未来アンドロイドが俺の所へ送られて来た理由

SAKAHAKU

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第四話(未来で深紅は未知可に何をされたのか)

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「大丈夫。深紅の方は後千体程で片が付く。待ってて。もうちょっと頑張ればシュナ姉と来夢姉を手伝える」
「こっちのことは気にしなくて良いから、無理しないで自分のペースで戦いなさい」
来夢はそう言うが、彼女が相手にしている量産型アンドロイドの数は戦闘が始まってから今までほとんど減っていないように見える。
やはり刀一本だけではキツイのか、一度に大勢の敵を蹴散らせるロケットランチャーを使うシュナの方が一体ずつ刀で斬り倒している来夢よりも敵の数を順調に効率よく減らしていた。
「一体ずつじゃ埒が明かないわ」
来夢はもう一本の日本刀を取り出し、刀の柄と柄をくっ付ける。
すると二つの日本刀が合体し薙刀の形へと変化した。
「こっちの方がまだマシね」
妹達に負けずと豪快に薙刀を振り回し、自分の近くにいる量産型アンドロイド達を一掃する。
一気に攻撃範囲が広がった。

「何だよ……これ……」
三人が九千体のアンドロイドと対峙している頃、自室で深紅達の帰りを信じて待っていた掴は、ベッドの上に置いてあるパンタヌぬいぐるみの目の前に「主へ」と書かれた自分宛の手紙を発見し、それを手に取っていた。
開封してみると、そこに書いてあったのは「主、深紅のこといつも可愛がってくれてありがとう。嫌がっているように見えたかもだけど、本当はすごく嬉しかったんだ。ばいばい。深紅は優しい主のことが大好きです」と全部で四行と短くまとめられた本音。自分の大好きな深紅たんからのお別れの言葉だった。
「……ばいばいって何だよ。深紅たん……絶対に帰って来るって言ってたじゃないか。あれは嘘だったのかよ……」
深紅たんの大好きだったパンタヌぬいぐるみを見ていたら自然と涙が零れた。
あの子はきっと俺を戦闘に巻き込まないように、心配させないようにとあんなことを口にしたんだろうな。
もう一度深紅たんに会いたいと自宅から外に飛び出してみても、九千体ものアンドロイドと激しい戦闘中の三人の姿は何処にも見当たらず、街の中は平和そのものだった。
「何処にいるんだよ……深紅たん、来夢、シュナちゃん……」
街の中を走り回っても何処にもいない。
それもその筈だ。彼女達の張った戦闘用フィールドは特殊なもので、人間の視界には映らないように設計されている。人間達を混乱させないようにと、未来の掴が考えての能力だった。
「あ、主だ」
何千といるアンドロイド達と命懸けの戦闘の最中、深紅が外を出歩いている掴の姿をみつけてちょっとの余所見をした。
敵はそんな隙を見逃さず、一斉に攻撃を仕掛け持っている日本刀を突き出した。
いきなりのことに対応が間に合わず、死を覚悟した深紅だったが、
「馬鹿深紅っ!何余所見してるのよ!」
大切な妹を守ろうと敵の攻撃を防ごうと思った来夢も突然なことに間に合わず、体に敵の刀が何本もぶっ刺さった。
「お姉様!」
来夢を刺した五~六人のアンドロイドはシュナが放ったロケットランチャーで撃ち殺したが、心臓(コア)の辺りに刀が刺さっているのを見るにもう彼女は戦える状態じゃない。
そう思った深紅は、
「来夢姉……ごめん、なさい……深紅が余所見何かしたから……」
「気にしなくて、良いわよ。あんたがマスターのこと……大好きだってわかってるから……あいつに、最後にまた会えて嬉しかったのよね……」
「うん……主とはもう、ばいばいだから。来夢姉はシュナ姉と一緒にフィールドから出て。後は深紅一人で平気」
「……え?」
「シュナ姉、来夢姉のことお願い」
後半数近く残っているであろうアンドロイド達は自分一人で片付けるからと、深紅は戦闘不能状態の来夢をシュナに託すと、二人をフィールドの外へと避難させた。
シュナが語りかけようがフィールドの外に出てしまえば中にいる深紅に声が届くことはない。来夢にどうするか聞いてみるもすでに反応が無い。死亡を確認した。

