君が好きだから/君が愛しいから

美珠

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君が愛しいから

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「紅茶でよかったよね、美佳」

 彼が美佳のことを名前で呼ぶのは、しょうがないことなのだろうか。あえて訂正するのも、逆に意識していると思われそうで躊躇ためらわれた。
 美佳が運ばれてきた紅茶に口をつけようとした時、近くで選挙演説が始まったようだった。

「ああ、そういえば今日は、元総理大臣推薦の候補者の演説があるって言ってたな」
「そうなんですね」
「物々しい雰囲気で、護衛みたいな男たちもいたぞ」

 護衛と聞いて、美佳は思わず反応してしまった。もしかしたら紫峰だったりして。いや、そんな偶然はないか。

「ああいう護衛の人たちって、SPって言うんだろ? この間も見たけど、顔で選んでるのかってくらい、イイ男ばっかりだったな。美人な女性SPもいた」

 紫峰も端整な顔出ちで、背が高く、スタイルもいい。細身だけれど日頃から身体を鍛えているだけあって、腹筋も腕の筋肉も相当なものだ。そういえば紫峰の部下も皆、美形ぞろいだ。顔で選ばれたと言われてもうなずける。そんなことを考えていたら、美佳は何だか可笑しくなった。

「どうしたんだ? 急に笑いだして」

 無意識のうちに笑みを浮かべていたのだろう、戸田に指摘されて、美佳は我に返る。

「何でもないです」

「そう?」と言うと、戸田は気にした様子もなくコーヒーを飲んだ。ひと口飲んで顔をしかめて、砂糖を追加する。昔から甘党の戸田は、コーヒーに砂糖を二つも入れていた。

「美佳は、幸せ?」

 言われて、美佳は顔を上げた。戸田はにこりと笑って、こちらを見ている。

「幸せです。どうして?」
「俺はたまに早まったな、って思う時があるからさ」

 美佳とは結婚できないと言った戸田。その一年後に他の女性と結婚したくせに、何を言っているのか。

「奥さんのこと、好きじゃないの?」
「それなりに好きだよ。でも今は子供の母親って感じだな。俺の奥さんって感じは、あまりしない」

 それなりに、という言葉に美佳は違和感を感じた。けれど、その心に引っかかったものが何なのかはわからない。

「美佳はこんな俺に対して、何とも思わない?」

 質問の意味がわからず、美佳は首を傾げながら問い返した。

「何ともって?」
「……俺はあの時、美佳との結婚は考えられないと言ったけど、まったく考えていないわけじゃなかった。別れ話になった日、本当は『あと一年待ってほしい』って言うつもりだったんだ。でも、美佳にもう別れる、ってきっぱりした態度を取られてかっとなって。勢いで別れてしまった」

 そう言って美佳を見る戸田の目は、昔と同じだった。
 確かに、当時は何も思わなかったわけじゃない。でも、こうして自分も別の人と結婚しているのだから、今さら何も思うことはない。時間は美佳を大人にしたのだ。

「あの時は、仕事とかでも揉め事が起きたりして、いっぱいいっぱいで……」

 戸田の話を聞きながら、美佳は自分の左手の薬指に触れる。
 仕事で揉めること、それは誰だってある。時にはプライベートに影響を及ぼすこともあるだろう。
 紫峰の仕事は危険を伴うし、神経が擦り減るだろうに、紫峰はあまり、愚痴ぐちを言わない。

『帰ってきて、美佳の手料理を食べると落ち着く。いつもありがとう』

 紫峰はいつも、そう言って微笑むだけだ。だから美佳は料理を頑張る。お風呂を沸かしたり、できる限りのことを整える。

「美佳はよく俺の愚痴を聞いてくれたよな。聞き上手で、俺はそこが好きだった」

 付き合っていた頃も戸田は、そんなことを何度も言っていた。美佳自身が好きだとは、あまり言われた記憶がない。それでも美佳は、話を黙って聞く自分が好きというなら、それでも構わないと思っていた。

