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01.ある高校生の記憶
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「いくぞー!!」
俺が叫ぶと源内は親指を立てる。
「おっし! 支えろー!!」
プロペラ機の翼を支えるように、男が2人組み付いた。
源内は後ろに回って、飛行機の胴体に手を回す。
ここは海にせり出した崖の上。
薄く長い羽根を付けた機体の中、俺はサドルを漕ぎ出した。
プロペラはゆっくりと回り出す。
足元でキリキリと音が鳴る。その音に負けんとばかりに、プロペラの音が次第に大きくなっていく。
プロペラから出る風が、足元の雑草を斜めに倒した。
「よーし! みんな! いくぞー!!」
源内が指示を出すと、3人そろって歩き出す。
高校2年のゴールデンウィーク、俺達4人は集まって人力飛行機を飛ばすことにした。
工作大好き源内。化学大好き柴郎。ギャンブル大好き三蔵。
そこに実験好きな俺が加わって、昔なじみの4人組が完成する。
何でも試すをモットーにしている俺達は、昔から色々なことを試してきた。
三蔵が賭け事に勝つと、町のどこかで爆発が起きると言われたほど。
爆発は三回しかしてないのに、いつの間にかそう言われていた。
今は町近くの沿岸で、人力飛行機の試運転をしている。
四人で鳥人間コンテストを見ていたら、なぜか情熱が湧いたから。
思い立ったが吉日。
ちょうど三蔵も金を持っていたし、受験勉強前という良いタイミング。4人でせっせとスケジュールを立てたら、思ったよりも簡単に飛行機は出来上がった。
源内と柴郎が設計したこの飛行機には、プラスチック製の浮き輪が付いている。
ついでにモーターも付いている。
何で付いているんだと聞いたら、着水後はモーターボートにできるらしい。帰り道も考えてある素晴らしい設計だ。
……そうか?
「おおおおおおーーー!!」
俺は叫びながらペダルを漕ぐ。
最初は思いっきり漕げと言われていた。
なんでも、この飛行機は初速が大事らしい。
飛行機はまっすぐ崖に向かって突き進み、崖下から吹きあがってくる風に乗る。
翼が大きく上にしなり、俺の体は宙に浮いた。
順調だったのはそこまで。
飛行機は横風に流さた。
翼は上に吹っ飛んだ。
飛行機の機首が下を向く。そのままスピードを上げて、海の中に飛び込んだ。
「ごぼごぼごぼっ!」
――なんだよあのくそ設計! 飛ばねえじゃねえか!
水中で目を開けて、明るいところを探す。
――あった。あっちが水面だ。
救命胴衣はつけている。ついでにGPSも付けている。
安全は確保していた。はずだった。
「ごぼっ!」
足に何かが引っかかる。
蹴とばそうとして、蹴とばせない。
下を向くと、ペダルに足が挟まっていた。
屈もうとして、救命胴衣の浮力に邪魔をされる。手がなかなか届かない。
「ぼぼぼっ!」
やっと手が届いた。足を外したところで、真下に真っ暗な塊があることに気が付いた。
黒い塊の中に、飛行機は落ちていく。
まぁそんなのどうでもいい。
だいぶ深いところまで沈んでしまった。
俺は上に向かって泳ぎ出す。
両手を伸ばして、1回、2回、大きく海水を掻き分けた。
海面が近づく。
源内と柴郎になんて言ってやろう。そんなことを思っていた。
……いつまでたっても水面に出ない。
――この明るさなら、もう1回腕を回せば届くはずだ。
そう思って上に泳ぐが、出られない。
嫌な気がした。
下を向く。
黒い塊が、俺の右足を包んでいた。
「っぼぼ!?」
俺が暴れたせいか、黒い塊は膝、腰、胸まで上がってくる。
叫ぼうとしても声が出ない。
大暴れに暴れた結果、頭が少し水面に出た。
黒い塊は首から離れる。
「ぷはぁあー!!」
肺の空気を入れ替える。
肩も海上に持ち上げる。その時、自分の何かが海中に引き抜かれた。
体は上にあるのに、視点が海の中にある。黒が横から伸びてきて、視界が暗くなっていく。
もう上も下も分からない。振り回すべき両手もない、意味が分からない。
――源内、柴郎、三蔵 ごめん……
しばらくして、意識が落ちた。
黒い塊は海中で白く発光する。
長く鈍く光った後、それは水中から姿を消した。
====
思い立ったが吉日とは、何だったっけか。
頭がぼーっとする。
息はできないのに、苦しくはない。
体は熱いし耳も聞こえない。視界は暗いままで、やや体が宙に浮く。
アイソレーション・タンクっていうのがある。
光や音が遮られたタンクの中、温かいお湯に浮かぶことでリラックスできるっていう高級装置。
柴郎があれを欲しがってたなー……俺とは縁のないものだと思ってたけど。
ここはどこだろう、たしか死んだはずだ。死んだらどこに行くんだっけ。
うちはたしか仏教だったはずだ。てことは地獄か、それとも極楽か。結構人に迷惑をかけて生きてきたよな俺……。
三蔵が言ってたなー、地獄の沙汰も金次第って。俺金持ってないや。どうしよう。
まぁ、法は守ってたしなー。てことは極楽か。うん、きっとここは極楽だ。
そんなことを思っていると、声が聞こえてくる。
気付けの声かな。
俺を起こそうとするのは、極楽の住民かなー。
そういえば、極楽の住民は男しかいないって言ってたな。女も死んだら男になるとか……それって地獄じゃないか?
