未来アンドロイドが俺の所へ送られて来た理由

SAKAHAKU

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第三話(深紅VS深紅)

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いつもは深紅たんと同じベッドで眠っている俺だが、今日だけは一緒に眠ることを控えて床に布団を敷くことにした。風邪という訳ではないようだが、具合が悪いのは確かだし、一人の方がゆっくりと体を休ませることが出来る。
「主、下で眠るの?」
「うん。深紅たんが具合悪いのに俺が我が儘言って一緒に眠る訳にもいかないから。余計に具合が悪くなっても嫌でしょ」
「……別に、嫌じゃ……ない」
「へ、今何か言った?」
「な、何でもない……主の馬鹿」
何か小さい声で悪口を言われたような……気のせいかな。
一言「おやすみ」と深紅たんに声をかけた後、虚しくも冷たい布団の中に体を埋めた。
いつもは深紅たんが先に布団に入っていてくれているから温かくなっていて気持ちが良いんだけど、今日は一人だから何だか寒い。
深紅たんが完全に眠った後、密かにベッドの布団に潜るか。
ま、冗談だけど……。

「主、主……」
「ん……あれ、どうしたの……深紅たん」
夢の世界にいた俺を現実の世界へ呼び覚ましたのは、深紅たんの俺を呼ぶ声だった。
「体が熱くて眠れない……何度眠ろうとしても駄目だった……主、教えて……このままだと、深紅死んじゃうの……?」
俺の頬に温かな水滴が落ちる。
深紅たんが泣いていることに気付いたからすぐに眠気何か吹き飛んだね。
普通の事なんだ。自分が死んじゃうかもって思ったら不安で眠れないもんだよな。
俺にも同じような経験があるよ。インフルエンザで高熱が出た時は不安で中々眠れなかったことを思い出した。
目を閉じたらそこで人生が終わって、そのまま次の日には目覚められないんじゃないかって、いろいろと考えたな。
死にたくないと思う気持ちは人間もアンドロイドも同じ何だ。
「深紅たん、苦しいの?」
深紅たんは自分でも制御しきれない手強いウイルスのせいで混乱して無自覚に未来の俺へ助けを求めているんだ。
そうじゃなきゃ「教えて」何て言葉はアンドロイドを作ったことの無いこの時代の俺に対して言わない筈だから。
「苦しい……熱い……痛い……主、一緒に、寝……て。一人じゃ怖い……」
「良いよ。おいで」
一緒の布団で寝て、少しだけでも恐怖を取り除いてあげることは俺にも出来るかもしれない。
……でも、深紅たんの感じている熱さや痛み、苦しさを緩和してあげることは不可能だ。
未来の俺が生きていたらこういう時は深紅たんの役に立ってあげられるんだろうなぁ。
過去の俺には何も出来ない。何か悔しいぜ。
「あり、がとう……」
「でも大丈夫?一緒に居たら余計に熱くない?」
一旦ベッドの上に座らせて自分で涙を拭おうとしない深紅たんの涙を代わりに拭いてあげながら、当然のわかりきった事を聞いてみると、
「そう、だけど……これで死んじゃうかもしれないから、最後は主と一緒に居たい。駄目?」
「そんな悲しいこと言わないでよ。大丈夫。深紅たんは死なないよ。未来の天才科学者の俺がこんなウイルス如きで深紅たんが死んじゃうような柔な体に作る筈無いだろ。主のこと信じてあげてよ」
「信じ、る……主の、こと……大好きだから……」
何だろう。未来の俺のことを深紅たんは言った筈なのに、深紅たんからしたら過去の俺が大好きとか言われて照れてどうすんだ。
風邪ではない深紅たんにこんなことをしても気休めにしかならないだろうが、濡らした冷たいタオルを額に当ててあげたら少しは熱が下がったりするのかな。