「来夢姉のぶんもシュナ姉のぶんも深紅が全部片付ける。力を貸して。パンタヌ達」
深紅の言葉を合図にぬいぐるみくらいの大きさのパンタヌ軍団がそれぞれに武器を持って三千匹程出現し、量産型へ総攻撃を仕掛ける。
これは簗嶋掴がパンタヌ好きな深紅の為に作ったオリジナル能力で、小さくても彼等は量産型の数を減らすことに貢献し、かなり深紅の役に立っていた。
「これで、ラスト……」
パンタヌ軍団が予想以上に敵の数を減らしてくれたおかげで深紅が相手をする数も残り十体程と後僅かとなった。
一斉に三千体のパンタヌを操作するのは体力を大幅に消耗するらしく、深紅はもうへとへと。これくらいなら後は自分でと、パンタヌ軍団を解散させる。
気持ちが少し楽になってきて一息ついたその時、
「くっ……油断した……」
後ろから接近してきたアンドロイドに気付かず、背中から心臓(コア)付近を突き刺され重症を負った。
強烈に痛みを感じたが、それでも、まだ此処で勝利を諦める訳にはいかない。
深紅は刺された刀を体から引き抜き、それを握りしめ残りのアンドロイド達へ最後の力を振り絞り体当たり、猛攻を仕掛けたのだった。

