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第四話(未来で深紅は未知可に何をされたのか)
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「俺はもう大きな夢を叶えてるよ。深紅たんをこの世に生み出すことが俺の絶対に叶えたかった夢何だから」
深紅たんは照れているのか、少しの間黙ったままだったが、しばらく続いた沈黙を破って自分を生み出してくれた未来の俺にお礼の言葉を口にした。
「ありがとう」
「いえいえ」
「主を誇らしく思う」
「それはもしかして俺のことを褒めているのかな?」
「そう」
「はは。嬉しいよ。深紅たんに褒めて貰える機会何て滅多にないからさ」
これもまた何となく予想はしていたが、映画の上映が始まり五分くらい経過したところで未来の俺は暗い空間の中で眠りに落ち、隣に座る深紅たんだけが瞳をキラキラと輝かせて「パンタヌの冒険THEMOVIE」を嬉しそうに見つめていた。
この映画は完全に子供向けだな。そりゃ大人の俺が飽きてしまうのも仕方の無いことか。
上映終了後に映画の感想を深紅たんが口に出しても、俺にはちんぷんかんぷんのようで適当に相槌を打ち「そうだね」とか「はは」の二択くらいしか言葉が出て来ない。
君の隣で寝ていたとは今更言い出しにくい状況下に置かれていた。
「主、本当に観てた?」
深紅たんは映画に夢中で、未来の俺が隣で眠っていたことなど全く気が付かなかったようだな。
「観てたよ、観てた。パンタヌ大活躍だったな~。ラストシーンは涙無しには観れなかった。感動したぜ~」
「流石は主。確かにラストは深紅も感動した」
騙されるな、深紅たん。この男が観ていたのは始まってから五分間だけだ。後は眠っていただけだったんだぞ。ラスト何か観てねぇよ。ちょうど感動するシーンだったみたいで助かったな。
「さて、次に行くか」
「今度は何処に?」
「深紅たんに服買ってあげたいな~って思ってさ」
「別に要らない」
「だって簗嶋高の制服ずっと着てるじゃん。それも可愛いんだけどさ、たまには他の洒落た服でも着てみなよ」
「そんなこと言って、主は深紅に変な服着せるつもりだ」
「はは、何のことかな?変な服何てこの世の中には一つも存在しないよ。全部誰かがコツコツとデザインを考えて売り出してる品ばかりなのに」
未来の俺が深紅たんを連れて行った場所はコスプレ用の服が売っているアニメ専門店などではなく、若い女子達が買い物に訪れそうな普通の店だった。
俺のことだからメイド服やら体操着系を着せて楽しむものだと思っていたが、予想が外れたか。
「主!パンタヌのフード付きの服売ってる!これ買って欲しい!」
深紅たんがパンタヌグッズにとにかく食いつくことはもうわかっていた。
この洋服店では深紅たんがファンクラブ会員の女店員から握手を求められ、中にはあまりの可愛さに我慢出来ず抱きついてくるファンも。女だったから良いが、これが男だったら殴り掛かっているところだぞ。
深紅たんは抱きつかれたり勝手に着せ替え人形にされたりと困った表情をしていたが、未来の俺はその光景を微笑ましく眺めているだけで、助けようとかそんなことは何も考えていないようだった。
「深紅たん大人気だったなぁ~。だから言ったじゃん。ファンは俺だけじゃないんだって」
「何だか有名人になった気分だった」
「もう十分有名だよ。深紅たんには十万人ものファンがいるんだぞ」
「主のとーさつ写真が深紅を有名にしたのか。何か複雑」
「この世界には有名になりたくてもなれない人達がたくさんいるんだ。少しは嬉しがりなさい。これから歌手デビューまでしたら忙しくなるぞ~」
「頑張る。深紅は主の深紅だから」
夕方豪邸に帰宅して、深紅たんは嬉しそうに自分の部屋へと未来の俺に買って貰った服やパンタヌグッズを両手いっぱいに持って向かうのだが、その先で幸せの時間を一瞬で台無しにする人物が深紅たんを待ち受けているとはまさか考えもしなかった。
「……若、深紅の部屋で何を?」
そこに居たのは簗嶋未知可。未来で俺の息子となる男だった。
「よう、深紅。待ってたぜ。また親父と仲良く何処に行ってたんだ?ああ?」
「若、それだけは止めて欲しい。それは深紅と主の思い出のぬいぐるみ……だから」
「だから引き裂くんじゃねぇか。俺はお前の泣いた顔が見てぇんだよ」
未知可が手にしていたのは俺が深紅たんにプレゼントしたパンタヌのぬいぐるみ。
それを奴は頭を無理矢理に引っ張り始め、胴体から頭、続けて腕、足と、人間で言えばバラバラ死体のような状態にちぎって床に投げ捨てた。
「はは。どうだ。泣けよ、深紅。お前が大切にしてるぬいぐるみをこんな姿にしてやったんだぞ。主に貰った宝物何だろ」
同じように未来の俺が深紅たんがウイルスに侵され苦しんでいた時にプレゼントしたパンタヌぬいぐるみも同じようにバラバラに引き千切って床にばら撒いた。
部屋に置いてあったぬいぐるみはその二つだけで、深紅たんが大好きだったパンタヌの姿はもう何処にも見当たらない。
「おら、さっさと泣けよ。いつもお前は俺に殴られても平気な顔しやがって気に入らねぇ。これなら流石に涙を堪えられないんじゃねぇか?」
すっかりバラバラになったパンタヌを見た深紅たんは、命令された通りに涙を流すことが言いなりになる感じがして嫌だったのか、涙を見せる様子はなく、ただ無表情に未知可の図星をつくような言葉を口にしたのだった。
「……若は、主が構ってくれている深紅のことが嫌い?だからこんな酷いことするの?」
「はぁ?お前は馬鹿か?何を言っている?その言い方だと俺が親父に優しくされているお前に焼き餅をやいているみたいじゃねぇか」
「主に言っておこうか。あまり深紅に構わないでって」
「だから、ちげぇって言ってんだろうが!このちび!」
勝手に機嫌を悪くして深紅たんの頭を打つ未知可。
「痛い……だって、若が深紅を打ったり苛めるのは主に構って欲しいからじゃないの?」
「ちげぇよ!そんな訳あるか!てめぇそんなこと親父にチクりやがったら殴るだけじゃ済まさねぇからな!次こそぶっ壊すぞ!良いな!」
