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第三話(深紅VS深紅)
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掴や日向の住む町の上空へ突如姿を現した鍵中深紅の姿をした量産型アンドロイドの軍勢。
彼女達の目的は自分達を生み出した輝来掴の未来を変えようと企むオリジナルの鍵中深紅を停止させることだ。
そんな強大な殺気を感じた姉の来夢は掴の自宅から外へ様子を見にやって来た訳だが、説得しようにも話が通じる相手では無い。
止むを得ず戦って大切な妹を守る決断をした。
「いくらでも相手になるわ。深紅を消したいならまずは姉のあたしを倒すことね」
日本刀を出現させて戦う意思を見せる来夢に襲い掛かるアンドロイド達。
大勢の敵を一人で相手にしていた彼女の元へ助っ人が現れたのは戦闘が開始してすぐのことだった。
「お姉様、私もお手伝いします」
「助かるわ。ありがとね、シュナ」
来夢の助っ人にやって来たのは赤髪ツインテールに花の髪飾りをつけた見た目の可愛らしい少女で、名を「花見シュナ」深紅と同じで来夢の妹である。
「深紅と喧嘩みたいになっちゃった。この時代のマスターのこと悪く言うあたしのことが気に入らないのかしら?」
「深紅さんはご主人様大好きでしたからね。その気持ちと同じくらいお姉様のことも」
「へ、そお?」
「はい。そこまで心配する必要は無いと思われます。喧嘩する程仲が良い。違いますか?」
「……そうね。後で謝っておくわ」
来夢と同じように最初は日本刀や拳銃を使いアンドロイド達と戦っていたシュナだったが、このままでは埒が明かないと感じたのか、彼女が取り出したのは大型武器、ロケットランチャー。これでまとめて片付けるつもりらしい。
「お姉様、離れていて下さい。これで一掃します」
シュナの放った強力な一撃に命中したのは極々一部だったが、残りのアンドロイド達に恐怖を感じさせて退散させることに成功した。
「シュナが羨ましいわ。マスターは製作段階で貴女専用に百種類以上の武器を用意した。まるで生きる武器庫ね。あたしの使用可能な武器は日本刀と拳銃の二つだけ。格差を感じるわ」
「いえいえ、ご主人様は私達一人一人に愛情を持って製作なされていますよ。私は世界中に存在する有りと有らゆる武器が使用可能ですが、お姉様のような素晴らしい剣術や百発百中の射撃センスは備わっていませんので」
風呂を出てみたら家の中に来夢の姿が無いことに気が付いた。
深紅たんと喧嘩っぽい感じになったから居辛くなって帰ったのかな。
妹大好きなアイツのことだからてっきり俺と深紅たんのラブラブお風呂タイムを邪魔しに来ると思っていたのだが。
「あー、幸せだわー。生きている内に二回も深紅たんのスク水姿が拝めるとはな」
「主大袈裟。人生は長い。そんなのまだいくらでも見れる」
未来の俺が死んでからか、深紅たんの俺に対する思いやり度が最初の頃と同じくらいに戻った気がした。
それは俺からしたらとても良いことなのだが、次に気になってしまったのはアンドロイド姉妹の仲な訳で、二人の険悪なムードを何とかしてやりたいと思っても問題が問題だから中々良い解決策が思い浮かばない。
俺が勉学に励み天才を目指せば深紅たんが嫌がるし、反対にアホの道を突き進めば今度は来夢が怒り出す。
ほんと、どうすりゃ仲直り出来るんだろうな。
「お姉ちゃん、帰っちゃったみたいだな」
「深紅が悪い。来夢姉に酷いこと言った」
お、深紅たんは自分が悪いと感じているんだな。良い子だ。
あの宣戦布告にはちょっとドキっとしたからな。心配したんだぞ。今度は本当の姉妹対決が始まるんじゃないかって。この前の相手は来夢の偽物だったからな。
「駄目だぞ、深紅たん。俺は二人が戦うところ何か見たくないからな」
「深紅も戦いたくはない。主、どうしたら良い?」
「う~ん……俺に聞かれても困るんだが」
そもそも俺は未来のことをほとんど知らないしな。アンドロイドを作ったからってどうして死刑にならなくちゃならんのか。聞いたところによるとアンドロイドを使って犯罪行為を起こしたのは他の人物であって、俺ではないんだろ。
「俺のアンドロイド製作技術を悪用した人物ってのは、誰だかわからないのか?ソイツに好き勝手される前に何か対策を取れたら良いんだけどな」
「無理。主の発明室に忍び込んだ怪しい人物の姿は確認出来なかった。犯人の特定にも至っていない」
「そっか。ソイツは捕まっていないってのに、俺だけが捕まって死刑にされるとか理不尽過ぎるだろ」
「主の証言を警察が信じることは無かった。アンドロイドを悪用し人間を殺させた罪で死刑判決が下り、それが実行された」
「酷い話だよな。俺はやってもいないことで疑われたまま無能な警察共に殺された訳だ」
「信じて。主はアンドロイドを悪用して何かいない。それは深紅が保証する」
「信じるよ。深紅たんの言うことに間違い何て無いだろうから」
深紅たんの「主は」の部分に若干の違和感がありはしたが、きっと俺の気にし過ぎだと思いそこを聞いてみるのはやめておいた。
「深紅たん、髪乾かしてやろうか?」
タオルで拭いただけの、濡れた状態の深紅たんの髪を見て急に乾かしたいという衝動に駆られた俺は異常な性癖の持ち主だろうか?