いや、その前にこの汗でびしょびしょになってる体を拭いて着替えさせてあげるのが先か。
「深紅たん、パジャマ着替えようか。今のままじゃびしょびしょで気持ち悪いでしょ」
「うん……」
「じゃあ、濡れたタオルで拭いてあげるから、パジャマ脱いでくれる?」
「主が、脱がせて。上手く身体……動かせない」
くっ、看病とは言っても深紅たんの服を脱がすとか、これが初めてな訳じゃないけど興奮するわ~。スク水着せた時の無理矢理な感じとはまたシチュエーションが違うからなぁ。
こういうことって本当は日向とかに任せた方が良いのだろうが、今は夜中だし、こんな時間にアイツを呼び出せば俺が若頭に殺される。何より深紅たんは俺にやって欲しいと言っているんだ。俺がやらなきゃ深紅たんを余計に悲しませる結果となるのは目に見えてる。
そう。これは仕方の無いことなのだ。
「いくよ。深紅たん」
鼻息を荒くさせながら、深紅たんの着ているパジャマのボタンに手を触れた。
そういや深紅たん、小学生みたいにつるぺただからブラしてないんだった。
「主、嬉しそー」
「深紅たん、この際だから覚えておくと良いよ。一見変態行為に見えるこの行為も、相手の同意があればそれは医療行為に変わってしまうものなのさ」
「そう考えているのは主だけ。深紅で収まっているから良いが、他の小学生に手を出した時点でアウト」
良かった。さっきまですごく辛そうだったけど、今は呂律が回ってはっきりしてる。俺と話して少しは落ち着いてきたのかな?
「そんなこと、言われなくたって解ってるさ」
深紅たんの背中、腕、胸と、上半身を拭き取った後は続いてズボンを脱がし下半身の汗を拭き取った。もちろん下着は脱がせていない。
……これでとりあえず、新しいパジャマを着させてあげれば俺の役目は大体終わりだな。
「すっきりしただろ。一応全部拭いたからな」
「感謝」
「額に冷たいタオル乗せてあげるから、横になって待ってて」
洗面器に大量の氷を入れて水を注ぐ。
これでこまめにタオルを絞って変えるを繰り返していけば深紅たんも少しは楽になるかな。まあ、気休めだとは思うけど何もしないよりはマシだ。
「主は眠らないの?」
「眠るよ。深紅たんが落ち着いて眠れるようになったらね。それまでは起きてずっとそばにいてあげるよ。だから安心してお休み」
「ありがと……主」
「なあに?」
「手、握ってて欲しい」
「深紅たんは甘えん坊だなぁ。良いよ」
これではタオルが変えられないと思ったが、深紅たんの可愛いお願いを断ることなど出来るものか。
更に元気付けようと、深紅たんの大事にしてくれている俺がプレゼントした人気ゆるキャラ、パンタヌのぬいぐるみを片手に取って、
「深紅たん、頑張れパヌ~。パンタヌも応援するパヌよ~」
声真似をし、深紅たんに笑顔を取り戻そうと頑張った。
「パンタヌが深紅のこと応援してくれてる」
「そうパヌ。深紅たんが死んじゃったらパンタヌ淋し過ぎて後を追っちゃうかもしれないパヌよ。それでも良いパヌ?」
「それは困る。主は……えっと、パンタヌは死んじゃやだ」
「それじゃ深紅たんが頑張るしかないパヌな~。ずっとそばで看病するから諦めちゃ駄目パヌ」
「了解した。深紅、頑張って生きる」
「パンタヌはその言葉が聞きたかったんだパヌ。深紅たんが決心してくれたみたいですごく嬉しいパヌ」
俺はそれから一睡もせずに、朝まで深紅たんの看病をしていたのだった。
しばらくの間パンタヌになりきって会話を交わしながら。

「熱っ!」
朝になって眠りから覚めた深紅たんの額に手を当ててみたら、ポットで沸騰させたお湯みたいに熱かった。下手をすれば火傷をするレベルだな。
風邪では無いことは知っていたが、一応体温計で熱を測ってみたら、
