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第一章:三日の猶予と、二人の出会い
ハーフエルフ、世界の理を語る
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地下鉱脈がある岩山に向かう道すがら──
「そういえばロランドはん。
何で北は寒くて南は暖かいんか、考えたことある?」
灰色の荒野を歩きながら、ランスローネは隣を歩くロランドに問いかける。
「何でだと? 北は寒くて南は暖かいのは当たり前……そういえば、何でだろう?」
「それはな、世界が『丸い』からや」
「世界が丸いだと? 何を馬鹿な! だとしたら、人や物が、落ちてしまうではないか!」
「じゃあ、何で物は下に落ちるん?
うちらは、何で地面に立ってられるん?」
「そ、それは……」
「それはな、土の精霊ドゥーフ・ゼムリアが、あらゆる物を引っ張ってるからや」
「そ、そうなのか!?」
「そうや、だから──」
ランスローネは足下の石ころを手で拾い、放り投げた。
軽い放物線を描き、石は地面に落ちる。
「石を投げたら落ちるし、水も水筒から溢せば下に落ちるんやで」
「なんと……」
ロランドは鎧姿の自分を、ずっしりと肩に食い込む板金鎧と、その下に纏った鎖帷子の重みを改めて噛み締めた。
鍛え上げた骨格と筋肉で支え抜いているこの重量。
だが、それは自分だけの力ではなかった。
土の精霊ドゥーフ・ゼムリアが、自分を、そしてこの鎧を、世界の中心へと等しく引き寄せている証だったのだ。
ロランドは騎士。
そして騎士とは、主君に仕え、その身を盾とする武人の名誉ある称号だ。
ロランドが身に纏う板金鎧と鎖帷子は、その名誉の重みそのものであり、彼をこの地へと繋ぎ止める誇りでもあった。
だが、ランスローネが語ったのは、もっと根源的な「繋がり」の話だった。
名誉という目に見えない重りではなく、大精霊が、この世界の理が自分を引き寄せているという事実。
(俺は……この大地に、世界に、これほど強く繋ぎ止められていたのか。この世界そのものに、支えられていたのか……)
凝り固まっていた彼の騎士としての自負が、新しい知識と混ざり合い、しなやかな強さへと変質していく。
頭の中に冷たい水が流れ込んだような、不思議な全能感。
視界が一段階明るくなったような錯覚の中、ロランドは自分の足がこれまで以上に力強く地を掴んでいるのを感じた。
「で、では、世界が丸いというのはどういうことだ!? それが寒暖にどう関係する?」
問いかけるロランドに、ランスローネは歩みを止めて、両手を握り込んだ。
「ええか、よう見ててな。この右手が世界とするなら、左手がお日さんや。ほんで、お日さんはこう回ってるんや」
ランスローネは握った右手の周りを、左手の拳を少し斜め下に傾けながら、円を描くように動かしてみせた。
「北の方はな、あんましお日さんの光が当たらへんのや。逆に南の方は、真正面からよう当たる。だから北は寒くて南は暖かい。単純な理屈やろ?」
ロランドは、彼女の動かす拳を食い入るように見つめた。
「……単純、だと? 天地を回る光に、そのような法則があったというのか……! 何故だ、何故お前がそんなことを知っている!?」
「それは、うちがハーフエルフやからや。エルフってのは、人間様より遥かに長生きしてる。だから、世界の理を長い時間かけて探求する者がおるんや」
詰め寄るロランドに、ランスローネは少したじろぎつつ、自慢げな笑みを浮かべた。
「……昔な、世界の果てを見ようとして旅に出た、変わり者のエルフがおったんや。何百年もかけて東へ東へ進み続けて……そしたらな、元の場所に戻ってきてもうたんやって」
ランスローネは遠くを見るような目で、前方の岩山を見つめた。
「うちの母親も、そんな旅の途中でうちを身籠った。結局、果てまで行けたんかは分からんけど……。だからな、ロランドはん。うちは知ってるんや。世界は繋がってて、丸い。道さえあれば、どこまでだって行けるんやってことをな。
……まあ、こんなん信じてるのはうちの家系くらいなもんやけどな。他の奴らに言っても、気違い扱いされるのがオチや」
ランスローネは肩をすくめて笑うが、その瞳には「真実を知る者」特有の静かな光があった。
ロランドは言葉を失う。
目の前の娘が、ただのあざといハーフエルフではなく、この広大な世界の理をその小さな肩に背負って歩いているような、そんな錯覚に陥ったのだ。
「そういえばロランドはん。
何で北は寒くて南は暖かいんか、考えたことある?」
灰色の荒野を歩きながら、ランスローネは隣を歩くロランドに問いかける。
「何でだと? 北は寒くて南は暖かいのは当たり前……そういえば、何でだろう?」
「それはな、世界が『丸い』からや」
「世界が丸いだと? 何を馬鹿な! だとしたら、人や物が、落ちてしまうではないか!」
「じゃあ、何で物は下に落ちるん?