「平気。自分で出来る」
「良いからこっち来て」
「えー……」
深紅たんを自分の膝の上に座らせて、洗面所から自室まで持ってきたドライヤーのスイッチを入れた。
あ……何かすげぇ良い匂いがする。石鹸とかシャンプーの良い香りだ。
「俺、深紅たんのシャンプーの香り好っきやわ~」
「主も同じの使ってる」
「良いんだよ、細かいことは。俺は深紅たんの髪から漂ってくるこの匂いが好き何だ」
可愛らしい金色の短髪を乾かしながら今更に思う。
やっぱこの絶妙な髪の長さが俺の好みを刺激するんだよなぁ。
大体の無口な美少女キャラは短髪が多い。最近になってあまり深紅たんが無口じゃないことに気付いたのだが、喋ってくれないで会話が続かないよりも会話が成立する方がこっちも楽しいに決まっている。深紅たんくらいの口数がちょうど良いな。
「主、熱い」
「うわっと、ごめん。深紅たんが可愛過ぎてぼーっとしちまってた」
「主はいつも聞いていて恥ずかしいお世辞が多い」
「お世辞じゃねぇよ。本気で言ってる」
「余計に恥ずい」
深紅たんの頬がほんのりと赤いのはドライヤーの熱風が当たっているからなのか、照れているからなのか、そのどっち何だろうな。
「あ、パンタヌ」
髪を乾かしている途中で深紅たんがポチッとTVを点けたら画面には彼女が大好きなゆるキャラ、パンタヌが映っていた。
クイズ番組に参加するパンタヌの中にはきっと、子供の夢を壊してしまうような小汚いおっさんが入っているに違いない。最近よく見るし、相当稼いでいそうだな。
着ぐるみ着ているだけで儲かるとか羨ましすぎる。俺もそんな楽な仕事に就きたいわー。
俺があの中に入るか。それなら絶対に深紅たんも喜んでくれる。
(良いこと思いついたな)
「主、にやにやしてる」
「ふふふふふ。何でも無い。深紅たんともっと仲良くなれる名案を思いついてね」
「何か、怖い」
後でコスプレショップ辺りでパンタヌの着ぐるみを買ってこよう。
そう心に決めた俺だった。
「深紅たん、このクイズ番組つまらないからチャンネル変えても良い?」
「やだ。パンタヌ観たい」
さっきから観ていてもあの着ぐるみ着たおっさん「パヌ~」とか言ってるだけで全然正解出来てない。やる気がないならクイズ番組何か出るな。
それと「パヌ」なら深紅たんが言った方が絶対に可愛いぞ。
番組の司会者の話しだとパンタヌが敗北すれば罰ゲームとして着ぐるみだけに身ぐるみ剥がされるらしい。モザイクかけろ。子供の夢を壊してやるな。
「パンタヌ可哀想」
「このままじゃアイツ、罰ゲーム確定だな」
「大丈夫。何とかする」
そう深紅たんが口にして暫くした後、TV画面では急に頭の回転が良くなったのか、パンタヌが続けて出されたクイズに連続で正解を叩き出していた。
まるで、クイズの解答が頭に浮かんでいるように、他の回答者を抜いて一気にトップへ駆け上がる。周りのギャラリー達も驚きを隠せない。今までは本気じゃなかったのか……それとも?
「深紅たん、もしかして何か手助けした?」
「パンタヌの中の人の頭脳に直接リンクした。クイズの答えをこちらから送ってサポートしたまで」
なるほどね。生放送だからこそ出来る反則技だな。これが予め撮っておいたただの映像ならこんなことすることは不可能だし。
というか、相変わらず深紅たんすげぇ~。よくあのスタジオまで届いたもんだ。
TVでは司会者の質問にパンタヌが誇らし気にこう答えている。
「いやぁ~、いきなり答えが頭の中に浮かんで来たんだパヌ。パンタヌもしかしたら天才かもしれないパヌねぇ~」
お前の知らない所で俺の可愛い深紅たんが力添えしてくれたんだ。
思い上がるんじゃありませんよ!
これを知ったら有名な刑事ドラマの警部殿もこう言う筈さ。
「主、パンタヌ優勝した」
「ああ。深紅たんのおかげでな」
TVでパンタヌの姿を観ていたら深紅たんの濡れている髪はすでに乾いていた。
出掛け先での食事はほとんど深紅たんが食べてくれたから日向が作ってくれた晩飯は無駄にならないで済みそうだ。
俺がラップを外して日向の手料理であるサンドウイッチを食べようとしていると、
「深紅も食べたい」
あれだけの量を食べたばかりだというのに深紅たんはまだ食べ足りていなかったようだ。
深紅たんの可愛いおねだりを俺は断わることが出来ないし、そんなことをする必要も無い。ちゃんと二人分作ってくれたみたいだしな。
「良いよ。玉子、ツナ、トマトと種類が豊富だけど、どれにする?」
「玉子とツナ。深紅、トマト嫌い」
「え、トマト嫌いなの深紅たん。うりうり、ちゃんと嫌いな物も食べないと大きくなれないぞ」
嫌いなトマトを食べさせようと小さなお口へ近づけてみるも、深紅たんは嫌がって口を結んだまま開こうとしない。
「酷い。主が深紅のこと苛める」
「好きな子ほど苛めたくなるものだからなぁ。嫌がってる深紅たんも激可愛だ。他に嫌いな食べ物は?」
「野菜。主にピーマンと人参」
野菜嫌いとかお子様味覚じゃねぇか。超可愛い。
見た目もお子様、味覚もお子様とはな。
「この玉子サンドとかきゅうり入ってるけど平気?」
「平気じゃない。主、きゅうり食べて」
深紅たんの可愛いお願いを断わることなど出来る筈もなく、俺はきゅうりだけを自分の口の中へと放り込んだ。
ちょっとした悪ふざけに俺が深紅たんに差し出したのは、残りのトマトサンド全部をのせた皿。
何でこんな酷いことをするのかって?
そんなことは決まっているさ。単純に嫌がっている深紅たんが見たい。ただそれだけだ。
「主、これ全部トマトサンド」
「知ってる。はい、口を開けてごらん。食べさせてあげよう」
「深紅のこと苛める主きらーい」
深紅たんが俺の膝の上から立ち上がり、てくてくと俺のそばから離れて行く。
……あれ、もしかして本当に嫌われたかな?
「深紅たんどこ行くの?戻っておいで」
ぽんぽんと膝を叩き、此処に戻っておいでと合図を送るも深紅たんは、
「トイレ行ってくる」
「その前に一つ確認があるんだけど、俺のこと大好きだよね?」
「きらーい」
「がーん!!」
深紅たんの口から出来れば聞きたくなかった台詞が飛び出した。
マジでショック。俺立ち直れないかも……。
今日はずっと一日良い雰囲気で、このまま彼女になってくれんじゃね?