「は…………57℃!?壊れてんのか、これ?」
体温計を見てゾッとしたのはこれが初めてかもな。人間でこれだけ熱のある奴がいたら、ソイツはとっくに死んでいるようなクラスの驚くべき結果が出た。
俺がインフルエンザの時には最高で40℃くらいしか出なかったけどな。
こりゃもうお手上げだと、それで俺が最終的に考えたのは深紅たんの姉の来夢を此処に呼んでくることだった。
アイツなら深紅たんの怪我をくちづけ一つで治癒させたように、今回のこのウイルスでさえ何とか出来るのではないかと、そう思うのだ。
しかしその案に深紅たんは、
「きっと来てくれない。深紅酷いこと言っちゃったから」
「お馬鹿。そんなこと言ってる場合じゃないだろ。大丈夫。来夢なら絶対に来てくれるって」
深紅たんとそんな話をしていたら玄関の方から誰かが入ってきた音が聞こえて、きっと日向だろうと思っていたら、この部屋にやって来たのは今話題にしていた来夢本人だった。
「深紅、昨日はごめんね。あたしもあれからいろいろ考えて……」
深紅たんを看病する俺の姿を見て、来夢の言葉が途中で止まった。
「どうしたのよ、深紅。風邪引いちゃったの?若、アンタが移したんじゃないでしょうね?」
「何で俺が移すんだよ。そもそも俺は風邪何か引いちゃいない。これはだな……」
昨日起きたことを全て深紅たんの代わりに俺が来夢へ説明することとなった訳で、事情を知った来夢は迷うことなく布団の上で横たわる大切な妹に治癒能力の備わったくちづけをするも、それは意外なことに期待を大いに裏切って効果をほとんど発揮しなかった。
話を聞くと来夢も昨日深紅たんの偽物と対峙したようで、何体かを破壊したが、何体かに逃げられたようだ。
もしかして、昨日の五体はその残りだったか?
「完全にお手上げね。怪我は治せても新作の対アンドロイド用ウイルスにはあたしのくちづけも無意味みたい」
「あれ、でも少しは効いてるみたいだぞ。熱が少しだけ下がってる」
くちづけ後、もう一度熱を測ってみたら、5℃程だったが熱が落ちていた。
「旧型のウイルスだったらくちづけで完全に殺せた筈よ。奴等が未来で作られた新型を使ってさえいなければね」
未来の世界ではアンドロイドによって人間が命を奪われることが当たり前のようになっているらしいから、人間だって対抗してそういうウイルスを開発するんだろうが、今回ばかりは開発者共を恨むぜ。俺の可愛い深紅たんをこんなにも苦しめやがって。
「恨むのは開発者よりも量産型にそのウイルスを使わせた人間よ。彼が本気で深紅の命を奪おうとしているのがわかるわ。新たに生み出された強力なウイルスにあたし達アンドロイドが対応出来ないと知っての行動ね。ほんと、性格の悪い人」
何だか、その相手のことをよく知っているような口振りだな。
来夢はもしかして未来の俺を殺そうと企んだ人物が誰なのかすでにわかっているんじゃないか?
「来夢、深紅たんをこんな酷い目に遭わせた奴を知っているなら教えてくれよ。誰何だ」
「……そう。若は知らなかったのね。深紅に聞いているものと思っていたけれど、この子の性格なら話していなくても頷けるわ。若を気遣ったのね。若のことを考えたら言いたくても言えなかった。そんな感じかしら」
「ええ。もちろん。知らない筈が無いわ。だってその人は自分がムシャクシャすれば深紅に暴力を振るってストレス発散するような酷い人だったんだから。良いわ、お望み通りに教えてあげる。聞いたらきっとガッカリするわよ」
「来夢姉、駄目……」
深紅たんは来夢が「人物名」を喋ることを阻止しようとベッドで横になっていた体を起こした。
……しかし、俺が「がっかり」するような人物って一体誰何だよ。
どうして深紅たんは今までその名を伏せていたんだ?