自分の部屋を未知可が去って行った後、深紅たんは静かに腰を下ろしてばらばらになったパンタヌのパーツを拾い集め始めた。
さっきまで我慢していた涙が瞳から溢れ出る。
悲しいことに今の俺は無力で深紅たんに声をかけて慰めてやることも、頭を撫でてやることも出来ない。
深紅たんにとっては殴られたり、乱暴な言葉をかけられるよりも、大切なぬいぐるみをこんな姿にされたことが一番に辛いことだよな。
俺だってアイツに対する怒りが収まらないよ。出来るものならいっぺん殴り飛ばしてやりたいさ。
でも、これは夢の中の話だ。シュナちゃんにも言われたことだが、俺が騒ぎ出しても向こうに言葉は伝わらないんだよな。
「……主、申し訳ない……パンタヌ……主がくれたパンタヌ、全部壊しちゃった……」
深紅たんがばらばらになったパンタヌを拾い集めて向かった先は、未来の俺が居る発明室。
パンタヌを自分で元に戻せないのを見るに、この時の深紅たんには物体の時間を巻き戻す能力はまだ備わっていなかったんだな。
「ごめ、ん……なさい……」
急に泣き出す深紅たんに未来の俺も慌てている様子で、
「泣かないでよ、深紅たん。俺別に怒ってないから。パンタヌならいつでも取ってあげるから。ね?」
「で、でも……このパンタヌ達は……主と、の、思い出の詰まったぬいぐるみだった……から……」
深紅たんの口からは決して、これは未知可にやられたんだという台詞が飛び出すことはなく、あくまでも自分が壊したと言い切っていた。
そんな深紅たんに未来の俺がしてあげられることはハンカチで涙を拭ってあげることだけ……と、思いきや、
「行こう。深紅たん」
「……行くって、何処へ……?」
「ゲーセンだよ。深紅たんパンタヌ無いと夜一人で眠れないでしょ」
いつまでも泣き止まない深紅たんの手を取って発明室を飛び出した。
未来の俺は今からゲーセンに行ってクレーンゲームをプレイするつもりらしい。
「悪い日向。ちょっと深紅たんと一緒に出掛けるわ。飯は食ってくるからいらん」
「え、うん。わかった~。気をつけてね」
颯爽と深紅たんのテレポーテーションを使ってゲーセンに移動し、さっそく始めたパンタヌのぬいぐるみの入ったクレーンゲーム。
未来の俺はいとも簡単にパンタヌを一プレイ目で見事にゲット。それを深紅たんに手渡した。クレーンが得意って話は本当だったんだな。
「ほら、深紅たん。パンタヌだぞぉ~。ただいまパヌ。淋しい思いさせてごめんパヌ~」
深紅たんは未来の俺のパンタヌの声真似でやっと笑顔になった。
貰ったパンタヌぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめ、頬擦りをする姿は正に天使のような可愛さだな。
パンタヌを一つゲットした後でも未来の俺のクレーンゲームプレイはまだまだ止まらなかった。
「主、まだやるの?」
「いっぱいパンタヌ取ってやるからな」
気付けば深紅たんの両手には抱えきれないほどのパンタヌの姿。
この人は一体いくつのぬいぐるみを手に入れるつもり何だろう。
続々と増えるぬいぐるみに困っている深紅たんに店員が紙袋を持ってきてくれたが、十袋になったところでその店員からストップの声が。
へたくそな奴がプレイしていれば何も言われないとは思うが、ほとんどの景品をワンコインで取られていては流石に店側も困るよな。
「すいません、お客様。お上手ですね。誠に申し訳無いのですが、その辺で勘弁して頂けないでしょうか」
「そうですか。わかりました」
未来の俺はにこっと深紅たんに笑顔を向けた。それを見て深紅たんも同じように笑顔を返してくれる。
「ストップかけられちゃったけど、こんなもんで満足だよな。深紅たん」
「うん。深紅の周りパンタヌいっぱいで嬉しい。主、ありがとう」
こんな幸せな時間が何時までも続けば良いのにな……。
此処まで深紅たんの思い出を観て、俺は長い夢から覚めることになる。
俺を呼ぶ声が聞こえたんだ。目を開けてみると、そこには俺の顔を覗き込む深紅たんの姿が。
「主、シュナ姉が晩御飯作りに来てくれた。起きて」
「……深紅たん」
体を起こし目の前にいる深紅たんをぎゅっと抱きしめ、謝罪の言葉を口にした。
「主、ギブ。苦しい…………怖い夢でも見た?」
「……うん……ごめんな。辛い思いばかりさせて……助けてあげられなくて……」
「どうしたの、主……急に謝って、何か変」
「もう我慢しなくて良いからな。俺が全てを終わらせてやる。やっぱりアイツはこの世に誕生させてはならない」
戸惑い、困っている深紅たんへ俺は語り出した。
未来で深紅たんが未知可にされてきた様々な酷過ぎる苛めは、俺には見過ごせるものじゃない。
あんなことがこの先の未来で起こる現実のことなら俺には可哀想で耐えられないし、未来の俺が殺され未知可があの豪邸と莫大な富を継ぐことになりでもすれば、深紅たんにハッピーエンドなど永遠に訪れない。
だから決めたんだ。奴をこの世に誕生させてはならないと。
「……若に苛められた日は、決まっていつも主が深紅を笑顔にしてくれた。だから嬉しかったし、主と一緒にいられて気持ちが楽になった。パンタヌを壊されてゲームセンターに行った帰り、主に聞かれた。パンタヌ壊したの未知可だろって」
「未来の俺はやっぱり知ってたんだ……当然だよな。俺から見たら未来の俺も、過去に全く同じことを経験しているんだろうし」
気付かない筈が無かった。未来の深紅たんの部屋に大事そうに飾ってあったパンタヌぬいぐるみの一つは最近ウイルスで苦しんだ深紅たんの為に未来の俺がプレゼントしたものだ。
未来の俺もこのぬいぐるみを過去に見てるんだなって。
「未来の主は深紅のお願いを聞いて、若をこの世に誕生させる決断をした。自分が死刑になる可能性を覚悟して」
「未来の俺は自分の息子を更生させる道を選んだんだな。アイツの性格を真っ当なものにすれば未来もきっと変えられるって」
「主はそれでも失敗。未来で死刑執行された」
「未知可の気持ちを変えることは出来なかったんだな」