とか、ちょっとは思ってたのになぁ。嫌いな物無理に食べさせようとするんじゃ無かった。
時よ、頼む。戻れるなら戻ってくれ。
「……って、戻る訳ねぇか」
天に願っても無駄だったか。
人間には時間を戻せるような異能など備わっちゃいないんだ。万能な深紅たんになら可能かもしれないけど、深紅たん絡みのことをやり直したいのに本人に時を少し戻してとか言えないし、それで深紅たんの俺に対する評価が元に戻る訳でもない。
……はあ。何て切ない青春の一ページ何だ。世の中のリア充共全員死ね。
「深紅が嫌いと言うなら、主は深紅達が貰い受ける」
トイレから戻って来たのか、深紅たんが突然俺の前に姿を現した。此処まで歩いてくるのが面倒だったのかな?お得意のテレポーテーション何か使っちゃって。ビックリしたぞ。
「……し、深紅たん、帰ってくるの早かったね。もしかして一人でトイレ行くの怖かった?」
「主、好き~。ちゅーして」
(へ…………えぇええええええええっ!?)
いきなりどうしたのだろう。
さっきは俺を嫌いと言った深紅たんが今度は好きと言ってキスを求めてくるとか、もう急展開過ぎて頭が追いつかないぞ。
「駄目?」
「い、いや、駄目じゃない……けど、さ……そう言えばさっき「深紅達」って言ってたけど、それってどういうことかな?」
「こういうこと」
気付けば俺の周りには合わせて五人の深紅たんが何処からともなく姿を現して俺に可愛いおねだりをせがんで来た。もしかして此処は夢の国か何かかな?
「主、大好き~」
「主、抱っこ」
「主、おんぶ」
「主、けっこんしよ」
「主、頭撫でて」
あー、何これ。すっげえ幸せな気分。
突如訪れた人生初のハーレム状態。五人の深紅たん達による俺の、ご主人様争奪戦が始まった。腕を右と左から同時に引っ張られようとも、痛さよりも嬉しいという気持ちが勝って、頭が一杯だぁ~。
これがモテ期って奴だろうか。この時間が永遠に続けば良いと心から思うね。
幸せ過ぎて、自然とこんな呪文のような言葉が俺の口から飛び出していた。
「深紅たんが一匹。深紅たんが二匹。深紅たんが三匹。深紅たんが四匹。深紅たんが五匹。深紅たんが六…………あれ、俺の目の前に居る深紅たんを合わせて六匹か?」
「主、深紅は動物じゃない。匹で数えられるのは何か嫌」
「可笑しいな。また増えたのか?最初は五匹、いや、五人しか居なかった筈なのに。まあ良いや。君も早く俺のハーレムに参加したまえ。大丈夫だ。悪いようにはしない」
俺の目の前に立つ深紅たんだけが、何故か俺を生ゴミでも見るような冷たい目で見下ろしている。この子だけは、主大好きアピールをしてこない。何故だ?
「嫌。深紅は主が喜びそうなこと、そんな軽々しく言ったりしない」
「どうしてさ?」
「それは深紅が本物だから。その深紅達は多分、未来から深紅を消す為送り込まれてきた量産型アンドロイド」
「…………へ?」
さっきまで俺にべったりだった五人の深紅たん達が自分の腕を物騒な物(未来の銃的な何か)に変えて、それを目の前に居る一人の深紅たんへ向ける。
まさか、この子達は本当に……?
「逃げろ、深紅たん!」
少しその台詞を口にするのが遅かったみたいだ。
俺の家の自室の壁は激しく破壊され、大きな穴が空き外から中が丸見えの状態に姿を変えた。
深紅たんの姿が何処にも確認出来ないことから考えて、多分テレポーテーションで今の銃撃を回避したのだろう。
五人の深紅たんも気付けば俺の近くから姿を消していた。きっと逃げた深紅たんを追って行ったんだな。
…………いや、よく考えろ。深紅たんは逃げたんじゃない。俺を巻き込まないよう戦闘場所を此処から他の場所に移したんだ。
ああ、また深紅たんに悪いことしちまったよ。あれじゃ、主は深紅よりもあの五人の方が大事とか思われたかもな。
深紅たん傷付いてるかもだし、後でちゃんと謝った方が良いよな。また俺の評価が下がるだろうし…………って、待てよ、俺。今はそんなことを気にするより他にやることがあるだろ。
「深紅たん……深紅たん!」
深紅たんが何処に戦闘場所を変えたか何て俺にわかる筈も無かったが、じっとしては居られずアンドロイド達の姿を探しに外へ飛び出していた。
そうだ。来夢に助けを求めれば……。
「何か御用ですか、掴君。お嬢様ならアルバイト中ですよ。用がお済みでしたらとっととお帰り下さい。殺されたいのですか?」
日向の自宅に行ってみれば、訪ねて来た俺を若頭が門前払いしようとしていた。
殺しますとか、言って良いことと悪いことがあるだろ。
「いや、違うんだ。今日は日向に用があるんじゃなくて」
「お嬢様を呼び捨てにするとは失礼な。ほら、私が刀を抜かない内にさっさとお帰りを。本当に殺しますよ」
俺の背中を押して、帰れと急かす若頭に俺は一つ質問をした。
「来夢に用があって来たんだよ。アイツは居ないのか?」
「来夢さんなら少し前にお出掛けになられました。さあ、これで満足でしょう。二度とお嬢様には近付かないようお願いしますよ。次は無いと思って下さい」
日向と一緒に居るところを目撃したら俺を殺すってか。
そんなことで命を失うなら、俺の命は幾つあっても足りないな。
未来の俺はよく四十まで生きてたもんだ。もしかしたらだが、俺に犯罪者の汚名を着せたのはあの若頭じゃないだろうな。日向のことをこれだけ気にかけているんだ。俺に日向を取られて逆上してやったとしても可笑しくない。