「深紅は安静にしていなさい。駄目って言っても此処まで聞いたらこの人は知りたい気持ちを抑えられないでしょう」
ついに明かされるのか。未来でアンドロイド製作技術を悪用し、たくさんの人間を殺して俺に罪を擦り付けた張本人の名前が。
「簗嶋未知可」
「…………へ?」
「深紅の命を狙って偽の深紅を未来から大量にこの時代へ送り込んできたのも、アンドロイドに人間達を殺すよう命じ、マスターに自分の犯した罪を着せたのも全てが彼の仕業よ」
……可笑しいな。聞けばがっかりするような人物だと聞いていたのに、来夢が口にした「簗嶋未知可」という人物に全くと言って心当たりが無い。
一つ俺と関係があるとすれば「簗嶋」という苗字が俺の世話になっている幼馴染、ひなっちさんと同じ苗字というくらいか。
「……その、簗嶋未知可ってのは誰何だ。ひなっちの親戚か何かか?アイツに兄弟や姉妹はいない筈だから、え~っと……イトコ?」
「ほんと、マスターと違って若はお馬鹿さんなのね。深紅から聞いてないの?貴方は奥様と結婚後、名前が「輝来掴」から「簗嶋掴」
に変わったの。婿養子になったから苗字が変わった訳よ。どう、これで大体の予想は出来たんじゃない?」
苗字が変わった俺「簗嶋掴」と「簗嶋未知可」との関係は…………ええと、まさかとは思うが、あれ、だよな。もうそれしか考えられないのだが。
「これが正解何てわからんが、俺と日向の……子供、なのか……」
「そう。簗嶋未知可は貴方の正真正銘の血の繋がった息子。マスターと奥様の間に出来た愛の結晶なのよ」
……おいおい、マジかよ。今来夢は何て言いやがった?
俺と日向の間に出来る「息子」!?
ふざけんなよ。俺達の子供は息子なのか?娘じゃなくて!?
「はぁ…………そうか。そりゃ衝撃的なことを聞いちまったな。息子がねぇ」
「よく思い知らされたでしょ。貴方の息子は大変なことを未来で仕出かしたのよ。親として責任を取ったらどう?」
「いや、俺産んでねぇし。産んだのひなっちだし~。つうか許せねぇな、ソイツ。深紅たんを苛めるとかマジで許せんぞ」
「でしょ。深紅の髪乱暴に引っ張ったり、頭殴ったりとか信じられないでしょ。ムシャクシャしてるからってこんな可愛い子に当たる何てふざけてるわよ。何度殺してやろうと思ったことか」
殺すとか、軽々しく物騒なことを言う来夢さん。
ガチでお怒りのご様子だ。
「しかしソイツは本当に俺の息子かよ。深紅たんを苛める何て酷いことをする野郎は俺の息子とは認められねぇよ」
「真実よ。深紅は若の息子のお世話係として学校に付いて行ったりしてたわ」
どうにかして俺と日向の間に「娘」は出来ないだろうか。
息子とかいらねぇよ。
そんな酷いことするような息子なら尚更だ。
後で説教だな。次深紅たんを殴りやがったら顔面パンチしてやる。
「深紅たんごめんよ。俺の息子(絶対に認めない)に苛められちゃったんだよね。辛かったら未来の俺に言ってくれたら良かったのに」
「そんなこと、出来ない」
「どうして?」
「主と奥方のこと……悲しませたくなかったから」