(ないわー……、ないわー……)
ふて寝をしてても、声はどんどん大きくなる。
何の声か聞き分けることができた。これは赤ん坊の泣き声だ。
「あぎゃーーーー! あぎゃーーーー!!」
赤ん坊の声は耳によく響く。そして、どうにも無視ができない。
起き上がろうと背中に力を入れると、体の感覚が掴めるようになった。
俺はセミみたいに、全身で音を出していることに気が付いた。肺を目いっぱい使って何か叫んでる。
あぁ、泣いているのは自分だと、なんとなく推測が付いた。
泣くのを止める。
目は開かない。急に尻が叩かれた。
(いっってぇ!!)
叩かれる毎に、ヒリヒリした痛みが染み渡る。
思わず泣き声が出る。
すると、尻は叩かれなくなる。
そうやって五感を取り戻した俺は、またすぐに意識を失っていった。
====
次に目を覚ました時、茶髪の女性と目が合った。やたら近い距離から、笑顔でこっちを覗き込んでいる。
やや丸顔で、おっとりとした雰囲気のある女性だ。美人だ。見ててなんか恥ずかしくなる。
でも首は動かない。目を合わせるしかない。
ジッと見てて気が付いた。この人やけに目鼻立ちがはっきりしてる。うちの地元じゃ見ない顔だ。
「・・・・――!・・・・――。」
女性が俺に話しかけてくる。
でも、声がキンキンと響き、何を言っているのか分からない。
しばらくした後、女性の横に男の人が現れた。
この男の人も髪は茶髪で、目鼻立ちがはっきりしている。
白衣は着ていない、変な柄の入った服を着ている。医者じゃないだろう。
2人とも顔にたるみがない、むしろハリがある。俺達より少しだけ年上かも。
なんとなく、嫌な予感がした。
「えーー、あえーー」
喋ろうとしたが舌が動かない。まるで麻酔を打った後のような、だらしない声が出る。いや、これはまさか……。
背中を上げようとしても、上がらない。
男性が手を伸ばし、俺の右手を触る。
触られた感覚で、男性の手がとてつもなく大きいことが分かった。
――恐ろしい。
強い恐怖を感じた。感情が込み上がる。
気が付いたら、俺は泣き出していた。
泣きやめない。止まらない。
女性に抱き上げられ、頭と背中を支えられた。
さっきの声にならない言葉は、喃語《なんご》ってやつだ……。
自分が赤ん坊になっているって、ここではっきり理解した。
====
半年も経つと、嫌でも自分の状況が分かる。
どうしてか、生まれ変わった。
俺は本当に死んだのか。
分からない。溺死したように感じたけれど、最後は頭が水面に出たような気もする。せめて死因をハッキリさせたい。
あの黒い塊はなんだったのか。
わからない。海坊主? うちの地元にそんな伝説はなかったけど。
ここはどこだろうか。
どこぞの家の広間だ。ベッドに寝かされている。
寝ているだけの毎日だと、自然と自問自答が続きます。
1歳にして悟りが開けるかもしれない。将来は聖人かな。妄想症にならないように気を付けよう。
ここで最初に見た二人の男女が、俺の両親だ。
お父さんは朝早くから家を空けることが多くて、何日も帰ってこないことが多い。
お母さんは常に側にいてくれて話しかけてくれる。前に授業で習ったな、マザリーズってやつだ。ずっとニコニコ笑顔で喋ってる。
すっごく表情豊かに話しかけてくれるおかげで、なんと言っているのか段々と分かるようになってきた。
俺の名前は"ハイヤーン"。性は男で、姓はない。