「深紅は主と奥方に若を諦めるようなことはして欲しくない」
「深紅たんの気持ちは嬉しいが、それでもなぁ……」
このまま俺が未来の俺と同じ道を歩んだとして、未来で起こる不幸の数々を変えることなど可能なのだろうか。また失敗したら、
「深紅を誕生させなければ良い」
「……え?」
深紅たんはいきなり何を言い出すんだ。
「アンドロイドは来夢姉とシュナ姉だけで良い。若が嫌う深紅の存在がきっと主が死刑になる原因。深紅が居なければ主は若に親として愛情を注ぐことが出来る。でしょ?」
「深紅たん…………てい」
いきなりアホなことを言い出す深紅たんに、ふざけんなよと頭に軽くチョップを一発。
深紅たんの存在を消す何て俺は絶対にしないからな。
「主、痛い。これじゃ若と一緒」
「馬鹿。軽く叩いただけだろ。俺をあんな手加減も知らないような奴と一緒にするな」
「ごめんなさい」
「それにだが、未来の俺は息子に愛情を注いでいなかったのか?」
俺が深紅たんに質問したところ、それに答えてくれたのは晩御飯を作り終え、話を近くで聞いていたシュナちゃんだった。
「いいえ。ご主人様は未知可様を大切に可愛がられていました。将来困らないよう勉強も自分から教えになっていましたし、毎日お話することも欠かさず、コミュニケーションは十分お取りになっていたと思われます」
「そうよ。そんなマスターをウザがって遠ざけていたのは若の方だったんだから。あたしからすれば何を勝手なって話よ。言っておくけどね、未来の貴方は自分の息子に嫌われていると思って少しの間距離を取っただけ。本当は息子と話がしたくて仕方がなかったの」
来夢はarkウイルスから完治したばかりの深紅たんの様子を見にやってきたのか、シュナちゃんの後に言葉を続けた。
そうか。未来の俺はちゃんと父親してたんだな。アイツを見捨てたりして無かったんだ。
「来夢、それは本当の話か?」
「こんなことでいちいち嘘何かつかないわよ。マスターはあたしに相談して来たわ。どうしたら未知可は自分に心を開いてくれるんだろうってね」
「私にはご主人様の愛情不足というよりかは深紅さんを苛めていた理由は自分が学校で苛められている問題からきている八つ当たりのように思えました」
「どうせ、いつものようにマスターと仲の良かった深紅が気に入らないってだけだったんでしょうね。怒りをぶつけるのに丁度良い相手っていうのもあったかも知れないけど」
「どういうことだ?」
「未知可は自分より弱そうに見えるものにしか暴力を振るわないの。実際にあたしやシュナには一切そういう態度を見せたことが無かった。深紅はちっちゃいから舐められていたのかもね。何をされても怒ったりしないから向こうにも恰好の的だったんじゃないかしら」
俺が見た記憶の中の深紅たんはアイツに殴られても、ひたすらに痛みを我慢しているだけだったもんな。来夢の言うことには頷ける。深紅たんが小さいのも事実だし。
しかし、それだとまだ納得がいかないんだよな。
それなら俺はどうしてアイツに嵌められて死刑判決を受けなければならなかった?
苛めが原因で世界を滅ぼそうと思ったなら、その苛めっ子達に恨みを持つのが普通だ。
俺が同じくらいに恨まれていた理由は何なんだよ。
「それは直接若に聞いてみないとわからないことね。あの子、あまりそういうこと人に話すような性格じゃなかったから」
「どうでも良いが、お前ってアイツのこと「若」って呼んでたんだな。今の俺と呼び方一緒じゃねぇか。話す時わかりにくいから俺のことは未来の俺と同じようにマスターで構わないぞ」
「嫌よ。そう呼ばれたかったらあたしが認められるような大人に成長しなさい」
「くっ、ほんとお前は口が悪いな。世の中に「ツンデレ」という文化がなければ嫌っても可笑しくないレベルだ。ツンデレに感謝したまえよ」
「あたしはツンデレ何かじゃないわ。若にデレること何て無いから安心して」
コイツにとって頭の悪い俺は、未来で自分のマスターとなる男であっても所詮は「若」でしかないということだな。
ふふ。覚えていろよ、来夢。俺が天才になった暁にはお前に命令して恥ずかしい格好をさせてやるぜ。もちろん三姉妹全員でな。
「ほら、下らないこと考えてないで、話を元に戻すわよ」
うるせ。俺の心の中でもお前は覗けるのかよ。
それは流石に無理だよな?
「先程の話ですが、私もお姉様と同じです。なぜ未知可様がご主人様を嫌っていらしたかは見当が付きません」
「深紅は知ってる」
「本当か、深紅たん」
「若は何をするにも天才の主と自分を比べられて育ってきた。それが原因で苛められるようになったとよく深紅に愚痴を零していた」
「…………え、それが原因か?」
「そう」
「それって、勉強しないで育った若が悪いんじゃない。マスターのせいじゃないわ」
「はい。お姉様の仰る通りです。未知可様はご主人様や日向様がお勉強を教えようとなさっても悉くそれを断り続け育ってきましたので」
来夢とシュナちゃんの言う通りだ。それは俺のせいじゃねぇ。
皆が呆れて会話がピタリと止まったその時、深紅たん、シュナちゃん、来夢の三人がピクリと何かに反応したような素振りを見せたことを俺は見逃さなかった。
「……どうした、皆?」
俺が聞いてみると、深紅たんが真っ先に俺の問いに答えた。
「アンドロイドの気配を感知した。ざっと九千体ほどの」
「九千体!?」
驚きで思わずその異常な数を叫んだ。
「……ついにこの時が来た」
「すぐに此処を離れた方が良さそうです。アンドロイド達がこの場所を目指して向かって来ています」
「しつこい奴ね。一体誰に似たのかしら?」
こっち見んな。俺には似てねぇよ。
深紅たん苛めたこと何て俺には一回も無い。
「……深紅が一人で片付けてくる」
「お馬鹿ね、深紅。九千体何て、いくら量産型が雑魚でも一人で相手出来る訳無いでしょ。あたしも行くわ」
「もちろん私もご一緒します。深紅さんお一人ではシュナお姉ちゃん心配です」
「シュナ姉、来夢姉、ありがとう」
「待てよ、皆。俺も行く」
……可笑しいな。何でだろう。
俺何かが一緒に付いて行ったって何の役にも立ちやしないのに、どうしてこんな言葉が飛び出した?