「奥さんはそうじゃないの?」
「今は子供で手一杯って感じ。そんな状態だから、相談もできない」
「でも言ってみないとわからない。夫婦なんだから、話し合えばいい」

 美佳が言うと、戸田はため息をついた。

「美佳は今の旦那に不満はないのか? あるだろう、少しくらい」

 不機嫌そうに窓の外を眺めながら戸田は言う。

「最近帰りが遅いから、早く帰ってきてほしいくらい、ですね」

 ウソだろ、と戸田が呆れたように笑う。

「ウチの奥さんはもっと、いろんなこと俺に言うけどな。片付けしろとか、仕事のカバンをリビングに置いたままにするな、とか。掃除を手伝ってほしいとかさ」
「言わなくてもしてくれるんです。私のほうが大雑把おおざっぱなくらい」

 こと整理整頓に関しては、美佳より紫峰のほうが几帳面きちょうめんなのだ。
 美佳がリビングに置きっぱなしにしていた書類なども、気付くと紫峰がファイルに詰めて、美佳の机の上に置いてくれていたりする。

「今の人に、出会えてよかったです。戸田さんも、きっと今の人がベストだと思います。私とは結婚できない、って言ったけど、今の人とはしているから」
「子供ができたからさ」
「それでも結婚しないって人はいます。でも、戸田さんはそうしなかった。奥さんのことが、それだけ好きで特別だったんですよ」

 美佳の言うことに、戸田は笑った。

「大人だよな、君は昔から。それに、痩せて綺麗になった。それって旦那のせい?」
「たぶんそうです。本当に素敵な人で、私にとってかけがえのない人」
「本当にしっかりしてるよな。元彼がこうして甘えても、優しく受け流して、おまけに旦那とのノロケ話までするなんて」

 戸田が苦笑して美佳を見る。そして「打ち合わせは終了」と言って店を出ることになった。
 美佳もそれにうなずいて席を立つ。
 会計を済ませて店を出ると、演説の声は一層大きく聞こえてきた。

「……選挙が終わるまでの辛抱だな」

 駅へと向かう大通りで、演説は行われていた。

「あ、俺がさっき言った美人。今日もいる」

 選挙カーの下には数人のスーツ姿の男たち。その中に一人、きっちりとパンツスーツを着た女性が確かにいる。
 その女性は、紫峰の部下のさかだった。辺りを見回すと、他にも美佳の知っている顔があった。ということは、ここに紫峰もいるのだろうか。

「あ、やっぱりいた」

 美佳が呟くと、戸田は美佳を見る。

「知ってる人がいたのか?」

 美佳は頷いてあの人、と紫峰を指さす。

「ふうん、イイ男だな」
「私の旦那様なんです」
「……は? マジで!?」

 美佳が頷くと、戸田は「えー!」と驚きの声を上げながら、マジマジと見つめてくる。
 仕事中の紫峰を見るのは初めてで、嬉しかった。機密事項の多い仕事だから、こんな機会は滅多にない。