====
ある日の朝、母に抱きかかえられて外に連れ出された。
母は目元まで収まる大きなフードを被っている。
俺も厚い布を被せられた。
きっとこれは熱中症対策だろう。お心遣い、感謝します。
布の下から見える初めての外の世界は、薄暗く狭い路地だった。
しかし、角を曲がって路地を抜けた先は絶景。
目の前から、地面が消えたように感じる。
一面に青い空と、天を突くような、雪に覆われた巨大な山脈がそびえている。
奥にはもっと大きな山があるみたいだけど、布が邪魔で見えない。
母が階段を下りる先には大通りがある。
通りに立っている建物は、どれも四角い形をしている。
歩いている人々は、みんな目元まで隠れるフードを被っていた。
はい、ここは母国ではありません。
山がちでフードを被る人が多いということは、中東のどこかでしょうか。インドネシアもありえます。
――まーじーかー、がいこくかー……
絶景に心打たれ、外国であることに心砕かれ……
しばらく歩いていると、フードを被った少年が話しかけてきました。
「こんにちは! ウンマーさん! どこに行くんですか!?」
「こんにちはカグンくん、今日はこの子を連れて買い物よ。これから訓練に行くの?」
カグンは「はい!」と笑顔で返事をした後、急にこちらを覗き込む。
カグンの体が一瞬白く光った後、目の前に元気な顔が現れた。
――動きが速い! 超怖い!
思わず、母にしがみつく。
「耳の大きな子ですね!」
「ええ、きっと長生きするわ」
「なら戦士が向いてますね。将来はどうするんですか?」
「私達が決める気はないの。この子に選んでもらうつもりよ」
そんな雑談を交わした後「それじゃ!」と言ってカグンは去っていった。
俺が叫ぶと源内は親指を立てる。
「おっし! 支えろー!!」
プロペラ機の翼を支えるように、男が2人組み付いた。
源内は後ろに回って、飛行機の胴体に手を回す。
ここは海にせり出した崖の上。
薄く長い羽根を付けた機体の中、俺はサドルを漕ぎ出した。
プロペラはゆっくりと回り出す。
足元でキリキリと音が鳴る。その音に負けんとばかりに、プロペラの音が次第に大きくなっていく。
プロペラから出る風が、足元の雑草を斜めに倒した。
「よーし! みんな! いくぞー!!」
源内が指示を出すと、3人そろって歩き出す。
高校2年のゴールデンウィーク、俺達4人は集まって人力飛行機を飛ばすことにした。
工作大好き源内。化学大好き柴郎。ギャンブル大好き三蔵。
そこに実験好きな俺が加わって、昔なじみの4人組が完成する。
何でも試すをモットーにしている俺達は、昔から色々なことを試してきた。
三蔵が賭け事に勝つと、町のどこかで爆発が起きると言われたほど。
爆発は三回しかしてないのに、いつの間にかそう言われていた。
今は町近くの沿岸で、人力飛行機の試運転をしている。
四人で鳥人間コンテストを見ていたら、なぜか情熱が湧いたから。
思い立ったが吉日。
ちょうど三蔵も金を持っていたし、受験勉強前という良いタイミング。4人でせっせとスケジュールを立てたら、思ったよりも簡単に飛行機は出来上がった。
源内と柴郎が設計したこの飛行機には、プラスチック製の浮き輪が付いている。
ついでにモーターも付いている。
何で付いているんだと聞いたら、着水後はモーターボートにできるらしい。帰り道も考えてある素晴らしい設計だ。
……そうか?
