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第二話(三姉妹のアンドロイド)
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相手が言うように深紅たんの立っている位置はスリーポイントより更に後ろのセンターサークルというあり得ない位置だったが、俺は別段気にしちゃいない。関係無いからな。深紅たんなら何処からシュートを打とうが、
「……嘘、だろ……」
あんな華奢な体の何処にボールをあの距離から遠くまで飛ばす力があるのかと疑いたくもなる気持ちもわかるが、これが現実だ。
深紅たんの打ったボールは綺麗に、見事ゴールに入って落下した。
周りのギャラリー達も驚きを隠せずに声を上げる。これなら勝てるかもしれないと。
「はは。まぐれだろ、まぐれ……次は外すさ」
「そうかな。家の深紅たんに勝てる人間何かこの世に存在しないと思うのだが」
「えらい自信だな。お前の連れはバスケ経験者なのか?」
「いいや。これが初めてだ」
「ああ?何ふざけたこと言ってやがる?」
「あの子は何でもすぐに覚えちまうんだよ。それもプロ級にな」
相手のシューターもシュートに成功したようだが、それもいつかは外す。
深紅たんが外すことは無いだろうから、彼等が敗北するのは時間の問題だな。
どちらも一本も外さないまま、順番が十回を越えたところで相手の表情が辛そうになってきているのが見て確認できた。
「はぁ、はぁ……コイツ、すげぇ。スリー何回決めるつもりだよ」
正確にはスリーじゃない。深紅たんはそれよりも更に遠い位置でシュートしているからな。
もう諦めてはくれないかねぇ。この一騎打ちを観戦している客だってアンタ等の敗北を望んでいるだろうさ。
「くそう!こんなガキに負けてられるかよ!」
男のシュートはまたしてもゴールに入った。
「アンタ、深紅たん程じゃないが結構入れるな」
「けっ、当たりめぇよ。俺は高校三年間バスケ部でスリーポイントのシューターを任されていたんだ。あんな女子児童に負けたら立ち直れなくなっちまう」
立ち直れなくなるだろうな。その言葉通りに。
深紅たんはゲームで例えるなら難易度最高クラスのラスボスだな。
ちょこっとスリーポイントが上手いくらいの一般のプレイヤーじゃあの子には足元にも及ばないだろうぜ。きっとプロ選手と相手をしても負けないだろう。
アンドロイドに絶対はあっても人間に絶対は無い。
「やべぇ!」
十二回目にして、相手の男がシュートを外した。
彼も頑張った方だが、やっぱり深紅たんには敵わなかったか。
俺は深紅たんと勝利のハイタッチをした。
「負けた……だと……こんなチビなJSに、俺が……」
「深紅の勝ち。コートを皆に譲って欲しい」
敗北したことを信じられなかったのか、男達は暫く固まったままだった。
もう俺達にやれることは何もない。後は彼等が自分からこの場を立ち去ることを祈るだけだ。
「行こう、深紅たん。もう十分楽しんだだろ。これで退かないようなら此処からは店員の出番だ」
携帯で時間を確認したら現在十六時。気付けばもうこんな時間か。一日此処で遊んでいたんだな。
学校がもうちょいで終わる時間だし、そろそろ家へ帰るか。
深紅たんはまだ遊び足りていないような感じでメダルを入れれば出来るパチンコ台を眺めていたのだが、やってみたいのだろうか?
俺は深紅たんにパチンコは似合わないと思うわ。そんな大人向けのゲームよりかはあっちにあるモグラ叩きや太鼓のリズムゲームでもしていた方が子供らしい可愛げがあるというものよ。
「主、これやってみたい」
深紅たんが次に興味を持ったのは片手にグローブをはめ的を殴ると自分のパンチ力を測定出来るパンチングマシーンだ。
何となく結果が想像出来る自分が怖いぜ。俺に言えるのはこの一言だけだな。
「主、百円」
「はいはい。やっても良いけど、壊さないようにな」
「了解した」
俺の予想通りに、凄まじい音と共に壊れたパンチングマシーン。
計測不能。一体どれ程の拳を叩き込めばこのマシーンは壊れるのだろう。
「深紅たん、俺、壊さないようにって言ったよね」
「普通にパンチしただけ」
「まあ、そりゃそうなのだが。ちなみに聞くが深紅たんのパンチ力って未来の俺はどのくらいに設定していたのかな?」
「4tから5t」
「そりゃ壊れるわ!」
人間にそんなパンチ力持ってる奴何か存在しねぇよ。
深紅たんに軽く殴られただけで即死するな。
「さっきの人達を心に思い浮かべて殴ってみたら、余計な力が入った」
「もしかして、深紅たん怒ってる?」
「深紅のこの容姿を設定し作ったのは主。勝手に小学生と間違われるのには少々の不快を感じる。それに、彼等の言うJSはもう少し背が小さいと思われる」
ああ。さっきの奴等に言われたこと何気に気にしてたのね。
てっきり何も反論しないから気にしていないのかと。
「まあ、身長140ちょうどくらいしかない童顔の深紅たんじゃ間違われても仕方がないだろうなぁ」
「主のせいだ。ロリコン趣味の主のせい」
「文句がおありなら未来の俺に頼む。深紅たんを作ったのはこの時代の俺じゃない。クレームをつける相手が間違っているぞ」
「未来の主はもう何処にもいない……だから過去の主に言ってる」
……あ、やべぇ。そうだった。未来の俺はもう。
こんなこと口にするんじゃなかったな。これじゃ深紅たんがまた悲しむことに。
「ちょ、ちょっと待ってな」
何とか深紅たんに再び元気を取り戻そうと、俺が携帯で調べ始めたのはクレーンゲームのマスター方法。
最近はこれ一つで何でも調べられるから便利なもんだ。
「ほうほう……なるほどな……これなら俺にも取れるかも……」
深紅たんには暫く近くにあった休憩所で休んでいてと伝えて、俺は調べた情報を頭に記憶しあの子が貰って喜びそうな景品の入っていそうなクレーンゲーム機を探し始めた。
俺が興味を惹かれたのはとあるキャラクターのぬいぐるみ。
それは「パンタヌ」というゆるキャラでパンダとタヌキが合体したような人気キャラだ。
ぬいぐるみはさっき十分に自分で取っていた気がするが、これは取っていなかった筈だし、何よりこれを抱きしめる深紅たんを想像したら可愛過ぎて興奮で鼻から血が噴き出しそうだ。
よし、決めた。これにしよう。
「あれ……可笑しいな」