思いやりのあって優しい、まるで天使のような言葉をかけられた俺は嬉しくなって具合の悪い深紅たんをぎゅっと抱きしめていた。
決めたぞ。俺がこの子にしてあげられることはこれしかない。
「深紅たん、俺決めたよ」
深紅たんを抱きしめから解放して俺は誇らし気に言った。
「……?」
突然の俺の言葉にキョトンとして首を傾けた深紅たんはきっと「主、何を決めたの?」とそう思っているに違いない。
可愛い奴め。俺の息子(意地でも認めない)が深紅たんを苛めるような悪い奴なら、ソイツを倒す方法は一つしかないだろう。
……それは、
「俺は日向との間に子供を作らない。これで俺も死なないし、深紅たんが狙われることもなくなる。どうだ。良い考えだろ」
しかし、そんな作戦に深紅たんは、
「駄目。主、それだと奥方が可哀想。奥方は主との間に子供を欲しがっていた。そんなこと言って悲しませたくない」
何処まで良い子何だ。深紅たんは。
俺の息子(死ぬまで認めない)に苛められていたってのに、そこまで我慢する必要は無いんだぞ。
「日向なら事情を話せばわかってくれるさ」
「ねぇ、掴。ひなが何なの?」
ちょうど良いところに登場したのは押しかけ幼馴染の日向君。
深紅たん達アンドロイドが言うところの俺の未来の嫁である。
「ああ。聞いてくれ日向。実は未来の俺とお前の息子がだなぁ」
「主!」
深紅たんがいつもとは違う少し大きめな声で俺を呼び、俺の言葉を途中で遮った。
「深紅なら大丈夫。主が傍に居てくれるだけで、あれくらい、耐えられる……から」
「深紅たん……」
「あれ、しんちゃんもしかして具合悪いの?大丈夫?」
ベッドの上にいるパジャマのままの深紅たんに気付いて日向心配そうに声をかけた。
俺がしてあげたように、同じように額に手を当ててみる。
「熱いね。お医者さん行った?お薬飲んだ?」
「平気」
「大丈夫そうには見えないよ。掴のことだからしんちゃんをお医者さんに連れて行ってあげるお金も無いだろうし。掴、今日は学校お休みしよう。しんちゃんを病院に運ぶの手伝って」
「待てって、日向。深紅たんはアンドロイドだ。普通の人間とは違うんだぞ。医者に診せたところでどうにも出来ない」
「それじゃどうすれば良いの?このままじゃしんちゃんが可哀想。すごく苦しそうだよ」
そんなことは言われなくたって十分に解ってるさ。
このまま何も手を打たなければ深紅たんはウイルスに完全に侵食され死に至る。
俺だって今すぐにでもその苦しみから救ってやりたいさ。でも無理何だ。
悲しいことにこの時代の俺には特効薬を作ってやれるような技術何て持ち合わせていないんだ。
「そういうことでしたか。ご主人様が私にこのプレゼントを託された意味がやっとわかりました」
「……えっと、君はどちら様で?」
日向の次に俺の部屋に入って来たのは花の髪飾りをした赤髪ツインテールの可愛らしい容姿をした美少女。
両手で大事そうに抱えているプレゼントっぽい袋は何だ?
「あれ、シュナちゃん。どうして此処に居るの?今日はメイド喫茶でアルバイトだった筈じゃ」
え……この子がシュナ?