くそ、こんな時に来夢は何処に行ってんだ。深紅たんが深紅たん達に命狙われて大変だってのに。
深紅が戦闘場所に選びテレポーテーションで移動して来たのは簗嶋高校の校庭。
夜の誰も居ないこの場所なら主である掴と他の人間達を巻き込まないで済むと考えての行動だった。
「オリジナルの深紅を殺せと命令された」
「「あの人」が見よう見まねで作った貴女達では主が作った深紅には勝てない。いくら数を揃えようと無駄。与えられたスペックの差が違い過ぎる」
日本刀を装備し量産型の五人が戦う姿勢を見せるが、深紅は余裕な表情で特に慌てる様子もなく、いつも通りに落ち着いていた。
「オリジナルの深紅には武器が使えない。どうするつもり?」
「武器は無くても戦う方法はいくらでも存在する。フォルム・ダイブ」
フォルム・ダイブ。そう唱えることにより深紅の姿が姉の来夢の姿へと一瞬で変わった。
「この能力は主が深紅に武器を携帯させない代わりに備え付けた能力。三姉妹の中で刃物を使わせたら来夢姉は一番の実力者。貴女達の相手には最適」
「数ではこちらが有利」
「数で結果が決まるとは限らない。実力の差が勝利の鍵。貴女達は深紅のスピードについて来れない」
深紅が「加速」と無表情に呟くと、
「消えた……何処だ……姿を見せろ……」
「消えてない。視認出来ていないだけ。コアは破壊させて貰った。貴女達の負け」
敵のアンドロイド達は深紅が動きを加速させて自分達の体の急所(コア)を斬り壊したことに気付くこともなく、数秒後に爆死。死体は跡形も無く消失した。
俺は結局深紅たんの姿も来夢の姿も見つけられないまま、走り疲れ夜道をてくてくと歩いていた。
深紅たん達が何処かに消えてからどのくらいの時間が経っただろう。
何処に居るんだよ、深紅たん。とにかく、無事で居てくれ。
「主」
後ろから声をかけられて振り向いてみると、そこには愛しの深紅たんの姿が。
「何処に行ってたんだよ、深紅たん。随分と探したんだぞ。心配させやがって」
「心配してくれた?」
「当たり前だろ。そりゃ心配するさ。アイツ等はどうなったんだ?」
「片付けた」
「そっか……ごめんな。助けに行けなくて」
深紅たんの頭をなでなでして謝罪の言葉を口にした。
「別に良い」
「ごめんよ、深紅たん。ご主人様を許しておくれ」
「許すって言ってる」
……本当に俺は役に立たないな。
深紅たんが強く無かったら今頃あの子達に存在を消されていたかもしれない。そう思ったら謝罪の言葉を続けて口にしていた。
そんな自分の力無さに、自信を失くしかけていた俺を救ってくれたのは、そう、深紅たんのお礼の言葉でした。
「主が深紅を強く作ってくれたおかげでまだ生きていられた。ありがとう」
「深紅たん大好き!」
「知ってる」
「深紅たんは俺のこと、好き?」
「…………」
黙り込んでしまった。
深紅たんは俺からぷいっと視線をそらすとゆっくりと自宅の方へと歩いて行った。
恥ずかしかったのか、それともウザがられていたのかはわからない。
後でもう一度聞いてみることにしよう。
「おお……すげぇ……」
まず深紅たんがしてくれたのは、さっきの騒動で破壊された壁の修復だ。
大きな穴が空いて外から丸見えだった筈なのに何事も無かったかのように一瞬で綺麗に元通りになる何て……。
壊れた壁に手を触れただけで修復出来るってすごくないか。
「この建物の時間だけを破壊される前の状態に戻した。これで元通り」
「ありがとな、深紅たん。偉いぞ~」
「いちいち撫でなくて良い。元々深紅のせいだから」
「深紅たんのせい何て思ってないよ」
「主は優しい。あの人とは大違い。血が繋がっている筈なのに、どうして……」
深紅たんの口にした「あの人」って誰のことだ?
現在俺の家族と呼べる人間は日向だけのようなものだ。
親が事故死してからは、ずっと日向やその両親の世話になってきた俺には血の繋がった人間など一人も存在しないんだがな。日向は従姉じゃなくてただの幼馴染みだし。
「どうして泣いてるの?何処か痛い?さっきの戦闘で怪我したとか?」
いきなり泣目になった深紅たんを心配しそう聞くと、
「泣いてない」
強がりなのか、図星を突かれて恥ずかしいのか、泣いていることを認めようとしない。
俺が深紅たんの口にした「あの人」について聞いてみると、
「そんなこと言ってない」
と、普通に誤魔化された。
「……まあ、話したくないなら無理には聞かないけど」
「主は…………やっぱり良い…………」
「なあに?」
深紅たんが何かを言いかけて止めたので、何の話がしたかったのかと気になり積極的に聞いてみる。
「……やっぱり主は、ああいうこと言う深紅の方が、好き……なの?」
ああいうこと言う深紅たんってのは、もしかしなくてもさっき俺へ積極的にアプローチを仕掛けてきた偽物の深紅たん達のことだろうか?
まあ、そうなっちゃうのかなぁ。あんなこと言われて嬉しかったのは事実だし。
「いつも無口で素っ気なかった女の子がデレた時って俺的にドストライク何だよ。ドキっとするよね」
「深紅にデレて欲しいの?」
「ううん、深紅たんは無理に俺の趣味に合わせてくれなくても大丈夫。そのままのプリティな君でいてくれ。さっきはごめんね。深紅たんのこと本物だってわかってあげられなくて」
「主の馬鹿」
「へ……?」
いきなりの馬鹿呼ばわりに少々戸惑っていたら、深紅たんが独り言を呟いていた。
何だろう、俺何か気に障るようなこと言っちゃったかな?