さっそくプレイし始めようと思いメダルを投入しようとするが入らない。
よく見たらこれ1プレイ百円だ。メダルを入れて出来るものと出来ないのが混ざっているんだな。人気あるキャラクターだし、ぬいぐるみのサイズがメダルのより大きいし仕方がないのか。
出来れば千円までで入手したいものだが……さて、結果はどうなることやら。
(ぐっ、難し過ぎだろ、これ……深紅たんはよくこんなのを簡単に取ってたな。やっぱクレーンは何時やっても取れる気がしない。素人が手を出して良いゲームじゃねぇな)
もう千円以上持っていかれた。何か箱系の景品よりぬいぐるみの方が難しい感じするわー。
何処にアームを引っ掛けたら良いかわからねぇ。
でも、俺は諦めない。持ち金が尽きるまでは……。
「ふ、待たせたな。深紅たん」
「主、遅い」
「コイツを深紅たんにプレゼントしようと思ってな」
結局三千円も投資しちまったよ。これだけ金を消費している様を店員が見るに見かねてぬいぐるみの位置を取りやすい場所へ移動してくれたのだ。あのアシストがなければこれは取れずに終わっていただろうよ。
俺はさっそくゲットしたパンタヌを深紅たんへ差し出した。
「くれるの?」
「ああ。今度からはそれを未来の俺だと思ってぎゅっとしてくれて構わないぞ。遠慮はいらん。好きなだけ頬擦りしたまえ」
「この時代の主からの初めてのプレゼント。感動」
「こらこら、初めてじゃないだろ。俺からの初めてのプレゼントはスク水。これは二つ目だよ。それにしてもあの時の深紅たんは可愛かったなぁ」
「違う。あれはプレゼント何かじゃない。ただの主の趣味。性癖」
「照れるなよ、深紅たん。スク水が似合うアンドロイド。最高だとは思わないか」
「思わない。むしろ恨む」
未来の俺を恨むと言ってはいるが、未来の俺が死んだら死んだで涙を流してくれる深紅たんはきっと心ではそうは思っていない筈だ。
だと信じたい。
「次に生まれ変わるなら、もっと背が欲しい。主に好まれないようなデザインを所望する」
「大人っぽい深紅たんか…………無いわー」
俺の口にした言葉がお気に召さなかったのか、パンタヌ(ぬいぐるみ)の手を使ってぺしぺしと俺の体を叩く。
そんなお茶目で無邪気なところも愛らしくて好き。
「大丈夫だ。安心してくれ。もし次に俺が深紅たんを生み出すことになってもその幼児体型は必ず維持させるから。更に幼くバージョンアップしちゃうかもな」
「安心出来る要素が一つも無い。むしろ悪化してる」
「えー。ちっさい方が可愛いじゃん」
「そんなことしたら主と口聞かない」
俺を叩くのを止めてパンタヌをぎゅっと抱きしめ、そっぽを向いた。
ご機嫌斜めな深紅たんをこっちへ振り向かせるにはどうしたら……えっと、えっと、えーっと……あれだ。
俺の視界に入ったのはファーストフードのコーナー。ゲームコーナーまで漂って来る美味しそうな匂いに朝から何も腹に入れていないことに気付かされたね。
あそこで何か買って二人で食べよう。
「深紅たん、深紅たん」
「主とは口聞かないってさっき言った」
「そんな寂しいこと言わないでさ。あそこで何か買って食べようよ。お腹空いてるでしょ?」
中々「うん」と言ってくれない深紅たんの背中を軽く押してファーストフードコーナーへと向かう。
そこにはハンバーガーやチュロス。ポップコーンにポテトなどなどと、いろいろな食べ物が売っていた。映画館並みの豊富さだな。
「いらっしゃいませ」
「えっと、じゃあ……ハンバーガーとチュロス。唐揚げとポテトで。飲み物は、ほら深紅たん何が良い?サイダー?オレンジジュース?」
俺の隣でぬいぐるみを抱いたまま無言で突っ立っている深紅たんに話しかけると、店員のお姉さんが、
「可愛い妹さんですね。お兄ちゃんと遊びに来たの?何年生?」
と、完全に小学生と間違えられていた。
がーん。という効果音が今の深紅たんにはお似合いだろう。横目に見てもすぐに落ち込んでいるのが解る。
一日に二度もそう間違われるとは本人も思っていなかったんじゃないか。
「あはは。深紅たん、何年生だって。お姉さんはこの子何年生に見えます?」
「そうですねぇ。四年生くらいかな?」
「正解です!」
「主の馬鹿。正解じゃない」
「それパンタヌだよね。お兄ちゃんに取って貰ったんだ。良かったね」
俺が深紅たんのお兄ちゃんか。そうだったらどんなに嬉しいだろう。こんな可愛い妹がずっと欲しかった。
「ほら妹よ。飲み物は何にするんだい?食べたい物は他に何かある?」
「……イチゴ牛乳。それと」
「それと?」
「肉マン。アメリカンドッグ。ピザ。クレープ。 フランクフルト。グラタン。パフェ。あと、チョコレートケーキをホールで」
「ひぃ!」
あり得ない注文の量に思わず悲鳴が飛び出た。
「えーと、肉マンにアメリカンドッグに…………ありがとうございます。出来上がり次第お持ち致しますので空いている席で暫くお待ち下さい」
まさか、深紅たんがあんな無茶振りをするとは思わなかったな。これも俺の悪ふざけに対する仕返しだったのかもしれない。おかげで手持ちがすっからかんだ。
食事代で七千円も使ってしまうとは……手持ち足りて良かったぁ。
「酷いぜ、深紅たん。妹って間違われたくらいでそんなに怒ることないだろ」
「酷いのは主。深紅は小学生でも妹でもない」
「若く見られているんだから良いことだろ。中には若いのに年取って見られる人だっているんだぞ」
「小学生みたいと言われても素直に喜べない」
「パンタヌ嬉しそうに抱きしめてる姿は正しく小学生そのものだったからなぁ。しょうがない」
「主がパンタヌを未来の主だと思って良いって言った」
俺の言葉を素直に聞いて、実行までしてくれているとは深紅たんに感激だわ。
未来の主(未来の俺)もきっと天国で喜んでいるだろうな。
さっきからずっと俺がプレゼントしたパンタヌを大切そうに抱きしめてくれているし、これほど嬉しいことは他にない。
ニヤニヤしながら妹(一日限定)を眺めていると、パンタヌの両手を持って動かし深紅たんが強烈な台詞を口にした。
「深紅は主の妹じゃないパヌ」
破壊力抜群な一言が俺の心を貫いた。
人気ゆるキャラ「パンタヌ」の語尾につける「パヌ」の声真似をする深紅たんに更にメロメロになったのは言うまでもない。
いきなりどうした深紅たん。毎日の能力の使い過ぎでついに壊れたんじゃないか?