ああ……そうか。俺は怖いんだな。いくら量産型アンドロイド一人一人が弱いとしても、それが一気に九千体もやって来たら流石の深紅たんでも勝てないんじゃないかって。此処で三人を行かせてしまったらもう二度と会えない気がしてるんだ。俺は皆のご主人様何だから信じて待ってあげていなくちゃいけないのに。
「主、大丈夫。深紅達は絶対に帰ってくるから」
「一人のノルマは三千体ね。こりゃ長期戦になりそうだわ」
「ご主人様は私達の無事をお祈りください。きっと期待に応えてみせますので」
三人の背中を見送りながら、俺は深紅たんの口にしたある言葉を思い出していた。
少し前に深紅たんが何気無く呟いた一言が何故か気になるな、と。
まるで、大量のアンドロイド達が今日送り込まれてくることを知っていたような台詞だったな。
何だよ「ついにこの時が来た」って……。
「ねぇ、深紅。あんた「また」死ぬ気でいるでしょ」
「……来夢姉も未来の主から聞いていたの?」
「ええ」
「別に構わないと思ってる。それでこの時代の主が助かるなら」
「深紅が死んだらマスターはまた科学者目指すに決まってるでしょ。あの人はそういう人よ」
「今回の主には若のことちゃんと伝えてある。深紅は信じて待つだけ」
「深紅さん、あまりこんなことばかりしていては体が可笑しくなりますよ。私もご主人様に未来の光景をお見せして出来る限りの対策は取ったつもりですが、それでも未来が絶対に変わるとは言い切れません」
アンドロイド三姉妹はすでに自分達が九千体の量産型アンドロイド達と対峙し戦死することを、未来の簗嶋掴から聞いて知っていた。
彼女達からしたらこれから始まる量産型との戦闘は初めてではないのだ。
未来を変えられては困ると簗嶋未知可が未来から邪魔な三姉妹を排除する為アンドロイド九千体、全勢力を送り込んできた。
この時代の輝来掴のように初めはただの馬鹿だった簗嶋掴が猛勉強し天才科学者になった理由は彼女達にもう一度出会う為だった。
「それでも深紅は信じる。主が今度こそ若の人生を変えてくれるって」
事前に簗嶋掴は、量産型が過去で三姉妹と街中の上空で激しく戦ってたくさんの人間を戦闘に巻き込んで殺したことを深紅達に話していた。
だから初めから決めていたのだ。今回は戦闘用フィールドを生成し、そこに閉じ込めて戦うしかないと。
「九千体を閉じ込めておく為のフィールドを作るだけでかなりの体力を消耗するわ。自殺行為も良いところよ」
「深紅は全員破壊するまで死ぬ気はない」
「それは私達も一緒です」
「ええ。あたし達がくたばったらこの街は量産型の被害を受けるわ。それだけは避けないとね」
量産型アンドロイド達が三姉妹の姿に気付き容赦無く襲い掛かる。
三人は一人ずつに分散し、迫り来るアンドロイドの軍勢にそれぞれの武器を出現させ勇敢に向かって行く。
深紅は目にも留まらぬスピードで敵を圧倒し、来夢は日本刀で素早く確実に一体ずつ斬り裂いて、シュナはロケットランチャーを連射しまくった。
量産型は凄まじく弱く、大体が一撃で片付くのだが、それでも束になって掛かって来られてはいくら未来の天才科学者、簗嶋掴の生み出した腕の立つ三姉妹でも対応が仕切れない。
戦闘が長引くにつれ、体に負う傷や負担も増える。力尽きるのは時間の問題だった。
「フォルムダイブ」
深紅は量産型を素早く片付ける為、姉のシュナや来夢に姿を変えて、それぞれの武器を使用。遠くにいる敵はロケットランチャーで撃ち殺し、近くの敵は日本刀で斬り捨てた。一対一の戦闘なら負けることはまず百%あり得ない深紅でもこれだけの数を相手にしては完全には避けられず、致命傷になるような傷も何度も負わされた。
「主のいるこの街は壊させない。主とのたくさんの思い出の詰まったこの場所は絶対に深紅が守る」
とてもじゃないが一人では捌き切れない数の敵に苦戦する姉妹達。
ダメージを負っても自分で体の治癒が出来る深紅でも、敵に襲われていながら回復させることは難しい。僅かな時間でも敵が与えてくれたなら話は別なのかもしれないが。
「深紅、大丈夫?まだくたばるんじゃないわよ。あんたは姉のあたしより一秒でも長く生きなさい。シュナ、あんたもよ」
「上等。深紅なら全然平気。余裕」
「はい。精一杯努力します。深紅さんは私よりも先に壊れては駄目ですよ」
「それさっき来夢姉にも言われた。大丈夫。深紅は例え骨だけになっても死なないつもり」
二人の姉よりも長く生き残ると誓った深紅が、懐からパンタヌのパペットを取り出してそれを右手に装備した。
「深紅さん、そのパンタヌは何ですか?」
「未来の主がパンタヌ好きの深紅に作ってくれた秘密兵器。見てて」
パンタヌが閉じていた口をぱかっと開くと、そこからキュイ~ンという耳障りな大きな音が発せられた。
その音は一般家庭で使われる掃除機の音によく似ている。
深紅は語り始めた。
「これは主が発明したパンタヌ型アンドロイド専用掃除機。その気になる吸引力は掃除機一億個分。残りのアンドロイド二千体くらいなら余裕で吸い込める」
深紅はすでに自分が相手をしていたアンドロイド三千体のうち千体程を片付けていたようで、残りの二千体をパンタヌの体内に吸い込めば全てを排除したことになる。
これでシュナと来夢の手助けに向かえると考えていたのだが、
「……あれ、千体くらい残った……主の嘘付き」
パンタヌ型パペットが吸い込めるアンドロイドの限界は千体止まりだったようで、深紅は聞いていた話と違うことに不満を漏らしていたが、千体も吸い込めるとか、それはすごい発明品に変わりは無い。
「すごいじゃない、その武器。あたしにも貸してくれない?正直刀を振るのも疲れてきたわ」
「無理。パンタヌは千体のアンドロイドを吸い込んでお腹一杯。もうこれは使えなくなった。何か主が設計ミスったっぽい」
「残りは自分達で倒すしかないということですか。少し残念です……」