「……大丈夫かな、深紅たん……無事、だよ、な……」
とうとう深紅達の姿を見つけられなかった掴は、浮かない表情で自宅へ帰って来て誰も居ない淋しい部屋の卓袱台の前にストンと腰を下ろした。
自分には三姉妹の無事を信じて待つことしか出来ない。無力差を呪いたくもなるだろう。
目の前にある卓袱台へ怒りの感情のたんまりと篭った握り拳を強く打ちつけた。
「くそ、俺は深紅たん達に何もしてやれないのかよ……」
掴が一人事を呟いたその時、自分の部屋のドアノブがガチャっと音を立てて、そして開いた。
「そんなこと無い……主は、深紅達に……戦闘の役に立つ能力をいっぱいくれた……」
深紅が体中傷だらけで、いつ倒れても可笑しくない状態で掴の、主の元へと帰って来た。
「深紅たん!」
躓いて倒れそうになった深紅を慌てて掴が受け止めに走る。
此処へは二度と帰って来ないと思っていた深紅の姿をもう一度見ることが出来てほっとしていた掴に、彼女は言った。
「ごめんね、主……深紅、実は知ってたんだ。さっき終わったばかりの戦闘で自分が死んじゃうこと……」
「は……何言ってんだ。深紅たんは今もこうして生きてるだろ。死んで何かいないじゃないか……言葉の意味がわかんないよ……そんな笑えない冗談言ってないで、能力使って早く怪我治した方が良いぞ……」
深紅が胸に刺されたような大怪我を負っていることに気付いた掴は治癒能力で体の再生をするように言うが、
「コアを破壊されてた……大丈夫かと思ったんだけど……やっぱり駄目だった……」
「……コアって?」
「人間で言えば心臓。これを破壊されたら能力が発揮出来ない」
「それって……どうなるんだ……大丈夫、何だよな?」
「……大丈夫。この街にやって来たアンドロイド達は全て深紅とお姉ちゃん達で倒した」
「そんなこと心配してんじゃねぇ!俺が聞いているのはお前の体のことだっ!!」
普段は深紅に優しい彼の口から初めての怒鳴り声が飛び出した。
こっちのことはどうでも良いから自分の体を心配しろと、戦闘で重症を負ったアンドロイドに言いたくなる気持ちはわかる。
「馬鹿!深紅たんの馬鹿っ!絶対に帰って来るって約束したじゃないか!あれは嘘だったのかよ!」
「深紅嘘は付かない。冗談ならよく言う……現に深紅はちゃんと主のところに帰ってきてる」
「いいや、こんなの帰って来たとは言わないね。これじゃ俺の部屋に死にに来たようなもんだ。お前、血だらけじゃねぇかよ……」
自分を怒る掴に深紅は言った。
「深紅は主の住むこの街を守ったんだよ。怒っちゃやだ……褒めて欲しい……」
「やだよ。今日は何が何でも甘やかさないからな。俺に心配かけさせやがって」
「えー……主酷い。もうこれで会えるの最後なのに……」
「最後じゃないよ。深紅たん生きてるだろ」
「コアが壊れたらアンドロイドは生きていられないよ。もう少しで深紅、死んじゃうんだよ……今は辛うじて生きてるだけ」
「良い加減にしないと怒るぞ」
「もう怒ってる……主の馬鹿……いつも深紅に優しかったのに、最後は冷たくするの?」
自分の怒りの混じった言葉遣いに深紅が涙目になっていることに気付いた掴は、流石に可哀想に思えて、
「悪かったよ、深紅たん……ごめん。そうだよな、命救って貰ってこんな態度取ってる俺が馬鹿だった。ありがとう。でもわかってくれ。俺は深紅たんが大好きだからこそ怒ったんだ。嫌いだったらこんなに怒ったりしないよ」
「主」
「……何?」
「主がいつも、深紅にかけてくれるあの台詞が聞きたいな」
「……ああ。良いよ。だからこれからもずっと俺の傍にいろ」
「深紅も主と一緒にいたいけど、もうすぐお別れ……だからお願い。死んじゃう前に主の言葉聞かせて……」
「くっ……」
「深紅は主のこと、大好きだよ」
「俺も、深紅たんが大好きだ」
いくら量産型アンドロイドが弱いからって九千体も束になって掛かって来られたらそりゃ死ぬだろ。無事で済む筈がない。
どんなに強い奴でも何千人も一人で相手出来る訳無いんだ。俺だったら開始何秒かで殺される自信がある。
「だから死ぬな。深紅たんが死んだら俺も後を追いかけるかもしれないぞ」
深紅との別れの時が迫っているという現実を知って、掴は涙を溢れさせた。
「それは困る。奥方が悲しむ結果になるから止めて欲しい」
「今日向のことはどうでも良いだろ!」
「どうでも良くない。深紅信じてるよ。今度こそ主が若のこと救ってくれるって」
「何言ってるんだよ、深紅たん……こんな目に合わされてまだアイツのこと気にかけてるのか……」
「深紅はもう主に会えないかもしれないけど……」
「馬鹿……また会えるに決まってるだろ。時間は掛かるかもしれないが、少し待っててくれないか。俺、明日からもう勉強して、深紅たんを作れるくらいの科学者になってみせるからさ……絶対だ……」
「主、深紅のことは作っちゃ駄目」
「どうしてだよ!」
「若が荒れたのは多分深紅のせい。深紅が、主を独占しちゃったせい……だから……主に
最後のお願い、聞いて欲しい……な……」
言葉の途中で目を閉じそうになった深紅に掴は声を掛ける。
一度目を閉じればもう二度と起きてくれない。そんな気がした。
「おい深紅たん!目を閉じるな!俺はまだ最後のお願い聞いてないぞ!」
「深紅が死んでも、若のことは恨まないであげて。約束」
「わかった。わかったから…………お願いだから、俺の前から居なくならないでくれよ…………明日から俺、深紅たんが居ない世界でどう生きていきゃ良いんだよぉ」
今にも意識を失ってしまいそうな自分の大好きなアンドロイドの姿を見て、大泣きした掴の涙がぽろぽろと深紅の頬に零れる。
悲しくて辛くて仕方の無い自分の主へ最後に深紅が笑顔で掛けた言葉は、
「……主がいつも深紅に優しくしてくれて、嬉しかったな……」
ついに瞳を完全に閉じ切った深紅。
掴が体を揺さぶったり、声を掛けようがそれから起きることは二度と無かった。
動かなくなった深紅の体を自分の膝の上に置いて暫くの間抱きしめていると、掴のところにはただ一人だけ姉妹の中で生き残ったシュナが姿を見せた。
「深紅さん、こちらへ帰って来ていたのですね」
「……シュナちゃんか。無事、だったんだな」
「はい。深紅さんは停止してしまったようですね」
「……深紅たんに言われたんだ。未来で自分のことを作らないでくれって。それで未知可の奴を救えるって」
「……そう、ですか」
掴はコアが砕けて停止した深紅の頭を優しく撫でながら姉であるシュナにこう宣言した。
「……決めた。俺は深紅たんを作る!天才科学者の道を歩む!」
「ですがご主人様、それでは深紅さんのお願いが」
「シュナちゃん、俺が深紅たんのお願いを叶えたら深紅たんとは二度と会えないんだよ」
「……わかりました。私もご主人様のお勉強を精一杯お手伝いします」
大切な、大好きな存在を失ったこの日、アンドロイド三姉妹次女であるシュナを助手として、輝来掴の天才科学者を目指す、鍵中深紅をこの世に生み出す果てしなく長い物語は始まりを迎えたのだった。


















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