いつもはこんな俺の萌えを刺激するようなことを口にする子じゃないのに。
「深紅たん!もっと!パヌってもっと言って!」
「嫌」
「嫌って、自分から言っておいてそりゃないぜ」
「一回言ってみたかっただけ。何気に恥ずい」
俺がじ~っと深紅たんの顔を見つめ続けていたら照れたのかパンタヌを使って顔を隠した。
顔を赤らめる深紅たんを初めて見た気がするなぁ。何か新鮮。
「主、無言で見つめるの駄目」
「照れんなよ。お前の可愛い顔もっと見せろ」
「や、パヌ。見んなパヌ」
ひょいっとパンタヌを奪って小さな身長の深紅たんが取れない位置に高く掲げてみる。
すると、
「主、パンタヌ返して」
泣きそうな表情になった。ジャンプしてみても俺との身長が違い過ぎるし、高くて取れない。
流石に可哀想に思い、奪ったパンタヌを深紅たんへ返却。
余程気に入ってくれたみたいで、頑張ってプレゼントした甲斐があるというものだ。
「いやぁ、深紅たんがぬいぐるみ好きとか初めて知ったわ。元々可愛かったけど、更に磨きが掛かったんじゃない?」
「主が初めてくれた物だから」
「え?」
「別にぬいぐるみはそこまで好きじゃない。でもこれは特別。パンタヌは主が初めて深紅にくれた物だから好きなだけ」
俺のプレゼントに喜ぶ深紅たん。良い!
「……深紅たん」
「何?」
「大好き!」
「知ってる」
そんなこんなで深紅たんと戯れていたら、注文した料理がテーブルへと次々と運ばれて来た。こんなに二人で食べきれるのかって思ってしまうくらい大量の料理が。
これ食ったら今日晩飯要らないな。
「平気。デザートは別腹」
「この前TVで言ってたけどな、別腹ってのは存在しないらしいぞ」
「三人で食べきれない?」
深紅たんは本当に何を言っているのだろう。まさか三人というのはぬいぐるみのパンタヌまで含めているのではないか?言っておくがパンタヌは人じゃねぇ。
「主。これ美味しい。何これ?」
「チュロスだな」
パンタヌ片手に抱えてチュロス食べてる深紅たんマジで萌えるわぁ。
記念に写真撮っとこう。
取り出した携帯のカメラで一枚。パシャっとシャッター音が鳴った。
これは決して盗撮などではない。堂々と撮ったからね。許可は取ってないけど。
「主がとーさつした。深紅のこと見るだけじゃ物足りなくなった?」
「ああ。もちろん。この写真待ち受けにさせて貰うわ」
「駄目」
「これで毎日深紅たんと一緒」
「そんなことしなくても毎日一緒にいる」
これはあれだ。例えば深紅たんが風邪で学校を休んだ時とか、席替えをされて離れた時用に眺めるのさ。一分一秒でも俺は深紅たんと離れたくないんでね。
「好きという感情もそこまで行くと病気」
「かもな。深紅たん口開けて。クレープ食べさせてやる」
「自分で食べられるパヌ」
「良いから開けてみ。あーんって」
今日の深紅たんはちょっぴり素直なのか最初は嫌がっていたものの、俺のお願いに観念し小さな可愛いお口を開けてクレープをぱくりと食べた。
この俺達の姿は周りからどう見えているのか。
あの店員のお姉さんから兄妹だと間違われたくらいだからカップルには見られていないだろう。仲の良い兄と妹みたいな感じかな。
「美味しい?」
「うん。主、もう一口」
「お、もしかして深紅たん、食べさせて貰うの癖になっちゃった?」
「違う。パンタヌ持ってて食べ辛いだけ」
「全然良いよー。むしろ大歓迎だ。俺からしたらご褒美でしかないね」
食べ辛いのなら余っている椅子にパンタヌを座らせておけば良い筈なのだが、深紅たんはずっと大切そうに抱きしめていて手放そうとしなかった。
ま、俺は深紅たんに「あーん」が出来て好都合だけど。
「さあ、お姫様。次は生クリームたっぷりのパフェをお召し上がり下さい」
「恥ずい。その呼び方止めれ」
こんな感じでどんどん深紅たんへ食べ物を消化させていたらいつの間にかあんなにあった食べ物のほとんどが姿を消していた。
よく入るなぁ。この小さなお体の何処にあの量が?いろいろと不思議だ。まるで大食いタレントみたい。
いいや、少し違うか。彼等は食べたら食べただけ腹が膨らんでいたが、深紅たんのお腹は全く膨らんでいない。まるで腹の中にブラックホールでも存在しているかの如く平のままだ。これなら大食い選手権でも優勝出来るんじゃないか?
「主、全然食べてない」
「良いんだよ、俺は。深紅たんが満足するまで食べて良いんだからな」
「駄目。主も食べる。口開けて」
「え、マジで、食べさせてくれんの!?」
夢にまで見た深紅たんから食べさせてくれる反対のパターンだ。
今日の深紅たんは何だか積極的だわー。
「主が食べようとしないから、こうするだけ」
「あーん」
周りの目何か気にしてらんねぇ。一生に一度あるか無いかわからない深紅たん様からの「あーん」だ。このチャンスを逃しちゃならない。だってこれを逃したら一生お目に掛かれないかも知れないんだからな。
「うんめぇええええええええええっ!!」
思わず店内に響き渡るくらいの大声で叫んでいた。
可愛い子に食べさせて貰うとこんなにも違うものなのか?
