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遠藤薫
しおりを挟む佐藤武士はお人好しである。
今まで何度も何度も悲しい思いをしてきました。
恋人に騙されて借金を背負い財産を失った。同僚の女性に会社の上司のセクハラを相談されて会社に訴えたが会社をクビにされ、後日会社に荷物を取りに行った時、同僚の女性は会社から和解金を受け取り辞めていた。
その後も何度も騙されて利用された。
幼い頃、父親の暴力に母が泣かされていた様子を見ていたせいか、女性の涙に弱く、守ってあげなければとの思いが強くなる。
そんな性格のせいで必要以上にのめり込んでしまうのかも知れない。
佐藤武士は55歳になっていた。新たな派遣会社と契約して大手製造業での部品仕分け業務をしていた頃、別の派遣会社から来た32歳の遠藤薫と言う、可愛らしい女性が入って来た。気さくな女性だったのですぐに打ち解け何度か同じ工程の作業をして親しくなっていった。何ヶ月かして帰りが途中まで同じになり歩きながら話をした。話の流れから食事に誘うと「彼氏がいるので」とやんわり断られた。食事に誘って不快な気持ちにさせるとセクハラになるが、彼女はそのような事はなく、その後、自分から誘う事はなかった。
1年ぐらいしてから彼女の行動が変わった。いつも仕事が終わると真っ先に帰っていたのに同僚の女性と話をしてゆっくり帰って行くようになった。職場に馴染み同僚女性と仲良くなったからだろうと思っていた。
そしてまた1年ぐらいが過ぎた。
その日の仕事帰り、遠藤さんと途中まで一緒になった。仕事の事とか話してるうちにプライベートの事も話し始めた。そんな話の流れから何気に飲みに誘った。OKしてもらうつもりも無く断られる前提だった。でも意外にもOKだっから日にちを決めて帰った。
数日後、仕事帰りに飲みに行く予定だったのだか、台風が接近してキャンセルになった。仕方がなく家に帰る途中、遠藤さんから電話があった。
来週から夏休みなるのだが、夏休み中で飲みに行こうという。武士はすぐにOKした。
後日、昼間から飲みに行く事になった。夕方には彼氏が帰ってくるので、それまでの時間ならって感じだった。
飲み初めは仕事の話だったが、1時間くらい飲んでいると彼女のプライベートな話になった。
同棲している彼氏とは3年ぐらいになるそうなのだが、結婚はしないのと彼女に聞いた。
それから彼女から色々な話を聞かされる事になる。
彼氏堀込亘と彼女が出会ったのは飲み屋で、その場で意気投合したそうである。彼女は単なる飲み仲間との認識だったようだが、2度目にはお互い体を重ねていた。お酒が入ると欲情してしまうのだと言う。それでも付き合う事はせず、堀込亘が8回目の告白でようやく付き合う事になったようだ。海外旅行に連れて行ってもらったのが決め手だったようだ。その後同棲生活を送るようになるのだが、彼女は家事が苦手だった。彼氏が何でもしてくれるので彼女には居心地の良い空間になっていたようだ。
同棲して1年経った頃、彼氏の陰茎が勃起しなくなった。デリヘル嬢を2年していた彼女のテクを持ってしてもらしい。
その後、SEXレスになったと言う。2年間もである。元々エッチが大好きでお酒を飲むと欲情する彼女が2年間オナニーだけで満足できるはずはない。でも彼女は我慢ができた。彼氏の献身的な家事のおかげだろう。そんな彼と家族になりたいと思ったが中々彼氏から結婚の話をしてくれない。彼氏は50歳と年齢の差があるがそんな事を気にしてかも知れない。彼女は決心して逆プロポーズをした。当然OKされるものと思っていた彼女は彼氏の返答に困惑する。結婚出来ない理由を彼女が家事出来ないから等、彼女への不満を理由に拒否したのである。
彼女は諦めきれずその後も2回、合計3回の逆プロポーズをするも同じ答えだった。
断られた日を境に外でお酒を飲むようになった。初めは友達との飲み会を断らなくなったぐらいだったが、地元の友達と飲む時は泊まりなのでお酒が入り男と寝るようになった。