「警察官なのか……? 驚いたな」
「そう、警察官なんです」
「気付かないなぁ、こっちに」
「遠いし、無理だと思いますよ」

 美佳が答えると、戸田はしばらく紫峰を眺めてから言う。

「マジでイイ男だな。本当に旦那?」
「……私が平凡な顔をしてるからって、失礼ですよ」

 美佳がムッとすると、戸田は「悪かった」とすぐに謝ってきた。
 カッコよくて素敵な紫峰。
 今日は早く帰って来るだろうか。

「俺はそろそろ会社に戻らなきゃならないけど、美佳はもう少しここにいるか?」

 戸田から言われてうなずいて、その場で彼とは別れた。
 戸田と久しぶりに話したら、もっと動揺してしまうのではないかと思っていた。けれど、何ともなかった。

「なるべく、早く帰ってきてね、紫峰さん」

 聞こえるわけはないが、口に出してみる。
 それから美佳はしばらくの間、仕事をする紫峰の姿を遠くから見つめていた。


   * * *


 仕事が一段落した美佳は買い物へ行き、食事を作って紫峰を待つつもりだった。けれど今日もやはり、紫峰の帰りは遅い。先に休むことにした美佳は、その時、眠っていた。

「ん……?」

 背中や鎖骨、胸のあたりに温かい感触があり、美佳は目を覚ます。

「目が覚めた?」

 美佳の身体に触れる、紫峰の手。紫峰以外に、こんな風に美佳に触れる人はいない。
 紫峰は寝ぼけまなこの美佳の胸を揉み上げ、頂点を時々摘んで感触を楽しんでいる。

「紫峰、さん……っ」

 優しく胸を揺らす彼の手に、思わず吐息がこぼれる。紫峰は美佳をうしろから抱き締め、首筋を辿たどって肩甲骨にも優しくキスをする。
 美佳は思わず、小さく声を漏らした。すると、美佳を抱き締める紫峰の手に情熱がこもり、先ほどよりも強く胸を刺激される。
 美佳は身体がうずき出し、たまらず背を丸めてしまっていた。

「身体を縮めないで、美佳」

 耳元でそう言われて、美佳は紫峰の大きな手に自らの手を重ねる。

「待って……ぁ」

 けれど紫峰はそんな言葉など聞いてくれず、抱き締め直されて、美佳は眉を寄せた。久しぶりの感覚に、身体が翻弄ほんろうされる。美佳の全身に快感が広がっていく。
 大腿を撫でていた紫峰の手が、美佳の身体の内側へと伸び、下着にかかる。しとやかに閉じていた美佳の足の合間に滑り込んできた紫峰の指が、美佳のそこを撫でた。
 美佳の潤いでスムーズに指が動くのが恥ずかしい。
 次の瞬間、指の一本が美佳の中に沈んでいく。その指は、美佳の敏感な部分を押すように出入りした。

「……っや」

 横抱きにされたまま、美佳の中に入った指を緩慢かんまんに動かされる。あまりに強い快感から逃れたくても、紫峰がしっかりと美佳の腰を押さえているので叶わない。
 さらに指を一本増やされ、美佳の我慢は限界だった。何とか紫峰の手に触れて、必死の抵抗として軽く爪を立てるけれど、指の動きを止めてはもらえない。

「し、ほ……っさ……っあ」

 こんな緩慢な快感は、かえってきつい。美佳の息が、次第に上がっていく。濡れた音を立てて中をかき回されながら、胸を揉み上げられると特にたまらなかった。

「美佳、おとなしくして」

 美佳の耳に唇を寄せた紫峰がささやく。
 しかし美佳の口は自然と開いてしまい、声が漏れる。息苦しささえ感じる。
 美佳にこんな思いをさせるのは、ただ一人。紫峰だけだ。
「寝込みを襲うなんて酷い」と文句を言ってやりたい気持ちもあったが、美佳の身体は紫峰の与える刺激に素直に応えてしまう。
 美佳は、自分の臀部でんぶに硬いモノが当たっているのに気が付いた。
 紫峰自身はすでにしっかりと反応しきっていて、美佳の中へ入りたがっている。
 美佳もすでに紫峰を受け入れる準備ができている。美佳は手を伸ばして、それを撫でた。するとそれはさらに反応し、スウェットの上からでもわかるくらい、あからさまに主張する。

「いい?」

 紫峰が短く、耳元でささやく。美佳はその声に酔いしれ、すぐに返事ができなかった。すると紫峰は、れるように問いかけてくる。

「返事して、美佳」

 美佳、と呼ぶ声も官能に満ちている。

「したい、美佳」

 そんな風に言われると、心臓が破裂してしまいそう、と思いながら大きく熱い息を吐いた。

「……きて、紫峰さん」

 喉がカラカラで上手く声が出ない。消え入るような小さな声しか出なかったが、なんとか紫峰に届いたようだった。
 紫峰は腰をさらに引き寄せ、美佳の足の間に足を割り込ます。
 少し足を開かされた状態で、紫峰の硬いモノが美佳の隙間を探った。何度か隙間を行き来した後、美佳の潤んだ内部に紫峰自身がゆっくりと押し入る。
 途端、自然と美佳の口から声が出た。
 先ほどまでそこに入れられていた、指とは比べものにならない質量の大きさに、思わず息が詰まる。