大袈裟かもしれんが俺には所詮冷凍食品のポテトが三ツ星レストラン並みの高級料理を食しているように感じたね。
「主、うるさい。皆が注目してる」
「ごめんて。いや、だって、めっちゃ美味かったからさ」
「大袈裟」
「俺には大袈裟じゃないのさ。だって深紅たん、こんなこと今日しかやってくれないだろ?」
「そんなことない。時と場合による」
「そっか。てことはまだ俺にはチャンスがあるってことね」
「ある」
「深紅たん好きだ!」
小さな小学生サイズの体を愛おしくぎゅっと抱きしめる。
俺がこの台詞を吐くと当たり前のように深紅たんが口にする台詞がこれだ。
「よく言われる」
二人で楽しい夕食の時間を過ごしていたら、深紅たんがあることに気が付いた。
今回使った能力には俺と深紅たんを知っている者達から一時的に俺達の記憶だけを消すというものだったらしいが、その効力は一時間前くらいに切れたようで、能力を使い学校を一日サボったことが来夢に気付かれた可能性があると言うのだ。
「主、早く帰ろう」
そんな深紅たんの予想は当たっていたらしく家に帰宅するなり来夢がお出迎え。
深紅たんはぽかんと、軽めに一発頭を叩かれていた。因みに晩飯が作り置きしてあるのを見るに日向はバイトに行ったようである。
「来夢姉痛い。何をする」
「深紅が悪いことしたから姉としてお仕置きをしたの。学校サボったら若が天才になる日が遠くなるでしょ」
「別に良い。それなら主が未来で処刑される道から抜け出せる」
「深紅の存在が消えることになるわ。それでも良いの?」
「平気。主の為なら深紅は何でもする」
「そんな悲しいこと言わないで。若を救えば深紅だけじゃない、アンドロイド全員が消えることになるのよ」
……そうだよな。来夢の言うことも間違っちゃいない。
深紅たんの俺を思ってくれる優しい気持ちはすげぇ嬉しいんだが、俺がアホな道を進むことで消滅するのは深紅たん一人だけじゃない。姉の来夢達も消えるんだよな。悪いアンドロイドだけが消えるんじゃない。味方のアンドロイドも全てが消えるんだ。
「来夢姉が嫌なら深紅を殺せば良い。いつでも相手になる」
「ちょっと、深紅!」
宣戦布告だった。何だか本当に姉妹対決が始まりそうな台詞を口にして深紅たんはぷいっと来夢から顔をそらすと、俺の服の裾をくいっと掴んだ。
「主、一緒にお風呂行こ。背中流す」
「深紅たん、一緒にお風呂は嬉しいんだけどさ、良いの?あんなこと言っちゃって」
こんな状況じゃなかったらどんなに嬉しいことだろう。深紅たんから俺をお風呂に誘ってくれる何て普通じゃ考えられない。まるで夢の中にいるみたいだ。
だけど、素直に喜べねぇ~。
姉妹の仲を悪くしているのは間違いなく俺であり、来夢からしたら大好きな妹が俺と一緒にお風呂に入ると言い出して更なる大ダメージを負った筈だ。
お願いだからこの前屋上で起きたような激しい戦闘になることだけは避けて頂きたい。
あんなのを何回も経験していたらただの人間である俺の心が持たないだろうよ。
「来夢姉は主のことを何とも考えていない。主に作って貰ったからこそ深紅達は今此処に存在している。主のことを一番に考えるのは当たり前。来夢姉は自分のことしか考えてない。これでは主が可哀想」
「……深紅たん」
「大丈夫。深紅だけは、ずっと主の味方」
いつもあまり表情を作ろうとしない深紅たんが向けるプチ笑顔にドキっとした。ぬいぐるみを抱いている子供っぽい姿だけでも反則的可愛さがあるというのに、これには更にキュートさが追加される。この笑顔は正に今までで一番の、百点満点をあげても良い笑顔だろう。
「ずっと主の味方か。嬉しいな。正直に言うとね、四十で死ぬって聞かされて先の話だって思っても残念な気持ちと恐怖の二つを感じたんだ。もうちょっと生きていたいとか、残された家族はどうなるんだろうってさ」
「わかる。主の気持ち」
深紅たんはこの前のスク水を着て一緒に湯舟に浸かりながら、未来の自分と俺の話を少しだけ語ってくれた。
初めて深紅たんが目にした未来の俺は、嬉し涙を流しながら体を抱きしめて来たと言う。
最初に出た言葉は「やっと会えた」だったらしい。
どうしてかはわからなかったが、その時深紅たんの瞳にも自然と涙が浮かんだようだ。
まるで、何か、大切な記憶を思い出した気がして。
「未来の俺はきっと嬉しかったんだろうね。やっと深紅たんを作れたって」
未来の俺が今までどんな苦労をして人間と全く変わらないハイスペックなアンドロイドを作り出したのかは知らないが、現在学校の成績が学年でケツから二番目の俺が天才の頂点を目指すなど相当な努力をしない限り無理だろう。秀才と呼ばれる人間を今まで飽きる程見てきたから言えるが、俺が奴等の学力を追い越せるとかとても考えられないんだよなぁ。そんな奇跡が本当に起きたのかよ。
そんな俺の疑問に深紅たんはすぐに、それなりの答えを返してくれた。
「未来の奥方が言ってた。主は何でも新しいことを始めるとすぐに理解して、何でも簡単に自分の物にしちゃうんだって」
「未来の俺は記憶力が良かったんだな」
「違う。それは現在も主に備わっている能力だと思われる。自分を馬鹿だと思っている理由は今まで勉強をやろうと思わなかったからでは?」
確かに、俺は自分から勉強をやろうとは思わなかったかもな。勉強など今までまともにやってきた憶えはない。小学生の時も中学生の時も、今もな。
俺の通っている簗嶋高校は日向の親父さんが理事をしている高校だからコネで入ったようなもんだし、俺は高校に入る際に受験勉強すらやってないんだ。
「一度試しに自分の記憶力はどれほどのものなのか確かめてみては?勉強以外で」
「そうは言われてもなぁ……深紅たんのスリーサイズは?」
「主、自分の好きなことは誰だってすぐに覚える。それでは意味がない」
「そっか。冷静な回答をありがとう。スリーサイズは俺がただ知りたいだけです」
「測ったことない。気になるなら後で測ってくれて良い。話を元に戻すが、クラスメイト全員の名前を覚えてみるというのはどうだろう?」
深紅たんの出した案は実に丁度良いところを攻めてきたと言える。
俺が興味の無い彼等の名前を一人も知らないことをよく知ってるな。