日向と同じアルバイト先で働いているアンドロイド三姉妹の次女なのか。
「お休みしました。私はこの日、深紅さんにこれを渡して欲しいとご主人様にお願いされていましたので」
「シュナ姉、これなあに?」
「これはお誕生日のお祝いです。忘れてしまいましたか?今日はご主人様が深紅さんを誕生させた大切な日ではありませんか」
「これを主が、深紅に?」
「そうです。開けてみて下さい」
深紅たんがプレゼント用に可愛らしいピンクのリボンでラッピングされた袋を開けてみると、そこに入っていたのは大好きな「パンタヌ」のぬいぐるみと後一つ、封筒のようなものだった。
多分それは未来の俺からの、深紅たん宛に書いた手紙だろうな。
なんとなくそんな気がする。
「……主、あり、がとう」
封筒から出てきたのはやっぱり手紙で、それを読んでいた深紅たんが数秒後に泣き出すもんだから、こりゃ困ったもんだ。
どうやら未来の俺はアンドロイドやタイムマシンを作るだけでなく、人を泣かせるような感動的な文章を書くのも達者らしい。
ほんと、何でもオールマイティにやっちまうんだからすごいよな。
今の俺とは大違いで。
「深紅たん、そこには何て書いてあるんだ?俺達にもそろそろ教えてくれよ」
泣き止んでパンタヌを嬉しそうに抱きしめる深紅たんの笑顔は熱で頬が火照っているからなのか、今まで見た中で最高のものに見えた。俺がクレーンゲームでやっとのことゲットしたパンタヌをあげた時と同じくらい……いや、悔しいがそれ以上に。
「このパンタヌは新型の「ark」ウイルスを吸い取ってくれる主お手製のぬいぐるみだって書いてある。これを一晩抱いて眠ったら深紅の感じている熱や痛みは次の日には完全に消えて無くなるって」
「それお手製ぬいぐるみかよ!?すげぇな、俺。裁縫まで得意なのか」
「すごいのは若じゃなくてマスターの方だけどね」
「未来の掴、すごーい」
「わかってる。どうせ俺は未来の俺と違って何も出来ませんよ」
未来の俺のおかげで深紅たんのことはもう大丈夫そうだ。
良かった、良かった。
「そう自分を蔑まないで下さい。この時代のご主人様も未来のご主人様と変わらずカッコ良いですし、シュナは好きですよ」
「へ、マジで?」
「はい。ご主人様には深紅さんの淋しさを紛らわしてあげることが出来ます。未来のご主人様の代わりに、これからは私の妹を可愛がってあげて下さい。この子、すごく甘えん坊ですから」
「そりゃもちろん。これからも可愛がるつもりでいるよ」
「シュナ姉、深紅そんなに甘えん坊じゃない。どっちかで言うならシュナ姉の方が甘えん坊。よく主とベタベタしてた」
「深紅さん。私はベタベタ何てしてません。お慕いしているからこそお傍にいさせて頂いただけです」
未来の俺ってシュナちゃんに好かれてたんだな。
当然のことながらこの時代の俺には全然想像がつかない。
「ぬいぐるみをプレゼントされて喜ぶ深紅さんはまだまだ甘えん坊です」
「こ……これは主からのプレゼントだから嬉しいだけ」
未来の俺はこの日深紅たんが新型のウイルスで苦しむことを知っていてパンタヌのぬいぐるみを未来で発明し、シュナちゃんに届けるようお願いした。
未来の俺もこの日を経験済みな訳だ。そうじゃなきゃ深紅たんへこんなサプライズ的対策を取ってやることは出来ない筈だから。
まあ、何はともあれ、
「良かったね、深紅たん。それ大切にしないとな」
「主見て。パンタヌ二匹に増えた」
「深紅たん、大好き!」
深紅たんがこの時代の俺と未来の俺がプレゼントしたパンタヌ両方を手にして瞳を輝かせている可愛らしい姿を見て、いつもお決まりの飽きる程口にしている台詞(心からの叫び)が自然と飛び出していた。
俺も嬉しいぜ。深紅たんは未来の俺からのプレゼントに夢中だったから、俺があげたパンタヌにはもう興味が無いのかと思っていたところだ。
……ああ。未来の俺が羨ましいぜ。どうしたら俺は彼に勝てるのだろうな。
「主、一緒にこれで遊ぼ」
「何だか深紅たん元気になってきたっぽくない?」
「体から熱が引いてきた。パンタヌ少しの間抱いているだけでも効果あるっぽい」
「そっか。じゃあ遊ぼうぜ」
「掴、しんちゃんまだ本調子じゃないんじゃ」
「日向は玉子粥作ってくれ。深紅たんお腹空いてるだろうから」
「え……うん。別に良いけど」
その日、俺と日向は学校を休んで一日深紅たんの看病をした。
ちなみに自分の息子が未来でとんでもない悪行を仕出かすことはまだ伝えられていない。
深紅たんの為にも、早い内に相談しておかないといけないだろうな。


























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