルフの部族と戦って死んじゃった。排他主義な村の為に、柄にもなく頑張りはったんや……」
 ランスローネはあっけらかんと言いながら、何処か寂しそうに笑った。
 ​その笑顔の裏に秘められた、計り知れない喪失感。
 ロランドはかけるべき言葉を見つけられず、ただ彼女と同じように、前方に伸びる自分たちの影を見つめ返した。
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