深紅たんは照れているのか、少しの間黙ったままだったが、しばらく続いた沈黙を破って自分を生み出してくれた未来の俺にお礼の言葉を口にした。
「ありがとう」
「いえいえ」
「主を誇らしく思う」
「それはもしかして俺のことを褒めているのかな?」
「そう」
「はは。嬉しいよ。深紅たんに褒めて貰える機会何て滅多にないからさ」
これもまた何となく予想はしていたが、映画の上映が始まり五分くらい経過したところで未来の俺は暗い空間の中で眠りに落ち、隣に座る深紅たんだけが瞳をキラキラと輝かせて「パンタヌの冒険THEMOVIE」を嬉しそうに見つめていた。
この映画は完全に子供向けだな。そりゃ大人の俺が飽きてしまうのも仕方の無いことか。
上映終了後に映画の感想を深紅たんが口に出しても、俺にはちんぷんかんぷんのようで適当に相槌を打ち「そうだね」とか「はは」の二択くらいしか言葉が出て来ない。
君の隣で寝ていたとは今更言い出しにくい状況下に置かれていた。
「主、本当に観てた?」
深紅たんは映画に夢中で、未来の俺が隣で眠っていたことなど全く気が付かなかったようだな。
「観てたよ、観てた。パンタヌ大活躍だったな~。ラストシーンは涙無しには観れなかった。感動したぜ~」
「流石は主。確かにラストは深紅も感動した」
騙されるな、深紅たん。この男が観ていたのは始まってから五分間だけだ。後は眠っていただけだったんだぞ。ラスト何か観てねぇよ。ちょうど感動するシーンだったみたいで助かったな。
「さて、次に行くか」
「今度は何処に?」
「深紅たんに服買ってあげたいな~って思ってさ」
「別に要らない」
「だって簗嶋高の制服ずっと着てるじゃん。それも可愛いんだけどさ、たまには他の洒落た服でも着てみなよ」
「そんなこと言って、主は深紅に変な服着せるつもりだ」
「はは、何のことかな?変な服何てこの世の中には一つも存在しないよ。全部誰かがコツコツとデザインを考えて売り出してる品ばかりなのに」
未来の俺が深紅たんを連れて行った場所はコスプレ用の服が売っているアニメ専門店などではなく、若い女子達が買い物に訪れそうな普通の店だった。
俺のことだからメイド服やら体操着系を着せて楽しむものだと思っていたが、予想が外れたか。
「主!パンタヌのフード付きの服売ってる!これ買って欲しい!」
深紅たんがパンタヌグッズにとにかく食いつくことはもうわかっていた。
この洋服店では深紅たんがファンクラブ会員の女店員から握手を求められ、中にはあまりの可愛さに我慢出来ず抱きついてくるファンも。女だったから良いが、これが男だったら殴り掛かっているところだぞ。
深紅たんは抱きつかれたり勝手に着せ替え人形にされたりと困った表情をしていたが、未来の俺はその光景を微笑ましく眺めているだけで、助けようとかそんなことは何も考えていないようだった。
「深紅たん大人気だったなぁ~。だから言ったじゃん。ファンは俺だけじゃないんだって」
「何だか有名人になった気分だった」
「もう十分有名だよ。深紅たんには十万人ものファンがいるんだぞ」
「主のとーさつ写真が深紅を有名にしたのか。何か複雑」
「この世界には有名になりたくてもなれない人達がたくさんいるんだ。少しは嬉しがりなさい。これから歌手デビューまでしたら忙しくなるぞ~」
「頑張る。深紅は主の深紅だから」
夕方豪邸に帰宅して、深紅たんは嬉しそうに自分の部屋へと未来の俺に買って貰った服やパンタヌグッズを両手いっぱいに持って向かうのだが、その先で幸せの時間を一瞬で台無しにする人物が深紅たんを待ち受けているとはまさか考えもしなかった。
「……若、深紅の部屋で何を?」
そこに居たのは簗嶋未知可。未来で俺の息子となる男だった。
「よう、深紅。待ってたぜ。また親父と仲良く何処に行ってたんだ?ああ?」
「若、それだけは止めて欲しい。それは深紅と主の思い出のぬいぐるみ……だから」
「だから引き裂くんじゃねぇか。俺はお前の泣いた顔が見てぇんだよ」
未知可が手にしていたのは俺が深紅たんにプレゼントしたパンタヌのぬいぐるみ。
それを奴は頭を無理矢理に引っ張り始め、胴体から頭、続けて腕、足と、人間で言えばバラバラ死体のような状態にちぎって床に投げ捨てた。
「はは。どうだ。泣けよ、深紅。お前が大切にしてるぬいぐるみをこんな姿にしてやったんだぞ。主に貰った宝物何だろ」
同じように未来の俺が深紅たんがウイルスに侵され苦しんでいた時にプレゼントしたパンタヌぬいぐるみも同じようにバラバラに引き千切って床にばら撒いた。
部屋に置いてあったぬいぐるみはその二つだけで、深紅たんが大好きだったパンタヌの姿はもう何処にも見当たらない。
「おら、さっさと泣けよ。いつもお前は俺に殴られても平気な顔しやがって気に入らねぇ。これなら流石に涙を堪えられないんじゃねぇか?」
すっかりバラバラになったパンタヌを見た深紅たんは、命令された通りに涙を流すことが言いなりになる感じがして嫌だったのか、涙を見せる様子はなく、ただ無表情に未知可の図星をつくような言葉を口にしたのだった。
「……若は、主が構ってくれている深紅のことが嫌い?だからこんな酷いことするの?」
「はぁ?お前は馬鹿か?何を言っている?その言い方だと俺が親父に優しくされているお前に焼き餅をやいているみたいじゃねぇか」
「主に言っておこうか。あまり深紅に構わないでって」
「だから、ちげぇって言ってんだろうが!このちび!」
勝手に機嫌を悪くして深紅たんの頭を打つ未知可。
「痛い……だって、若が深紅を打ったり苛めるのは主に構って欲しいからじゃないの?」
「ちげぇよ!そんな訳あるか!てめぇそんなこと親父にチクりやがったら殴るだけじゃ済まさねぇからな!次こそぶっ壊すぞ!良いな!」
自分の部屋を未知可が去って行った後、深紅たんは静かに腰を下ろしてばらばらになったパンタヌのパーツを拾い集め始めた。
さっきまで我慢していた涙が瞳から溢れ出る。
悲しいことに今の俺は無力で深紅たんに声をかけて慰めてやることも、頭を撫でてやることも出来ない。