「深紅だって……あの子達と一緒、ううん、一番、世界一……違う……宇宙一主のこと、大好きなのに……」
深紅たんがバタンと音を立てて部屋の中で倒れた時は突然のことだったからビックリした。
慌てて体を起こしにかかるも、何だか深紅たんは苦しそうで顔も赤く火照っていて額に手を当ててみたら予想通りに熱かった。
アンドロイドも風邪を引くんだなとか、そんなこと今はどうでも良い。
「深紅たん、大丈夫か?」
「……平気。少しくらっとしただけ」
「全然平気じゃねぇな。よし、俺と今からキスするぞ」
「……何故?」
「何故って、俺に風邪を移すんだよ。そうすりゃ深紅たんの熱も下がるだろ」
「主は本当に馬鹿。そんなことしても深紅の風邪が治ることはない。主も風邪を引く可能性がある。止めておいた方が良い。それに……」
「それに?」
「これはきっと風邪何て生易しいものじゃない」
深紅たんが言うには、戦闘中に敵から撃ち込まれたであろう「ark」と言うアンドロイドを殺傷する特別な兵器。ウイルスが原因らしいが、俺にはそんなこと言われても何のことだかさっぱりだ。
ただの風邪のようにしか見えないが。
「それは深紅たんにだったら簡単に治せるんだろ。いつもみたいに怪我を治す時とかと同じで」
「旧型の物ならそれも可能だった。でも、このタイプは新しく開発され強化されたもの。そう簡単にはいかなそう」
「治らないかも知れないのか?」
「頑張る。何とか……する……」
ベッドの上でくらっとして体を倒す深紅たんを見るにかなりの重症っぽい。
こんな自信の無さそうな深紅たんは初めて見たような、そんな気がした。何か俺が力になれることはあるだろうか。
「何か俺にして欲しいことがあったら遠慮なく言って」
彼女達の目的は自分達を生み出した輝来掴の未来を変えようと企むオリジナルの鍵中深紅を停止させることだ。
そんな強大な殺気を感じた姉の来夢は掴の自宅から外へ様子を見にやって来た訳だが、説得しようにも話が通じる相手では無い。
止むを得ず戦って大切な妹を守る決断をした。
「いくらでも相手になるわ。深紅を消したいならまずは姉のあたしを倒すことね」
日本刀を出現させて戦う意思を見せる来夢に襲い掛かるアンドロイド達。
大勢の敵を一人で相手にしていた彼女の元へ助っ人が現れたのは戦闘が開始してすぐのことだった。
「お姉様、私もお手伝いします」
「助かるわ。ありがとね、シュナ」
来夢の助っ人にやって来たのは赤髪ツインテールに花の髪飾りをつけた見た目の可愛らしい少女で、名を「花見シュナ」深紅と同じで来夢の妹である。
「深紅と喧嘩みたいになっちゃった。この時代のマスターのこと悪く言うあたしのことが気に入らないのかしら?」
「深紅さんはご主人様大好きでしたからね。その気持ちと同じくらいお姉様のことも」
「へ、そお?」
「はい。そこまで心配する必要は無いと思われます。喧嘩する程仲が良い。違いますか?」
「……そうね。後で謝っておくわ」
来夢と同じように最初は日本刀や拳銃を使いアンドロイド達と戦っていたシュナだったが、このままでは埒が明かないと感じたのか、彼女が取り出したのは大型武器、ロケットランチャー。これでまとめて片付けるつもりらしい。
「お姉様、離れていて下さい。これで一掃します」
シュナの放った強力な一撃に命中したのは極々一部だったが、残りのアンドロイド達に恐怖を感じさせて退散させることに成功した。
「シュナが羨ましいわ。マスターは製作段階で貴女専用に百種類以上の武器を用意した。まるで生きる武器庫ね。あたしの使用可能な武器は日本刀と拳銃の二つだけ。格差を感じるわ」
「いえいえ、ご主人様は私達一人一人に愛情を持って製作なされていますよ。私は世界中に存在する有りと有らゆる武器が使用可能ですが、お姉様のような素晴らしい剣術や百発百中の射撃センスは備わっていませんので」
風呂を出てみたら家の中に来夢の姿が無いことに気が付いた。
深紅たんと喧嘩っぽい感じになったから居辛くなって帰ったのかな。
妹大好きなアイツのことだからてっきり俺と深紅たんのラブラブお風呂タイムを邪魔しに来ると思っていたのだが。
「あー、幸せだわー。生きている内に二回も深紅たんのスク水姿が拝めるとはな」
「主大袈裟。人生は長い。そんなのまだいくらでも見れる」
未来の俺が死んでからか、深紅たんの俺に対する思いやり度が最初の頃と同じくらいに戻った気がした。
それは俺からしたらとても良いことなのだが、次に気になってしまったのはアンドロイド姉妹の仲な訳で、二人の険悪なムードを何とかしてやりたいと思っても問題が問題だから中々良い解決策が思い浮かばない。
俺が勉学に励み天才を目指せば深紅たんが嫌がるし、反対にアホの道を突き進めば今度は来夢が怒り出す。
ほんと、どうすりゃ仲直り出来るんだろうな。
「お姉ちゃん、帰っちゃったみたいだな」
「深紅が悪い。来夢姉に酷いこと言った」
お、深紅たんは自分が悪いと感じているんだな。良い子だ。
あの宣戦布告にはちょっとドキっとしたからな。心配したんだぞ。今度は本当の姉妹対決が始まるんじゃないかって。この前の相手は来夢の偽物だったからな。
「駄目だぞ、深紅たん。俺は二人が戦うところ何か見たくないからな」
「深紅も戦いたくはない。主、どうしたら良い?」
「う~ん……俺に聞かれても困るんだが」
そもそも俺は未来のことをほとんど知らないしな。アンドロイドを作ったからってどうして死刑にならなくちゃならんのか。聞いたところによるとアンドロイドを使って犯罪行為を起こしたのは他の人物であって、俺ではないんだろ。
「俺のアンドロイド製作技術を悪用した人物ってのは、誰だかわからないのか?ソイツに好き勝手される前に何か対策を取れたら良いんだけどな」
「無理。主の発明室に忍び込んだ怪しい人物の姿は確認出来なかった。犯人の特定にも至っていない」
「そっか。ソイツは捕まっていないってのに、俺だけが捕まって死刑にされるとか理不尽過ぎるだろ」
「主の証言を警察が信じることは無かった。アンドロイドを悪用し人間を殺させた罪で死刑判決が下り、それが実行された」
「酷い話だよな。俺はやってもいないことで疑われたまま無能な警察共に殺された訳だ」
「信じて。主はアンドロイドを悪用して何かいない。それは深紅が保証する」
「信じるよ。深紅たんの言うことに間違い何て無いだろうから」
深紅たんの「主は」の部分に若干の違和感がありはしたが、きっと俺の気にし過ぎだと思いそこを聞いてみるのはやめておいた。
「深紅たん、髪乾かしてやろうか?」
タオルで拭いただけの、濡れた状態の深紅たんの髪を見て急に乾かしたいという衝動に駆られた俺は異常な性癖の持ち主だろうか?