「おおおおおおーーー!!」
俺は叫びながらペダルを漕ぐ。
最初は思いっきり漕げと言われていた。
なんでも、この飛行機は初速が大事らしい。
飛行機はまっすぐ崖に向かって突き進み、崖下から吹きあがってくる風に乗る。
翼が大きく上にしなり、俺の体は宙に浮いた。
順調だったのはそこまで。
飛行機は横風に流さた。
翼は上に吹っ飛んだ。
飛行機の機首が下を向く。そのままスピードを上げて、海の中に飛び込んだ。
「ごぼごぼごぼっ!」
――なんだよあのくそ設計! 飛ばねえじゃねえか!
水中で目を開けて、明るいところを探す。
――あった。あっちが水面だ。
救命胴衣はつけている。ついでにGPSも付けている。
安全は確保していた。はずだった。
「ごぼっ!」
足に何かが引っかかる。
蹴とばそうとして、蹴とばせない。
下を向くと、ペダルに足が挟まっていた。
屈もうとして、救命胴衣の浮力に邪魔をされる。手がなかなか届かない。
「ぼぼぼっ!」
やっと手が届いた。足を外したところで、真下に真っ暗な塊があることに気が付いた。
黒い塊の中に、飛行機は落ちていく。
まぁそんなのどうでもいい。
だいぶ深いところまで沈んでしまった。
俺は上に向かって泳ぎ出す。
両手を伸ばして、1回、2回、大きく海水を掻き分けた。
海面が近づく。
源内と柴郎になんて言ってやろう。そんなことを思っていた。
……いつまでたっても水面に出ない。
――この明るさなら、もう1回腕を回せば届くはずだ。
そう思って上に泳ぐが、出られない。
嫌な気がした。
下を向く。
黒い塊が、俺の右足を包んでいた。
「っぼぼ!?」
俺が暴れたせいか、黒い塊は膝、腰、胸まで上がってくる。
叫ぼうとしても声が出ない。
大暴れに暴れた結果、頭が少し水面に出た。
黒い塊は首から離れる。
「ぷはぁあー!!」
肺の空気を入れ替える。
肩も海上に持ち上げる。その時、自分の何かが海中に引き抜かれた。
体は上にあるのに、視点が海の中にある。黒が横から伸びてきて、視界が暗くなっていく。
もう上も下も分からない。振り回すべき両手もない、意味が分からない。
――源内、柴郎、三蔵 ごめん……
しばらくして、意識が落ちた。
黒い塊は海中で白く発光する。
長く鈍く光った後、それは水中から姿を消した。
====
思い立ったが吉日とは、何だったっけか。
頭がぼーっとする。
息はできないのに、苦しくはない。
体は熱いし耳も聞こえない。視界は暗いままで、やや体が宙に浮く。
アイソレーション・タンクっていうのがある。
光や音が遮られたタンクの中、温かいお湯に浮かぶことでリラックスできるっていう高級装置。
柴郎があれを欲しがってたなー……俺とは縁のないものだと思ってたけど。
ここはどこだろう、たしか死んだはずだ。死んだらどこに行くんだっけ。
うちはたしか仏教だったはずだ。てことは地獄か、それとも極楽か。結構人に迷惑をかけて生きてきたよな俺……。
三蔵が言ってたなー、地獄の沙汰も金次第って。俺金持ってないや。どうしよう。
まぁ、法は守ってたしなー。てことは極楽か。うん、きっとここは極楽だ。
そんなことを思っていると、声が聞こえてくる。
気付けの声かな。
俺を起こそうとするのは、極楽の住民かなー。
そういえば、極楽の住民は男しかいないって言ってたな。女も死んだら男になるとか……それって地獄じゃないか?
(ないわー……、ないわー……)
ふて寝をしてても、声はどんどん大きくなる。
何の声か聞き分けることができた。これは赤ん坊の泣き声だ。
「あぎゃーーーー! あぎゃーーーー!!」
赤ん坊の声は耳によく響く。そして、どうにも無視ができない。
起き上がろうと背中に力を入れると、体の感覚が掴めるようになった。
俺はセミみたいに、全身で音を出していることに気が付いた。肺を目いっぱい使って何か叫んでる。
あぁ、泣いているのは自分だと、なんとなく推測が付いた。
泣くのを止める。
目は開かない。急に尻が叩かれた。
(いっってぇ!!)