深紅たんにとっては殴られたり、乱暴な言葉をかけられるよりも、大切なぬいぐるみをこんな姿にされたことが一番に辛いことだよな。
俺だってアイツに対する怒りが収まらないよ。出来るものならいっぺん殴り飛ばしてやりたいさ。
でも、これは夢の中の話だ。シュナちゃんにも言われたことだが、俺が騒ぎ出しても向こうに言葉は伝わらないんだよな。
「……主、申し訳ない……パンタヌ……主がくれたパンタヌ、全部壊しちゃった……」
深紅たんがばらばらになったパンタヌを拾い集めて向かった先は、未来の俺が居る発明室。
パンタヌを自分で元に戻せないのを見るに、この時の深紅たんには物体の時間を巻き戻す能力はまだ備わっていなかったんだな。
「ごめ、ん……なさい……」
急に泣き出す深紅たんに未来の俺も慌てている様子で、
「泣かないでよ、深紅たん。俺別に怒ってないから。パンタヌならいつでも取ってあげるから。ね?」
「で、でも……このパンタヌ達は……主と、の、思い出の詰まったぬいぐるみだった……から……」
深紅たんの口からは決して、これは未知可にやられたんだという台詞が飛び出すことはなく、あくまでも自分が壊したと言い切っていた。
そんな深紅たんに未来の俺がしてあげられることはハンカチで涙を拭ってあげることだけ……と、思いきや、
「行こう。深紅たん」
「……行くって、何処へ……?」
「ゲーセンだよ。深紅たんパンタヌ無いと夜一人で眠れないでしょ」
いつまでも泣き止まない深紅たんの手を取って発明室を飛び出した。
未来の俺は今からゲーセンに行ってクレーンゲームをプレイするつもりらしい。
「悪い日向。ちょっと深紅たんと一緒に出掛けるわ。飯は食ってくるからいらん」
「え、うん。わかった~。気をつけてね」
颯爽と深紅たんのテレポーテーションを使ってゲーセンに移動し、さっそく始めたパンタヌのぬいぐるみの入ったクレーンゲーム。
未来の俺はいとも簡単にパンタヌを一プレイ目で見事にゲット。それを深紅たんに手渡した。クレーンが得意って話は本当だったんだな。
「ほら、深紅たん。パンタヌだぞぉ~。ただいまパヌ。淋しい思いさせてごめんパヌ~」
深紅たんは未来の俺のパンタヌの声真似でやっと笑顔になった。
貰ったパンタヌぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめ、頬擦りをする姿は正に天使のような可愛さだな。
パンタヌを一つゲットした後でも未来の俺のクレーンゲームプレイはまだまだ止まらなかった。
「主、まだやるの?」
「いっぱいパンタヌ取ってやるからな」
気付けば深紅たんの両手には抱えきれないほどのパンタヌの姿。
この人は一体いくつのぬいぐるみを手に入れるつもり何だろう。
続々と増えるぬいぐるみに困っている深紅たんに店員が紙袋を持ってきてくれたが、十袋になったところでその店員からストップの声が。
へたくそな奴がプレイしていれば何も言われないとは思うが、ほとんどの景品をワンコインで取られていては流石に店側も困るよな。
「すいません、お客様。お上手ですね。誠に申し訳無いのですが、その辺で勘弁して頂けないでしょうか」
「そうですか。わかりました」
未来の俺はにこっと深紅たんに笑顔を向けた。それを見て深紅たんも同じように笑顔を返してくれる。
「ストップかけられちゃったけど、こんなもんで満足だよな。深紅たん」
「うん。深紅の周りパンタヌいっぱいで嬉しい。主、ありがとう」
こんな幸せな時間が何時までも続けば良いのにな……。
此処まで深紅たんの思い出を観て、俺は長い夢から覚めることになる。
俺を呼ぶ声が聞こえたんだ。目を開けてみると、そこには俺の顔を覗き込む深紅たんの姿が。
「主、シュナ姉が晩御飯作りに来てくれた。起きて」
「……深紅たん」
体を起こし目の前にいる深紅たんをぎゅっと抱きしめ、謝罪の言葉を口にした。
「主、ギブ。苦しい…………怖い夢でも見た?」
「……うん……ごめんな。辛い思いばかりさせて……助けてあげられなくて……」
「どうしたの、主……急に謝って、何か変」
「もう我慢しなくて良いからな。俺が全てを終わらせてやる。やっぱりアイツはこの世に誕生させてはならない」
戸惑い、困っている深紅たんへ俺は語り出した。
未来で深紅たんが未知可にされてきた様々な酷過ぎる苛めは、俺には見過ごせるものじゃない。
あんなことがこの先の未来で起こる現実のことなら俺には可哀想で耐えられないし、未来の俺が殺され未知可があの豪邸と莫大な富を継ぐことになりでもすれば、深紅たんにハッピーエンドなど永遠に訪れない。
だから決めたんだ。奴をこの世に誕生させてはならないと。
「……若に苛められた日は、決まっていつも主が深紅を笑顔にしてくれた。だから嬉しかったし、主と一緒にいられて気持ちが楽になった。パンタヌを壊されてゲームセンターに行った帰り、主に聞かれた。パンタヌ壊したの未知可だろって」
「未来の俺はやっぱり知ってたんだ……当然だよな。俺から見たら未来の俺も、過去に全く同じことを経験しているんだろうし」
気付かない筈が無かった。未来の深紅たんの部屋に大事そうに飾ってあったパンタヌぬいぐるみの一つは最近ウイルスで苦しんだ深紅たんの為に未来の俺がプレゼントしたものだ。
未来の俺もこのぬいぐるみを過去に見てるんだなって。
「未来の主は深紅のお願いを聞いて、若をこの世に誕生させる決断をした。自分が死刑になる可能性を覚悟して」
「未来の俺は自分の息子を更生させる道を選んだんだな。アイツの性格を真っ当なものにすれば未来もきっと変えられるって」
「主はそれでも失敗。未来で死刑執行された」
「未知可の気持ちを変えることは出来なかったんだな」
「深紅は主と奥方に若を諦めるようなことはして欲しくない」
「深紅たんの気持ちは嬉しいが、それでもなぁ……」
このまま俺が未来の俺と同じ道を歩んだとして、未来で起こる不幸の数々を変えることなど可能なのだろうか。また失敗したら、