「平気。自分で出来る」
「良いからこっち来て」
「えー……」
深紅たんを自分の膝の上に座らせて、洗面所から自室まで持ってきたドライヤーのスイッチを入れた。
あ……何かすげぇ良い匂いがする。石鹸とかシャンプーの良い香りだ。
「俺、深紅たんのシャンプーの香り好っきやわ~」
「主も同じの使ってる」
「良いんだよ、細かいことは。俺は深紅たんの髪から漂ってくるこの匂いが好き何だ」
可愛らしい金色の短髪を乾かしながら今更に思う。
やっぱこの絶妙な髪の長さが俺の好みを刺激するんだよなぁ。
大体の無口な美少女キャラは短髪が多い。最近になってあまり深紅たんが無口じゃないことに気付いたのだが、喋ってくれないで会話が続かないよりも会話が成立する方がこっちも楽しいに決まっている。深紅たんくらいの口数がちょうど良いな。
「主、熱い」
「うわっと、ごめん。深紅たんが可愛過ぎてぼーっとしちまってた」
「主はいつも聞いていて恥ずかしいお世辞が多い」
「お世辞じゃねぇよ。本気で言ってる」
「余計に恥ずい」
深紅たんの頬がほんのりと赤いのはドライヤーの熱風が当たっているからなのか、照れているからなのか、そのどっち何だろうな。
「あ、パンタヌ」
髪を乾かしている途中で深紅たんがポチッとTVを点けたら画面には彼女が大好きなゆるキャラ、パンタヌが映っていた。
クイズ番組に参加するパンタヌの中にはきっと、子供の夢を壊してしまうような小汚いおっさんが入っているに違いない。最近よく見るし、相当稼いでいそうだな。
着ぐるみ着ているだけで儲かるとか羨ましすぎる。俺もそんな楽な仕事に就きたいわー。
俺があの中に入るか。それなら絶対に深紅たんも喜んでくれる。
(良いこと思いついたな)
「主、にやにやしてる」
「ふふふふふ。何でも無い。深紅たんともっと仲良くなれる名案を思いついてね」
「何か、怖い」
後でコスプレショップ辺りでパンタヌの着ぐるみを買ってこよう。
そう心に決めた俺だった。
「深紅たん、このクイズ番組つまらないからチャンネル変えても良い?」
「やだ。パンタヌ観たい」
さっきから観ていてもあの着ぐるみ着たおっさん「パヌ~」とか言ってるだけで全然正解出来てない。やる気がないならクイズ番組何か出るな。
それと「パヌ」なら深紅たんが言った方が絶対に可愛いぞ。
番組の司会者の話しだとパンタヌが敗北すれば罰ゲームとして着ぐるみだけに身ぐるみ剥がされるらしい。モザイクかけろ。子供の夢を壊してやるな。
「パンタヌ可哀想」
「このままじゃアイツ、罰ゲーム確定だな」
「大丈夫。何とかする」
そう深紅たんが口にして暫くした後、TV画面では急に頭の回転が良くなったのか、パンタヌが続けて出されたクイズに連続で正解を叩き出していた。
まるで、クイズの解答が頭に浮かんでいるように、他の回答者を抜いて一気にトップへ駆け上がる。周りのギャラリー達も驚きを隠せない。今までは本気じゃなかったのか……それとも?
「深紅たん、もしかして何か手助けした?」
「パンタヌの中の人の頭脳に直接リンクした。クイズの答えをこちらから送ってサポートしたまで」
なるほどね。生放送だからこそ出来る反則技だな。これが予め撮っておいたただの映像ならこんなことすることは不可能だし。
というか、相変わらず深紅たんすげぇ~。よくあのスタジオまで届いたもんだ。
TVでは司会者の質問にパンタヌが誇らし気にこう答えている。
「いやぁ~、いきなり答えが頭の中に浮かんで来たんだパヌ。パンタヌもしかしたら天才かもしれないパヌねぇ~」
お前の知らない所で俺の可愛い深紅たんが力添えしてくれたんだ。
思い上がるんじゃありませんよ!
これを知ったら有名な刑事ドラマの警部殿もこう言う筈さ。
「主、パンタヌ優勝した」
「ああ。深紅たんのおかげでな」
TVでパンタヌの姿を観ていたら深紅たんの濡れている髪はすでに乾いていた。
出掛け先での食事はほとんど深紅たんが食べてくれたから日向が作ってくれた晩飯は無駄にならないで済みそうだ。
俺がラップを外して日向の手料理であるサンドウイッチを食べようとしていると、
「深紅も食べたい」
あれだけの量を食べたばかりだというのに深紅たんはまだ食べ足りていなかったようだ。
深紅たんの可愛いおねだりを俺は断わることが出来ないし、そんなことをする必要も無い。ちゃんと二人分作ってくれたみたいだしな。
「良いよ。玉子、ツナ、トマトと種類が豊富だけど、どれにする?」
「玉子とツナ。深紅、トマト嫌い」
「え、トマト嫌いなの深紅たん。うりうり、ちゃんと嫌いな物も食べないと大きくなれないぞ」
嫌いなトマトを食べさせようと小さなお口へ近づけてみるも、深紅たんは嫌がって口を結んだまま開こうとしない。
「酷い。主が深紅のこと苛める」
「好きな子ほど苛めたくなるものだからなぁ。嫌がってる深紅たんも激可愛だ。他に嫌いな食べ物は?」
「野菜。主にピーマンと人参」
野菜嫌いとかお子様味覚じゃねぇか。超可愛い。
見た目もお子様、味覚もお子様とはな。
「この玉子サンドとかきゅうり入ってるけど平気?」
「平気じゃない。主、きゅうり食べて」
深紅たんの可愛いお願いを断わることなど出来る筈もなく、俺はきゅうりだけを自分の口の中へと放り込んだ。
ちょっとした悪ふざけに俺が深紅たんに差し出したのは、残りのトマトサンド全部をのせた皿。
何でこんな酷いことをするのかって?
そんなことは決まっているさ。単純に嫌がっている深紅たんが見たい。ただそれだけだ。
「主、これ全部トマトサンド」
「知ってる。はい、口を開けてごらん。食べさせてあげよう」
「深紅のこと苛める主きらーい」
深紅たんが俺の膝の上から立ち上がり、てくてくと俺のそばから離れて行く。
……あれ、もしかして本当に嫌われたかな?
「深紅たんどこ行くの?戻っておいで」
ぽんぽんと膝を叩き、此処に戻っておいでと合図を送るも深紅たんは、
「トイレ行ってくる」
「その前に一つ確認があるんだけど、俺のこと大好きだよね?」
「きらーい」
「がーん!!」
深紅たんの口から出来れば聞きたくなかった台詞が飛び出した。
マジでショック。俺立ち直れないかも……。
今日はずっと一日良い雰囲気で、このまま彼女になってくれんじゃね?
とか、ちょっとは思ってたのになぁ。嫌いな物無理に食べさせようとするんじゃ無かった。
時よ、頼む。戻れるなら戻ってくれ。
「……って、戻る訳ねぇか」
天に願っても無駄だったか。
人間には時間を戻せるような異能など備わっちゃいないんだ。万能な深紅たんになら可能かもしれないけど、深紅たん絡みのことをやり直したいのに本人に時を少し戻してとか言えないし、それで深紅たんの俺に対する評価が元に戻る訳でもない。
……はあ。何て切ない青春の一ページ何だ。世の中のリア充共全員死ね。
「深紅が嫌いと言うなら、主は深紅達が貰い受ける」
トイレから戻って来たのか、深紅たんが突然俺の前に姿を現した。此処まで歩いてくるのが面倒だったのかな?お得意のテレポーテーション何か使っちゃって。ビックリしたぞ。
「……し、深紅たん、帰ってくるの早かったね。もしかして一人でトイレ行くの怖かった?」
「主、好き~。ちゅーして」
(へ…………えぇええええええええっ!?)