「も……っや、紫峰さ……っ」

 紫峰はたまにこうやって、美佳をゆっくりと抱く。そうされると美佳はれったくて、もどかしくて、つい「早く」と言ってしまいそうになる。
 美佳はそんな緩やかな快感に、拳を握って耐えるだけ。
 今日はうしろから抱かれているのでできないが、いつものように紫峰が美佳の上にいたら、彼を強く抱き締めていただろう。

「あ……っん」

 やわやわと美佳の胸を揺らす手も、時々足の間に感じる愛撫の手も、もどかしくて仕方ない。
 紫峰は何度かゆっくりと横抱きのまま腰を打ち付けたあと、背中にキスをして美佳の身体をうつぶせにする。紫峰は美佳に覆いかぶさり、さらに身体を揺する。

「美佳……っ」

 堪らないような声が耳に届いて、紫峰も感じているのがわかる。
 こうして紫峰に抱かれるのは久しぶりだ。切羽詰まったように美佳を呼ぶ声を聞くと胸にくるものがあり、美佳の身体はさらにうずき出した。
 紫峰の動きが少しずつ速くなる。ベッドのきしむ音が部屋中に響く。よすぎて、苦しい。

「ん……っん、んぅ」

 美佳の腰を持ち上げて、紫峰はさらに腰を強く打ちつける。
 美佳はもう昇りつめてしまいそうだった。
 シーツを掴む手に力がこもる。
 そんな美佳の仕草に気付いた紫峰が、美佳の手に自分の手を重ねてきた。手を繋がれ、美佳はますますこの快感から逃れるすべを失った。
 そのまま腰を強く押し付けられた次の瞬間、美佳と紫峰は同時に達したようだ。紫峰は美佳の中に留まったまま動きを止め、重ねた手を強く握った。
 紫峰の忙しない呼吸を耳元に聞きながら、美佳は放心状態になっていた。しばらくすると紫峰が体勢を変え、美佳の内から出ていった。
 美佳をあおけに寝かせ、ふたたび覆いかぶさるように抱き締める。美佳は紫峰の重みを感じ、満ち足りた気持ちが胸を占める。
 それから紫峰はなぜかもう一度美佳の身体を横向きにし、背中に唇をわせてきた。唇と舌で下から上へとなぞり、ある一点に達すると少し痛みを感じるくらいに吸う。

「美佳……?」

 紫峰が美佳の名を呼んだので、美佳は身体を回転させて満足した笑みを向けた。

「すごい汗。疲れた?」
「……疲れました」
「体勢がきつかったかな」

「そうですよ」と言おうかと思ったが、紫峰が優しく頬や頭を撫で、キスをしてくれたので言うのはやめた。紫峰はいつも、行為のあと優しい。愛情を感じさせる触れ方で、もう一度抱かれたいと思ってしまう。
 美佳はまだ少し息が上がっているが、紫峰はすでに呼吸が整っていて、体力の差を改めて感じる。もう回復したと言わんばかりの様子でスウェットを直す紫峰を眺めながら、美佳は言った。

「……寝込みを襲うなんて」

 美佳が抗議すると、紫峰は笑って美佳の頭を撫でた。そして身体を引き寄せて、少し強く抱き締める。

「だって美佳、二週間ぶりくらいだよ? それに二度も我慢できない」

 一度目はいつだったのだろう。しばらく考えていた美佳は、紫峰が遅く帰ってきた日、少し甘えるような素振りで美佳の仕事部屋へやって来たのを思い出す。あの日はパソコンに突っ伏して寝ていた美佳を、寝室まで運んでくれた。

「我慢していたの?」
「したよ。君をベッドまで運んで、でも起こさずに抱き締めるだけにした」

 紫峰がそんなことを言うなんて何だか信じられなくて、美佳が内心驚いていると、唇を寄せられた。最初は軽くついばむようなキス。次第に深いキスに変わる。
 それから紫峰は美佳の首筋に顔を埋めて、大きく息を吐いた。
 こんな風に紫峰が甘えてくるのは珍しい。そんな彼の行動が嬉しくて、幸せだった。