「深紅を誕生させなければ良い」
「……え?」
深紅たんはいきなり何を言い出すんだ。
「アンドロイドは来夢姉とシュナ姉だけで良い。若が嫌う深紅の存在がきっと主が死刑になる原因。深紅が居なければ主は若に親として愛情を注ぐことが出来る。でしょ?」
「深紅たん…………てい」
いきなりアホなことを言い出す深紅たんに、ふざけんなよと頭に軽くチョップを一発。
深紅たんの存在を消す何て俺は絶対にしないからな。
「主、痛い。これじゃ若と一緒」
「馬鹿。軽く叩いただけだろ。俺をあんな手加減も知らないような奴と一緒にするな」
「ごめんなさい」
「それにだが、未来の俺は息子に愛情を注いでいなかったのか?」
俺が深紅たんに質問したところ、それに答えてくれたのは晩御飯を作り終え、話を近くで聞いていたシュナちゃんだった。
「いいえ。ご主人様は未知可様を大切に可愛がられていました。将来困らないよう勉強も自分から教えになっていましたし、毎日お話することも欠かさず、コミュニケーションは十分お取りになっていたと思われます」
「そうよ。そんなマスターをウザがって遠ざけていたのは若の方だったんだから。あたしからすれば何を勝手なって話よ。言っておくけどね、未来の貴方は自分の息子に嫌われていると思って少しの間距離を取っただけ。本当は息子と話がしたくて仕方がなかったの」
来夢はarkウイルスから完治したばかりの深紅たんの様子を見にやってきたのか、シュナちゃんの後に言葉を続けた。
そうか。未来の俺はちゃんと父親してたんだな。アイツを見捨てたりして無かったんだ。
「来夢、それは本当の話か?」
「こんなことでいちいち嘘何かつかないわよ。マスターはあたしに相談して来たわ。どうしたら未知可は自分に心を開いてくれるんだろうってね」
「私にはご主人様の愛情不足というよりかは深紅さんを苛めていた理由は自分が学校で苛められている問題からきている八つ当たりのように思えました」
「どうせ、いつものようにマスターと仲の良かった深紅が気に入らないってだけだったんでしょうね。怒りをぶつけるのに丁度良い相手っていうのもあったかも知れないけど」
「どういうことだ?」
「未知可は自分より弱そうに見えるものにしか暴力を振るわないの。実際にあたしやシュナには一切そういう態度を見せたことが無かった。深紅はちっちゃいから舐められていたのかもね。何をされても怒ったりしないから向こうにも恰好の的だったんじゃないかしら」
俺が見た記憶の中の深紅たんはアイツに殴られても、ひたすらに痛みを我慢しているだけだったもんな。来夢の言うことには頷ける。深紅たんが小さいのも事実だし。
しかし、それだとまだ納得がいかないんだよな。
それなら俺はどうしてアイツに嵌められて死刑判決を受けなければならなかった?
苛めが原因で世界を滅ぼそうと思ったなら、その苛めっ子達に恨みを持つのが普通だ。
俺が同じくらいに恨まれていた理由は何なんだよ。
「それは直接若に聞いてみないとわからないことね。あの子、あまりそういうこと人に話すような性格じゃなかったから」
「どうでも良いが、お前ってアイツのこと「若」って呼んでたんだな。今の俺と呼び方一緒じゃねぇか。話す時わかりにくいから俺のことは未来の俺と同じようにマスターで構わないぞ」
「嫌よ。そう呼ばれたかったらあたしが認められるような大人に成長しなさい」
「くっ、ほんとお前は口が悪いな。世の中に「ツンデレ」という文化がなければ嫌っても可笑しくないレベルだ。ツンデレに感謝したまえよ」
「あたしはツンデレ何かじゃないわ。若にデレること何て無いから安心して」
コイツにとって頭の悪い俺は、未来で自分のマスターとなる男であっても所詮は「若」でしかないということだな。
ふふ。覚えていろよ、来夢。俺が天才になった暁にはお前に命令して恥ずかしい格好をさせてやるぜ。もちろん三姉妹全員でな。
「ほら、下らないこと考えてないで、話を元に戻すわよ」
うるせ。俺の心の中でもお前は覗けるのかよ。
それは流石に無理だよな?
「先程の話ですが、私もお姉様と同じです。なぜ未知可様がご主人様を嫌っていらしたかは見当が付きません」
「深紅は知ってる」
「本当か、深紅たん」
「若は何をするにも天才の主と自分を比べられて育ってきた。それが原因で苛められるようになったとよく深紅に愚痴を零していた」
「…………え、それが原因か?」
「そう」
「それって、勉強しないで育った若が悪いんじゃない。マスターのせいじゃないわ」
「はい。お姉様の仰る通りです。未知可様はご主人様や日向様がお勉強を教えようとなさっても悉くそれを断り続け育ってきましたので」
来夢とシュナちゃんの言う通りだ。それは俺のせいじゃねぇ。
皆が呆れて会話がピタリと止まったその時、深紅たん、シュナちゃん、来夢の三人がピクリと何かに反応したような素振りを見せたことを俺は見逃さなかった。
「……どうした、皆?」
俺が聞いてみると、深紅たんが真っ先に俺の問いに答えた。
「アンドロイドの気配を感知した。ざっと九千体ほどの」
「九千体!?」
驚きで思わずその異常な数を叫んだ。
「……ついにこの時が来た」
「すぐに此処を離れた方が良さそうです。アンドロイド達がこの場所を目指して向かって来ています」
「しつこい奴ね。一体誰に似たのかしら?」
こっち見んな。俺には似てねぇよ。
深紅たん苛めたこと何て俺には一回も無い。
「……深紅が一人で片付けてくる」
「お馬鹿ね、深紅。九千体何て、いくら量産型が雑魚でも一人で相手出来る訳無いでしょ。あたしも行くわ」
「もちろん私もご一緒します。深紅さんお一人ではシュナお姉ちゃん心配です」
「シュナ姉、来夢姉、ありがとう」
「待てよ、皆。俺も行く」
……可笑しいな。何でだろう。
俺何かが一緒に付いて行ったって何の役にも立ちやしないのに、どうしてこんな言葉が飛び出した?