いきなりどうしたのだろう。
さっきは俺を嫌いと言った深紅たんが今度は好きと言ってキスを求めてくるとか、もう急展開過ぎて頭が追いつかないぞ。
「駄目?」
「い、いや、駄目じゃない……けど、さ……そう言えばさっき「深紅達」って言ってたけど、それってどういうことかな?」
「こういうこと」
気付けば俺の周りには合わせて五人の深紅たんが何処からともなく姿を現して俺に可愛いおねだりをせがんで来た。もしかして此処は夢の国か何かかな?
「主、大好き~」
「主、抱っこ」
「主、おんぶ」
「主、けっこんしよ」
「主、頭撫でて」
あー、何これ。すっげえ幸せな気分。
突如訪れた人生初のハーレム状態。五人の深紅たん達による俺の、ご主人様争奪戦が始まった。腕を右と左から同時に引っ張られようとも、痛さよりも嬉しいという気持ちが勝って、頭が一杯だぁ~。
これがモテ期って奴だろうか。この時間が永遠に続けば良いと心から思うね。
幸せ過ぎて、自然とこんな呪文のような言葉が俺の口から飛び出していた。
「深紅たんが一匹。深紅たんが二匹。深紅たんが三匹。深紅たんが四匹。深紅たんが五匹。深紅たんが六…………あれ、俺の目の前に居る深紅たんを合わせて六匹か?」
「主、深紅は動物じゃない。匹で数えられるのは何か嫌」
「可笑しいな。また増えたのか?最初は五匹、いや、五人しか居なかった筈なのに。まあ良いや。君も早く俺のハーレムに参加したまえ。大丈夫だ。悪いようにはしない」
俺の目の前に立つ深紅たんだけが、何故か俺を生ゴミでも見るような冷たい目で見下ろしている。この子だけは、主大好きアピールをしてこない。何故だ?
「嫌。深紅は主が喜びそうなこと、そんな軽々しく言ったりしない」
「どうしてさ?」
「それは深紅が本物だから。その深紅達は多分、未来から深紅を消す為送り込まれてきた量産型アンドロイド」
「…………へ?」
さっきまで俺にべったりだった五人の深紅たん達が自分の腕を物騒な物(未来の銃的な何か)に変えて、それを目の前に居る一人の深紅たんへ向ける。
まさか、この子達は本当に……?
「逃げろ、深紅たん!」
少しその台詞を口にするのが遅かったみたいだ。
俺の家の自室の壁は激しく破壊され、大きな穴が空き外から中が丸見えの状態に姿を変えた。
深紅たんの姿が何処にも確認出来ないことから考えて、多分テレポーテーションで今の銃撃を回避したのだろう。
五人の深紅たんも気付けば俺の近くから姿を消していた。きっと逃げた深紅たんを追って行ったんだな。
…………いや、よく考えろ。深紅たんは逃げたんじゃない。俺を巻き込まないよう戦闘場所を此処から他の場所に移したんだ。
ああ、また深紅たんに悪いことしちまったよ。あれじゃ、主は深紅よりもあの五人の方が大事とか思われたかもな。
深紅たん傷付いてるかもだし、後でちゃんと謝った方が良いよな。また俺の評価が下がるだろうし…………って、待てよ、俺。今はそんなことを気にするより他にやることがあるだろ。
「深紅たん……深紅たん!」
深紅たんが何処に戦闘場所を変えたか何て俺にわかる筈も無かったが、じっとしては居られずアンドロイド達の姿を探しに外へ飛び出していた。
そうだ。来夢に助けを求めれば……。
「何か御用ですか、掴君。お嬢様ならアルバイト中ですよ。用がお済みでしたらとっととお帰り下さい。殺されたいのですか?」
日向の自宅に行ってみれば、訪ねて来た俺を若頭が門前払いしようとしていた。
殺しますとか、言って良いことと悪いことがあるだろ。
「いや、違うんだ。今日は日向に用があるんじゃなくて」
「お嬢様を呼び捨てにするとは失礼な。ほら、私が刀を抜かない内にさっさとお帰りを。本当に殺しますよ」
俺の背中を押して、帰れと急かす若頭に俺は一つ質問をした。
「来夢に用があって来たんだよ。アイツは居ないのか?」
「来夢さんなら少し前にお出掛けになられました。さあ、これで満足でしょう。二度とお嬢様には近付かないようお願いしますよ。次は無いと思って下さい」
日向と一緒に居るところを目撃したら俺を殺すってか。
そんなことで命を失うなら、俺の命は幾つあっても足りないな。
未来の俺はよく四十まで生きてたもんだ。もしかしたらだが、俺に犯罪者の汚名を着せたのはあの若頭じゃないだろうな。日向のことをこれだけ気にかけているんだ。俺に日向を取られて逆上してやったとしても可笑しくない。
くそ、こんな時に来夢は何処に行ってんだ。深紅たんが深紅たん達に命狙われて大変だってのに。
深紅が戦闘場所に選びテレポーテーションで移動して来たのは簗嶋高校の校庭。
夜の誰も居ないこの場所なら主である掴と他の人間達を巻き込まないで済むと考えての行動だった。
「オリジナルの深紅を殺せと命令された」
「「あの人」が見よう見まねで作った貴女達では主が作った深紅には勝てない。いくら数を揃えようと無駄。与えられたスペックの差が違い過ぎる」
日本刀を装備し量産型の五人が戦う姿勢を見せるが、深紅は余裕な表情で特に慌てる様子もなく、いつも通りに落ち着いていた。
「オリジナルの深紅には武器が使えない。どうするつもり?」
「武器は無くても戦う方法はいくらでも存在する。フォルム・ダイブ」
フォルム・ダイブ。そう唱えることにより深紅の姿が姉の来夢の姿へと一瞬で変わった。
「この能力は主が深紅に武器を携帯させない代わりに備え付けた能力。三姉妹の中で刃物を使わせたら来夢姉は一番の実力者。貴女達の相手には最適」
「数ではこちらが有利」
「数で結果が決まるとは限らない。実力の差が勝利の鍵。貴女達は深紅のスピードについて来れない」
深紅が「加速」と無表情に呟くと、
「消えた……何処だ……姿を見せろ……」
「消えてない。視認出来ていないだけ。コアは破壊させて貰った。貴女達の負け」