「主に友達と呼べる人間が存在しないことは一緒に学校へ通っている深紅にはすでにお見通し」
「際ですか。ほんと、深紅たんには敵わないなぁ」
「……嘘、だろ……」
あんな華奢な体の何処にボールをあの距離から遠くまで飛ばす力があるのかと疑いたくもなる気持ちもわかるが、これが現実だ。
深紅たんの打ったボールは綺麗に、見事ゴールに入って落下した。
周りのギャラリー達も驚きを隠せずに声を上げる。これなら勝てるかもしれないと。
「はは。まぐれだろ、まぐれ……次は外すさ」
「そうかな。家の深紅たんに勝てる人間何かこの世に存在しないと思うのだが」
「えらい自信だな。お前の連れはバスケ経験者なのか?」
「いいや。これが初めてだ」
「ああ?何ふざけたこと言ってやがる?」
「あの子は何でもすぐに覚えちまうんだよ。それもプロ級にな」
相手のシューターもシュートに成功したようだが、それもいつかは外す。
深紅たんが外すことは無いだろうから、彼等が敗北するのは時間の問題だな。
どちらも一本も外さないまま、順番が十回を越えたところで相手の表情が辛そうになってきているのが見て確認できた。
「はぁ、はぁ……コイツ、すげぇ。スリー何回決めるつもりだよ」
正確にはスリーじゃない。深紅たんはそれよりも更に遠い位置でシュートしているからな。
もう諦めてはくれないかねぇ。この一騎打ちを観戦している客だってアンタ等の敗北を望んでいるだろうさ。
「くそう!こんなガキに負けてられるかよ!」
男のシュートはまたしてもゴールに入った。
「アンタ、深紅たん程じゃないが結構入れるな」
「けっ、当たりめぇよ。俺は高校三年間バスケ部でスリーポイントのシューターを任されていたんだ。あんな女子児童に負けたら立ち直れなくなっちまう」
立ち直れなくなるだろうな。その言葉通りに。
深紅たんはゲームで例えるなら難易度最高クラスのラスボスだな。
ちょこっとスリーポイントが上手いくらいの一般のプレイヤーじゃあの子には足元にも及ばないだろうぜ。きっとプロ選手と相手をしても負けないだろう。
アンドロイドに絶対はあっても人間に絶対は無い。
「やべぇ!」
十二回目にして、相手の男がシュートを外した。
彼も頑張った方だが、やっぱり深紅たんには敵わなかったか。
俺は深紅たんと勝利のハイタッチをした。
「負けた……だと……こんなチビなJSに、俺が……」
「深紅の勝ち。コートを皆に譲って欲しい」
敗北したことを信じられなかったのか、男達は暫く固まったままだった。
もう俺達にやれることは何もない。後は彼等が自分からこの場を立ち去ることを祈るだけだ。
「行こう、深紅たん。もう十分楽しんだだろ。これで退かないようなら此処からは店員の出番だ」
携帯で時間を確認したら現在十六時。気付けばもうこんな時間か。一日此処で遊んでいたんだな。
学校がもうちょいで終わる時間だし、そろそろ家へ帰るか。
深紅たんはまだ遊び足りていないような感じでメダルを入れれば出来るパチンコ台を眺めていたのだが、やってみたいのだろうか?
俺は深紅たんにパチンコは似合わないと思うわ。そんな大人向けのゲームよりかはあっちにあるモグラ叩きや太鼓のリズムゲームでもしていた方が子供らしい可愛げがあるというものよ。
「主、これやってみたい」
深紅たんが次に興味を持ったのは片手にグローブをはめ的を殴ると自分のパンチ力を測定出来るパンチングマシーンだ。
何となく結果が想像出来る自分が怖いぜ。俺に言えるのはこの一言だけだな。
「主、百円」
「はいはい。やっても良いけど、壊さないようにな」
「了解した」
俺の予想通りに、凄まじい音と共に壊れたパンチングマシーン。
計測不能。一体どれ程の拳を叩き込めばこのマシーンは壊れるのだろう。
「深紅たん、俺、壊さないようにって言ったよね」
「普通にパンチしただけ」
「まあ、そりゃそうなのだが。ちなみに聞くが深紅たんのパンチ力って未来の俺はどのくらいに設定していたのかな?」
「4tから5t」
「そりゃ壊れるわ!」
人間にそんなパンチ力持ってる奴何か存在しねぇよ。
深紅たんに軽く殴られただけで即死するな。
「さっきの人達を心に思い浮かべて殴ってみたら、余計な力が入った」
「もしかして、深紅たん怒ってる?」
「深紅のこの容姿を設定し作ったのは主。勝手に小学生と間違われるのには少々の不快を感じる。それに、彼等の言うJSはもう少し背が小さいと思われる」
ああ。さっきの奴等に言われたこと何気に気にしてたのね。
てっきり何も反論しないから気にしていないのかと。
「まあ、身長140ちょうどくらいしかない童顔の深紅たんじゃ間違われても仕方がないだろうなぁ」
「主のせいだ。ロリコン趣味の主のせい」
「文句がおありなら未来の俺に頼む。深紅たんを作ったのはこの時代の俺じゃない。クレームをつける相手が間違っているぞ」
「未来の主はもう何処にもいない……だから過去の主に言ってる」
……あ、やべぇ。そうだった。未来の俺はもう。
こんなこと口にするんじゃなかったな。これじゃ深紅たんがまた悲しむことに。
「ちょ、ちょっと待ってな」
何とか深紅たんに再び元気を取り戻そうと、俺が携帯で調べ始めたのはクレーンゲームのマスター方法。
最近はこれ一つで何でも調べられるから便利なもんだ。
「ほうほう……なるほどな……これなら俺にも取れるかも……」
深紅たんには暫く近くにあった休憩所で休んでいてと伝えて、俺は調べた情報を頭に記憶しあの子が貰って喜びそうな景品の入っていそうなクレーンゲーム機を探し始めた。
俺が興味を惹かれたのはとあるキャラクターのぬいぐるみ。
それは「パンタヌ」というゆるキャラでパンダとタヌキが合体したような人気キャラだ。
ぬいぐるみはさっき十分に自分で取っていた気がするが、これは取っていなかった筈だし、何よりこれを抱きしめる深紅たんを想像したら可愛過ぎて興奮で鼻から血が噴き出しそうだ。
よし、決めた。これにしよう。
「あれ……可笑しいな」
さっそくプレイし始めようと思いメダルを投入しようとするが入らない。