今までで浮気は3回だと言うがそれ以上かも知れない。浮気した事で彼への後ろめたさもあり彼に逆らわないようになっていった。
その頃の彼氏は機嫌が悪いと彼女に辛辣な言葉などを言い精神的に追い詰めるようになっていったと言う。
普段は優しい彼氏なので彼女は機嫌を損ねないように行動するようになる。それが彼女にストレスを溜めさせる事になったのだろう。
そんな話を聞かされ、武士は彼女を助けたいと思ってしまった。愚痴を言う相手になるつもりで定期的に飲む事を約束して来月の日にちも決めた。
お人好しで思い込みも激しい武士は、遠藤さんに毎朝メールを送るようになる。もちろん仕事に行く時だけだが。彼女も返信してくるので了承してくれていると思っていた。
約束した日付の2週間前に、たまたま帰りが途中まで一緒だったので、飲む日を楽しみにしてる事を告げると、約束した事も覚えておらず別の予定を入れていた。
「酒飲みの言う事を信じちゃダメだよ」
謝罪もなく彼女のそんな台詞に異常な怒りを覚えた。
その夜、メールで残念だった話などしていると、彼氏とは良好の関係を保っており、別れるつもりなどないのだと言う。彼氏が別れてくれないと言っていたのはただの愚痴だったようだ。しかしいくら歳が離れているからとはいえ、あんなディープな話を聞かされて、ただの愚痴だとは思わないだろう。
「色々思ってくれるのはありがたいが、今の生活を変える気はないので悪しからず。」
このメールの返信を見た時、何かが音を立てて壊れていくのを感じた。それはやがて殺意と憎悪、狂気へと変わっていった。
数日後、派遣先を辞め、別の仕事をする様になった。彼女に狂気を味合わせる為である。
平日に動けるように土日中心に仕事をした。
前の勤め先の駐輪場に忍び込み、遠藤さんの自転車にGPS発信機を取り付けた。
やがて遠藤さんの家を特定し、ガス会社の制服を着て部屋に忍び込み、盗聴器を仕掛けた
遠藤さんと彼氏の会話を聞き、それぞれの行動を把握した。
道具を揃えて再び遠藤さんの部屋に忍び込み
パソコンを遠隔操作できるようにして準備完了である。
そのパソコンから爆薬の原料などを注文して
玄関に宅配BOXを置き、宅配便を装い回収、
爆弾などを製造した。
犯行当日、帰宅途中の堀込亘を拉致し、帰宅する遠藤さんの携帯にメールを送る。
「モラハラ男排除」の文と共に動画を送った。動画内では手足を縛られて椅子に座っている彼氏の映像が送られている。右隅にはデジタル表示がありカウントダウンのように0に近づいていた。
「なんなのこの動画?」と思った時、デジタル表示が0になった。次の瞬間、ボンっと鈍い音と共に画面に肉片が飛び散り椅子に座っていた彼氏の上半身が無くなっていた。
遠藤さんは急いで自転車を漕ぎ自宅に向かった。急いで玄関まで行き、鍵を開けて家の中に入った。
家の中には椅子に座った彼氏がこちらを向いていた。その姿を見てホッとする遠藤さん。
「なんだイタズラだったんだ」そう思った瞬間である。遠藤さんが彼氏に何かを言おうとした時、首にはまっていた首輪の色が赤に変わった…ボンっと音がして彼の首から上が飛散した。肉片が遠藤さんの顔にも飛んでいる。その瞬間、遠藤さんは気絶した。
送った動画は編集で加工しており、遠藤さんは2度、堀込亘の死を目撃したのである。
翌朝、目を覚ますと裸になっていて右手には彼氏の切り取られた陰茎を握り、左手には何かのスイッチを握っていた。そして右横には首のなくなった彼氏の死体が裸で横たわっていた。
佐藤武士は大手家電量販店のTV売り場にいた。朝のニュースが流れていた。
「神奈川県相模原市で首の無い遺体が発見されました。警察は同じに部屋に住んでいた内縁の妻、遠藤薫34歳を殺人容疑で逮捕、詳しい動機などはわかっていないそうです」
武士の口元が不気味に笑っていた。
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