「私も、寂しかったですよ。紫峰さんも私も忙しくて、すれ違ってる感じがしてた。こんな風に抱き合うのも久しぶりだったし。寝込みを襲われちゃったけど、よかった」

 美佳が素直な気持ちを言うと、紫峰が首に顔を埋めたままかすかに笑った。

「美佳がこんな薄着で寝てるから、我慢がきかなかった」

 紫峰はそう言って顔を上げ、もう一度ゆっくりとキスをしてきた。とろけるようなキスに溺れ、美佳は何も言えない。
 美佳は確かに寝る時、いつも薄着だ。布団の感触が好きだから、身につけるものは最小限にとどめて布団に包まる。そうすると肌が直接布団に触れ、とても気持ちいい。紫峰は「また薄着をして」といつも呆れているけれど、どうしてもやめられないのだ。
 紫峰の「我慢がきかなかった」という言葉が嬉しくて、顔が熱くなる。愛されているという実感が込み上げる。こんな平凡な自分を、これほどまでに愛されヒロインにしてくれるのは、世界中探しても紫峰だけに違いない。
 繰り返されるキスが気持ちよくて、次第に思考能力を奪われていく。深いキスに応じていると、美佳の身体は少しずつまた熱くなっていく。

「……もう一度していいわけ?」

 唇を離した合間に、紫峰が堪らない様子で言った。
 すでに紫峰の下半身は、美佳の腹部を押し上げている。美佳は紫峰自身に、スウェットの上から触れた。すると紫峰が美佳の手を自分のスウェットの中へ導き、直に触れさせる。紫峰の大きな手が、そのまま美佳の手を上下に動かす。美佳はされるがままに、しばらくそれを繰り返した。

「さっきみたいに、ゆっくりされるのは苦しい。そうじゃないなら……」
「君の声が、聞きたかった。君の耐えるようなあの声が、すごく好きだ」

 美佳は急に恥ずかしくなり、紫峰の胸に額を寄せ、赤くなった自分の顔が見えないようにした。そんな風に言われると何も言えない。
 黙り込む美佳の胸に、紫峰が触れてきた。そのまま手が下におりて美佳の足を開かせる。紫峰が自分のモノから美佳の手を離して、シーツの上に縫いとめた。
 反応した紫峰のモノは、抵抗なくスルリと美佳の中に入った。思わず声が漏れる。
 すると紫峰が美佳の頬を大きな手で包み、優しくキスした。それから美佳の足の間に手をわせ、隙間に触れる。紫峰が指で触れると美佳のそこは濡れた音を立てた。恥ずかしくなって、思わず顔をそらす。

「いや?」
「……っ、そうじゃなくて……またゆっくりするの? 紫峰さんがイッてくれないと、私、ずっと……っ! っあ!」

「よすぎて苦しい」と続けたかったのに言葉にならない。紫峰は美佳の中にすべてを入れきり、一度身体を揺らしてから、美佳の髪を優しく撫でた。

「早く、ってこと? それは無理」

 紫峰がにこりと微笑む。その顔は、美佳の目にはどうしようもなく色っぽく映った。

「ベッドの上でくらい、君を思うままにさせて」
「何、それ……っ」

 紫峰は意味深な言葉を呟き、また緩やかな動きを繰り返した。
 何かを耐えるような紫峰の顔を見上げながら、美佳はとても苦しい時間を過ごす。
 しっかりとしなやかな筋肉のついた紫峰の身体が上下するたびに、声が漏れる。
 身体が激しく脈打って、美佳に快感を知らしめる。
 どうして紫峰は、自分をこんなに愛してくれるのか。
「君が好きだから」と言って微笑んでくれるのか。
 仕事中はあんなにクールだった紫峰が、今は美佳の上でこんなに乱れている。
 その事実がたまらなく愛しくて、恥ずかしくて、でも心地いい――



   4


 紫峰に激しく抱かれた日も、仕事だった。
 出版社で戸田と打ち合わせ中だというのに、ボーッとしてしまっていたようだ。

「美佳、疲れてんの?」

 美佳は慌てて笑みを浮かべ、その場を取りつくろう。

「大丈夫です」

 今日は久しぶりに茶道の師匠のところに寄って帰ろうと思い、着物を着ている。帯の締め付けが、少しきつい。


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