よく見たらこれ1プレイ百円だ。メダルを入れて出来るものと出来ないのが混ざっているんだな。人気あるキャラクターだし、ぬいぐるみのサイズがメダルのより大きいし仕方がないのか。
出来れば千円までで入手したいものだが……さて、結果はどうなることやら。
(ぐっ、難し過ぎだろ、これ……深紅たんはよくこんなのを簡単に取ってたな。やっぱクレーンは何時やっても取れる気がしない。素人が手を出して良いゲームじゃねぇな)
もう千円以上持っていかれた。何か箱系の景品よりぬいぐるみの方が難しい感じするわー。
何処にアームを引っ掛けたら良いかわからねぇ。
でも、俺は諦めない。持ち金が尽きるまでは……。
「ふ、待たせたな。深紅たん」
「主、遅い」
「コイツを深紅たんにプレゼントしようと思ってな」
結局三千円も投資しちまったよ。これだけ金を消費している様を店員が見るに見かねてぬいぐるみの位置を取りやすい場所へ移動してくれたのだ。あのアシストがなければこれは取れずに終わっていただろうよ。
俺はさっそくゲットしたパンタヌを深紅たんへ差し出した。
「くれるの?」
「ああ。今度からはそれを未来の俺だと思ってぎゅっとしてくれて構わないぞ。遠慮はいらん。好きなだけ頬擦りしたまえ」
「この時代の主からの初めてのプレゼント。感動」
「こらこら、初めてじゃないだろ。俺からの初めてのプレゼントはスク水。これは二つ目だよ。それにしてもあの時の深紅たんは可愛かったなぁ」
「違う。あれはプレゼント何かじゃない。ただの主の趣味。性癖」
「照れるなよ、深紅たん。スク水が似合うアンドロイド。最高だとは思わないか」
「思わない。むしろ恨む」
未来の俺を恨むと言ってはいるが、未来の俺が死んだら死んだで涙を流してくれる深紅たんはきっと心ではそうは思っていない筈だ。
だと信じたい。
「次に生まれ変わるなら、もっと背が欲しい。主に好まれないようなデザインを所望する」
「大人っぽい深紅たんか…………無いわー」
俺の口にした言葉がお気に召さなかったのか、パンタヌ(ぬいぐるみ)の手を使ってぺしぺしと俺の体を叩く。
そんなお茶目で無邪気なところも愛らしくて好き。
「大丈夫だ。安心してくれ。もし次に俺が深紅たんを生み出すことになってもその幼児体型は必ず維持させるから。更に幼くバージョンアップしちゃうかもな」
「安心出来る要素が一つも無い。むしろ悪化してる」
「えー。ちっさい方が可愛いじゃん」
「そんなことしたら主と口聞かない」
俺を叩くのを止めてパンタヌをぎゅっと抱きしめ、そっぽを向いた。
ご機嫌斜めな深紅たんをこっちへ振り向かせるにはどうしたら……えっと、えっと、えーっと……あれだ。
俺の視界に入ったのはファーストフードのコーナー。ゲームコーナーまで漂って来る美味しそうな匂いに朝から何も腹に入れていないことに気付かされたね。
あそこで何か買って二人で食べよう。
「深紅たん、深紅たん」
「主とは口聞かないってさっき言った」
「そんな寂しいこと言わないでさ。あそこで何か買って食べようよ。お腹空いてるでしょ?」
中々「うん」と言ってくれない深紅たんの背中を軽く押してファーストフードコーナーへと向かう。
そこにはハンバーガーやチュロス。ポップコーンにポテトなどなどと、いろいろな食べ物が売っていた。映画館並みの豊富さだな。
「いらっしゃいませ」
「えっと、じゃあ……ハンバーガーとチュロス。唐揚げとポテトで。飲み物は、ほら深紅たん何が良い?サイダー?オレンジジュース?」
俺の隣でぬいぐるみを抱いたまま無言で突っ立っている深紅たんに話しかけると、店員のお姉さんが、
「可愛い妹さんですね。お兄ちゃんと遊びに来たの?何年生?」
と、完全に小学生と間違えられていた。
がーん。という効果音が今の深紅たんにはお似合いだろう。横目に見てもすぐに落ち込んでいるのが解る。
一日に二度もそう間違われるとは本人も思っていなかったんじゃないか。
「あはは。深紅たん、何年生だって。お姉さんはこの子何年生に見えます?」
「そうですねぇ。四年生くらいかな?」
「正解です!」
「主の馬鹿。正解じゃない」
「それパンタヌだよね。お兄ちゃんに取って貰ったんだ。良かったね」
俺が深紅たんのお兄ちゃんか。そうだったらどんなに嬉しいだろう。こんな可愛い妹がずっと欲しかった。
「ほら妹よ。飲み物は何にするんだい?食べたい物は他に何かある?」
「……イチゴ牛乳。それと」
「それと?」
「肉マン。アメリカンドッグ。ピザ。クレープ。 フランクフルト。グラタン。パフェ。あと、チョコレートケーキをホールで」
「ひぃ!」
あり得ない注文の量に思わず悲鳴が飛び出た。
「えーと、肉マンにアメリカンドッグに…………ありがとうございます。出来上がり次第お持ち致しますので空いている席で暫くお待ち下さい」
まさか、深紅たんがあんな無茶振りをするとは思わなかったな。これも俺の悪ふざけに対する仕返しだったのかもしれない。おかげで手持ちがすっからかんだ。
食事代で七千円も使ってしまうとは……手持ち足りて良かったぁ。
「酷いぜ、深紅たん。妹って間違われたくらいでそんなに怒ることないだろ」
「酷いのは主。深紅は小学生でも妹でもない」
「若く見られているんだから良いことだろ。中には若いのに年取って見られる人だっているんだぞ」
「小学生みたいと言われても素直に喜べない」
「パンタヌ嬉しそうに抱きしめてる姿は正しく小学生そのものだったからなぁ。しょうがない」
「主がパンタヌを未来の主だと思って良いって言った」
俺の言葉を素直に聞いて、実行までしてくれているとは深紅たんに感激だわ。
未来の主(未来の俺)もきっと天国で喜んでいるだろうな。
さっきからずっと俺がプレゼントしたパンタヌを大切そうに抱きしめてくれているし、これほど嬉しいことは他にない。
ニヤニヤしながら妹(一日限定)を眺めていると、パンタヌの両手を持って動かし深紅たんが強烈な台詞を口にした。
「深紅は主の妹じゃないパヌ」
破壊力抜群な一言が俺の心を貫いた。
人気ゆるキャラ「パンタヌ」の語尾につける「パヌ」の声真似をする深紅たんに更にメロメロになったのは言うまでもない。
いきなりどうした深紅たん。毎日の能力の使い過ぎでついに壊れたんじゃないか?