叩かれる毎に、ヒリヒリした痛みが染み渡る。
思わず泣き声が出る。
すると、尻は叩かれなくなる。
そうやって五感を取り戻した俺は、またすぐに意識を失っていった。
====
次に目を覚ました時、茶髪の女性と目が合った。やたら近い距離から、笑顔でこっちを覗き込んでいる。
やや丸顔で、おっとりとした雰囲気のある女性だ。美人だ。見ててなんか恥ずかしくなる。
でも首は動かない。目を合わせるしかない。
ジッと見てて気が付いた。この人やけに目鼻立ちがはっきりしてる。うちの地元じゃ見ない顔だ。
「・・・・――!・・・・――。」
女性が俺に話しかけてくる。
でも、声がキンキンと響き、何を言っているのか分からない。
しばらくした後、女性の横に男の人が現れた。
この男の人も髪は茶髪で、目鼻立ちがはっきりしている。
白衣は着ていない、変な柄の入った服を着ている。医者じゃないだろう。
2人とも顔にたるみがない、むしろハリがある。俺達より少しだけ年上かも。
なんとなく、嫌な予感がした。
「えーー、あえーー」
喋ろうとしたが舌が動かない。まるで麻酔を打った後のような、だらしない声が出る。いや、これはまさか……。
背中を上げようとしても、上がらない。
男性が手を伸ばし、俺の右手を触る。
触られた感覚で、男性の手がとてつもなく大きいことが分かった。
――恐ろしい。
強い恐怖を感じた。感情が込み上がる。
気が付いたら、俺は泣き出していた。
泣きやめない。止まらない。
女性に抱き上げられ、頭と背中を支えられた。
さっきの声にならない言葉は、喃語《なんご》ってやつだ……。
自分が赤ん坊になっているって、ここではっきり理解した。
====
半年も経つと、嫌でも自分の状況が分かる。
どうしてか、生まれ変わった。
俺は本当に死んだのか。
分からない。溺死したように感じたけれど、最後は頭が水面に出たような気もする。せめて死因をハッキリさせたい。
あの黒い塊はなんだったのか。
わからない。海坊主? うちの地元にそんな伝説はなかったけど。
ここはどこだろうか。
どこぞの家の広間だ。ベッドに寝かされている。
寝ているだけの毎日だと、自然と自問自答が続きます。
1歳にして悟りが開けるかもしれない。将来は聖人かな。妄想症にならないように気を付けよう。
ここで最初に見た二人の男女が、俺の両親だ。
お父さんは朝早くから家を空けることが多くて、何日も帰ってこないことが多い。
お母さんは常に側にいてくれて話しかけてくれる。前に授業で習ったな、マザリーズってやつだ。ずっとニコニコ笑顔で喋ってる。
すっごく表情豊かに話しかけてくれるおかげで、なんと言っているのか段々と分かるようになってきた。
俺の名前は"ハイヤーン"。性は男で、姓はない。
====
ある日の朝、母に抱きかかえられて外に連れ出された。
母は目元まで収まる大きなフードを被っている。
俺も厚い布を被せられた。
きっとこれは熱中症対策だろう。お心遣い、感謝します。
布の下から見える初めての外の世界は、薄暗く狭い路地だった。
しかし、角を曲がって路地を抜けた先は絶景。
目の前から、地面が消えたように感じる。
一面に青い空と、天を突くような、雪に覆われた巨大な山脈がそびえている。
奥にはもっと大きな山があるみたいだけど、布が邪魔で見えない。
母が階段を下りる先には大通りがある。
通りに立っている建物は、どれも四角い形をしている。
歩いている人々は、みんな目元まで隠れるフードを被っていた。
はい、ここは母国ではありません。
山がちでフードを被る人が多いということは、中東のどこかでしょうか。インドネシアもありえます。
――まーじーかー、がいこくかー……
絶景に心打たれ、外国であることに心砕かれ……
しばらく歩いていると、フードを被った少年が話しかけてきました。
「こんにちは! ウンマーさん! どこに行くんですか!?」
「こんにちはカグンくん、今日はこの子を連れて買い物よ。これから訓練に行くの?」
カグンは「はい!」と笑顔で返事をした後、急にこちらを覗き込む。
カグンの体が一瞬白く光った後、目の前に元気な顔が現れた。
――動きが速い! 超怖い!
思わず、母にしがみつく。
「耳の大きな子ですね!」
「ええ、きっと長生きするわ」
「なら戦士が向いてますね。将来はどうするんですか?」
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