ああ……そうか。俺は怖いんだな。いくら量産型アンドロイド一人一人が弱いとしても、それが一気に九千体もやって来たら流石の深紅たんでも勝てないんじゃないかって。此処で三人を行かせてしまったらもう二度と会えない気がしてるんだ。俺は皆のご主人様何だから信じて待ってあげていなくちゃいけないのに。
「主、大丈夫。深紅達は絶対に帰ってくるから」
「一人のノルマは三千体ね。こりゃ長期戦になりそうだわ」
「ご主人様は私達の無事をお祈りください。きっと期待に応えてみせますので」
三人の背中を見送りながら、俺は深紅たんの口にしたある言葉を思い出していた。
少し前に深紅たんが何気無く呟いた一言が何故か気になるな、と。
まるで、大量のアンドロイド達が今日送り込まれてくることを知っていたような台詞だったな。
何だよ「ついにこの時が来た」って……。
「ねぇ、深紅。あんた「また」死ぬ気でいるでしょ」
「……来夢姉も未来の主から聞いていたの?」
「ええ」
「別に構わないと思ってる。それでこの時代の主が助かるなら」
「深紅が死んだらマスターはまた科学者目指すに決まってるでしょ。あの人はそういう人よ」
「今回の主には若のことちゃんと伝えてある。深紅は信じて待つだけ」
「深紅さん、あまりこんなことばかりしていては体が可笑しくなりますよ。私もご主人様に未来の光景をお見せして出来る限りの対策は取ったつもりですが、それでも未来が絶対に変わるとは言い切れません」
アンドロイド三姉妹はすでに自分達が九千体の量産型アンドロイド達と対峙し戦死することを、未来の簗嶋掴から聞いて知っていた。
彼女達からしたらこれから始まる量産型との戦闘は初めてではないのだ。
未来を変えられては困ると簗嶋未知可が未来から邪魔な三姉妹を排除する為アンドロイド九千体、全勢力を送り込んできた。
この時代の輝来掴のように初めはただの馬鹿だった簗嶋掴が猛勉強し天才科学者になった理由は彼女達にもう一度出会う為だった。
「それでも深紅は信じる。主が今度こそ若の人生を変えてくれるって」
事前に簗嶋掴は、量産型が過去で三姉妹と街中の上空で激しく戦ってたくさんの人間を戦闘に巻き込んで殺したことを深紅達に話していた。
だから初めから決めていたのだ。今回は戦闘用フィールドを生成し、そこに閉じ込めて戦うしかないと。
「九千体を閉じ込めておく為のフィールドを作るだけでかなりの体力を消耗するわ。自殺行為も良いところよ」
「深紅は全員破壊するまで死ぬ気はない」
「それは私達も一緒です」
「ええ。あたし達がくたばったらこの街は量産型の被害を受けるわ。それだけは避けないとね」
量産型アンドロイド達が三姉妹の姿に気付き容赦無く襲い掛かる。
三人は一人ずつに分散し、迫り来るアンドロイドの軍勢にそれぞれの武器を出現させ勇敢に向かって行く。
深紅は目にも留まらぬスピードで敵を圧倒し、来夢は日本刀で素早く確実に一体ずつ斬り裂いて、シュナはロケットランチャーを連射しまくった。
量産型は凄まじく弱く、大体が一撃で片付くのだが、それでも束になって掛かって来られてはいくら未来の天才科学者、簗嶋掴の生み出した腕の立つ三姉妹でも対応が仕切れない。
戦闘が長引くにつれ、体に負う傷や負担も増える。力尽きるのは時間の問題だった。
「フォルムダイブ」
深紅は量産型を素早く片付ける為、姉のシュナや来夢に姿を変えて、それぞれの武器を使用。遠くにいる敵はロケットランチャーで撃ち殺し、近くの敵は日本刀で斬り捨てた。一対一の戦闘なら負けることはまず百%あり得ない深紅でもこれだけの数を相手にしては完全には避けられず、致命傷になるような傷も何度も負わされた。
「主のいるこの街は壊させない。主とのたくさんの思い出の詰まったこの場所は絶対に深紅が守る」
とてもじゃないが一人では捌き切れない数の敵に苦戦する姉妹達。
ダメージを負っても自分で体の治癒が出来る深紅でも、敵に襲われていながら回復させることは難しい。僅かな時間でも敵が与えてくれたなら話は別なのかもしれないが。
「深紅、大丈夫?まだくたばるんじゃないわよ。あんたは姉のあたしより一秒でも長く生きなさい。シュナ、あんたもよ」
「上等。深紅なら全然平気。余裕」
「はい。精一杯努力します。深紅さんは私よりも先に壊れては駄目ですよ」
「それさっき来夢姉にも言われた。大丈夫。深紅は例え骨だけになっても死なないつもり」
二人の姉よりも長く生き残ると誓った深紅が、懐からパンタヌのパペットを取り出してそれを右手に装備した。
「深紅さん、そのパンタヌは何ですか?」
「未来の主がパンタヌ好きの深紅に作ってくれた秘密兵器。見てて」
パンタヌが閉じていた口をぱかっと開くと、そこからキュイ~ンという耳障りな大きな音が発せられた。
その音は一般家庭で使われる掃除機の音によく似ている。
深紅は語り始めた。
「これは主が発明したパンタヌ型アンドロイド専用掃除機。その気になる吸引力は掃除機一億個分。残りのアンドロイド二千体くらいなら余裕で吸い込める」
深紅はすでに自分が相手をしていたアンドロイド三千体のうち千体程を片付けていたようで、残りの二千体をパンタヌの体内に吸い込めば全てを排除したことになる。
これでシュナと来夢の手助けに向かえると考えていたのだが、
「……あれ、千体くらい残った……主の嘘付き」
パンタヌ型パペットが吸い込めるアンドロイドの限界は千体止まりだったようで、深紅は聞いていた話と違うことに不満を漏らしていたが、千体も吸い込めるとか、それはすごい発明品に変わりは無い。
「すごいじゃない、その武器。あたしにも貸してくれない?正直刀を振るのも疲れてきたわ」
「無理。パンタヌは千体のアンドロイドを吸い込んでお腹一杯。もうこれは使えなくなった。何か主が設計ミスったっぽい」
「残りは自分達で倒すしかないということですか。少し残念です……」
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