いつもはこんな俺の萌えを刺激するようなことを口にする子じゃないのに。
「深紅たん!もっと!パヌってもっと言って!」
「嫌」
「嫌って、自分から言っておいてそりゃないぜ」
「一回言ってみたかっただけ。何気に恥ずい」
俺がじ~っと深紅たんの顔を見つめ続けていたら照れたのかパンタヌを使って顔を隠した。
顔を赤らめる深紅たんを初めて見た気がするなぁ。何か新鮮。
「主、無言で見つめるの駄目」
「照れんなよ。お前の可愛い顔もっと見せろ」
「や、パヌ。見んなパヌ」
ひょいっとパンタヌを奪って小さな身長の深紅たんが取れない位置に高く掲げてみる。
すると、
「主、パンタヌ返して」
泣きそうな表情になった。ジャンプしてみても俺との身長が違い過ぎるし、高くて取れない。
流石に可哀想に思い、奪ったパンタヌを深紅たんへ返却。
余程気に入ってくれたみたいで、頑張ってプレゼントした甲斐があるというものだ。
「いやぁ、深紅たんがぬいぐるみ好きとか初めて知ったわ。元々可愛かったけど、更に磨きが掛かったんじゃない?」
「主が初めてくれた物だから」
「え?」
「別にぬいぐるみはそこまで好きじゃない。でもこれは特別。パンタヌは主が初めて深紅にくれた物だから好きなだけ」
俺のプレゼントに喜ぶ深紅たん。良い!
「……深紅たん」
「何?」
「大好き!」
「知ってる」
そんなこんなで深紅たんと戯れていたら、注文した料理がテーブルへと次々と運ばれて来た。こんなに二人で食べきれるのかって思ってしまうくらい大量の料理が。
これ食ったら今日晩飯要らないな。
「平気。デザートは別腹」
「この前TVで言ってたけどな、別腹ってのは存在しないらしいぞ」
「三人で食べきれない?」
深紅たんは本当に何を言っているのだろう。まさか三人というのはぬいぐるみのパンタヌまで含めているのではないか?言っておくがパンタヌは人じゃねぇ。
「主。これ美味しい。何これ?」
「チュロスだな」
パンタヌ片手に抱えてチュロス食べてる深紅たんマジで萌えるわぁ。
記念に写真撮っとこう。
取り出した携帯のカメラで一枚。パシャっとシャッター音が鳴った。
これは決して盗撮などではない。堂々と撮ったからね。許可は取ってないけど。
「主がとーさつした。深紅のこと見るだけじゃ物足りなくなった?」
「ああ。もちろん。この写真待ち受けにさせて貰うわ」
「駄目」
「これで毎日深紅たんと一緒」
「そんなことしなくても毎日一緒にいる」
これはあれだ。例えば深紅たんが風邪で学校を休んだ時とか、席替えをされて離れた時用に眺めるのさ。一分一秒でも俺は深紅たんと離れたくないんでね。
「好きという感情もそこまで行くと病気」
「かもな。深紅たん口開けて。クレープ食べさせてやる」
「自分で食べられるパヌ」
「良いから開けてみ。あーんって」
今日の深紅たんはちょっぴり素直なのか最初は嫌がっていたものの、俺のお願いに観念し小さな可愛いお口を開けてクレープをぱくりと食べた。
この俺達の姿は周りからどう見えているのか。
あの店員のお姉さんから兄妹だと間違われたくらいだからカップルには見られていないだろう。仲の良い兄と妹みたいな感じかな。
「美味しい?」
「うん。主、もう一口」
「お、もしかして深紅たん、食べさせて貰うの癖になっちゃった?」
「違う。パンタヌ持ってて食べ辛いだけ」
「全然良いよー。むしろ大歓迎だ。俺からしたらご褒美でしかないね」
食べ辛いのなら余っている椅子にパンタヌを座らせておけば良い筈なのだが、深紅たんはずっと大切そうに抱きしめていて手放そうとしなかった。
ま、俺は深紅たんに「あーん」が出来て好都合だけど。
「さあ、お姫様。次は生クリームたっぷりのパフェをお召し上がり下さい」
「恥ずい。その呼び方止めれ」
こんな感じでどんどん深紅たんへ食べ物を消化させていたらいつの間にかあんなにあった食べ物のほとんどが姿を消していた。
よく入るなぁ。この小さなお体の何処にあの量が?いろいろと不思議だ。まるで大食いタレントみたい。
いいや、少し違うか。彼等は食べたら食べただけ腹が膨らんでいたが、深紅たんのお腹は全く膨らんでいない。まるで腹の中にブラックホールでも存在しているかの如く平のままだ。これなら大食い選手権でも優勝出来るんじゃないか?
「主、全然食べてない」
「良いんだよ、俺は。深紅たんが満足するまで食べて良いんだからな」
「駄目。主も食べる。口開けて」
「え、マジで、食べさせてくれんの!?」
夢にまで見た深紅たんから食べさせてくれる反対のパターンだ。
今日の深紅たんは何だか積極的だわー。
「主が食べようとしないから、こうするだけ」
「あーん」
周りの目何か気にしてらんねぇ。一生に一度あるか無いかわからない深紅たん様からの「あーん」だ。このチャンスを逃しちゃならない。だってこれを逃したら一生お目に掛かれないかも知れないんだからな。
「うんめぇええええええええええっ!!」
思わず店内に響き渡るくらいの大声で叫んでいた。
可愛い子に食べさせて貰うとこんなにも違うものなのか?
