ファザコン由香里と親バカ達也

浜桜 直政

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第二章 英雄の娘 

第5話 親友麻里と三田村先生

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「具合はどう」
保健の先生、三田村先生がドアを開けて入ってきた。 

「大丈夫だと思います。少し体が痛くて頭がボーとしますけど」
由香里は少し弱音を吐きながら言った。

「まだ休んでた方が良いみたいね」
三田村先生は優しく声をかけた。

「でも担任の小田先生が話を聞きたいって言っているから」
無理にでも起きあがろうとする由香里を三田村先生が止めた。

「小田先生が話を聞きにくることはないと思う。斉藤先生がすでに動いているから」少し緊張した声で三田村先生は話す。

「今まで新堂さんが絡んでいる事案は一切表沙汰になっていません。これからもそうなります。だから今回の件も無かった事になるでしょう」苛立ったような強い口調で三田村先生は話した。

「新堂さんの父親は学園に多額の寄付、それに日本で有数の製薬会社社長の娘がイジメなんて表沙汰にはできませんもんね」麻里が嫌味たっぷりに話に入ってきた。

「そうですね。今の学園で新堂さんに意見する事が出来る教師などいません。でも今回ほど自分が恥ずかしいと思った事はありません」涙ぐみながら淡々と話す三田村先生。

「由香里さんという1人の人間を蔑ろにしているのに…」自分に対しても憤りを感じている三田村先生の気持ちが嬉しかった。

「でも今回の事で私は決意しました。このままではいけないと。変わらなくてはいけないのだと」三田村先生の目には涙と共にひとつの覚悟を決めた光があった。

「先生ありがとう」
由香里は保健室のベッドから起き上がり、三田村先生の手を取って両手で握り締めた。

由香里の目からは涙が溢れて止まらなかった。一緒にいた麻里ももらい泣きをしていた。

その時、布団から出た自分の格好に、一瞬固まった。下着だけの自分に。

「どどどどうして私こんな格好を?」
泣き顔の顔が真っ赤になって動揺する由香里。

「だって制服びしょ濡れだし下着もびしょ濡れだったから着替えさせたの。風邪ひいちゃうでしょ」さっきまで泣いていた麻里がニヤニヤしながら話す。

「それは嬉しいけど、この下着は麻里の?」見た目はかなりセクシーな下着を身につけているのが不可解だった。

「私がそんなエロい下着持ってるわけないでしょ。三田村先生のよ」由香里は三田村先生をじっと見て、また顔を真っ赤にした。

「由香里さんはスタイル良いわね。私のはEなんだけどサイズピッタリだし、ヒップも流石10代だよね。先生の方が落ち込んだわ」三田村先生は面白そうに笑って話した。

「先生が着替えさせてくれたんですか?」由香里は恥ずかしそうに聞く。

「麻里さんと2人でね。麻里さんが自分だけで良いと言うんだけど危なそうだったからね」由香里は麻里の方を見て睨んだ。

「また体触ろうとしたでしょ。本人が気絶しているのを良いことに」由香里は麻里を問いただした。

「だって由香里の体を直に触れるチャンスだったんだもん。逃すわけにはいかないわ」悪びれる事もなく話す麻里。

「先生も言ってたけど由香里また胸デカくなっているでしょ。羨ましくて羨ましくて。触って確かめたいじゃない」
赤面するようなことを当たり前のように話す麻里。

「やっぱりね。悪巧みしているのは顔を見て分かったわ。だから脱がせるだけにしたの。体を拭いて下着を着せたのは私よ」三田村先生が麻里の欲望を止めてくれたらしい。

「先生ありがとう。麻里はただの変態だからいつも危険で」ほっとした様子で話す由香里。

「ひどいわ。先生まで。私は由香里の事が本当に心配だったんだから」目をウルウルしながら訴える麻里。
 
「心配してくれたのと体を触ろうとしたのは別でしょ。感謝してるから今度ランチ奢るね」少し笑いながら親友に感謝の言葉を言う由香里。

「麻里さん。由香里さんのジャージは持って来てくれた?」三田村先生が麻里に尋ねる。

「はい。教室まで行って取って来ました」麻里は先生に答えた。
 
「じゃあ由香里さんはそれに着替えて今日はもう帰りなさい。お家の人に迎えに来てもらう?」三田村先生が由香里を気遣う。

「大丈夫です。自転車だし20分もあれば着けるので」由香里はジャージに着替えながら先生に答えた。

「途中まで私も一緒なので大丈夫です」麻里が自信満々に答えた。

「もう日が暮れたから気をつけてね。」
三田村先生も立ち上がり、2人と共に保健室を出る。

「借りた下着は洗って返します」
小さな声で由香里が先生に話す。
「良いわよ。あなたにあげる。似合っていたしね」先生も小さな声で由香里にウィンクしながら話す。
 
少し前を歩いている麻里は止まって後ろを振り向いた。
「由香里、三田村先生。遅いわよ」

少しイラついた感じで廊下の分かれ道に立っていた。

由香里と麻里は自転車置き場に、三田村先生は駐車場にそれぞれ別れて向かう。

「先生さようなら」
2人が声をかける
「さようなら。気をつけて帰ってね」
三田村先生も声をかける

お互いが見えなくなるまで手を降ってそれぞれの帰途についた。

由香里と麻里。しばらくは何も言わずに自転車を押して歩いていた。ゆっくりとゆっくりと。

「今日はありがとう。ううんいつもありがとう麻里」由香里が麻里に感謝を伝えた。

「何言ってるの。イジメられてるのわかってても、怖くて止めにも入られなかったんだよ。先生達と変わらないよ」
麻里は何もできない自分を責めた。

「でもこうして側にいてくれる。それだけで十分だよ」由香里は優しい顔で話す。

「一緒にいるだけでもイジメられるかも知れないから周りの人は誰も近寄りもしないもの。麻里だけが私に寄り添ってくれる。それだけで1人じゃないって思えるから」由香里は本当に感謝してる事を麻里に語っていく。

「それに関わって一緒にイジメられたら私が辛い。標的は私だけで良いから」
決意に満ちた目で麻里を見つめる。

「私が強かったらって思う。何度もそう思った。なんで私には力がないんだろうって」絶望感に襲われながら涙ながらに麻里は話す。

「ううん。麻里は強いよ。弱かったら何も関わらないでしょ。こうやって一緒に居てくれるだけで助かっているから。だから自分を責めないで」自転車を停めて、麻里の肩をそっと抱きしめる。2人で抱き合いながら人目も憚らず大声で泣き合った。

泣き声が静かになり、2人はお互いを気遣うように離れる。数分互いの顔を見つめ合い、やがて笑顔になる。

「じゃあまた明日ね。」
お互いが挨拶してそれぞれの家路に向かった。

見上げた空はいつもより星が輝いていた。
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