うちらは、何で地面に立ってられるん?」
「そ、それは……」
「それはな、土の精霊ドゥーフ・ゼムリアが、あらゆる物を引っ張ってるからや」
「そ、そうなのか!?」
「そうや、だから──」
ランスローネは足下の石ころを手で拾い、放り投げた。
軽い放物線を描き、石は地面に落ちる。
「石を投げたら落ちるし、水も水筒から溢せば下に落ちるんやで」
「なんと……」
ロランドは鎧姿の自分を、ずっしりと肩に食い込む板金鎧と、その下に纏った鎖帷子の重みを改めて噛み締めた。
鍛え上げた骨格と筋肉で支え抜いているこの重量。
だが、それは自分だけの力ではなかった。
土の精霊ドゥーフ・ゼムリアが、自分を、そしてこの鎧を、世界の中心へと等しく引き寄せている証だったのだ。
ロランドは騎士。
そして騎士とは、主君に仕え、その身を盾とする武人の名誉ある称号だ。
ロランドが身に纏う板金鎧と鎖帷子は、その名誉の重みそのものであり、彼をこの地へと繋ぎ止める誇りでもあった。
だが、ランスローネが語ったのは、もっと根源的な「繋がり」の話だった。
名誉という目に見えない重りではなく、大精霊が、この世界の理が自分を引き寄せているという事実。
(俺は……この大地に、世界に、これほど強く繋ぎ止められていたのか。この世界そのものに、支えられていたのか……)
凝り固まっていた彼の騎士としての自負が、新しい知識と混ざり合い、しなやかな強さへと変質していく。
頭の中に冷たい水が流れ込んだような、不思議な全能感。
視界が一段階明るくなったような錯覚の中、ロランドは自分の足がこれまで以上に力強く地を掴んでいるのを感じた。
「で、では、世界が丸いというのはどういうことだ!? それが寒暖にどう関係する?」
問いかけるロランドに、ランスローネは歩みを止めて、両手を握り込んだ。
「ええか、よう見ててな。この右手が世界とするなら、左手がお日さんや。ほんで、お日さんはこう回ってるんや」
ランスローネは握った右手の周りを、左手の拳を少し斜め下に傾けながら、円を描くように動かしてみせた。
「北の方はな、あんましお日さんの光が当たらへんのや。逆に南の方は、真正面からよう当たる。だから北は寒くて南は暖かい。単純な理屈やろ?」
ロランドは、彼女の動かす拳を食い入るように見つめた。
「……単純、だと? 天地を回る光に、そのような法則があったというのか……! 何故だ、何故お前がそんなことを知っている!?」
「それは、うちがハーフエルフやからや。エルフってのは、人間様より遥かに長生きしてる。だから、世界の理を長い時間かけて探求する者がおるんや」
詰め寄るロランドに、ランスローネは少したじろぎつつ、自慢げな笑みを浮かべた。
「……昔な、世界の果てを見ようとして旅に出た、変わり者のエルフがおったんや。何百年もかけて東へ東へ進み続けて……そしたらな、元の場所に戻ってきてもうたんやって」
ランスローネは遠くを見るような目で、前方の岩山を見つめた。
「うちの母親も、そんな旅の途中でうちを身籠った。結局、果てまで行けたんかは分からんけど……。だからな、ロランドはん。うちは知ってるんや。世界は繋がってて、丸い。道さえあれば、どこまでだって行けるんやってことをな。
……まあ、こんなん信じてるのはうちの家系くらいなもんやけどな。他の奴らに言っても、気違い扱いされるのがオチや」
ランスローネは肩をすくめて笑うが、その瞳には「真実を知る者」特有の静かな光があった。
ロランドは言葉を失う。
目の前の娘が、ただのあざといハーフエルフではなく、この広大な世界の理をその小さな肩に背負って歩いているような、そんな錯覚に陥ったのだ。
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