大袈裟かもしれんが俺には所詮冷凍食品のポテトが三ツ星レストラン並みの高級料理を食しているように感じたね。
「主、うるさい。皆が注目してる」
「ごめんて。いや、だって、めっちゃ美味かったからさ」
「大袈裟」
「俺には大袈裟じゃないのさ。だって深紅たん、こんなこと今日しかやってくれないだろ?」
「そんなことない。時と場合による」
「そっか。てことはまだ俺にはチャンスがあるってことね」
「ある」
「深紅たん好きだ!」
小さな小学生サイズの体を愛おしくぎゅっと抱きしめる。
俺がこの台詞を吐くと当たり前のように深紅たんが口にする台詞がこれだ。
「よく言われる」
二人で楽しい夕食の時間を過ごしていたら、深紅たんがあることに気が付いた。
今回使った能力には俺と深紅たんを知っている者達から一時的に俺達の記憶だけを消すというものだったらしいが、その効力は一時間前くらいに切れたようで、能力を使い学校を一日サボったことが来夢に気付かれた可能性があると言うのだ。
「主、早く帰ろう」
そんな深紅たんの予想は当たっていたらしく家に帰宅するなり来夢がお出迎え。
深紅たんはぽかんと、軽めに一発頭を叩かれていた。因みに晩飯が作り置きしてあるのを見るに日向はバイトに行ったようである。
「来夢姉痛い。何をする」
「深紅が悪いことしたから姉としてお仕置きをしたの。学校サボったら若が天才になる日が遠くなるでしょ」
「別に良い。それなら主が未来で処刑される道から抜け出せる」
「深紅の存在が消えることになるわ。それでも良いの?」
「平気。主の為なら深紅は何でもする」
「そんな悲しいこと言わないで。若を救えば深紅だけじゃない、アンドロイド全員が消えることになるのよ」
……そうだよな。来夢の言うことも間違っちゃいない。
深紅たんの俺を思ってくれる優しい気持ちはすげぇ嬉しいんだが、俺がアホな道を進むことで消滅するのは深紅たん一人だけじゃない。姉の来夢達も消えるんだよな。悪いアンドロイドだけが消えるんじゃない。味方のアンドロイドも全てが消えるんだ。
「来夢姉が嫌なら深紅を殺せば良い。いつでも相手になる」
「ちょっと、深紅!」
宣戦布告だった。何だか本当に姉妹対決が始まりそうな台詞を口にして深紅たんはぷいっと来夢から顔をそらすと、俺の服の裾をくいっと掴んだ。
「主、一緒にお風呂行こ。背中流す」
「深紅たん、一緒にお風呂は嬉しいんだけどさ、良いの?あんなこと言っちゃって」
こんな状況じゃなかったらどんなに嬉しいことだろう。深紅たんから俺をお風呂に誘ってくれる何て普通じゃ考えられない。まるで夢の中にいるみたいだ。
だけど、素直に喜べねぇ~。
姉妹の仲を悪くしているのは間違いなく俺であり、来夢からしたら大好きな妹が俺と一緒にお風呂に入ると言い出して更なる大ダメージを負った筈だ。
お願いだからこの前屋上で起きたような激しい戦闘になることだけは避けて頂きたい。
あんなのを何回も経験していたらただの人間である俺の心が持たないだろうよ。
「来夢姉は主のことを何とも考えていない。主に作って貰ったからこそ深紅達は今此処に存在している。主のことを一番に考えるのは当たり前。来夢姉は自分のことしか考えてない。これでは主が可哀想」
「……深紅たん」
「大丈夫。深紅だけは、ずっと主の味方」
いつもあまり表情を作ろうとしない深紅たんが向けるプチ笑顔にドキっとした。ぬいぐるみを抱いている子供っぽい姿だけでも反則的可愛さがあるというのに、これには更にキュートさが追加される。この笑顔は正に今までで一番の、百点満点をあげても良い笑顔だろう。
「ずっと主の味方か。嬉しいな。正直に言うとね、四十で死ぬって聞かされて先の話だって思っても残念な気持ちと恐怖の二つを感じたんだ。もうちょっと生きていたいとか、残された家族はどうなるんだろうってさ」
「わかる。主の気持ち」
深紅たんはこの前のスク水を着て一緒に湯舟に浸かりながら、未来の自分と俺の話を少しだけ語ってくれた。
初めて深紅たんが目にした未来の俺は、嬉し涙を流しながら体を抱きしめて来たと言う。
最初に出た言葉は「やっと会えた」だったらしい。
どうしてかはわからなかったが、その時深紅たんの瞳にも自然と涙が浮かんだようだ。
まるで、何か、大切な記憶を思い出した気がして。
「未来の俺はきっと嬉しかったんだろうね。やっと深紅たんを作れたって」
未来の俺が今までどんな苦労をして人間と全く変わらないハイスペックなアンドロイドを作り出したのかは知らないが、現在学校の成績が学年でケツから二番目の俺が天才の頂点を目指すなど相当な努力をしない限り無理だろう。秀才と呼ばれる人間を今まで飽きる程見てきたから言えるが、俺が奴等の学力を追い越せるとかとても考えられないんだよなぁ。そんな奇跡が本当に起きたのかよ。
そんな俺の疑問に深紅たんはすぐに、それなりの答えを返してくれた。
「未来の奥方が言ってた。主は何でも新しいことを始めるとすぐに理解して、何でも簡単に自分の物にしちゃうんだって」
「未来の俺は記憶力が良かったんだな」
「違う。それは現在も主に備わっている能力だと思われる。自分を馬鹿だと思っている理由は今まで勉強をやろうと思わなかったからでは?」
確かに、俺は自分から勉強をやろうとは思わなかったかもな。勉強など今までまともにやってきた憶えはない。小学生の時も中学生の時も、今もな。
俺の通っている簗嶋高校は日向の親父さんが理事をしている高校だからコネで入ったようなもんだし、俺は高校に入る際に受験勉強すらやってないんだ。
「一度試しに自分の記憶力はどれほどのものなのか確かめてみては?勉強以外で」
「そうは言われてもなぁ……深紅たんのスリーサイズは?」
「主、自分の好きなことは誰だってすぐに覚える。それでは意味がない」
「そっか。冷静な回答をありがとう。スリーサイズは俺がただ知りたいだけです」
「測ったことない。気になるなら後で測ってくれて良い。話を元に戻すが、クラスメイト全員の名前を覚えてみるというのはどうだろう?」
深紅たんの出した案は実に丁度良いところを攻めてきたと言える。
俺が興味の無い彼等の名前を一人も知らないことをよく知ってるな。
「主に友達と呼べる人間が存在しないことは一緒に学校へ通っている深紅にはすでにお見通し」
「際ですか。ほんと、深紅たんには敵わないなぁ」
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