敵のアンドロイド達は深紅が動きを加速させて自分達の体の急所(コア)を斬り壊したことに気付くこともなく、数秒後に爆死。死体は跡形も無く消失した。
俺は結局深紅たんの姿も来夢の姿も見つけられないまま、走り疲れ夜道をてくてくと歩いていた。
深紅たん達が何処かに消えてからどのくらいの時間が経っただろう。
何処に居るんだよ、深紅たん。とにかく、無事で居てくれ。
「主」
後ろから声をかけられて振り向いてみると、そこには愛しの深紅たんの姿が。
「何処に行ってたんだよ、深紅たん。随分と探したんだぞ。心配させやがって」
「心配してくれた?」
「当たり前だろ。そりゃ心配するさ。アイツ等はどうなったんだ?」
「片付けた」
「そっか……ごめんな。助けに行けなくて」
深紅たんの頭をなでなでして謝罪の言葉を口にした。
「別に良い」
「ごめんよ、深紅たん。ご主人様を許しておくれ」
「許すって言ってる」
……本当に俺は役に立たないな。
深紅たんが強く無かったら今頃あの子達に存在を消されていたかもしれない。そう思ったら謝罪の言葉を続けて口にしていた。
そんな自分の力無さに、自信を失くしかけていた俺を救ってくれたのは、そう、深紅たんのお礼の言葉でした。
「主が深紅を強く作ってくれたおかげでまだ生きていられた。ありがとう」
「深紅たん大好き!」
「知ってる」
「深紅たんは俺のこと、好き?」
「…………」
黙り込んでしまった。
深紅たんは俺からぷいっと視線をそらすとゆっくりと自宅の方へと歩いて行った。
恥ずかしかったのか、それともウザがられていたのかはわからない。
後でもう一度聞いてみることにしよう。
「おお……すげぇ……」
まず深紅たんがしてくれたのは、さっきの騒動で破壊された壁の修復だ。
大きな穴が空いて外から丸見えだった筈なのに何事も無かったかのように一瞬で綺麗に元通りになる何て……。
壊れた壁に手を触れただけで修復出来るってすごくないか。
「この建物の時間だけを破壊される前の状態に戻した。これで元通り」
「ありがとな、深紅たん。偉いぞ~」
「いちいち撫でなくて良い。元々深紅のせいだから」
「深紅たんのせい何て思ってないよ」
「主は優しい。あの人とは大違い。血が繋がっている筈なのに、どうして……」
深紅たんの口にした「あの人」って誰のことだ?
現在俺の家族と呼べる人間は日向だけのようなものだ。
親が事故死してからは、ずっと日向やその両親の世話になってきた俺には血の繋がった人間など一人も存在しないんだがな。日向は従姉じゃなくてただの幼馴染みだし。
「どうして泣いてるの?何処か痛い?さっきの戦闘で怪我したとか?」
いきなり泣目になった深紅たんを心配しそう聞くと、
「泣いてない」
強がりなのか、図星を突かれて恥ずかしいのか、泣いていることを認めようとしない。
俺が深紅たんの口にした「あの人」について聞いてみると、
「そんなこと言ってない」
と、普通に誤魔化された。
「……まあ、話したくないなら無理には聞かないけど」
「主は…………やっぱり良い…………」
「なあに?」
深紅たんが何かを言いかけて止めたので、何の話がしたかったのかと気になり積極的に聞いてみる。
「……やっぱり主は、ああいうこと言う深紅の方が、好き……なの?」
ああいうこと言う深紅たんってのは、もしかしなくてもさっき俺へ積極的にアプローチを仕掛けてきた偽物の深紅たん達のことだろうか?
まあ、そうなっちゃうのかなぁ。あんなこと言われて嬉しかったのは事実だし。
「いつも無口で素っ気なかった女の子がデレた時って俺的にドストライク何だよ。ドキっとするよね」
「深紅にデレて欲しいの?」
「ううん、深紅たんは無理に俺の趣味に合わせてくれなくても大丈夫。そのままのプリティな君でいてくれ。さっきはごめんね。深紅たんのこと本物だってわかってあげられなくて」
「主の馬鹿」
「へ……?」
いきなりの馬鹿呼ばわりに少々戸惑っていたら、深紅たんが独り言を呟いていた。
何だろう、俺何か気に障るようなこと言っちゃったかな?
「深紅だって……あの子達と一緒、ううん、一番、世界一……違う……宇宙一主のこと、大好きなのに……」
深紅たんがバタンと音を立てて部屋の中で倒れた時は突然のことだったからビックリした。
慌てて体を起こしにかかるも、何だか深紅たんは苦しそうで顔も赤く火照っていて額に手を当ててみたら予想通りに熱かった。
アンドロイドも風邪を引くんだなとか、そんなこと今はどうでも良い。
「深紅たん、大丈夫か?」
「……平気。少しくらっとしただけ」
「全然平気じゃねぇな。よし、俺と今からキスするぞ」
「……何故?」
「何故って、俺に風邪を移すんだよ。そうすりゃ深紅たんの熱も下がるだろ」
「主は本当に馬鹿。そんなことしても深紅の風邪が治ることはない。主も風邪を引く可能性がある。止めておいた方が良い。それに……」
「それに?」
「これはきっと風邪何て生易しいものじゃない」
深紅たんが言うには、戦闘中に敵から撃ち込まれたであろう「ark」と言うアンドロイドを殺傷する特別な兵器。ウイルスが原因らしいが、俺にはそんなこと言われても何のことだかさっぱりだ。
ただの風邪のようにしか見えないが。
「それは深紅たんにだったら簡単に治せるんだろ。いつもみたいに怪我を治す時とかと同じで」
「旧型の物ならそれも可能だった。でも、このタイプは新しく開発され強化されたもの。そう簡単にはいかなそう」
「治らないかも知れないのか?」
「頑張る。何とか……する……」
ベッドの上でくらっとして体を倒す深紅たんを見るにかなりの重症っぽい。
こんな自信の無さそうな深紅たんは初めて見たような、そんな気がした。何か俺が力になれることはあるだろうか。
「何か俺にして欲しいことがあったら遠慮なく言って」
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